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ヴィルヘルミナ・ノーラ・ファン・ベンティンク
宣言
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季節は春。
ヴィルヘルミナがナルフェック王国の協力を取り付けたことはまだ公にはしていない。しかし、革命の準備は一気に進んでいた。現在、密かに革命軍が発足した。と言っても、メンバーは革命推進派の集会に来ていた者達である。
決行日が決まり、勝ち目もある。そして今回の革命推進派改めて革命軍の集会では、ベンティンク家やその派閥の貴族達を倒した後、誰が国の頂点に立ち政治を行うかを話し合っていた。
「そりゃコーバスさんが良いんじゃねえか?」
一人の男がそう言うと、他の者達も賛同し始める。
「確かに、私達革命軍のリーダーがそのまま政権を握れば良いんじゃないかしら?」
「よ! 新国王コーバス! 俺達ついて行くぜ!」
わあっと盛り上がるが、それをコーバス本人が制する。
「待て待て。俺はそういう政治とかには詳しくねえんだよ。ほら、革命軍にも悪徳王家反対派の貴族はいるだろう。そう言った奴らに上に立ってもらった方が良い」
眉間に皺を寄せ、難しそうな表情のコーバスだ。
「とは言っても私は子爵家で下級貴族。国王として君臨するのは少し難しいな」
「俺も男爵だしなあ」
「伯爵家ではあるが、その……いざ政となると……」
その他侯爵家や公爵家の者も、次期国王になる覚悟が足りていないようだ。民達の不満が膨らみ、こうして革命を起こそうとしていることを知ってしまい、いざ自分が国の頂点に立った時にそれを抑えられるか不安になってしまったのだ。
「それならば、私がなりますわ」
そこへ、凛とした女性の声が響く。
ヴィルヘルミナである。変装の為に掛けている眼鏡の奥のタンザナイトの目は、真っ直ぐ覚悟が決まっていた。
「は? ヴィリー、お前さんが……悪徳王家を倒した後、王国、いや、女王になると……!」
コーバスはタンザナイトの目を大きく見開いている。他の者達も、ヴィルヘルミナの突然の宣言に戸惑っている。
「彼女なら、女王になる資格がある」
マレインはフッと口角を上げた。
その言葉に「どう言うことだ?」と皆騒つく。
「二人共、そろそろその変装をやめたらどうだ?」
ラルスも前に出て来て、ニヤリと笑う。
ヴィルヘルミナとマレインはかぶっていた赤茶色のカツラと眼鏡をゆっくりと外した。
すると、集まっていた者達が一斉に驚愕する。
「お、王太子妃ヴィルヘルミナ!?」
「王太子妃殿下がどうしてここに!?」
「それに、隣にいるのは王太子妃殿下の護衛騎士であるマレイン卿てはなくて!?」
「まさか俺達を摘発しに来たのか!?」
「いや、こんなに長く参加していたのだから流石にそれはないんじゃないの?」
「まさか王太子妃殿下は革命推進派だっだとは……!」
王太子妃であるヴィルヘルミナが革命軍にも身を置いていた衝撃は計り知れない。
「一旦落ち着いてくださるかしら。まず、私は、革命軍を摘発しに来ているわけではないわ。そもそも、ベンティンク家内部をより詳しく調べて革命を起こすために王太子妃になったのよ」
ヴィルヘルミナの言葉に、皆更に驚く。
「マレイン卿、先程王太子妃殿下には女王になる資格があると仰ったのは、どう言うことですか?」
革命軍に参加している一人の貴族が挙手して聞いてきた。
「彼女は……」
マレインはヴィルヘルミナと目配せをして頷いた。そしてヴィルヘルミナがゆっくりと口を開く。
「私の本当の名前は……ヴィルヘルミナ・ノーラ・ファン・ナッサウ。前国王ヘルブラントと前王妃エレオノーラの娘でございます」
凛として張りがある声だった。皆驚きのあまり言葉を失っていた。
「……ヴィリー、いや、王太子妃殿下が……ナッサウ王家の者……。その証拠はあるのか……!?」
革命軍の中の一人が恐る恐るそう言うと、しめたと言うかのようにマレインとラルスが前に出る。
「ああ、証拠ならある。これを見てみろ」
ラルスはとある書類を皆に見えるようテーブル中央に出す。
「この書類は一体何なんだ?」
「何か遺伝子だとかよく分からんことが書いてあるが……」
書類を見た者達は首を傾げる。するとマレインが説明を始める。
「これらはナルフェック王国にある遺伝子を調べる技術で王太子妃殿下の遺伝子を調べたものだよ。彼女だけの遺伝子情報では、まだ証拠としては不十分だけど、これらの書類にはナルフェック王国の王配であられるシャルル様の遺伝子情報も載っている。彼は前国王陛下であられるヘルブラント様の従兄君、つまりナッサウ王家の血も流れている。まずは彼の遺伝子情報を王太子妃殿下のものと比較してみて欲しい」
マレインの言葉を聞くと、書類を見ていた者達はギョッと目を見開く。
「これ、王太子妃殿下はナルフェックの王配殿下と血縁関係があるってことか!」
「ちょっと、こっちにも何か書いてある! ネンガルド王国の女王アイリーン様の遺伝子情報らしいわ! こっちも王太子妃殿下と照らし合わせたら血縁関係ありだって!」
実はヴィルヘルミナのナルフェック極秘訪問の後、ナルフェックの女王ルナはネンガルド王国の女王アイリーンにも遺伝子調査の協力を仰いだ。ヴィルヘルミナの実母エレオノーラはネンガルドの王族であり、何とアイリーンの妹なのだ。そこで、ヴィルヘルミナとアイリーンの間に血縁関係が認められれば、ヘルブラントとエレオノーラの娘である更に確固たる証拠になるのだ。
「ヘルブラント陛下の従兄君であられるシャルル王配殿下、そしてエレオノーラ殿下の姉君であられるアイリーン女王陛下とヴィルヘルミナ王太子妃殿下が血縁関係にあられる……! 確かに、この情報なら王太子妃殿下がナッサウ王家の血を引いている照明になる!」
一人の貴族がそう言うと、皆盛り上がった。
「まさかあのナッサウ王家の方が生き残っていただなんて!」
「こっそりヘルブラント陛下とエレオノーラ殿下の肖像画を隠し持っているが、王太子妃殿下は確かにお顔立ちがエレオノーラ殿下に似ている!」
「ヴィルヘルミナ女王陛下万歳!」
「女王陛下万歳! 万歳!」
かつて慕っていた国王と王妃の娘が生きていたことで、革命軍の士気が嵐のような勢いで上がった。
そんな中、コーバスはタンザナイトの目を大きく見開きヴィルヘルミナを凝視していた。
「皆様、少し落ち着いて!」
士気が上がりまくっている革命軍の者達を一旦制するヴィルヘルミナ。
「私の正体に関しましては、決行日までは極秘でお願いいたしますわ。決行と同時に明かす予定ですので」
堂々と話すヴィルヘルミナ。既に女王としての風格があった。皆、ヴィルヘルミナの話を聞き入っている。ヴィルヘルミナはそのまま話を続ける。
「そして、この革命にはナルフェック王国の協力を取り付けております。更に、ナルフェック王国の女王であられるルナ様に、ネンガルド王国、ガーメニー王国、ユブルームグレックス大公国、アリティー王国、セドウェン王国、ウォーンリー王国の協力も取り付けていただきましたわ。私達の決行日、諸外国からも私の出自と革命に協力する旨が発表されますわ」
それを聞いた革命軍の者達は再び盛り上がる。
「あのナルフェック王国からの協力だとよ! 凄え心強い!」
「それに、近隣の主要な国々からの協力も!」
いよいよベンティンク家を倒すことが出来る。革命軍の者達の表情は明るくやる気に満ち溢れていた。
「ヴィリー、いや……王太子妃殿下、少しいいか?」
真剣な表情で話しかけてきたのは革命軍のリーダーであるコーバス。
(そういえば、コーバスさんが持っていたハンカチ……。オーヴァイエ筆頭公爵家の紋章の刺繍のことも聞いておきたいわ)
ヴィルヘルミナはコーバスのハンカチに刺繍されていた、銀色に縁取られた赤いチューリップの紋章のことを思い出した。
「ええ、コーバスさん。……私からも、お聞きしたいことがありますわ」
ヴィルヘルミナは品良く微笑む。するとコーバスは懐からハンカチを取り出す。以前ヴィルヘルミナが見た、銀色に縁取られた赤いチューリップの紋章が入っている。
「恐らく王太子妃殿下が聞きたいのはこれのことだろう。俺もこのことを話したかった」
「オーヴァイエ筆頭公爵家の紋章でございますわね」
「ああ」
ヴィルヘルミナとコーバス。二つのタンザナイトの視線が重なる。
「俺は今、コーバス・ヒュッケルと名乗っているが、本当の名前は……コーバス・ノアハ・ファン・オーヴァイエだ」
「やはり、オーヴァイエ筆頭公爵家の方でございましたか」
ヴィルヘルミナは気になっていたことが分かり、スッキリしたような表情だ。
「ああ。一応、王太子妃殿下の従兄だ。もし信用出来ねえなら、ナルフェック王国の遺伝子検査とやらで俺達の結果を照合してみたらいい」
どうやらヴィルヘルミナの実父ヘルブラントと、コーバスの実母は兄妹らしい。つまり、コーバスもナッサウ王家の血を継いでいる。コーバスのタンザナイトの目。これは王族だった母親譲りのようだ。
「つまり、コーバスさんも私と同じで、親から逃がされたということですね」
ヴィルヘルミナはタンザナイトの目を優しく細める。
「そういうことだな。悪徳王家によるクーデターが起こった時、俺はまだ八歳。両親は俺を孤児院に預けた。ナッサウ王家の血を弾いていたら殺されちまうから、それを避けたかったらしい」
ヴィルヘルミナは黙ってコーバスの話を聞いている。
「俺は別にまた貴族に戻りたいとかじゃない。……俺の両親は反逆者として拷問を受けて公開処刑された。俺はただ、両親の名誉を挽回したいだけなんだ。虐げられている者達の為でもあるが、何より父上と母上の為に革命を起こそうとしている。なあ王太子妃殿下、あんたが女王になった暁には、俺の両親の名誉挽回を手伝って欲しい」
コーバスのタンザナイトの目は、強さと悔しさが窺えた。
(私も同じだわ。虐げられている民達、そして、血の繋がったヘルブラント国王陛下とエレオノーラ王妃殿下の為に、ドレンダレン王国を変えたい、平和な国にしたいのよ)
ヴィルヘルミナの胸の中に、熱いものが込み上げてきた。
「ええ、コーバスさん。貴方のご両親の名誉はこの私が回復させて見せます。そして、コーバスさん、貴方は革命軍の方々に慕われている。ですので、是非、オーヴァイエ筆頭公爵家の当主として、革命後私のお手伝いをしていただけたらと存じますわ」
ヴィルヘルミナは真っ直ぐコーバスを見つめ、手を差し出す。するとコーバスのタンザナイトの目からは涙が零れ落ちる。
「……ありがとう。……ありがとう! 俺も、あんたに協力するよ。国の頂点に立つのは難しいが、あんたのサポートなら出来る!」
コーバスはヴィルヘルミナの手をガシッと握った。
革命決行まであと少し。ヴィルヘルミナ達はグッと気を引き締め、未来を見据えるのであった。
ヴィルヘルミナがナルフェック王国の協力を取り付けたことはまだ公にはしていない。しかし、革命の準備は一気に進んでいた。現在、密かに革命軍が発足した。と言っても、メンバーは革命推進派の集会に来ていた者達である。
決行日が決まり、勝ち目もある。そして今回の革命推進派改めて革命軍の集会では、ベンティンク家やその派閥の貴族達を倒した後、誰が国の頂点に立ち政治を行うかを話し合っていた。
「そりゃコーバスさんが良いんじゃねえか?」
一人の男がそう言うと、他の者達も賛同し始める。
「確かに、私達革命軍のリーダーがそのまま政権を握れば良いんじゃないかしら?」
「よ! 新国王コーバス! 俺達ついて行くぜ!」
わあっと盛り上がるが、それをコーバス本人が制する。
「待て待て。俺はそういう政治とかには詳しくねえんだよ。ほら、革命軍にも悪徳王家反対派の貴族はいるだろう。そう言った奴らに上に立ってもらった方が良い」
眉間に皺を寄せ、難しそうな表情のコーバスだ。
「とは言っても私は子爵家で下級貴族。国王として君臨するのは少し難しいな」
「俺も男爵だしなあ」
「伯爵家ではあるが、その……いざ政となると……」
その他侯爵家や公爵家の者も、次期国王になる覚悟が足りていないようだ。民達の不満が膨らみ、こうして革命を起こそうとしていることを知ってしまい、いざ自分が国の頂点に立った時にそれを抑えられるか不安になってしまったのだ。
「それならば、私がなりますわ」
そこへ、凛とした女性の声が響く。
ヴィルヘルミナである。変装の為に掛けている眼鏡の奥のタンザナイトの目は、真っ直ぐ覚悟が決まっていた。
「は? ヴィリー、お前さんが……悪徳王家を倒した後、王国、いや、女王になると……!」
コーバスはタンザナイトの目を大きく見開いている。他の者達も、ヴィルヘルミナの突然の宣言に戸惑っている。
「彼女なら、女王になる資格がある」
マレインはフッと口角を上げた。
その言葉に「どう言うことだ?」と皆騒つく。
「二人共、そろそろその変装をやめたらどうだ?」
ラルスも前に出て来て、ニヤリと笑う。
ヴィルヘルミナとマレインはかぶっていた赤茶色のカツラと眼鏡をゆっくりと外した。
すると、集まっていた者達が一斉に驚愕する。
「お、王太子妃ヴィルヘルミナ!?」
「王太子妃殿下がどうしてここに!?」
「それに、隣にいるのは王太子妃殿下の護衛騎士であるマレイン卿てはなくて!?」
「まさか俺達を摘発しに来たのか!?」
「いや、こんなに長く参加していたのだから流石にそれはないんじゃないの?」
「まさか王太子妃殿下は革命推進派だっだとは……!」
王太子妃であるヴィルヘルミナが革命軍にも身を置いていた衝撃は計り知れない。
「一旦落ち着いてくださるかしら。まず、私は、革命軍を摘発しに来ているわけではないわ。そもそも、ベンティンク家内部をより詳しく調べて革命を起こすために王太子妃になったのよ」
ヴィルヘルミナの言葉に、皆更に驚く。
「マレイン卿、先程王太子妃殿下には女王になる資格があると仰ったのは、どう言うことですか?」
革命軍に参加している一人の貴族が挙手して聞いてきた。
「彼女は……」
マレインはヴィルヘルミナと目配せをして頷いた。そしてヴィルヘルミナがゆっくりと口を開く。
「私の本当の名前は……ヴィルヘルミナ・ノーラ・ファン・ナッサウ。前国王ヘルブラントと前王妃エレオノーラの娘でございます」
凛として張りがある声だった。皆驚きのあまり言葉を失っていた。
「……ヴィリー、いや、王太子妃殿下が……ナッサウ王家の者……。その証拠はあるのか……!?」
革命軍の中の一人が恐る恐るそう言うと、しめたと言うかのようにマレインとラルスが前に出る。
「ああ、証拠ならある。これを見てみろ」
ラルスはとある書類を皆に見えるようテーブル中央に出す。
「この書類は一体何なんだ?」
「何か遺伝子だとかよく分からんことが書いてあるが……」
書類を見た者達は首を傾げる。するとマレインが説明を始める。
「これらはナルフェック王国にある遺伝子を調べる技術で王太子妃殿下の遺伝子を調べたものだよ。彼女だけの遺伝子情報では、まだ証拠としては不十分だけど、これらの書類にはナルフェック王国の王配であられるシャルル様の遺伝子情報も載っている。彼は前国王陛下であられるヘルブラント様の従兄君、つまりナッサウ王家の血も流れている。まずは彼の遺伝子情報を王太子妃殿下のものと比較してみて欲しい」
マレインの言葉を聞くと、書類を見ていた者達はギョッと目を見開く。
「これ、王太子妃殿下はナルフェックの王配殿下と血縁関係があるってことか!」
「ちょっと、こっちにも何か書いてある! ネンガルド王国の女王アイリーン様の遺伝子情報らしいわ! こっちも王太子妃殿下と照らし合わせたら血縁関係ありだって!」
実はヴィルヘルミナのナルフェック極秘訪問の後、ナルフェックの女王ルナはネンガルド王国の女王アイリーンにも遺伝子調査の協力を仰いだ。ヴィルヘルミナの実母エレオノーラはネンガルドの王族であり、何とアイリーンの妹なのだ。そこで、ヴィルヘルミナとアイリーンの間に血縁関係が認められれば、ヘルブラントとエレオノーラの娘である更に確固たる証拠になるのだ。
「ヘルブラント陛下の従兄君であられるシャルル王配殿下、そしてエレオノーラ殿下の姉君であられるアイリーン女王陛下とヴィルヘルミナ王太子妃殿下が血縁関係にあられる……! 確かに、この情報なら王太子妃殿下がナッサウ王家の血を引いている照明になる!」
一人の貴族がそう言うと、皆盛り上がった。
「まさかあのナッサウ王家の方が生き残っていただなんて!」
「こっそりヘルブラント陛下とエレオノーラ殿下の肖像画を隠し持っているが、王太子妃殿下は確かにお顔立ちがエレオノーラ殿下に似ている!」
「ヴィルヘルミナ女王陛下万歳!」
「女王陛下万歳! 万歳!」
かつて慕っていた国王と王妃の娘が生きていたことで、革命軍の士気が嵐のような勢いで上がった。
そんな中、コーバスはタンザナイトの目を大きく見開きヴィルヘルミナを凝視していた。
「皆様、少し落ち着いて!」
士気が上がりまくっている革命軍の者達を一旦制するヴィルヘルミナ。
「私の正体に関しましては、決行日までは極秘でお願いいたしますわ。決行と同時に明かす予定ですので」
堂々と話すヴィルヘルミナ。既に女王としての風格があった。皆、ヴィルヘルミナの話を聞き入っている。ヴィルヘルミナはそのまま話を続ける。
「そして、この革命にはナルフェック王国の協力を取り付けております。更に、ナルフェック王国の女王であられるルナ様に、ネンガルド王国、ガーメニー王国、ユブルームグレックス大公国、アリティー王国、セドウェン王国、ウォーンリー王国の協力も取り付けていただきましたわ。私達の決行日、諸外国からも私の出自と革命に協力する旨が発表されますわ」
それを聞いた革命軍の者達は再び盛り上がる。
「あのナルフェック王国からの協力だとよ! 凄え心強い!」
「それに、近隣の主要な国々からの協力も!」
いよいよベンティンク家を倒すことが出来る。革命軍の者達の表情は明るくやる気に満ち溢れていた。
「ヴィリー、いや……王太子妃殿下、少しいいか?」
真剣な表情で話しかけてきたのは革命軍のリーダーであるコーバス。
(そういえば、コーバスさんが持っていたハンカチ……。オーヴァイエ筆頭公爵家の紋章の刺繍のことも聞いておきたいわ)
ヴィルヘルミナはコーバスのハンカチに刺繍されていた、銀色に縁取られた赤いチューリップの紋章のことを思い出した。
「ええ、コーバスさん。……私からも、お聞きしたいことがありますわ」
ヴィルヘルミナは品良く微笑む。するとコーバスは懐からハンカチを取り出す。以前ヴィルヘルミナが見た、銀色に縁取られた赤いチューリップの紋章が入っている。
「恐らく王太子妃殿下が聞きたいのはこれのことだろう。俺もこのことを話したかった」
「オーヴァイエ筆頭公爵家の紋章でございますわね」
「ああ」
ヴィルヘルミナとコーバス。二つのタンザナイトの視線が重なる。
「俺は今、コーバス・ヒュッケルと名乗っているが、本当の名前は……コーバス・ノアハ・ファン・オーヴァイエだ」
「やはり、オーヴァイエ筆頭公爵家の方でございましたか」
ヴィルヘルミナは気になっていたことが分かり、スッキリしたような表情だ。
「ああ。一応、王太子妃殿下の従兄だ。もし信用出来ねえなら、ナルフェック王国の遺伝子検査とやらで俺達の結果を照合してみたらいい」
どうやらヴィルヘルミナの実父ヘルブラントと、コーバスの実母は兄妹らしい。つまり、コーバスもナッサウ王家の血を継いでいる。コーバスのタンザナイトの目。これは王族だった母親譲りのようだ。
「つまり、コーバスさんも私と同じで、親から逃がされたということですね」
ヴィルヘルミナはタンザナイトの目を優しく細める。
「そういうことだな。悪徳王家によるクーデターが起こった時、俺はまだ八歳。両親は俺を孤児院に預けた。ナッサウ王家の血を弾いていたら殺されちまうから、それを避けたかったらしい」
ヴィルヘルミナは黙ってコーバスの話を聞いている。
「俺は別にまた貴族に戻りたいとかじゃない。……俺の両親は反逆者として拷問を受けて公開処刑された。俺はただ、両親の名誉を挽回したいだけなんだ。虐げられている者達の為でもあるが、何より父上と母上の為に革命を起こそうとしている。なあ王太子妃殿下、あんたが女王になった暁には、俺の両親の名誉挽回を手伝って欲しい」
コーバスのタンザナイトの目は、強さと悔しさが窺えた。
(私も同じだわ。虐げられている民達、そして、血の繋がったヘルブラント国王陛下とエレオノーラ王妃殿下の為に、ドレンダレン王国を変えたい、平和な国にしたいのよ)
ヴィルヘルミナの胸の中に、熱いものが込み上げてきた。
「ええ、コーバスさん。貴方のご両親の名誉はこの私が回復させて見せます。そして、コーバスさん、貴方は革命軍の方々に慕われている。ですので、是非、オーヴァイエ筆頭公爵家の当主として、革命後私のお手伝いをしていただけたらと存じますわ」
ヴィルヘルミナは真っ直ぐコーバスを見つめ、手を差し出す。するとコーバスのタンザナイトの目からは涙が零れ落ちる。
「……ありがとう。……ありがとう! 俺も、あんたに協力するよ。国の頂点に立つのは難しいが、あんたのサポートなら出来る!」
コーバスはヴィルヘルミナの手をガシッと握った。
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