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桔梗の章
団子屋と甘酒
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『いらっしゃい~美味しい団子だよ~』
街を歩いている人に声をかけて
団子やお茶を運ぶ。それが私の仕事だ。
暗くなるとほとんど見えなくなるこの目
そのせいなのか、それとも時代なのか
里が荒れているせいだからなのか
この仕事に着く前は全く仕事につけず
たった1人の父親に苦労ばかりかけていた。
母親が生きていた頃は良かった
母が死に、父が1人で兄弟達を養わなくてはならなくなり
とにかく私は働きたかった
長女の私が働かなくては、
私が母親の代わりにならなくてはと
なんとか見つけたのがこの仕事だった
店の主人は良い人で、目の悪い私でも、
『なぁーに。明るく元気にその場に来たお客さんに
団子売ってくれたらそれで十分だよ』
と、私を雇ってくれたのが、三年前の春だ。
そこからずっと昼間はこの団子屋で働いている
仕事を始めてしばらくして『音影』という人達が、
幻魔忍軍を倒し、荒れていた里に平和を取り戻したと
街の人の喜び勇んだ話を聞いた
団子屋の主人がウキウキと、喜んでいたのを覚えている。
読み書きが出来ない私は瓦版も読めないし、
目の悪さが手伝い彼等の錦絵も良くはわからない。
要するに、なんだかものすごい強い人達が、
街を平和にしてくれたんだ。くらいの関心しかなかった
その事により街が安全になって、私のいる団子屋も、
それまではしていなかった夜商いを再開する事になったのだ
夜になると道がわからなくなり帰れなくなってしまう私は
夜に働く事は出来ず、昼間だけ働いて、陽のあるうちに家に戻る
そんな生活を繰り返していた。
そんな時だった。もう一度、彼にあったのは。
今度は逆だった。給金を貰い家路に向かう私の狭い視界に
夏の暑さのせいなのか、フラフラと路地に倒れ込み
うずくまる姿が見えた。美しい身なりに見覚えがあった
『…あの』
声をかけた私に驚いたように顔を上げる
その端正な顔は、まるで正気がなく
心が抜け殻になったように青ざめていた
『顔!青い!? え?!大丈夫ですか?立ちくらみとかですか?!
立てますか?あ、そうだ!冷やしたりしますか?冷やす?
あ、冷やすものないか、えっと、どうしようかな…』
あまりの顔色の悪さに、弾かれたようにたくさんの言葉をかける私
驚いた顔のまま、私を見つめて、言葉の嵐を
受けるだけ受けていた彼は、そのまま路地に背を預けた姿勢で
「参った」といわんばかりに片手で顔を覆い、突然笑い出した。
『平気だよ。ありがとう』
その優しい声に、やはりあの時のあの人なんだ…と記憶が蘇った
『…でも顔色悪いし…』
本当に、半端なく青ざめているのが私の目にもあきらかにわかる
『あぁ、少し疲れたのかな。
休めば大丈夫だから。もう行きなさい』
そうは言われてもそのまま
おいそれと立ち去る事は出来なかった
『ちょっと待ってて』
私は自分の手にある給金を握りしめ
道の少し先にいた甘酒売りから冷たい甘酒を買った。
そして、そのまま、彼の元に戻り、それを差し出した
『甘酒…?』
『疲れた時、飲むと元気になれるから』
目の前で彼が瞬きをして
不思議そうに私を見つめていた
『いや、でも貰う訳には…』
『いいの。もう買っちゃったしさ』
『では、代金を…』
金を出そうとする彼を制して、私はこう付け加えた
『いいよ。だってほっとけないじゃん。そんな顔してる人さ。
それと…まあ、いつかのお礼だよ』
『…え?』
私の言葉に何かを言おうとした彼をまるで遮るように、
しゃがみ込み彼の顔の目の前に、甘酒を持っていく
『疲れた時は甘いモノがいいんだって
気持ちも身体も元気になれるんだよ
あ、甘い物好きなら団子もお勧めだよ。
あたし、この先の団子屋で働いてるんだ。
うちの団子は、柔らかくて美味しいから
気が向いたら食べに来なよ』
緊張からなのか、なんなのか、また1人で機関銃の様に捲し立てて
甘酒をその大きな手に押し付けた。
もう日が陰り始めていた。
このままいたら、帰れなくなってしまう。
『じゃああたし、行くね。あ、お勧めはみたらし団子ね!』
甘酒を手に、目を白黒させていた彼がやっとのことで口を開いた
『…ありがとう』
それは安堵にも似た笑顔だった
その顔をみて少し安心した私は、家路に向かう為、彼に背を向けた
『…君、名前は?』
私の背中に、あの柔らかな優しい声が聞こえてきた。
振り向いて私は答える
『桔梗だよ』
彼がふんわりと、笑って言った
『桔梗…。本当に、…ありがとう』
街を歩いている人に声をかけて
団子やお茶を運ぶ。それが私の仕事だ。
暗くなるとほとんど見えなくなるこの目
そのせいなのか、それとも時代なのか
里が荒れているせいだからなのか
この仕事に着く前は全く仕事につけず
たった1人の父親に苦労ばかりかけていた。
母親が生きていた頃は良かった
母が死に、父が1人で兄弟達を養わなくてはならなくなり
とにかく私は働きたかった
長女の私が働かなくては、
私が母親の代わりにならなくてはと
なんとか見つけたのがこの仕事だった
店の主人は良い人で、目の悪い私でも、
『なぁーに。明るく元気にその場に来たお客さんに
団子売ってくれたらそれで十分だよ』
と、私を雇ってくれたのが、三年前の春だ。
そこからずっと昼間はこの団子屋で働いている
仕事を始めてしばらくして『音影』という人達が、
幻魔忍軍を倒し、荒れていた里に平和を取り戻したと
街の人の喜び勇んだ話を聞いた
団子屋の主人がウキウキと、喜んでいたのを覚えている。
読み書きが出来ない私は瓦版も読めないし、
目の悪さが手伝い彼等の錦絵も良くはわからない。
要するに、なんだかものすごい強い人達が、
街を平和にしてくれたんだ。くらいの関心しかなかった
その事により街が安全になって、私のいる団子屋も、
それまではしていなかった夜商いを再開する事になったのだ
夜になると道がわからなくなり帰れなくなってしまう私は
夜に働く事は出来ず、昼間だけ働いて、陽のあるうちに家に戻る
そんな生活を繰り返していた。
そんな時だった。もう一度、彼にあったのは。
今度は逆だった。給金を貰い家路に向かう私の狭い視界に
夏の暑さのせいなのか、フラフラと路地に倒れ込み
うずくまる姿が見えた。美しい身なりに見覚えがあった
『…あの』
声をかけた私に驚いたように顔を上げる
その端正な顔は、まるで正気がなく
心が抜け殻になったように青ざめていた
『顔!青い!? え?!大丈夫ですか?立ちくらみとかですか?!
立てますか?あ、そうだ!冷やしたりしますか?冷やす?
あ、冷やすものないか、えっと、どうしようかな…』
あまりの顔色の悪さに、弾かれたようにたくさんの言葉をかける私
驚いた顔のまま、私を見つめて、言葉の嵐を
受けるだけ受けていた彼は、そのまま路地に背を預けた姿勢で
「参った」といわんばかりに片手で顔を覆い、突然笑い出した。
『平気だよ。ありがとう』
その優しい声に、やはりあの時のあの人なんだ…と記憶が蘇った
『…でも顔色悪いし…』
本当に、半端なく青ざめているのが私の目にもあきらかにわかる
『あぁ、少し疲れたのかな。
休めば大丈夫だから。もう行きなさい』
そうは言われてもそのまま
おいそれと立ち去る事は出来なかった
『ちょっと待ってて』
私は自分の手にある給金を握りしめ
道の少し先にいた甘酒売りから冷たい甘酒を買った。
そして、そのまま、彼の元に戻り、それを差し出した
『甘酒…?』
『疲れた時、飲むと元気になれるから』
目の前で彼が瞬きをして
不思議そうに私を見つめていた
『いや、でも貰う訳には…』
『いいの。もう買っちゃったしさ』
『では、代金を…』
金を出そうとする彼を制して、私はこう付け加えた
『いいよ。だってほっとけないじゃん。そんな顔してる人さ。
それと…まあ、いつかのお礼だよ』
『…え?』
私の言葉に何かを言おうとした彼をまるで遮るように、
しゃがみ込み彼の顔の目の前に、甘酒を持っていく
『疲れた時は甘いモノがいいんだって
気持ちも身体も元気になれるんだよ
あ、甘い物好きなら団子もお勧めだよ。
あたし、この先の団子屋で働いてるんだ。
うちの団子は、柔らかくて美味しいから
気が向いたら食べに来なよ』
緊張からなのか、なんなのか、また1人で機関銃の様に捲し立てて
甘酒をその大きな手に押し付けた。
もう日が陰り始めていた。
このままいたら、帰れなくなってしまう。
『じゃああたし、行くね。あ、お勧めはみたらし団子ね!』
甘酒を手に、目を白黒させていた彼がやっとのことで口を開いた
『…ありがとう』
それは安堵にも似た笑顔だった
その顔をみて少し安心した私は、家路に向かう為、彼に背を向けた
『…君、名前は?』
私の背中に、あの柔らかな優しい声が聞こえてきた。
振り向いて私は答える
『桔梗だよ』
彼がふんわりと、笑って言った
『桔梗…。本当に、…ありがとう』
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