転生モブ令嬢にシナリオ大改変されたせいでヒロインの私はハードモードになりました

宝月 蓮

文字の大きさ
11 / 26

11.自覚する想い・後編

しおりを挟む
 次にマリナ達が寄ったのは雑貨屋。
 マリナは家族へのお土産を選んでいた。
「マリナ、君の兄君達にこんなものはどうだ?」
 アルが持ってきたのはガラスに入った小さなジオラマ。アルはそれに自身の炎の魔力を少し注ぐ。するとジオラマ内の太陽の輝きが増す。
「すごいわね!」
 マリナは薄紫の目を大きく見開く。
「魔力を注ぎ込んだら変化が起こるらしい。水の魔力を注ぐと海辺が賑わうみたいだ」
 アルはジオラマに水の魔力を注ぎ込む。すると、アルが言った通りジオラマの海辺に活気が増す。
「すごいわ。というかアル、水の魔力も持っているのね。二種類以上の魔力を持つことは珍しいのに」
 マリナは薄紫の目を丸くしてアルを凝視する。
「ああ、俺は炎と水の魔力を持つ。二種類の魔力を持つことは秘密にはしているわけではないが、学園ではあまり言ってなかった。まあどちらかと言うと炎の魔力を扱う方が得意だ」
 フッと笑うアル。
「そうだったのね」
 アルのことをしれて、マリナは少し嬉しくなった。
「じゃあお兄様達にはこれにしようかしら。上のお兄様は風の魔力、下のお兄様は土の魔力を持つからどう変化するか楽しみだわ。あ、お父様とお母様にはこれがいいかもしれないわね」
 楽しそうに家族へのお土産を選ぶマリナ。アルはそんなマリナを見守るかのように、眼鏡の奥のオレンジの目を優しく細めた。


ʚ♡ɞ ʚ♡ɞ ʚ♡ɞ ʚ♡ɞ


「アル、付き合ってくれてありがとう。アルのお陰で家族へのお土産が選べたわ」
 雑貨屋を出たマリナは明るく花のような笑顔をアルに向ける。
「……ならよかった」
 アルはほんのり赤く頬を染め、眼鏡の奥からのぞくオレンジの目を優しく細めた。
「次はアルの寄りたい場所に行きましょう」
「そうだな。ありがとう、マリナ」
 アルは目的地へマリナを案内する。
(そういえば、アルは何人家族なのかしら? よく考えたら私、アルのことをあまり知らないのかも。……友達……なのに)
 アルを友人だと思っているが、改めて考えると友人という関係よりも深くなりたいと思ってしまうマリナ。
(この感情は……何なのかしら……? 前世でこんな感情になったこと……ないわ……)
 マリナは手を胸に当て目をつぶる。
「マリナ? 大丈夫か?」
 アルの言葉でハッとするマリナ。
「ええ、大丈夫よ」
 マリナは何事もなかったかのように微笑む。
「ねえ、アルの家族はどんな方々なの?」
 気になったことを素直に聞いてみることにしたマリナ。
「どんな、か……」
 アルは少し考え込む素振りをして言葉を続ける。
「父も母も民のことを考えて動く人だな。俺は両親を尊敬している。それから、弟が二人、妹も二人いるが、全員それぞれの得意分野を磨いている感じだな」
 懐かしむような表情のアル。
「素敵なご両親だわ。アルは五人兄弟の一番上だったのね」
 初めて知るアルの情報にマリナは少し前のめりになっていた。
「ああ。家族揃うとかなり賑やかだな」
 アルは家族との時間を思い出したようで、楽しそうに口角を上げた。
「アルの家族、会ってみたいわね」
 まだ会ったこともないアルの家族に思いを馳せるマリナ。
 アルはフッと笑うのであった。

 その後、談笑しながら歩いているうちにアルの目的地に到着した。
 そこは女性向けのアクセサリーショップだった。
「もしかして、妹さん達にプレゼント?」
 きょとんと首を傾げるマリナに、アルは頷く。
「ああ、まあそれもある」
 アルは意味ありげな表情でマリナを見ていた。
「妹思いの素敵なお兄様ね」
 マリナはふふっと柔らかく微笑んだ。
 そして色とりどりのアクセサリーに薄紫の目を輝かせるマリナ。
「素敵なものがこんなにたくさん……!」
 マリナは細部まで凝ったオレンジ色の花のネックレスに目を奪われた。
(素敵なネックレスだわ……)
 そっと手に取るマリナ。
(だけど、予算オーバーね)
 値札を見たら現在持ち合わせている金額の倍であった。
 残念そうに諦めてネックレスを戻すマリナ。
 その様子をアルは見逃さなかった。


ʚ♡ɞ ʚ♡ɞ ʚ♡ɞ ʚ♡ɞ


「アル、今日はありがとう。楽しかったわ」
 帰り際、マリナは満開の花のように微笑む。
「お礼を言うのは俺の方だ。俺の方こそ、今日はマリナと過ごせてよかった」
 眼鏡越しのオレンジの目は、どこまでもまっすぐだ。
「それで、今日のお礼にマリナに渡したいものがある」
 アルは懐から綺麗に包装された小袋をマリナに渡す。
「私に?」
「ああ」
 マリナはきょとんと首を傾げると、アルは頷く。
 マリナは戸惑いつつもそれを受け取った。
「ありがとう、アル。……開けてみていいかしら?」
「もちろん」
 アルはフッと笑う。
 マリナはそっと小袋を開けて中身を確認した。
 そこには細部まで凝ったオレンジ色の花のネックレスが入っていた。アクセサリーショップでマリナが購入を諦めたものである。
「これ……!」
 マリナは薄紫の目を大きく見開いた。
「アクセサリーショップで欲しそうだったから、今日のお礼にさ」
 眼鏡の奥のオレンジの目を優しく細めるアル。その頬はほんの少し赤く染まっていた。
「ありがとう! 嬉しいわ!」
 満開の花のような明るい笑みになるマリナ。
「よかった。喜んでくれて俺も嬉しい。あ、ちょっと貸してくれ」
 アルはマリナの手からそっとプレゼントしたネックレスを取り、マリナの首に着ける。
 そして持っていた鏡の魔道具を取り出した。
 そこに映るのはネックレスを着用したマリナ。マリナの首元が華やかになった。
「わあ……!」
 マリナは心底嬉しそうな表情だ。
「やっぱり似合ってる。ネックレスも、そのドレスも」
 アルは頬を赤く染めながらもまっすぐマリナを見ていた。
 アルの言葉にマリナの心臓はトクンと高鳴る。
「……ありがとう。アルにそう言われると……嬉しい」
 マリナは満開の花笑みだ。
 マリナの表情を見て、アルは嬉しそうに笑った。
(アルはいつも、私に優しくしてくれたり、私を助けてくれる。今日も一緒にいて楽しかったし……ドキドキしたわ。私、アルのことが好きなのね)
 マリナはこの日の終わり、ようやく自分の気持ちに気づいたのだ。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢に転生したので地味令嬢に変装したら、婚約者が離れてくれないのですが。

槙村まき
恋愛
 スマホ向け乙女ゲーム『時戻りの少女~ささやかな日々をあなたと共に~』の悪役令嬢、リシェリア・オゼリエに転生した主人公は、処刑される未来を変えるために地味に地味で地味な令嬢に変装して生きていくことを決意した。  それなのに学園に入学しても婚約者である王太子ルーカスは付きまとってくるし、ゲームのヒロインからはなぜか「私の代わりにヒロインになって!」とお願いされるし……。  挙句の果てには、ある日隠れていた図書室で、ルーカスに唇を奪われてしまう。  そんな感じで悪役令嬢がヤンデレ気味な王子から逃げようとしながらも、ヒロインと共に攻略対象者たちを助ける? 話になるはず……! 第二章以降は、11時と23時に更新予定です。 他サイトにも掲載しています。 よろしくお願いします。 25.4.25 HOTランキング(女性向け)四位、ありがとうございます!

転生しましたが悪役令嬢な気がするんですけど⁉︎

水月華
恋愛
ヘンリエッタ・スタンホープは8歳の時に前世の記憶を思い出す。最初は混乱したが、じきに貴族生活に順応し始める。・・・が、ある時気づく。 もしかして‘’私‘’って悪役令嬢ポジションでは?整った容姿。申し分ない身分。・・・だけなら疑わなかったが、ある時ふと言われたのである。「昔のヘンリエッタは我儘だったのにこんなに立派になって」と。 振り返れば記憶が戻る前は嫌いな食べ物が出ると癇癪を起こし、着たいドレスがないと癇癪を起こし…。私めっちゃ性格悪かった!! え?記憶戻らなかったらそのままだった=悪役令嬢!?いやいや確かに前世では転生して悪役令嬢とか流行ってたけどまさか自分が!? でもヘンリエッタ・スタンホープなんて知らないし、私どうすればいいのー!? と、とにかく攻略対象者候補たちには必要以上に近づかない様にしよう! 前世の記憶のせいで恋愛なんて面倒くさいし、政略結婚じゃないなら出来れば避けたい! だからこっちに熱い眼差しを送らないで! 答えられないんです! これは悪役令嬢(?)の侯爵令嬢があるかもしれない破滅フラグを手探りで回避しようとするお話。 または前世の記憶から臆病になっている彼女が再び大切な人を見つけるお話。 小説家になろうでも投稿してます。 こちらは全話投稿してますので、先を読みたいと思ってくださればそちらからもよろしくお願いします。

異世界転生した私は甘味のものがないことを知り前世の記憶をフル活用したら、甘味長者になっていた~悪役令嬢なんて知りません(嘘)~

詩河とんぼ
恋愛
とあるゲームの病弱悪役令嬢に異世界転生した甘味大好きな私。しかし、転生した世界には甘味のものないことを知る―――ないなら、作ろう!と考え、この世界の人に食べてもらうと大好評で――気づけば甘味長者になっていた!?  小説家になろう様でも投稿させていただいております 8月29日 HOT女性向けランキングで10位、恋愛で49位、全体で74位 8月30日 HOT女性向けランキングで6位、恋愛で24位、全体で26位 8月31日 HOT女性向けランキングで4位、恋愛で20位、全体で23位 に……凄すぎてびっくりしてます!ありがとうございますm(_ _)m

転生してモブだったから安心してたら最恐王太子に溺愛されました。

琥珀
恋愛
ある日突然小説の世界に転生した事に気づいた主人公、スレイ。 ただのモブだと安心しきって人生を満喫しようとしたら…最恐の王太子が離してくれません!! スレイの兄は重度のシスコンで、スレイに執着するルルドは兄の友人でもあり、王太子でもある。 ヒロインを取り合う筈の物語が何故かモブの私がヒロインポジに!? 氷の様に無表情で周囲に怖がられている王太子ルルドと親しくなってきた時、小説の物語の中である事件が起こる事を思い出す。ルルドの為に必死にフラグを折りに行く主人公スレイ。 このお話は目立ちたくないモブがヒロインになるまでの物語ーーーー。

【完結】ヒロインに転生しましたが、モブのイケオジが好きなので、悪役令嬢の婚約破棄を回避させたつもりが、やっぱり婚約破棄されている。

樹結理(きゆり)
恋愛
「アイリーン、貴女との婚約は破棄させてもらう」 大勢が集まるパーティの場で、この国の第一王子セルディ殿下がそう宣言した。 はぁぁあ!? なんでどうしてそうなった!! 私の必死の努力を返してー!! 乙女ゲーム『ラベルシアの乙女』の世界に転生してしまった日本人のアラサー女子。 気付けば物語が始まる学園への入学式の日。 私ってヒロインなの!?攻略対象のイケメンたちに囲まれる日々。でも!私が好きなのは攻略対象たちじゃないのよー!! 私が好きなのは攻略対象でもなんでもない、物語にたった二回しか出てこないイケオジ! 所謂モブと言っても過言ではないほど、関わることが少ないイケオジ。 でもでも!せっかくこの世界に転生出来たのなら何度も見たイケメンたちよりも、レアなイケオジを!! 攻略対象たちや悪役令嬢と友好的な関係を築きつつ、悪役令嬢の婚約破棄を回避しつつ、イケオジを狙う十六歳、侯爵令嬢! 必死に悪役令嬢の婚約破棄イベントを回避してきたつもりが、なんでどうしてそうなった!! やっぱり婚約破棄されてるじゃないのー!! 必死に努力したのは無駄足だったのか!?ヒロインは一体誰と結ばれるのか……。 ※この物語は作者の世界観から成り立っております。正式な貴族社会をお望みの方はご遠慮ください。 ※この作品は小説家になろう、カクヨムで完結済み。

小説主人公の悪役令嬢の姉に転生しました〜モブのはずが第一王子に一途に愛されています〜

みかん桜
恋愛
第一王子と妹が並んでいる姿を見て前世を思い出したリリーナ。 ここは、乙女ゲームが舞台の小説の世界だった。 悪役令嬢が主役で、破滅を回避して幸せを掴む——そんな物語。 私はその主人公の姉。しかもゲームの妹が、悪役令嬢になった原因の1つが姉である私だったはず。 とはいえ私はただのモブ。 この世界のルールから逸脱せず、無難に生きていこうと決意したのに……なぜか第一王子に執着されている。 ……そういえば、元々『姉の婚約者を奪った』って設定だったような……? ※2025年5月に副題を追加しました。

悪役令嬢になりたくないので、攻略対象をヒロインに捧げます

久乃り
恋愛
乙女ゲームの世界に転生していた。 その記憶は突然降りてきて、記憶と現実のすり合わせに毎日苦労する羽目になる元日本の女子高校生佐藤美和。 1周回ったばかりで、2週目のターゲットを考えていたところだったため、乙女ゲームの世界に入り込んで嬉しい!とは思ったものの、自分はヒロインではなく、ライバルキャラ。ルート次第では悪役令嬢にもなってしまう公爵令嬢アンネローゼだった。 しかも、もう学校に通っているので、ゲームは進行中!ヒロインがどのルートに進んでいるのか確認しなくては、自分の立ち位置が分からない。いわゆる破滅エンドを回避するべきか?それとも、、勝手に動いて自分がヒロインになってしまうか? 自分の死に方からいって、他にも転生者がいる気がする。そのひとを探し出さないと! 自分の運命は、悪役令嬢か?破滅エンドか?ヒロインか?それともモブ? ゲーム修正が入らないことを祈りつつ、転生仲間を探し出し、この乙女ゲームの世界を生き抜くのだ! 他サイトにて別名義で掲載していた作品です。

悪役令息(冤罪)が婿に来た

花車莉咲
恋愛
前世の記憶を持つイヴァ・クレマー 結婚等そっちのけで仕事に明け暮れていると久しぶりに参加した王家主催のパーティーで王女が婚約破棄!? 王女が婚約破棄した相手は公爵令息? 王女と親しくしていた神の祝福を受けた平民に嫌がらせをした? あれ?もしかして恋愛ゲームの悪役令嬢じゃなくて悪役令息って事!?しかも公爵家の元嫡男って…。 その時改めて婚約破棄されたヒューゴ・ガンダー令息を見た。 彼の顔を見た瞬間強い既視感を感じて前世の記憶を掘り起こし彼の事を思い出す。 そうオタク友達が話していた恋愛小説のキャラクターだった事を。 彼が嫌がらせしたなんて事実はないという事を。 その数日後王家から正式な手紙がくる。 ヒューゴ・ガンダー令息と婚約するようにと「こうなったらヒューゴ様は私が幸せする!!」 イヴァは彼を幸せにする為に奮闘する。 「君は…どうしてそこまでしてくれるんだ?」「貴方に幸せになってほしいからですわ!」 心に傷を負い悪役令息にされた男とそんな彼を幸せにしたい元オタク令嬢によるラブコメディ! ※ざまぁ要素はあると思います。 ※何もかもファンタジーな世界観なのでふわっとしております。

処理中です...