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ティアナの状況
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その日の夜。
ユリウスはランツベルク城の書斎で考え事をしていた。
「ティアナ嬢……か」
ユリウスはティアナの姿を思い出し、自然と口角が上がる。
この日ユリウスは父と共に領地の視察をしていた。その休憩時、ランツベルク辺境伯領とファルケンハウゼン男爵領の境界にある湖周辺で白い子猫を見つけた。その白い子猫のことは、ユリウスも最近よく見かけていた。少しだけ白猫と戯れていたら、とある令嬢と出会った。
ウェーブがかったダークブロンドの長い髪、ムーンストーンのようなグレーの目。まるで目の前に天使が現れたのかとユリウスは思った。
ティアナと名乗ったその令嬢は、見事にユリウスの心を掴んでしまっていた。要は一目惚れである。
(……出来ればティアナ嬢ともっと仲を深めたかったけれど……邪魔が入ってしまったね)
同時に、マルグリットのことも思い出す。マルグリットがティアナのことを本気で案じていることもすぐに分かった。そしてティアナもマルグリットのことを大切に思っている。
(ティアナ嬢の姉君が邪魔立てしてくる前にティアナ嬢を連れ去ってしまったら良かったのかもしれない。男爵家と辺境伯家の身分差も私なら何とか出来る手段はあるわけで。それでティアナ嬢を私の手で閉じ込めてしまえば……)
ユリウスの中にドロドロとしたティアナへの執着心が芽生えていた。心の奥底から溢れ出す、ティアナが欲しいという感情。アンバーの目は仄暗く、光が消えている。
しかし、ユリウスの脳裏にティアナの可憐な笑みが浮かぶ。そしてマルグリットに向けるムーンストーンの目は、とても穏やかで安心し切っているように見えた。更に、ムーンストーンの目を潤ませてマルグリットの無礼を必死に詫びる姿にすら心惹かれてしまうユリウス。
(いや、今はまだティアナ嬢を彼女の姉君から引き離すわけにはいかない。もし私がティアナ嬢を連れ去っていたら、ティアナ嬢は怯えて悲しむだろう)
ユリウスは必死に自身のどす黒い欲望を抑えるのであった。彼のアンバーの目には再び光が戻る。
「それにしても、ファルケンハウゼン男爵家か……」
ユリウスは少し考え込んでいた。
ーーーーーーーーーーーーーー
翌日、ファルケンハウゼン男爵邸にて。
マルグリットはティアナとお揃いのネックレスを着け、鏡の前で満足そうに微笑む。
真っ直ぐ伸びたブロンドの艶やかな髪に、ターコイズのような青い目。そして首元のターコイズとムーンストーンが埋め込まれた上品なネックレス。華があり気が強そうな顔立ちのマルグリットにも似合ってる。
(さあ、早くティアナの所へ行かないと)
マルグリットは軽い足取りで部屋を出る。
その時、誰かの話し声が聞こえた。マルグリットは気になってその方向へ向かうと……。
「ティアナ、この忌々しい娘が!」
「私達がいる時間に屋敷をうろうろするなと言っているでしょう!」
「出来損ないのその髪と目の色は見たくないね。こんなのが僕の妹だなんて」
両親と兄がティアナを罵倒していたのだ。
「……申し訳ございません、お父様、お母様、お兄様」
ティアナのムーンストーンの目は不安一色である。
そんな場面を見て、マルグリットは黙っていなかった。
「何をしているのよ!?」
鬼の形相でティアナを庇うように両親、兄と対峙する。
「マルグリット……」
父アヒムは困惑した表情でマルグリットを見る。
「マルグリット、貴女もその出来損ないから離れてちょうだい。貴女は私達の大切な娘なのだから」
母メータはマルグリットに甘い表情を向ける。マルグリットにとってはそれが非常に気持ち悪かった。
「マルグリット、優しいのは構わないが、お前はコイツとは違うだろう」
ティアナに蔑んだ視線を送る兄エッカルト。
マルグリットは完全に頭に血が上っていた。
「私のことが大切だというなら、今すぐティアナのことを悪く言うのをやめなさいよ! 私がティアナと一緒にいたって良いじゃないの! ねえ、今私のことが大切だと言ったわよね!? だったら私の言うこと聞いてくれて当然てしょう!」
言っていることは完全に支離滅裂である。しかし、マルグリットはティアナを守ることに必死だった。ターコイズの目は思いっきり吊り上がり、まるで暴れ回る怪獣のようである。
そんなマルグリットに、両親と兄は諦めてその場を去るのであった。
「ティアナ、あんな人達の言うことなんて聞く価値ないわ。ティアナのそのダークブロンドの髪も好きだし、グレーの目もムーンストーンみたいで綺麗だわ。私はティアナのことが大好きよ」
マルグリットはギュッと強くティアナに抱きついた。
「ありがとうございます、マルグリットお姉様」
ふわりと微笑むティアナ。ムーンストーンの目は嬉しそうである。
「私にはお姉様がいるだけで十分でございます。これ以上望むことなどありませんわ」
ティアナのムーンストーンの目は、とても穏やかであった。首元にはマルグリットとお揃いのネックレスが輝く。
「そんなことないわよ。ティアナはもっと欲を出してもいいわ。さあ、今日もこんな屋敷から出てあの場所に行きましょう」
マルグリットはふふっと微笑み、ティアナの手を引いていつも行く湖畔へ向かうのであった。
ユリウスはランツベルク城の書斎で考え事をしていた。
「ティアナ嬢……か」
ユリウスはティアナの姿を思い出し、自然と口角が上がる。
この日ユリウスは父と共に領地の視察をしていた。その休憩時、ランツベルク辺境伯領とファルケンハウゼン男爵領の境界にある湖周辺で白い子猫を見つけた。その白い子猫のことは、ユリウスも最近よく見かけていた。少しだけ白猫と戯れていたら、とある令嬢と出会った。
ウェーブがかったダークブロンドの長い髪、ムーンストーンのようなグレーの目。まるで目の前に天使が現れたのかとユリウスは思った。
ティアナと名乗ったその令嬢は、見事にユリウスの心を掴んでしまっていた。要は一目惚れである。
(……出来ればティアナ嬢ともっと仲を深めたかったけれど……邪魔が入ってしまったね)
同時に、マルグリットのことも思い出す。マルグリットがティアナのことを本気で案じていることもすぐに分かった。そしてティアナもマルグリットのことを大切に思っている。
(ティアナ嬢の姉君が邪魔立てしてくる前にティアナ嬢を連れ去ってしまったら良かったのかもしれない。男爵家と辺境伯家の身分差も私なら何とか出来る手段はあるわけで。それでティアナ嬢を私の手で閉じ込めてしまえば……)
ユリウスの中にドロドロとしたティアナへの執着心が芽生えていた。心の奥底から溢れ出す、ティアナが欲しいという感情。アンバーの目は仄暗く、光が消えている。
しかし、ユリウスの脳裏にティアナの可憐な笑みが浮かぶ。そしてマルグリットに向けるムーンストーンの目は、とても穏やかで安心し切っているように見えた。更に、ムーンストーンの目を潤ませてマルグリットの無礼を必死に詫びる姿にすら心惹かれてしまうユリウス。
(いや、今はまだティアナ嬢を彼女の姉君から引き離すわけにはいかない。もし私がティアナ嬢を連れ去っていたら、ティアナ嬢は怯えて悲しむだろう)
ユリウスは必死に自身のどす黒い欲望を抑えるのであった。彼のアンバーの目には再び光が戻る。
「それにしても、ファルケンハウゼン男爵家か……」
ユリウスは少し考え込んでいた。
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翌日、ファルケンハウゼン男爵邸にて。
マルグリットはティアナとお揃いのネックレスを着け、鏡の前で満足そうに微笑む。
真っ直ぐ伸びたブロンドの艶やかな髪に、ターコイズのような青い目。そして首元のターコイズとムーンストーンが埋め込まれた上品なネックレス。華があり気が強そうな顔立ちのマルグリットにも似合ってる。
(さあ、早くティアナの所へ行かないと)
マルグリットは軽い足取りで部屋を出る。
その時、誰かの話し声が聞こえた。マルグリットは気になってその方向へ向かうと……。
「ティアナ、この忌々しい娘が!」
「私達がいる時間に屋敷をうろうろするなと言っているでしょう!」
「出来損ないのその髪と目の色は見たくないね。こんなのが僕の妹だなんて」
両親と兄がティアナを罵倒していたのだ。
「……申し訳ございません、お父様、お母様、お兄様」
ティアナのムーンストーンの目は不安一色である。
そんな場面を見て、マルグリットは黙っていなかった。
「何をしているのよ!?」
鬼の形相でティアナを庇うように両親、兄と対峙する。
「マルグリット……」
父アヒムは困惑した表情でマルグリットを見る。
「マルグリット、貴女もその出来損ないから離れてちょうだい。貴女は私達の大切な娘なのだから」
母メータはマルグリットに甘い表情を向ける。マルグリットにとってはそれが非常に気持ち悪かった。
「マルグリット、優しいのは構わないが、お前はコイツとは違うだろう」
ティアナに蔑んだ視線を送る兄エッカルト。
マルグリットは完全に頭に血が上っていた。
「私のことが大切だというなら、今すぐティアナのことを悪く言うのをやめなさいよ! 私がティアナと一緒にいたって良いじゃないの! ねえ、今私のことが大切だと言ったわよね!? だったら私の言うこと聞いてくれて当然てしょう!」
言っていることは完全に支離滅裂である。しかし、マルグリットはティアナを守ることに必死だった。ターコイズの目は思いっきり吊り上がり、まるで暴れ回る怪獣のようである。
そんなマルグリットに、両親と兄は諦めてその場を去るのであった。
「ティアナ、あんな人達の言うことなんて聞く価値ないわ。ティアナのそのダークブロンドの髪も好きだし、グレーの目もムーンストーンみたいで綺麗だわ。私はティアナのことが大好きよ」
マルグリットはギュッと強くティアナに抱きついた。
「ありがとうございます、マルグリットお姉様」
ふわりと微笑むティアナ。ムーンストーンの目は嬉しそうである。
「私にはお姉様がいるだけで十分でございます。これ以上望むことなどありませんわ」
ティアナのムーンストーンの目は、とても穏やかであった。首元にはマルグリットとお揃いのネックレスが輝く。
「そんなことないわよ。ティアナはもっと欲を出してもいいわ。さあ、今日もこんな屋敷から出てあの場所に行きましょう」
マルグリットはふふっと微笑み、ティアナの手を引いていつも行く湖畔へ向かうのであった。
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