shiren~薄紫の恋~

桜河 美那未

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桔梗の章

出会いの夏

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『痛いっ!』
また、道の真ん中でつまづいた
生まれた時から目が悪く、視界が極度に狭い私は
舗装の悪い道などでは、足元の石が見えなくて、
しょっちゅう道端にうずくまる事になる

夏の暑い盛りだ。
蜃気楼のように陽炎が揺れる道で
往来を行き交う人も、あまりの日差しに
顔をしかめながら歩いていて
女1人うずくまっていても見向きもしない
まあ、そんなのは慣れっこだ。
膝を払い、立ち上がろうとしたその時、頭の上から声がした。

『大丈夫かい?』

夏の日差しに目を向けるように顔を上げた私の前に
男の人が手を差し伸べていた
逆光で、顔はよく見えないけど、その優しい声が心地よく聞こえて
私は、自然にその手を取っていた。
『…ありがとう』
と、立ち上がり、彼をみた瞬間あわてて言葉を付け加えた
『あ!…ございます…』 
その身なりでわかった。
私なんかを助けてくれるような、そんな身分の方ではないのだと
取ってつけたような言葉尻にあたふたしている私を見つめて
彼は意外にも笑みを浮かべて
『気をつけるんだよ』
そう私に告げて、うだるような暑さの中、
暑さを感じさせる事なく、涼やかにまた歩いて行った
背の高いその後ろ姿と綺麗に着こなされた着物姿が
私の狭い視界の中にもちゃんと残っていた

コレが彼と私の出会いだった
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