悪役令嬢より取り巻き令嬢の方が問題あると思います

宝月 蓮

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いざ断罪へ、そして永遠の友情

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 この日もシャーリーは夜会に出る。
 侍女のカーラに髪型のセットや化粧を施してもらっている最中のシャーリー。その面持ちは、いつになく真剣であった。
(ベアトリス様を守らなければ)
 カレンの企みを偶然聞いたシャーリーはそのことばかり考えていた。
「シャーリーお嬢様、全て完了しました」
「ありがとう、カーラ」
 シャーリーはスッと立ち上がり、カーラにそう微笑む。どことなく凛々しい笑みである。
「シャーリー、ヴィンセント卿が迎えにいらしたみたいだ」
「ありがとうございます、お義父とう様。今行きます」
 シャーリーは少し勇足いさみあしでヴィンセントの元へ向かう。
「こんばんは、シャーリー嬢。……まるで戦地へ赴くような勢いですね」
 ヴィンセントは苦笑する。
「戦地……確かに、ある意味戦地ですね。だって今日ようやくベアトリス様を救うことが出来るのですから」
 シャーリーはこの日を待っていたかのように微笑んでいた。
 シャーリー達が出席する夜会はモールバラ公爵家が主催である。アイザックとベアトリスの婚姻の時期を発表するようだ。そしてそれと同時にカレンを断罪する場でもある。シャーリー、ヴィンセント、アイザック、キースの四人は事前にカレンのベアトリス追放計画を潰す為に動いていたのだ。
 シャーリーはヴィンセントにエスコートされ、勇足で会場入りした。そして主催者であるモールバラ公爵と公爵夫人、そしてアイザックと彼の弟妹に挨拶をするシャーリー。その時、アイザックから目配せをされた。
(クリフォード嬢、よろしく頼む)
(承知しました)
 シャーリーはふふっと微笑んだ。
 そしてベアトリスに挨拶を済ませ、ヴィンセントと夜会を楽しむ。
 しばらく、会場にアイザックの声が響き渡る。
「ベアトリス、君は重大な罪を犯した!」
「罪? アイザック様、一体何のことでしょう?」
 ベアトリスはアイザックの発言に戸惑っている。
 カレンはニヤリと笑う。
(チェスター嬢はベアトリス様が断罪されると考えているようだけれど、これはチェスター嬢への断罪なのよ)
 シャーリーはチラリとカレンを見てほんの少し口角を上げた。
「ベアトリスの罪、それは……私の心を虜にしたことだ!」
 何ともキザな台詞を高らかに言うアイザック。
「家同士の繋がりや政略だとしても、私は君を愛している。だからベアトリス、君との婚姻の時期を早めたい。君のご両親と私の両親への許可は取ってある。後はベアトリス、君の返事次第だ」
 アイザックのエメラルドの目は真っ直ぐベアトリスを見つめていた。ベアトリスの頬は真っ赤に染まっている。
「……承知いたしました。……アイザック様にそう仰っていただけて……嬉しく存じますわ」
 頬を染めながら微笑むベアトリス。
(あら、ベアトリス様、何だか可愛らしいわ)
 シャーリーはクスッと笑った。
「ありがとう、ベアトリス。では皆様、改めて発表します。来年の春、私、アイザック・イライアス・モールバラと、ベアトリス・ジリアン・コンプトンは婚姻を結ぶこととなりました。互いに支え合い、モールバラ公爵家を盛り上げていきたいと存じております。皆様、どうぞよろしくお願いします」
 アイザックが高らかに宣言する。
「アイザック卿、ベアトリス嬢、おめでとうございます!」
「末永くお幸せに」
 会場は祝福ムードである。
 しかし、この状況を黙っていない者がいた。カレンである。カレンは怒りを何とか抑え、ゆっくりとアイザックとベアトリスの元へ向かった。
「アイザック卿、発言の許可をいただけますでしょうか?」
(来たわね)
 シャーリーはニヤリと笑い、隣にいるヴィンセント、そしてアイザックとキースと目配せをする。四人は互いに頷き合った。
「……発言を許可しよう、チェスター嬢」
 打ち合わせ通りカレンに発言の許可をするアイザック。
「……わたくしがお送りした手紙はお読みいただけたのでしょうか?」
 震えているカレン。それが怒りなのか悲しみなのかは分からない。
「ああ、読んだとも」
 どっしりと構えているアイザック。
「でしたら、何故なぜベアトリス様との婚約を破棄しないのでございますか!? わたくしは、ベアトリス様に指示されて下級貴族の令嬢達への嫌がらせを強要されたのです! わたくしは言いたくもない嫌味を言わされたり、更には窃盗や娼婦のような真似をさせろとベアトリス様から命じられていたのです! そのような方が、アイザック卿の婚約者、次期筆頭公爵夫人に相応ふさわしいとは思えません!」
 涙ながらにアイザックと会場の者達へ訴えるカレン。
「カレン様、わたくしは貴女にそのようなことを指示しておりませんわ。それに、わたくしは、他者への嫌がらせや、陥れるような振る舞いを断固として認めておりません」
 ベアトリスは毅然としていた。
「そうやって周りを騙しているのですね。アイザック卿、そして皆様、騙されないでください! ベアトリス様は」
「失礼致します。モールバラ卿、私に発言の許可をお願いします」
「僕も、発言の許可を求めます」
 カレンの言葉を遮ったのはシャーリーとヴィンセント。二人はゆっくりとアイザック達の元へ向かっていた。
「クリフォード嬢、ヴィンセント卿、発言を許可する」
 発言の許可をアイザックから貰ったので、シャーリーは喋ろうとするが……。
「ま、待ちなさい! クリフォード嬢、今はわたくしが」
「チェスター嬢、今は君の発言の許可をしていない」
「そんな……」
 カレンに邪魔をされたがアイザックがそれを一蹴した。
 シャーリーは一呼吸置いて話し始める。
「発言の許可をありがとうございます、モールバラ卿。まず、モールバラ卿も会場の皆様も私がクリフォード男爵家に引き取られる前は平民として生活をしていたことはご存知だと思います。恐らくこの中にも当時の私のマナーや所作に眉を顰めた人がいるでしょう。ですが、ベアトリス様はそんな私が苦労しないよう、クリフォード男爵家の人間が恥をかかないよう、私に貴族としてのマナーや所作など色々と教えてくださいました。ベアトリス様は私が出来るようになるまで教えてくださったのです。そのような方が、誰かに命じて下級貴族への嫌がらせをさせるのでしょうか? 私はそうは思いません。ベアトリス様のような素晴らしいお方が、そのようなことを命じるはずがありません!」
 シャーリーは会場の者達に向かって強く言い切った。
「シャーリー様……」
 ベアトリスはサファイアの目を見開いていた。
「僕もシャーリー嬢と同意見です。コンプトン嬢とは交流がありますが、彼女はどのような者にも気を配る令嬢です。下級貴族への嫌がらせを命じることなどしないでしょう」
 ヴィンセントも援護射撃をする。
「そ、そんな下級貴族の発言なんて信じられるわけないわ! 特にシャーリー・クリフォード! 下賎な身だった癖にわたくしに意見するだなんてありえないわ!」
「聞き捨てなりませんわね、カレン様」
 すると、ベアトリスが一歩前に出てシャーリーの隣にやって来る。
「出自や生い立ちなど関係なく、シャーリー様はわたくしの大切な友人ですわ。彼女を侮辱することはわたくしが許しません」
 サファイアの目からは怒りが感じられた。
(ベアトリス様、私の為に怒ってくれている!)
 シャーリーは嬉しさで表情が緩みかけた。
「私の愛するベアトリスの為にありがとう、二人共。……私も二人と同意見だ、チェスター嬢。君からベアトリスに関する悪評を書いた手紙が届いたが、全て出鱈目だ。ベアトリスの弟キースと一緒に調べたからね」
 ニヤリと笑うアイザック。そしてキースもこちらに向かって来る。どこか頼りなさげな笑みだがシャーリーには腹黒い笑みに見えて苦笑した。
「下級貴族の令嬢に対して嫌味を言ったり、窃盗や娼婦のような真似を命じていたのも全てチェスター嬢の意思。姉上は関係ない。チェスター嬢は罪を全て姉上になすりつけるつもりだったみたいだけど、失敗してしまったねえ」
 へにゃりと笑うキース。
「それに、僕は結構侮られているみたいだから、みんな警戒心を緩めちゃうんだよね。どうせ僕には何も出来ないって。だからチェスター嬢の計画も関係者がペラペラ話してくれたよ」
 キースはクククッと笑った。
「姉上、僕だってやる時はやるんですよ」
「キース……貴方という人は……」
 ベアトリスは若干呆れていた。
「まあ僕達だけの証言じゃ証拠として足りないというのなら、その他の第三者や客観的な証拠も既に揃っているよ」
 キースは腹黒い笑み浮かべる。
「さて、チェスター嬢。君は私達の婚姻時期発表の場でとんでもない騒ぎを起こしてくれた。これは断じて許されることではない。近々モールバラ家、コンプトン家、チェスター家の三家で話し合いの場を設けよう。君の沙汰はそこで決まる。覚悟しておくといい」
 アイザックの声が冷たく響き渡る。
「そんな……」
 カレンは力なく膝から崩れ落ちた。
 その後、三家の話し合いの末、カレンはネンガルド王国で最も戒律が厳しい修道院に入ることになった。還俗することはないだろう。カレンは泣き叫んだが、チェスター伯爵と伯爵夫人はカレンを許さなかった。また、被害を受けた下級貴族の家への賠償金も莫大な額になったので、チェスター伯爵家の家計は一気に火の車になってしまった。
 こうして、シャーリー達はベアトリスを守り、カレンを社交界から追放出来たのだ。





♚ ♕ ♛ ♔ ♚ ♕ ♛ ♔





 翌年の春。
 シャーリーはヴィンセントと共にベアトリスとアイザックの結婚式に出席していた。
「ベアトリス様、ご結婚おめでとうございます! そのドレスもとてもお似合いです!」
 シャーリーはグレーの目を輝かせていた。
「ありがとうございます、シャーリー様。来ていただけて嬉しく存じますわ。ただ、はしゃぎすぎですわ。もう少し落ち着きなさい」
 ベアトリスは嬉しそうにサファイアの目を細めるが、シャーリーのテンションに少し呆れていた。
「あ、すみません」
 へへっと笑うシャーリー。
「そう言えば、シャーリー様は最近テヴァルー卿とご婚約なさったとか」
「ええ、まあ」
 シャーリーは少し頬を染めて頷いた。昨年のベアトリスとアイザックの婚姻時期発表後、テヴァルー子爵家からシャーリーの婚約者にヴィンセントはどうかと打診があり、両家の話し合いの末少し前にシャーリーとヴィンセントの婚約が決まった。ヴィンセントがクリフォード男爵家に婿入りして次期当主になるのだ。
「おめでとうございます。お二人ならきっとクリフォード男爵家を盛り上げることが出来ると存じますわ」
 ベアトリスは嬉しそうに微笑んだ。
「ありがとうございます。ベアトリス様にそう言ってもらえると、何か本当にそうなりそうな気がします」
 シャーリーは嬉しそうに微笑んだ。
「ベアトリス様、これからもまたお茶会や夜会などでたくさんお話ししたいです。少し烏滸おこがましいかもしれませんが、私、ベアトリス様と友人になれてとても嬉しかったです。だから、これからもずっと仲良くしてください」
 シャーリーはグレーの目を真っ直ぐベアトリスに向けた。ベアトリスは少し照れたように微笑む。
「ええ、わたくしもシャーリー様とお話しする時間は好きですわ。わたくしの方こそ、これからもよろしくお願いしますわね」
「はい!」
 シャーリーはとびきりの笑顔になった。
 シャーリーとベアトリス、二人の友情は生涯にわたり続いたそうだ。
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