5 / 54
第三夜 御簾(みす) 前編
しおりを挟む
平安時代の、貴族の邸宅の屋内は、現代風に言うと、ワンルームマンションである。
だだっ広い一部屋を、「几帳(きちょう)」と呼ばれる、自立するフスマのようなもので仕切って使う。
寝室は、「御帳台(みちょうだい)」と呼ばれる、天蓋付きベッドのようなものの床に畳を敷き、その上で直に寝る。
その御帳台を室内と隔てるのが、「御簾」と呼ばれる簾(すだれ)である。
姫君が御簾を上げ、公達を招き入れるということは、二人が一線を越えることを意味していた。
もちろん、簾一枚であるから、力尽くで押し入ることに、何の障害もないのだが、それは「野暮」とされる。
拾は、私が上げた御簾の内に入るのを、ひどくためらった。
当然だ。彼は召人にすぎず、召人が御簾の内に入ることなど、許されてはいない。
でも、私は、拾と、湯殿でことを済ませるのは嫌だった。
召人を、性処理の道具として扱う姫君の噂は、いくつも耳にしている。だが、それはあくまで「道具」であり、御簾の内に招き入れるなどということはあり得なかった。
拾は確かに召人であり、公達ではない。だが私は、拾を殿方として愛しく思っており、道具として扱っているわけではない、ということを、はっきりと示したかったのだ。
口にするのは、はばかられるこの思いを、私は、御簾を上げて、拾の手を取ることにより示した。
もう、拾は抗わなかった。
ふわり、と、宙に浮いたような足取りで、御簾の内に踏み入った拾を、私は優しく抱き留めた。
拾は、幼い子供のように、激しく私にしがみついた。
だだっ広い一部屋を、「几帳(きちょう)」と呼ばれる、自立するフスマのようなもので仕切って使う。
寝室は、「御帳台(みちょうだい)」と呼ばれる、天蓋付きベッドのようなものの床に畳を敷き、その上で直に寝る。
その御帳台を室内と隔てるのが、「御簾」と呼ばれる簾(すだれ)である。
姫君が御簾を上げ、公達を招き入れるということは、二人が一線を越えることを意味していた。
もちろん、簾一枚であるから、力尽くで押し入ることに、何の障害もないのだが、それは「野暮」とされる。
拾は、私が上げた御簾の内に入るのを、ひどくためらった。
当然だ。彼は召人にすぎず、召人が御簾の内に入ることなど、許されてはいない。
でも、私は、拾と、湯殿でことを済ませるのは嫌だった。
召人を、性処理の道具として扱う姫君の噂は、いくつも耳にしている。だが、それはあくまで「道具」であり、御簾の内に招き入れるなどということはあり得なかった。
拾は確かに召人であり、公達ではない。だが私は、拾を殿方として愛しく思っており、道具として扱っているわけではない、ということを、はっきりと示したかったのだ。
口にするのは、はばかられるこの思いを、私は、御簾を上げて、拾の手を取ることにより示した。
もう、拾は抗わなかった。
ふわり、と、宙に浮いたような足取りで、御簾の内に踏み入った拾を、私は優しく抱き留めた。
拾は、幼い子供のように、激しく私にしがみついた。
0
あなたにおすすめの小説
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
屈辱と愛情
守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる