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我が社は異世界人用旅行代理店7
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「うう……許せない。あんなに可愛いもふもふを差別するなんて」
「……相変わらず、『毛あり』に肩入れしてばかりだな」
ファニーニャさんが眉間に皺を寄せながら小さく呟く。
エルフは自分の種族に相当な愛着をお持ちだ。つまり、他の種族を下に見がちである。なんでそんな種族の人が、この仕事をしてるんだろうな。
「ファニーニャさんは頭以外どこもかしこもつるっつるのエルフですもんね。なんで貴方たちの種族は、手入れもしてないのにムダ毛が生えないんですか。あー羨ましい!」
私は苛立ちながらそう言い捨てると、キーボードを強めにダンダンと叩いた。
「生えている、薄いだけで」
ファニーニャさんはそう言って少し頬を染める。ええい、いい年をして頬を染めるな。
「どっちにしても羨ましいですよ」
「『毛あり』を好んでいるのか、『毛なし』を好んでいるのかわからない女性だな、君は」
彼はそう言いながら、手にしていた珈琲を上品に口にした。豆にはこだわるタイプらしく、給湯室にはファニーニャさん専用の珈琲豆の缶がある。好奇心に負けて前に飲んだら、ひどく怒られた。たしかに美味しかったもんな。
「男性の好みは『毛あり』です。だけど自分自身はエルフくらい『毛なし』の方が楽で嬉しいんです」
「……人間は、そんなに生えるのか」
「ああもう、うるさいな! セクハラで訴えますよ」
「な!?」
私も先ほどセクハラのようなことを言ったのは棚上げだ。ちらりとファニーニャさんを見ると顔を真っ赤にして「そんなつもりは……」と小さく呟いており、少し申し訳ない気持ちになった。
「……二十年くらい前に、世話になった旅館があるのだが」
ファニーニャさんは唐突にそう言うと、眼鏡を綺麗な指で押し上げた。
見上げれば綺麗な瞳と視線が絡む……けれどロマンチックとはほど遠い雰囲気である。私たちの間にはそんなものは介在しない。
そして……ファニーニャさんはなにが言いたいんだ?
「かなり昔の話ですね」
「ふん。少しの時間しか経過していないだろう」
……それは貴方がエルフだからでしょうが。
そしてなんでこう、いちいち言い方が嫌味っぽいんだろうな。まぁいいけれど。
「それで? その旅館がどうかしたんですか?」
「あの旅館のご老人は、この世界に現れたばかりの異世界種である私を、差別も多い時代に泊めてくれた。もしかすると、『毛あり』も受け入れてくれるかもしれない」
「それ。どこにある、なんて旅館です!?」
私は思わず、すごい勢いで食いついた。
なんてことだ。ファニーニャさんがそんな情報を知ってるなんて!
灯台もと暗しにもほどがある!
「青梅の方だな。今もあるといいのだが……人は寿命が短いからな」
そう言ってファニーニャさんは長い睫毛を伏せた。
そっか。二十年前にご老人だったのなら、今も存命か……そしては旅館が現存しているかは微妙なところだ。
だけど……。
「旅館の名前、教えてください。それに電話番号も」
可能性があるのなら、それに賭けずにどうするんだ。
「……相変わらず、『毛あり』に肩入れしてばかりだな」
ファニーニャさんが眉間に皺を寄せながら小さく呟く。
エルフは自分の種族に相当な愛着をお持ちだ。つまり、他の種族を下に見がちである。なんでそんな種族の人が、この仕事をしてるんだろうな。
「ファニーニャさんは頭以外どこもかしこもつるっつるのエルフですもんね。なんで貴方たちの種族は、手入れもしてないのにムダ毛が生えないんですか。あー羨ましい!」
私は苛立ちながらそう言い捨てると、キーボードを強めにダンダンと叩いた。
「生えている、薄いだけで」
ファニーニャさんはそう言って少し頬を染める。ええい、いい年をして頬を染めるな。
「どっちにしても羨ましいですよ」
「『毛あり』を好んでいるのか、『毛なし』を好んでいるのかわからない女性だな、君は」
彼はそう言いながら、手にしていた珈琲を上品に口にした。豆にはこだわるタイプらしく、給湯室にはファニーニャさん専用の珈琲豆の缶がある。好奇心に負けて前に飲んだら、ひどく怒られた。たしかに美味しかったもんな。
「男性の好みは『毛あり』です。だけど自分自身はエルフくらい『毛なし』の方が楽で嬉しいんです」
「……人間は、そんなに生えるのか」
「ああもう、うるさいな! セクハラで訴えますよ」
「な!?」
私も先ほどセクハラのようなことを言ったのは棚上げだ。ちらりとファニーニャさんを見ると顔を真っ赤にして「そんなつもりは……」と小さく呟いており、少し申し訳ない気持ちになった。
「……二十年くらい前に、世話になった旅館があるのだが」
ファニーニャさんは唐突にそう言うと、眼鏡を綺麗な指で押し上げた。
見上げれば綺麗な瞳と視線が絡む……けれどロマンチックとはほど遠い雰囲気である。私たちの間にはそんなものは介在しない。
そして……ファニーニャさんはなにが言いたいんだ?
「かなり昔の話ですね」
「ふん。少しの時間しか経過していないだろう」
……それは貴方がエルフだからでしょうが。
そしてなんでこう、いちいち言い方が嫌味っぽいんだろうな。まぁいいけれど。
「それで? その旅館がどうかしたんですか?」
「あの旅館のご老人は、この世界に現れたばかりの異世界種である私を、差別も多い時代に泊めてくれた。もしかすると、『毛あり』も受け入れてくれるかもしれない」
「それ。どこにある、なんて旅館です!?」
私は思わず、すごい勢いで食いついた。
なんてことだ。ファニーニャさんがそんな情報を知ってるなんて!
灯台もと暗しにもほどがある!
「青梅の方だな。今もあるといいのだが……人は寿命が短いからな」
そう言ってファニーニャさんは長い睫毛を伏せた。
そっか。二十年前にご老人だったのなら、今も存命か……そしては旅館が現存しているかは微妙なところだ。
だけど……。
「旅館の名前、教えてください。それに電話番号も」
可能性があるのなら、それに賭けずにどうするんだ。
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