23 / 33
ヴィルヘルミナ・ノーラ・ファン・ナッサウ
女王としての覚悟・前編
しおりを挟む
「嫌! マレインお義兄様!」
ヴィルヘルミナを庇い、胸部を撃たれたマレイン。ヴィルヘルミナは涙を流し、倒れているマレインに縋り付く。
「マレイン!」
ラルスもマレインの元へ駆け寄る。
そこへ冷静な声が聞こえた。
「まだ間に合います。ナルフェック王国の医療部隊に診てもらいましょう」
艶やかな赤毛にサファイアのような青い目の妖艶な美女。サスキアである。
「サス……キア」
ヴィルヘルミナの呼吸は浅い。
「ヴィルヘルミナ様、大丈夫です。ナルフェック王国はどの国よりも医療が発達していますから、マレイン卿はきっと助かります」
サスキアは取り乱すヴィルヘルミナの手を優しく握った。それにより、ヴィルヘルミナは少しだけ落ち着きを取り戻す。
「……分かったわ。貴女達に……マレインお義兄様をお任せするわね」
しかし、ヴィルヘルミナの手は震えていた。サスキアはヴィルヘルミナを安心させるように微笑み、マレインを運ぶよう医療部隊に指示した。それにより、マレインは早急に運ばれた。
「マレインお義兄様……」
ヴィルヘルミナはマレインが運ばれて行く様子をずっと見ていた。タンザナイトの目からはまだ涙が零れている。
「ミーナ……」
ラルスはそっとヴィルヘルミナの肩に手を置く。しかし、その手は少し震えていた。ラルスも実の弟が撃たれて動揺していた。
「ラルスお義兄様……」
ヴィルヘルミナはラルスに手を重ねる。
ラルスはふうっと深呼吸をした。
「ミーナ、マレインのことは俺も心配だ。でも……あいつは……マレインは簡単に死ぬような男じゃない。ナルフェックの医療部隊もいる。信じよう」
ラルスのラピスラズリの目は、真っ直ぐ力強かった。手の震えは治り、そのままラルスは言葉を続けるを
「それにミーナ、お前はナッサウ王家の血を継いでいる。ドレンダレン王国の女王になる存在だ。どんな時でも落ち着いて堂々としていないと、民達が心配するだろう」
「そう……ですわね……」
ヴィルヘルミナはラルスの言葉を聞き、深呼吸をして気持ちを落ち着け涙を拭った。
「私は、マレインお義兄様を信じます。そして、やるべきことをやらなければいけませんわね」
ヴィルヘルミナは拳をギュッと握りしめた。
その後、ベンティンク家派閥の貴族達も全員捕えられ、革命は成立した。
ベンティンク家や彼らの派閥の貴族達は裁判にかけられてその罪及び罰が確定する予定だ。
かつてベンティンク家が起こしたクーデターの時のように、片っ端から拷問にかけた末処刑しては、彼らとやっていることが同じになってしまう。
また、公平性を保つ為、ベンティンク家やその派閥の貴族達の裁判は第三者であるナルフェック王国、ガーメニー王国、セドウェン王国などが主に行った。ベンティンク家に直接的な恨みを持つドレンダレン王国の者達による私刑にしない為である。また、ネンガルド王国とヴォーンリー王国も革命には協力したが、王妃エレオノーラを殺された恨みによる私刑、攻め込まれそうになった恨みによる私刑を防ぐ為、裁判には不参加であった。
しかし、流れた血が多過ぎた為、ベンティンク家や彼らの派閥の貴族達の処刑が裁判で確定した。
♚ ♕ ♛ ♔ ♚ ♕ ♛ ♔
数日後。
この日はヴィルヘルミナにとって重要な日でもある。
(ついに今日ね。……しっかりと見届けないと)
ヴィルヘルミナは真剣な面持ちだった。
「ミーナ、大丈夫か?」
ラルスは少し心配そうである。
「大丈夫ですわ、ラルスお義兄様」
ヴィルヘルミナはほんのり口角を上げる。その様子に少しホッとするラルス。
「マレインお義兄様はまだ目覚めませんの?」
ヴィルヘルミナは先程とは打って変わり、少し不安げな表情であった。
「ああ……。容体は安定して命に別状はないが……まだ目覚めない。一応水分や栄養不足を防ぐ為に点滴というやつをしているが、それもまだ完全ではないらしい。このまま長期間目を覚まさなければ……」
ラルスは苦々しい表情だ。
「そう……」
ヴィルヘルミナはため息をついた。
ヴィルヘルミナを庇って胸部を銃で撃たれたマレイン。幸いナルフェック王国の医療部隊のお陰で一命は取り留めた。しかし、ずっと眠って目を覚まさない状態である。銃で撃たれた影響で命を落とす可能性はほぼないが、このままでは栄養失調で命を落とす可能性が出て来たのだ。
「ミーナ、マレインならきっと目を覚ます。だからお前は目の前のことに集中しろ。じゃないとマレインも心配するだろう」
フッと笑い、ヴィルヘルミナの頭を撫でるラルス。
「そうですわね」
ヴィルヘルミナの表情も少し柔らかくなった。そして再び真剣な面持ちになる。
「見届けるんだな。奴らの処刑」
「ええ」
ラルスの言葉にヴィルヘルミナはゆっくりと頷いた。
この日はベンティンク家のアーレント、フィロメナ、ヨドークス、そしてヨドークスの愛妾ブレヒチェの処刑が行われるのだ。
処刑が行われる広場に現れたアーレント、フィロメナ、ヨドークス、ブレヒチェ。彼らに突き刺さる怒りの声と視線。
重税、労働者の使い捨て、望まぬ戦争の準備、厳しい言論弾圧。民達にとって、ベンティンク家の行いは、許せるものではなかった。
かつてヴィルヘルミナは、ベンティンク家に逆らったとして連座で処刑される侯爵令嬢を目にした。その時は、侯爵令嬢の首が斬られる寸前でラルスに目を塞がれた。
しかし、今回のベンティンク家の処刑でヴィルヘルミナは彼らが首を斬り落とされるところをしっかりと見届けたのである。
「それにしても、ヨドークスの愛妾だったブレヒチェ……妊娠していたそうだ」
ラルスがポツリと呟く。
「知っておりますわ。ヨドークスの子でございましょう」
ヴィルヘルミナはブレヒチェの裁判を思い出す。
子供には罪がないから出産後にブレヒチェを処刑した方がいい意見もあった。生まれた子供の処遇は、両親については伏せるという条件で、孤児院行きである。
その際、ヴィルヘルミナにも意見が求められたので、こう答えた。
『ベンティンク家の血を引く子は、国家転覆の火種になりかねません。子供が生まれる前に、ブレヒチェを処刑した方がいいと私は存じます』
その時のヴィルヘルミナは、拳をギュッと握りしめ、覚悟を決めた表情であった。
「結構残酷な判断をしたな」
ラルスがフッと笑う。
「ええ。ですが、女王としては必要なことですわ。……ナルフェック王国の女王ルナ様に教わったのです。混乱を防ぐ為にも、時には冷酷な判断を下す必要があると」
ヴィルヘルミナは一瞬悲しそうな表情をしたが、すぐに凛とした表情になる。
ナルフェック王国に極秘で訪問した時、ルナから言われたことを思い出すのであった。
ヴィルヘルミナを庇い、胸部を撃たれたマレイン。ヴィルヘルミナは涙を流し、倒れているマレインに縋り付く。
「マレイン!」
ラルスもマレインの元へ駆け寄る。
そこへ冷静な声が聞こえた。
「まだ間に合います。ナルフェック王国の医療部隊に診てもらいましょう」
艶やかな赤毛にサファイアのような青い目の妖艶な美女。サスキアである。
「サス……キア」
ヴィルヘルミナの呼吸は浅い。
「ヴィルヘルミナ様、大丈夫です。ナルフェック王国はどの国よりも医療が発達していますから、マレイン卿はきっと助かります」
サスキアは取り乱すヴィルヘルミナの手を優しく握った。それにより、ヴィルヘルミナは少しだけ落ち着きを取り戻す。
「……分かったわ。貴女達に……マレインお義兄様をお任せするわね」
しかし、ヴィルヘルミナの手は震えていた。サスキアはヴィルヘルミナを安心させるように微笑み、マレインを運ぶよう医療部隊に指示した。それにより、マレインは早急に運ばれた。
「マレインお義兄様……」
ヴィルヘルミナはマレインが運ばれて行く様子をずっと見ていた。タンザナイトの目からはまだ涙が零れている。
「ミーナ……」
ラルスはそっとヴィルヘルミナの肩に手を置く。しかし、その手は少し震えていた。ラルスも実の弟が撃たれて動揺していた。
「ラルスお義兄様……」
ヴィルヘルミナはラルスに手を重ねる。
ラルスはふうっと深呼吸をした。
「ミーナ、マレインのことは俺も心配だ。でも……あいつは……マレインは簡単に死ぬような男じゃない。ナルフェックの医療部隊もいる。信じよう」
ラルスのラピスラズリの目は、真っ直ぐ力強かった。手の震えは治り、そのままラルスは言葉を続けるを
「それにミーナ、お前はナッサウ王家の血を継いでいる。ドレンダレン王国の女王になる存在だ。どんな時でも落ち着いて堂々としていないと、民達が心配するだろう」
「そう……ですわね……」
ヴィルヘルミナはラルスの言葉を聞き、深呼吸をして気持ちを落ち着け涙を拭った。
「私は、マレインお義兄様を信じます。そして、やるべきことをやらなければいけませんわね」
ヴィルヘルミナは拳をギュッと握りしめた。
その後、ベンティンク家派閥の貴族達も全員捕えられ、革命は成立した。
ベンティンク家や彼らの派閥の貴族達は裁判にかけられてその罪及び罰が確定する予定だ。
かつてベンティンク家が起こしたクーデターの時のように、片っ端から拷問にかけた末処刑しては、彼らとやっていることが同じになってしまう。
また、公平性を保つ為、ベンティンク家やその派閥の貴族達の裁判は第三者であるナルフェック王国、ガーメニー王国、セドウェン王国などが主に行った。ベンティンク家に直接的な恨みを持つドレンダレン王国の者達による私刑にしない為である。また、ネンガルド王国とヴォーンリー王国も革命には協力したが、王妃エレオノーラを殺された恨みによる私刑、攻め込まれそうになった恨みによる私刑を防ぐ為、裁判には不参加であった。
しかし、流れた血が多過ぎた為、ベンティンク家や彼らの派閥の貴族達の処刑が裁判で確定した。
♚ ♕ ♛ ♔ ♚ ♕ ♛ ♔
数日後。
この日はヴィルヘルミナにとって重要な日でもある。
(ついに今日ね。……しっかりと見届けないと)
ヴィルヘルミナは真剣な面持ちだった。
「ミーナ、大丈夫か?」
ラルスは少し心配そうである。
「大丈夫ですわ、ラルスお義兄様」
ヴィルヘルミナはほんのり口角を上げる。その様子に少しホッとするラルス。
「マレインお義兄様はまだ目覚めませんの?」
ヴィルヘルミナは先程とは打って変わり、少し不安げな表情であった。
「ああ……。容体は安定して命に別状はないが……まだ目覚めない。一応水分や栄養不足を防ぐ為に点滴というやつをしているが、それもまだ完全ではないらしい。このまま長期間目を覚まさなければ……」
ラルスは苦々しい表情だ。
「そう……」
ヴィルヘルミナはため息をついた。
ヴィルヘルミナを庇って胸部を銃で撃たれたマレイン。幸いナルフェック王国の医療部隊のお陰で一命は取り留めた。しかし、ずっと眠って目を覚まさない状態である。銃で撃たれた影響で命を落とす可能性はほぼないが、このままでは栄養失調で命を落とす可能性が出て来たのだ。
「ミーナ、マレインならきっと目を覚ます。だからお前は目の前のことに集中しろ。じゃないとマレインも心配するだろう」
フッと笑い、ヴィルヘルミナの頭を撫でるラルス。
「そうですわね」
ヴィルヘルミナの表情も少し柔らかくなった。そして再び真剣な面持ちになる。
「見届けるんだな。奴らの処刑」
「ええ」
ラルスの言葉にヴィルヘルミナはゆっくりと頷いた。
この日はベンティンク家のアーレント、フィロメナ、ヨドークス、そしてヨドークスの愛妾ブレヒチェの処刑が行われるのだ。
処刑が行われる広場に現れたアーレント、フィロメナ、ヨドークス、ブレヒチェ。彼らに突き刺さる怒りの声と視線。
重税、労働者の使い捨て、望まぬ戦争の準備、厳しい言論弾圧。民達にとって、ベンティンク家の行いは、許せるものではなかった。
かつてヴィルヘルミナは、ベンティンク家に逆らったとして連座で処刑される侯爵令嬢を目にした。その時は、侯爵令嬢の首が斬られる寸前でラルスに目を塞がれた。
しかし、今回のベンティンク家の処刑でヴィルヘルミナは彼らが首を斬り落とされるところをしっかりと見届けたのである。
「それにしても、ヨドークスの愛妾だったブレヒチェ……妊娠していたそうだ」
ラルスがポツリと呟く。
「知っておりますわ。ヨドークスの子でございましょう」
ヴィルヘルミナはブレヒチェの裁判を思い出す。
子供には罪がないから出産後にブレヒチェを処刑した方がいい意見もあった。生まれた子供の処遇は、両親については伏せるという条件で、孤児院行きである。
その際、ヴィルヘルミナにも意見が求められたので、こう答えた。
『ベンティンク家の血を引く子は、国家転覆の火種になりかねません。子供が生まれる前に、ブレヒチェを処刑した方がいいと私は存じます』
その時のヴィルヘルミナは、拳をギュッと握りしめ、覚悟を決めた表情であった。
「結構残酷な判断をしたな」
ラルスがフッと笑う。
「ええ。ですが、女王としては必要なことですわ。……ナルフェック王国の女王ルナ様に教わったのです。混乱を防ぐ為にも、時には冷酷な判断を下す必要があると」
ヴィルヘルミナは一瞬悲しそうな表情をしたが、すぐに凛とした表情になる。
ナルフェック王国に極秘で訪問した時、ルナから言われたことを思い出すのであった。
0
あなたにおすすめの小説
【完結・おまけ追加】期間限定の妻は夫にとろっとろに蕩けさせられて大変困惑しております
紬あおい
恋愛
病弱な妹リリスの代わりに嫁いだミルゼは、夫のラディアスと期間限定の夫婦となる。
二年後にはリリスと交代しなければならない。
そんなミルゼを閨で蕩かすラディアス。
普段も優しい良き夫に困惑を隠せないミルゼだった…
なんども濡れ衣で責められるので、いい加減諦めて崖から身を投げてみた
下菊みこと
恋愛
悪役令嬢の最後の抵抗は吉と出るか凶と出るか。
ご都合主義のハッピーエンドのSSです。
でも周りは全くハッピーじゃないです。
小説家になろう様でも投稿しています。
転生しましたが悪役令嬢な気がするんですけど⁉︎
水月華
恋愛
ヘンリエッタ・スタンホープは8歳の時に前世の記憶を思い出す。最初は混乱したが、じきに貴族生活に順応し始める。・・・が、ある時気づく。
もしかして‘’私‘’って悪役令嬢ポジションでは?整った容姿。申し分ない身分。・・・だけなら疑わなかったが、ある時ふと言われたのである。「昔のヘンリエッタは我儘だったのにこんなに立派になって」と。
振り返れば記憶が戻る前は嫌いな食べ物が出ると癇癪を起こし、着たいドレスがないと癇癪を起こし…。私めっちゃ性格悪かった!!
え?記憶戻らなかったらそのままだった=悪役令嬢!?いやいや確かに前世では転生して悪役令嬢とか流行ってたけどまさか自分が!?
でもヘンリエッタ・スタンホープなんて知らないし、私どうすればいいのー!?
と、とにかく攻略対象者候補たちには必要以上に近づかない様にしよう!
前世の記憶のせいで恋愛なんて面倒くさいし、政略結婚じゃないなら出来れば避けたい!
だからこっちに熱い眼差しを送らないで!
答えられないんです!
これは悪役令嬢(?)の侯爵令嬢があるかもしれない破滅フラグを手探りで回避しようとするお話。
または前世の記憶から臆病になっている彼女が再び大切な人を見つけるお話。
小説家になろうでも投稿してます。
こちらは全話投稿してますので、先を読みたいと思ってくださればそちらからもよろしくお願いします。
夫婦戦争勃発5秒前! ~借金返済の代わりに女嫌いなオネエと政略結婚させられました!~
麻竹
恋愛
※タイトル変更しました。
夫「おブスは消えなさい。」
妻「ああそうですか、ならば戦争ですわね!!」
借金返済の肩代わりをする代わりに政略結婚の条件を出してきた侯爵家。いざ嫁いでみると夫になる人から「おブスは消えなさい!」と言われたので、夫婦戦争勃発させてみました。
悪役令嬢のビフォーアフター
すけさん
恋愛
婚約者に断罪され修道院に行く途中に山賊に襲われた悪役令嬢だが、何故か死ぬことはなく、気がつくと断罪から3年前の自分に逆行していた。
腹黒ヒロインと戦う逆行の転生悪役令嬢カナ!
とりあえずダイエットしなきゃ!
そんな中、
あれ?婚約者も何か昔と態度が違う気がするんだけど・・・
そんな私に新たに出会いが!!
婚約者さん何気に嫉妬してない?
【完結】どうやら時戻りをしました。
まるねこ
恋愛
ウルダード伯爵家は借金地獄に陥り、借金返済のため泣く泣く嫁いだ先は王家の闇を担う家。
辛い日々に耐えきれずモアは自らの命を断つ。
時戻りをした彼女は同じ轍を踏まないと心に誓う。
※前半激重です。ご注意下さい
Copyright©︎2023-まるねこ
悪役令嬢は皇帝の溺愛を受けて宮入りする~夜も放さないなんて言わないで~
sweetheart
恋愛
公爵令嬢のリラ・スフィンクスは、婚約者である第一王子セトから婚約破棄を言い渡される。
ショックを受けたリラだったが、彼女はある夜会に出席した際、皇帝陛下である、に見初められてしまう。
そのまま後宮へと入ることになったリラは、皇帝の寵愛を受けるようになるが……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる