7 / 7
君がくれた魔法の言葉
2
しおりを挟む
「僕の家ここなので。手伝ってくれてありがとうございました」
自宅に着くなりマリユスはそう言ってリシェから荷物を受け取った。
「マリユスの家っテここなンだネ」
リシェはマリユスの家をまじまじと見る。
「リシェさん……貴女の家まで送りますよ。……少し暗くなってきましたし……手伝ってもらったお礼も兼ねて」
マリユスは俯きながらもそう提案したが、リシェからは意外な答えが返ってくる。
「あリがとウ。だケど、私ノ家あそこなノ」
リシェが示した先は、マリユスの家のすぐ向かいだ。
それにはマリユスも驚く。
「僕の家の向かいじゃないですか!」
「私達、家ガ物凄ク近いネ」
リシェはクスッと笑った。
「じゃアまたネ、マリユス。次はちゃンと顔ガ見レたら嬉しイな」
リシェはニッコリ笑い、向かいの家に入っていった。
♚ ♕ ♛ ♔ ♚ ♕ ♛ ♔
マリユスは自室で色々考えていた。
大半はリシェのことだ。
(リシェさん……明るくて……優しい人だった。もっとリシェさんと話してみたい……)
だがマリユスのネガティブな思考がストップをかける。
(いやいや、僕なんかとリシェさんが釣り合うわけがない! 僕はどうせ変な赤毛だしそばかすもあって醜いから……)
マリユスは鏡を見てため息をついた。
♚ ♕ ♛ ♔ ♚ ♕ ♛ ♔
翌日。
「マリユス、おはヨう!」
ちょうどマリユスが両親の屋台を手伝いに行く際、リシェも向かいの家から出て来た。
「おはようございます、リシェさん」
「ねえ、今日モご両親ノお手伝イなんでショ? 私モ手伝っテいいかナ?」
「……え!?」
マリユスはリシェの言葉に驚く。
「私ノお父サんもお母サんもこノ国で仕事を始めルんだし、私も何か出来ルこと探しタいノ」
「……父さんと母さんに聞いてみます。とりあえずついて来てください」
少し考え、マリユスはそう答えた。
帽子を深くかぶり歩き始める。
「あリがとウ!」
リシェは嬉しそうにマリユスの隣に並んだ。
マリユスはそれが嬉しくもあり、不安でもあった。
(リシェさんの隣に並べるのも今だけだ。どうせ僕なんて釣り合わない)
マリユスはそう考えてしまうのであった。
屋台の場所まで到着するなり、マリユスはリシェの手伝いの件を両親に聞くと、すんなり了承された。
マリユスの父と母もリシェを気に入り喜んでいた。
マリユスは父親の作るタルトタタンに仕上げのキャラメリゼを施し、母親とリシェは集客だ。
溌剌としたリシェの声はよく通り、外国語訛りの喋り方もご愛嬌だ。
結果、先日より多くの客が来て、売上も絶好調だった。
これにより、リシェは女王陛下誕生祭の期間中、プランタード家の屋台を手伝うことになった。
♚ ♕ ♛ ♔ ♚ ♕ ♛ ♔
女王陛下誕生祭が終了し、どの屋台も片付けに移り始めた。勿論、プランタード家の屋台もだ。
マリユスとリシェは一緒に荷物を少しずつプランタード家へ運んでいる最中だ。
「パレード、凄かったネ」
「ええ、そうですね」
「結局今日もマリユスは顔を隠シたままだったネ。残念」
「言ったでしょう。僕は人に顔を見せたくないんです」
マリユスは少し溜息を吐き、帽子を深くかぶろうとした瞬間、強い風が吹いた。
その風で帽子が飛ばされてしまう。
「マリユスの帽子ガ!」
リシェはマリユスの帽子を追いかけてキャッチした。
「よかっタ。マリユスの帽子、無事だネ」
「ありがとうございます」
マリユスはリシェから帽子を受け取ろうとした。
その時、再び強い風が吹く。
マリユスの長い前髪が風でふわりと舞い、隠していた顔が露わになる。
リシェのアンバーの目は、マリユスに釘付けになっていた。
風が止み、再び長い前髪によりマリユスの顔は隠される。
「見ましたよね? 僕の顔。貴女も醜いと思ったでしょう。こんな赤毛にそばかす」
マリユスはそっぽを向く。
「そんナことなイ」
リシェはマリユスの方に回り込む。
「いいですよ。同情なんていりません」
俯くマリユス。
「違ウ! とテも綺麗だっテ思っタ!」
リシェは力強く言った。
「……え?」
マリユスは恐る恐る顔を上げた。
「私、マリユスの髪の色凄ク好きだシ、そばかすモお星様ミたいで綺麗だト思っタ! そレに、グレーの目モ綺麗! もっト見セて!」
ニッコリ笑うリシェ。
マリユスの心にこびりついた呪いのような言葉が、リシェの言葉で全て溶けていく感じがした。
「……そんなこと、初めて言われました。僕、小さい頃に髪の色とそばかすを揶揄われて……それで、僕は醜いんだって思って……」
気付けばマリユスは涙を流していた。
「そっカ。酷イこと言わレたんダネ。でモ大丈夫。私は、今まデ会った人ノ中で一番マリユスが綺麗ダって思ウ! だかラ、私ノ言葉を信ジて! マリユスは綺麗だヨ!」
嘘偽りのない真っ直ぐな言葉。
マリユスはようやく前を向く事ができた。
「リシェさん、ありがとうございます」
再び風が吹き、マリユスの顔が露わになる。
涙の跡は残っているが、マリユスは笑顔だった。
「そノ笑顔素敵!」
リシェは嬉しそうに笑った。
♚ ♕ ♛ ♔ ♚ ♕ ♛ ♔
その日以来、マリユスは長かった前髪を切り、帽子もかぶらなくなった。
マリユスは今日も顔を上げ、前を向いて歩く。
そしてその隣では、リシェが嬉しそうに笑っていた。
自宅に着くなりマリユスはそう言ってリシェから荷物を受け取った。
「マリユスの家っテここなンだネ」
リシェはマリユスの家をまじまじと見る。
「リシェさん……貴女の家まで送りますよ。……少し暗くなってきましたし……手伝ってもらったお礼も兼ねて」
マリユスは俯きながらもそう提案したが、リシェからは意外な答えが返ってくる。
「あリがとウ。だケど、私ノ家あそこなノ」
リシェが示した先は、マリユスの家のすぐ向かいだ。
それにはマリユスも驚く。
「僕の家の向かいじゃないですか!」
「私達、家ガ物凄ク近いネ」
リシェはクスッと笑った。
「じゃアまたネ、マリユス。次はちゃンと顔ガ見レたら嬉しイな」
リシェはニッコリ笑い、向かいの家に入っていった。
♚ ♕ ♛ ♔ ♚ ♕ ♛ ♔
マリユスは自室で色々考えていた。
大半はリシェのことだ。
(リシェさん……明るくて……優しい人だった。もっとリシェさんと話してみたい……)
だがマリユスのネガティブな思考がストップをかける。
(いやいや、僕なんかとリシェさんが釣り合うわけがない! 僕はどうせ変な赤毛だしそばかすもあって醜いから……)
マリユスは鏡を見てため息をついた。
♚ ♕ ♛ ♔ ♚ ♕ ♛ ♔
翌日。
「マリユス、おはヨう!」
ちょうどマリユスが両親の屋台を手伝いに行く際、リシェも向かいの家から出て来た。
「おはようございます、リシェさん」
「ねえ、今日モご両親ノお手伝イなんでショ? 私モ手伝っテいいかナ?」
「……え!?」
マリユスはリシェの言葉に驚く。
「私ノお父サんもお母サんもこノ国で仕事を始めルんだし、私も何か出来ルこと探しタいノ」
「……父さんと母さんに聞いてみます。とりあえずついて来てください」
少し考え、マリユスはそう答えた。
帽子を深くかぶり歩き始める。
「あリがとウ!」
リシェは嬉しそうにマリユスの隣に並んだ。
マリユスはそれが嬉しくもあり、不安でもあった。
(リシェさんの隣に並べるのも今だけだ。どうせ僕なんて釣り合わない)
マリユスはそう考えてしまうのであった。
屋台の場所まで到着するなり、マリユスはリシェの手伝いの件を両親に聞くと、すんなり了承された。
マリユスの父と母もリシェを気に入り喜んでいた。
マリユスは父親の作るタルトタタンに仕上げのキャラメリゼを施し、母親とリシェは集客だ。
溌剌としたリシェの声はよく通り、外国語訛りの喋り方もご愛嬌だ。
結果、先日より多くの客が来て、売上も絶好調だった。
これにより、リシェは女王陛下誕生祭の期間中、プランタード家の屋台を手伝うことになった。
♚ ♕ ♛ ♔ ♚ ♕ ♛ ♔
女王陛下誕生祭が終了し、どの屋台も片付けに移り始めた。勿論、プランタード家の屋台もだ。
マリユスとリシェは一緒に荷物を少しずつプランタード家へ運んでいる最中だ。
「パレード、凄かったネ」
「ええ、そうですね」
「結局今日もマリユスは顔を隠シたままだったネ。残念」
「言ったでしょう。僕は人に顔を見せたくないんです」
マリユスは少し溜息を吐き、帽子を深くかぶろうとした瞬間、強い風が吹いた。
その風で帽子が飛ばされてしまう。
「マリユスの帽子ガ!」
リシェはマリユスの帽子を追いかけてキャッチした。
「よかっタ。マリユスの帽子、無事だネ」
「ありがとうございます」
マリユスはリシェから帽子を受け取ろうとした。
その時、再び強い風が吹く。
マリユスの長い前髪が風でふわりと舞い、隠していた顔が露わになる。
リシェのアンバーの目は、マリユスに釘付けになっていた。
風が止み、再び長い前髪によりマリユスの顔は隠される。
「見ましたよね? 僕の顔。貴女も醜いと思ったでしょう。こんな赤毛にそばかす」
マリユスはそっぽを向く。
「そんナことなイ」
リシェはマリユスの方に回り込む。
「いいですよ。同情なんていりません」
俯くマリユス。
「違ウ! とテも綺麗だっテ思っタ!」
リシェは力強く言った。
「……え?」
マリユスは恐る恐る顔を上げた。
「私、マリユスの髪の色凄ク好きだシ、そばかすモお星様ミたいで綺麗だト思っタ! そレに、グレーの目モ綺麗! もっト見セて!」
ニッコリ笑うリシェ。
マリユスの心にこびりついた呪いのような言葉が、リシェの言葉で全て溶けていく感じがした。
「……そんなこと、初めて言われました。僕、小さい頃に髪の色とそばかすを揶揄われて……それで、僕は醜いんだって思って……」
気付けばマリユスは涙を流していた。
「そっカ。酷イこと言わレたんダネ。でモ大丈夫。私は、今まデ会った人ノ中で一番マリユスが綺麗ダって思ウ! だかラ、私ノ言葉を信ジて! マリユスは綺麗だヨ!」
嘘偽りのない真っ直ぐな言葉。
マリユスはようやく前を向く事ができた。
「リシェさん、ありがとうございます」
再び風が吹き、マリユスの顔が露わになる。
涙の跡は残っているが、マリユスは笑顔だった。
「そノ笑顔素敵!」
リシェは嬉しそうに笑った。
♚ ♕ ♛ ♔ ♚ ♕ ♛ ♔
その日以来、マリユスは長かった前髪を切り、帽子もかぶらなくなった。
マリユスは今日も顔を上げ、前を向いて歩く。
そしてその隣では、リシェが嬉しそうに笑っていた。
28
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
恩知らずの婚約破棄とその顛末
みっちぇる。
恋愛
シェリスは婚約者であったジェスに婚約解消を告げられる。
それも、婚約披露宴の前日に。
さらに婚約披露宴はパートナーを変えてそのまま開催予定だという!
家族の支えもあり、婚約披露宴に招待客として参加するシェリスだが……
好奇にさらされる彼女を助けた人は。
前後編+おまけ、執筆済みです。
【続編開始しました】
執筆しながらの更新ですので、のんびりお待ちいただけると嬉しいです。
矛盾が出たら修正するので、その時はお知らせいたします。
お姫様は死に、魔女様は目覚めた
悠十
恋愛
とある大国に、小さいけれど豊かな国の姫君が側妃として嫁いだ。
しかし、離宮に案内されるも、離宮には侍女も衛兵も居ない。ベルを鳴らしても、人を呼んでも誰も来ず、姫君は長旅の疲れから眠り込んでしまう。
そして、深夜、姫君は目覚め、体の不調を感じた。そのまま気を失い、三度目覚め、三度気を失い、そして……
「あ、あれ? えっ、なんで私、前の体に戻ってるわけ?」
姫君だった少女は、前世の魔女の体に魂が戻ってきていた。
「えっ、まさか、あのまま死んだ⁉」
魔女は慌てて遠見の水晶を覗き込む。自分の――姫君の体は、嫁いだ大国はいったいどうなっているのか知るために……
【完結】22皇太子妃として必要ありませんね。なら、もう、、。
華蓮
恋愛
皇太子妃として、3ヶ月が経ったある日、皇太子の部屋に呼ばれて行くと隣には、女の人が、座っていた。
嫌な予感がした、、、、
皇太子妃の運命は、どうなるのでしょう?
指導係、教育係編Part1
初恋にケリをつけたい
志熊みゅう
恋愛
「初恋にケリをつけたかっただけなんだ」
そう言って、夫・クライブは、初恋だという未亡人と不倫した。そして彼女はクライブの子を身ごもったという。私グレースとクライブの結婚は確かに政略結婚だった。そこに燃えるような恋や愛はなくとも、20年の信頼と情はあると信じていた。だがそれは一瞬で崩れ去った。
「分かりました。私たち離婚しましょう、クライブ」
初恋とケリをつけたい男女の話。
☆小説家になろうの日間異世界(恋愛)ランキング (すべて)で1位獲得しました。(2025/9/18)
☆小説家になろうの日間総合ランキング (すべて)で1位獲得しました。(2025/9/18)
☆小説家になろうの週間総合ランキング (すべて)で1位獲得しました。(2025/9/22)
沈黙の指輪 ―公爵令嬢の恋慕―
柴田はつみ
恋愛
公爵家の令嬢シャルロッテは、政略結婚で財閥御曹司カリウスと結ばれた。
最初は形式だけの結婚だったが、優しく包み込むような夫の愛情に、彼女の心は次第に解けていく。
しかし、蜜月のあと訪れたのは小さな誤解の連鎖だった。
カリウスの秘書との噂、消えた指輪、隠された手紙――そして「君を幸せにできない」という冷たい言葉。
離婚届の上に、涙が落ちる。
それでもシャルロッテは信じたい。
あの日、薔薇の庭で誓った“永遠”を。
すれ違いと沈黙の夜を越えて、二人の愛はもう一度咲くのだろうか。
ドレスが似合わないと言われて婚約解消したら、いつの間にか殿下に囲われていた件
ぽぽよ
恋愛
似合わないドレスばかりを送りつけてくる婚約者に嫌気がさした令嬢シンシアは、婚約を解消し、ドレスを捨てて男装の道を選んだ。
スラックス姿で生きる彼女は、以前よりも自然体で、王宮でも次第に評価を上げていく。
しかしその裏で、爽やかな笑顔を張り付けた王太子が、密かにシンシアへの執着を深めていた。
一方のシンシアは極度の鈍感で、王太子の好意をすべて「親切」「仕事」と受け取ってしまう。
「一生お仕えします」という言葉の意味を、まったく違う方向で受け取った二人。
これは、男装令嬢と爽やか策士王太子による、勘違いから始まる婚約(包囲)物語。
行き場を失った恋の終わらせ方
当麻月菜
恋愛
「君との婚約を白紙に戻してほしい」
自分の全てだったアイザックから別れを切り出されたエステルは、どうしてもこの恋を終わらすことができなかった。
避け続ける彼を求めて、復縁を願って、あの日聞けなかった答えを得るために、エステルは王城の夜会に出席する。
しかしやっと再会できた、そこには見たくない現実が待っていて……
恋の終わりを見届ける貴族青年と、行き場を失った恋の中をさ迷う令嬢の終わりと始まりの物語。
※他のサイトにも重複投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる