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薔薇の会・後編
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「クリスティーヌ様」
王族に挨拶を済ませた後、マリアンヌがはたはたと駆け寄って来る。控えめだが弾んだ声だった。
「ご機嫌よう、マリアンヌ様。またお会い出来て嬉しく存じます」
クリスティーヌの表情はいつもより明るい。
「やあ、クリスティーヌ嬢。君もこのサロンに呼ばれていたんだね」
優雅で優しげな笑みのユーグ。
「ええ。このような場にお呼びいただいて本当に光栄でございます」
高鳴る心臓を抑え、クリスティーヌは品の良い淑女の笑みを浮かべる。
その表情を見たユーグはどこか寂しさを感じた。
「さあさあ、全員が揃ったところだから、『薔薇の会』の目的を説明するとしよう」
レミの、品のある高らかな声が響く。
クリスティーヌの背筋がピンと伸びた。
「端的に言うと、この国の未来の為に議論をする場だ。女王陛下も、自分のサロンに科学技術や医学・薬学の第一人者を呼んで国の為になる技術や医療などを自ら学んでいる。我々もそれに倣おうと思ったんだ」
(国の未来だなんて、私にはそんな大それた知識や技術なんて持っていないわ)
クリスティーヌは気後れしてしまう。
「それと、これが一番重要かもしれない。公務で忙しい我らが兄上ガブリエル、つまり王太子。今日招待した君達には、次期国王である王太子をサポートしてもらいたいと思っている。この国の未来を担う世代の者達の中には、残念ながら私利私欲だけを満たそうとする者もいる。そんな者達が兄上の周りにいたら、この国は滅びてしまうだろう。だから、我々は信頼出来そうな君達に声をかけたんだ。私は二年後ウォーンリー王国の国婿に、イザベルは三年後にアリティー王国の王太子妃になることが決まっている。王弟としてナルフェックに残るアンドレはまだ十三歳で社交界デビューをしていない。だから、私は兄上の為に早く信頼出来る者達を集めたかったんだ」
レミはとても真剣な表情だった。
(そんな……ガブリエル・ルイ・ルナ・シャルル王太子殿下のサポートだなんて……私には畏れ多いわ)
クリスティーヌは頭の中が真っ白になる。
「だが、難しく考えなくていい。各々自分の好きな分野、得意な分野を気楽に語ってくれたまえ」
(領地経営や小麦の栽培、それから薬学のこと……私は専門家ではないけれど、それで大丈夫なのかしら? というか、それで王太子殿下のサポートになるのかしら?)
クリスティーヌの不安はまだ拭えなかった。しかし、それを表には出さず、終始淑女の笑みを浮かべているクリスティーヌ。
「それに、我々も信頼出来て心を許せる友人が欲しいし、ホッと一息つける場所が欲しい。だから『薔薇の会』を作り、君達を招いた。ただ、私利私欲に満ちた者はたくさんいるから、このサロンのことはくれぐれも内密にしていただきたい」
レミは悪戯っぽく笑い、この場にいる王族以外の全員に秘密保持の誓約書を配った。
仰々しくてクリスティーヌは恐れをなしたがサインをした。
『薔薇の会』のメンバーは、レミ、イザベル、アンドレ、ユーグ、マリアンヌ、セルジュ、ディオン、クリスティーヌの八人だ。
改めて全員軽く自己紹介をした後、紅茶とお菓子が振る舞われた。
クリスティーヌは恐る恐る一口紅茶を飲む。すると、口の中に花を彷彿とさせる甘い香りが広がり、鼻奥を掠める。
(こんなに美味しい紅茶、初めて飲むわ。王室で振る舞われる紅茶は違うわね)
目を瞑り、紅茶を堪能していた。
「クリスティーヌ、どうかしましたの?」
イザベルは気品ある笑みで首を傾げている。
「とても美味しい紅茶なので驚きました。華やかな香りにほのかな甘みがいたしますわ」
クリスティーヌは満足気に微笑んでいた。
「それはよかったわ。キームンという種類の紅茶なの。女王陛下の好物でもあるの」
イザベルはふふっと上品に笑う。
「キームンは紅茶の最高峰で、価格が青天井でございますよね」
マリアンヌがポツリと控えめに呟いた。
「レミにキームンの味が分かるのかい?」
ユーグが茶目っ気たっぷりな表情でレミを見る。
ユーグとレミは同い年の幼馴染で、軽口を叩き合える仲だ。最初クリスティーヌは、ユーグのレミに対する物言いが不敬罪に当たると思いハラハラした。しかし、レミは全く気にせず高らかに笑っていた。おまけに『薔薇の会』は非公式な場なので堅苦しいのはやめてくれとレミ達王族から言われたのだ。勿論、ユーグも公式の場ではレミ・ルイ・ルナ・シャルル第二王子殿下と呼び、敬語を使う。
「ユーグ、私の味覚は意外と繊細なんだよ」
そう言い、ヌハハハハと高らかに笑うレミ。
「その笑い声だと繊細に見えませんよ、兄上」
アンドレはクスッと笑う。
「キームン……そんな高級な紅茶、俺の家ではこの先飲むことはないだろうな」
ディオンは苦笑した。
「キームンとまではいかないけれど、今度美味しい紅茶を用意するよ、クリスティーヌ嬢」
クリスティーヌに優しい笑みを向けるセルジュ。
「ありがとうございます、セルジュ様」
クリスティーヌは柔らかな笑みを浮かべた。
和気藹々としたティータイムになった。最初、クリスティーヌは緊張していたが、次第に少しリラックス出来るようになっていた。
「なるほど。小麦の栽培にそんな画期的な方法があるんだね。僕はまだその本を読んでいないから、貸してもらえると嬉しいな、クリスティーヌ嬢」
「ええ。次の『薔薇の会』が開催される時にお持ちいたしますわ、セルジュ様」
クリスティーヌは淑女の笑みを浮かべ、セルジュと小麦の栽培方法について議論をしていた。
「そういえば、ルテル領もタルド領と同じで小麦の産地だったね」
ユーグも会話に入ってくる。
「ええ、その通りです。ヌムール領は確か医療に強いんでしたっけ?」
「まあね。うちの領地は農業には向かなくてね」
セルジュに対し、ユーグはそう答えた。そしてクリスティーヌの方に体を向ける。
「そうだ、クリスティーヌ嬢。有名な薬学研究者の論文がヌムール家にあるんだけど、興味あるかな? 次会う時に持って来るけど」
「ええ。ご迷惑でなければ是非お願いいたしますわ」
クリスティーヌの目が輝いた。まるでエメラルドがキラキラと光っているようだ。声は弾んでおり、口角はいつもより上がっていた。
「分かった。必ず持って来るよ」
ユーグの声は先程より明るくなった。
「クリスティーヌは薬学に興味があるのね。私もよ。医学、薬学、有機化学に興味を持っているの。今度一緒に議論しましょうね」
「イザベル殿下と議論が出来るなんて、とても光栄でございます。まだまだ浅学の身ではございますが、よろしくお願いいたします」
クリスティーヌはピンと背筋を伸ばし微笑んだ。
「もしかして、二年前にお兄様がお会いしたという薬学が趣味のご令嬢というのは、クリスティーヌ様のことでございますか?」
「その通りだよ、マリアンヌ」
ユーグはクスッと笑う。
「何だい?クリスティーヌ嬢とユーグは知り合いだったのかい?」
レミが意外そうに問うと、ユーグは優雅だが嬉々とした様子で話し始める。
「そうだよ。あの時私は悪漢三人組に絡まれていて、どうにかしようとしていた時にクリスティーヌ嬢が現れたんだ。彼女は箒を剣のように扱い、見事三人を気絶させたんだよ。まるで天使が舞っているように美しく優雅だったけど、強さも兼ね備えていたね」
「ユーグ様、大袈裟でございます」
クリスティーヌは顔を火のごとく熱らせた。
「悪漢を三人も倒す……。クリスティーヌ嬢は中々のやり手だな」
「クリスティーヌ様の剣術を見てみたいです」
ディオンとアンドレは興味深そうにクリスティーヌを見る。
「私よりお強い方はたくさんいらっしゃいますわ」
クリスティーヌは控えめに微笑む。まだ顔は少し赤い。
その隣でセルジュは少し考え込む様子でクリスティーヌを見ていた。
「クリスティーヌ嬢は紅茶やお菓子よりも薬学や剣術の方が良いんだね。……中々強敵かもしれないな」
その言葉は周囲の賑やかな声にかき消されるのであった。
♚ ♕ ♛ ♔ ♚ ♕ ♛ ♔
あっという間に『薔薇の会』は終了時間を迎えた。
「クリスティーヌ嬢も辻馬車で来たのか」
「ええ。"も"ということは、ディオン様も辻馬車でございますか?」
「ああ、そうだ。俺は上級貴族の方々と違って王都の屋敷には家の馬車がないからな」
「私もでございますわ」
クリスティーヌとディオンはお互い下級貴族同士で何となく仲間意識を持っていた。
「クリスティーヌ嬢、それなら今度から私の馬車で送るよ」
「ユーグ殿、僕の方がクリスティーヌ嬢のお屋敷に近いです。ですので僕が彼女を送りますよ」
ユーグとセルジュが会話に割って入る。どことなく戦いが起こりそうな雰囲気だ。
「そんな、お二人にご迷惑をおかけするわけにはいきません。私は辻馬車で構いませんわ」
クリスティーヌはやんわりと二人からの誘いを断ろうとしたが、引いてくれない雰囲気だ。
そこへ、マリアンヌが控えめに入って来る。
「私は、クリスティーヌ様とご一緒出来たらとても嬉しく存じます」
クリスティーヌよりも少し低い背で、上目遣いををされてしまった。両手を胸の前で握り、切実に祈るような様子のマリアンヌ。
クリスティーヌは断れずに頷く。
「……分かりましたわ。ですが、ユーグ様やマリアンヌ様、それにヌムール家の方々にご迷惑がかからないでしょうか?」
「全然迷惑なんかではないよ、クリスティーヌ嬢。マリアンヌもとても喜んでいる」
満足そうな表情のユーグ。その隣では、マリアンヌがヘーゼルの目を輝かせていた。
今回は辻馬車だが、次回からはヌムール家の馬車に乗ることになったクリスティーヌである。
「ユーグ殿は些か性格が悪いと言われませんか?」
「ハハ、それほどでもないよ、セルジュ」
苦笑するセルジュに、ユーグは優雅な笑みでそう返した。
「クリスティーヌ嬢、君も結構大変な立場にあるな」
ディオンから同情されるクリスティーヌであった。
クリスティーヌは困ったように微笑んだ。
王族に挨拶を済ませた後、マリアンヌがはたはたと駆け寄って来る。控えめだが弾んだ声だった。
「ご機嫌よう、マリアンヌ様。またお会い出来て嬉しく存じます」
クリスティーヌの表情はいつもより明るい。
「やあ、クリスティーヌ嬢。君もこのサロンに呼ばれていたんだね」
優雅で優しげな笑みのユーグ。
「ええ。このような場にお呼びいただいて本当に光栄でございます」
高鳴る心臓を抑え、クリスティーヌは品の良い淑女の笑みを浮かべる。
その表情を見たユーグはどこか寂しさを感じた。
「さあさあ、全員が揃ったところだから、『薔薇の会』の目的を説明するとしよう」
レミの、品のある高らかな声が響く。
クリスティーヌの背筋がピンと伸びた。
「端的に言うと、この国の未来の為に議論をする場だ。女王陛下も、自分のサロンに科学技術や医学・薬学の第一人者を呼んで国の為になる技術や医療などを自ら学んでいる。我々もそれに倣おうと思ったんだ」
(国の未来だなんて、私にはそんな大それた知識や技術なんて持っていないわ)
クリスティーヌは気後れしてしまう。
「それと、これが一番重要かもしれない。公務で忙しい我らが兄上ガブリエル、つまり王太子。今日招待した君達には、次期国王である王太子をサポートしてもらいたいと思っている。この国の未来を担う世代の者達の中には、残念ながら私利私欲だけを満たそうとする者もいる。そんな者達が兄上の周りにいたら、この国は滅びてしまうだろう。だから、我々は信頼出来そうな君達に声をかけたんだ。私は二年後ウォーンリー王国の国婿に、イザベルは三年後にアリティー王国の王太子妃になることが決まっている。王弟としてナルフェックに残るアンドレはまだ十三歳で社交界デビューをしていない。だから、私は兄上の為に早く信頼出来る者達を集めたかったんだ」
レミはとても真剣な表情だった。
(そんな……ガブリエル・ルイ・ルナ・シャルル王太子殿下のサポートだなんて……私には畏れ多いわ)
クリスティーヌは頭の中が真っ白になる。
「だが、難しく考えなくていい。各々自分の好きな分野、得意な分野を気楽に語ってくれたまえ」
(領地経営や小麦の栽培、それから薬学のこと……私は専門家ではないけれど、それで大丈夫なのかしら? というか、それで王太子殿下のサポートになるのかしら?)
クリスティーヌの不安はまだ拭えなかった。しかし、それを表には出さず、終始淑女の笑みを浮かべているクリスティーヌ。
「それに、我々も信頼出来て心を許せる友人が欲しいし、ホッと一息つける場所が欲しい。だから『薔薇の会』を作り、君達を招いた。ただ、私利私欲に満ちた者はたくさんいるから、このサロンのことはくれぐれも内密にしていただきたい」
レミは悪戯っぽく笑い、この場にいる王族以外の全員に秘密保持の誓約書を配った。
仰々しくてクリスティーヌは恐れをなしたがサインをした。
『薔薇の会』のメンバーは、レミ、イザベル、アンドレ、ユーグ、マリアンヌ、セルジュ、ディオン、クリスティーヌの八人だ。
改めて全員軽く自己紹介をした後、紅茶とお菓子が振る舞われた。
クリスティーヌは恐る恐る一口紅茶を飲む。すると、口の中に花を彷彿とさせる甘い香りが広がり、鼻奥を掠める。
(こんなに美味しい紅茶、初めて飲むわ。王室で振る舞われる紅茶は違うわね)
目を瞑り、紅茶を堪能していた。
「クリスティーヌ、どうかしましたの?」
イザベルは気品ある笑みで首を傾げている。
「とても美味しい紅茶なので驚きました。華やかな香りにほのかな甘みがいたしますわ」
クリスティーヌは満足気に微笑んでいた。
「それはよかったわ。キームンという種類の紅茶なの。女王陛下の好物でもあるの」
イザベルはふふっと上品に笑う。
「キームンは紅茶の最高峰で、価格が青天井でございますよね」
マリアンヌがポツリと控えめに呟いた。
「レミにキームンの味が分かるのかい?」
ユーグが茶目っ気たっぷりな表情でレミを見る。
ユーグとレミは同い年の幼馴染で、軽口を叩き合える仲だ。最初クリスティーヌは、ユーグのレミに対する物言いが不敬罪に当たると思いハラハラした。しかし、レミは全く気にせず高らかに笑っていた。おまけに『薔薇の会』は非公式な場なので堅苦しいのはやめてくれとレミ達王族から言われたのだ。勿論、ユーグも公式の場ではレミ・ルイ・ルナ・シャルル第二王子殿下と呼び、敬語を使う。
「ユーグ、私の味覚は意外と繊細なんだよ」
そう言い、ヌハハハハと高らかに笑うレミ。
「その笑い声だと繊細に見えませんよ、兄上」
アンドレはクスッと笑う。
「キームン……そんな高級な紅茶、俺の家ではこの先飲むことはないだろうな」
ディオンは苦笑した。
「キームンとまではいかないけれど、今度美味しい紅茶を用意するよ、クリスティーヌ嬢」
クリスティーヌに優しい笑みを向けるセルジュ。
「ありがとうございます、セルジュ様」
クリスティーヌは柔らかな笑みを浮かべた。
和気藹々としたティータイムになった。最初、クリスティーヌは緊張していたが、次第に少しリラックス出来るようになっていた。
「なるほど。小麦の栽培にそんな画期的な方法があるんだね。僕はまだその本を読んでいないから、貸してもらえると嬉しいな、クリスティーヌ嬢」
「ええ。次の『薔薇の会』が開催される時にお持ちいたしますわ、セルジュ様」
クリスティーヌは淑女の笑みを浮かべ、セルジュと小麦の栽培方法について議論をしていた。
「そういえば、ルテル領もタルド領と同じで小麦の産地だったね」
ユーグも会話に入ってくる。
「ええ、その通りです。ヌムール領は確か医療に強いんでしたっけ?」
「まあね。うちの領地は農業には向かなくてね」
セルジュに対し、ユーグはそう答えた。そしてクリスティーヌの方に体を向ける。
「そうだ、クリスティーヌ嬢。有名な薬学研究者の論文がヌムール家にあるんだけど、興味あるかな? 次会う時に持って来るけど」
「ええ。ご迷惑でなければ是非お願いいたしますわ」
クリスティーヌの目が輝いた。まるでエメラルドがキラキラと光っているようだ。声は弾んでおり、口角はいつもより上がっていた。
「分かった。必ず持って来るよ」
ユーグの声は先程より明るくなった。
「クリスティーヌは薬学に興味があるのね。私もよ。医学、薬学、有機化学に興味を持っているの。今度一緒に議論しましょうね」
「イザベル殿下と議論が出来るなんて、とても光栄でございます。まだまだ浅学の身ではございますが、よろしくお願いいたします」
クリスティーヌはピンと背筋を伸ばし微笑んだ。
「もしかして、二年前にお兄様がお会いしたという薬学が趣味のご令嬢というのは、クリスティーヌ様のことでございますか?」
「その通りだよ、マリアンヌ」
ユーグはクスッと笑う。
「何だい?クリスティーヌ嬢とユーグは知り合いだったのかい?」
レミが意外そうに問うと、ユーグは優雅だが嬉々とした様子で話し始める。
「そうだよ。あの時私は悪漢三人組に絡まれていて、どうにかしようとしていた時にクリスティーヌ嬢が現れたんだ。彼女は箒を剣のように扱い、見事三人を気絶させたんだよ。まるで天使が舞っているように美しく優雅だったけど、強さも兼ね備えていたね」
「ユーグ様、大袈裟でございます」
クリスティーヌは顔を火のごとく熱らせた。
「悪漢を三人も倒す……。クリスティーヌ嬢は中々のやり手だな」
「クリスティーヌ様の剣術を見てみたいです」
ディオンとアンドレは興味深そうにクリスティーヌを見る。
「私よりお強い方はたくさんいらっしゃいますわ」
クリスティーヌは控えめに微笑む。まだ顔は少し赤い。
その隣でセルジュは少し考え込む様子でクリスティーヌを見ていた。
「クリスティーヌ嬢は紅茶やお菓子よりも薬学や剣術の方が良いんだね。……中々強敵かもしれないな」
その言葉は周囲の賑やかな声にかき消されるのであった。
♚ ♕ ♛ ♔ ♚ ♕ ♛ ♔
あっという間に『薔薇の会』は終了時間を迎えた。
「クリスティーヌ嬢も辻馬車で来たのか」
「ええ。"も"ということは、ディオン様も辻馬車でございますか?」
「ああ、そうだ。俺は上級貴族の方々と違って王都の屋敷には家の馬車がないからな」
「私もでございますわ」
クリスティーヌとディオンはお互い下級貴族同士で何となく仲間意識を持っていた。
「クリスティーヌ嬢、それなら今度から私の馬車で送るよ」
「ユーグ殿、僕の方がクリスティーヌ嬢のお屋敷に近いです。ですので僕が彼女を送りますよ」
ユーグとセルジュが会話に割って入る。どことなく戦いが起こりそうな雰囲気だ。
「そんな、お二人にご迷惑をおかけするわけにはいきません。私は辻馬車で構いませんわ」
クリスティーヌはやんわりと二人からの誘いを断ろうとしたが、引いてくれない雰囲気だ。
そこへ、マリアンヌが控えめに入って来る。
「私は、クリスティーヌ様とご一緒出来たらとても嬉しく存じます」
クリスティーヌよりも少し低い背で、上目遣いををされてしまった。両手を胸の前で握り、切実に祈るような様子のマリアンヌ。
クリスティーヌは断れずに頷く。
「……分かりましたわ。ですが、ユーグ様やマリアンヌ様、それにヌムール家の方々にご迷惑がかからないでしょうか?」
「全然迷惑なんかではないよ、クリスティーヌ嬢。マリアンヌもとても喜んでいる」
満足そうな表情のユーグ。その隣では、マリアンヌがヘーゼルの目を輝かせていた。
今回は辻馬車だが、次回からはヌムール家の馬車に乗ることになったクリスティーヌである。
「ユーグ殿は些か性格が悪いと言われませんか?」
「ハハ、それほどでもないよ、セルジュ」
苦笑するセルジュに、ユーグは優雅な笑みでそう返した。
「クリスティーヌ嬢、君も結構大変な立場にあるな」
ディオンから同情されるクリスティーヌであった。
クリスティーヌは困ったように微笑んだ。
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