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泥沼の夜
しおりを挟むこの時の私はいつもより酔っていた。
そう、酔っていなければこんなことにはなってない。
今、私は上司のベッドの上で乱れていた。
そう……これは、お酒のせいだ。誰に何を言われようがお酒が悪い。それに、正気の時ならこんな事にはならなかった……はず。
面倒事は嫌いだから相手は選ぶ。自ら面倒な人種と関わり合いになるようなことはしない。そのはずだったのに。
飲み会が終わりかけたあの瞬間を、今更ながら思い返す。
「もう一軒、いいじゃないですか。望希さん、今日はお子さんお母さんに預けてるんでしょ?」
軽い口調でそう言ったのは塩野甲斐、私の直属の上司だった。整った顔に涼しい笑みを貼り付けて、当然のように私のグラスにワインを注ぐ。いつもならここで「結構です」と立ち上がれた。でもあの夜の私は、その笑顔を見てなぜか断れなかった。
お酒のせいだ。絶対に、お酒のせい。
気づけば逃げようのない状態。
逃げたい思いとは裏腹に、気持ちよさに体が麻痺していく。相性があるとは聞いたけど、ここまでとは……。
私の目の前にいる男は綺麗な顔立ちで艶やかな笑顔をこちらに向けていた。
男の色気がダダ漏れで、それに触発されてか、何度もイかされたせいか、それとも両方か……心臓がドクドクと波打つ。
「んっ……ぁ」
自然と漏れる声を抑えようと体をくねらせ枕にしがみつこうとするが、手を掴まれベッドへと押さえ込まれる。
「ほら、隠さないでもっと見せて」
「やぁ、あ、あっ」
私を楽しそうに組み敷く男はそう言うなり、腰の動きを早める。
そう、もう既に中に入っている……。もうどうしようもない。
なんで今? そう、今。ここで正気に戻る意味がわからない。今頃になってお酒が抜けてきたのか、こんな状態で思考回路が戻ってくるとは……。
職場では掴みどころがないと言われている男が、こんなふうに乱れるなんて。いつも飄々として、誰に対しても同じ顔で接する甲斐が、今だけは私だけを見ていた。それが、始末に負えないほど、困ったことに——。
どうしてこのまま正気に戻らずに時間が過ぎてくれなかったのか。今更嘆いてももう遅い。それでも後悔が後から後から溢れてくる。
「ね、何考えてるの?」
そう問われても出てくるのは、突かれる度に漏れる嬌声だけ。もし答えられたとしても返せる内容でもない。何も答えないことに対してか、さらに容赦なく与えてくる快楽に耐えようと精一杯首を横に振るが、勢いよく奥まで突かれ悲鳴をあげる。
「きゃあぁぁっ!」
上から私を見下ろし体をシーツに張り付けている様は、この男に支配されているようでゾクリと背中が粟立つ。
「あぁっ、あっ、あっ」
「んっ、もっとめちゃくちゃにしたい」
肌と肌がぶつかる音と、ねちゃねちゃとした濡れた音が混ざり合い、生々しく部屋の中に響く。
「はぁっ、あっ、もうだめっ」
つま先が丸まり、足に力が入る。もうすぐそこまで迫ってきた波に飲まれないように手を伸ばし男にしがみつく。甲斐は満足げに微笑み、さらに深く肌を重ねた。
顔が近寄れば荒い息遣いまでもが耳に流れ込む。自分の中で、この男が感じているのだと気づかされた瞬間——胸の奥が、きつく締め付けられた。
負けず嫌いの私がこんなにも乱されている。それなのに、止めたいとは少しも思えなかった。
「ああぁぁぁっ!」
波に飲み込まれ、沈んでいく。しがみついていた腕から力が抜け、温かな泥沼の底へと堕ちていった。
甲斐の腕が、崩れ落ちた私の体をそっと受け止めた。荒い息の中で、耳元に低い声が落ちてくる。
「……かわいい」
聞こえなかったふりをした。でも確かに聞こえていた。
これは全部、お酒のせいだ。
そう心の中で繰り返しながら、私はゆっくりと意識を手放した。
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