【R18】うさぎのオメガは銀狼のアルファの腕の中

夕日(夕日凪)

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花屋のうさぎは危機に遭う1

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「シエル様。発言のお許しを」
「いいよ。だけどその前に茶を飲みなさい。喉が乾いているだろう?」

 シエル様はそう言うと、同じティーポットから注がれた紅茶を美味しそうに口にした。その様子を見て、自分の前に置かれた琥珀色の液体に視線を落とす。
 ーー毒が入ってたりしないかな。シエル様は美味しそうに飲んでいるし、大丈夫かな。
 いや、仮に毒が入っていても、彼自身は耐性がある可能性も……。王族はそういう訓練を受けると、市井では噂されている。先ほども『香水』に耐性があるって言ってたし。カップの方に、毒が塗ってある可能性だって……
 躊躇しながら紅茶を見つめていると「口移しで飲ませてあげようか?」と楽しそうに言われて、僕は慌ててカップを手に取った。くんくんと匂いを確認してから、ちびりと舐める程度に口に入れる。

「あ……美味しい」

 そしてつい、そんな言葉を漏らしてしまった。
 リオネル様の執務室でいただく紅茶もとても美味しいけれど、この紅茶も美味しい。たぶん好みの差なんだろう。こちらの方が香りが強い気がする。

「お口に合ってよかった。リオネル・ハルミニアのお気に入りを呼ぶんだ。最高級のものを用意させたんだ。それで、なにを話したいんだい?」

 シエル様はそう言いつつ、クッキーを摘んで僕に差し出す。
 ……食べろってことだよね。
 疑問を瞳に込めつつちらりと見ると、肯定するように頷かれる。仕方なく身を乗り出すようにして口を開けると、楽しそうにクッキーを押し込まれた。なぜ、誘拐犯の手ずからクッキーを食べているのやら。
 ……時間を稼ぐという意味では、これでいいのかもしれないけれど。
 シエル様は僕にクッキーを食べさせることをなぜかお気に召したらしく、次々に差し出してくる。僕が話を切り出せたのは、四枚目のクッキーを食べ終えた後だった。

「シエル様。僕はどうして……ここに連れて来られたんですか。それはどうして、このタイミングだったんでしょう」

 誘拐の機会なんて、今日でなくともいくらでもあったはず。僕は昼間はリオネル様のところに行っているけれど、夕方になれば家で一人なのだ。

「君を招待した理由は後ほど話そうか。今日のタイミングだったのは……リオネル・ハルミニアが君に警護をつけようとしていると、そんな報告を受けたからだよ」
「リオネル様が、僕に警護を……?」

 僕は思わず目を丸くした。どうして、平民の僕に警護なんて。
 ――大切に、されているのかな。
 胸に温かさがじわりと満ちた。愛玩動物としてでも……リオネル様にお気にかけていただけているのが、嬉しくて堪らない。

「過保護だよねぇ、あの男も。まぁ、間に合わなかったわけだけれどね」

 赤狼は美しい手で口元を隠すと、くくっと小さく笑う。金色の視線がこちらを向いて、甘い色を宿した。

「君は、大切にされているね」

 シエル様は僕の側に来ると、隣に腰を下ろした。そして優しい……だけど逃げられない力で肩を抱く。

「再会した時――君が君の形を失っていたら。彼はどう思うだろうね」
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