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取り引き
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「何でいるのよ……!?」
湖畔に着いて早々、マルグリットは嫌そうに顔を顰めている。
何とそこにはユリウスがいたのだ。
「また会ったね、ティアナ嬢」
ユリウスの視線はティアナに向いている。
「ご機嫌よう、ユリウス卿」
ティアナは上品に挨拶をする。
「ティアナ嬢、そんな他人行儀な敬称は必要ないよ」
「では……ユリウス様とお呼びしま」
「駄目よティアナ! この男に心を許してはいけないわ!」
マルグリットはティアナの言葉を遮り、ユリウスから守るように庇い立つ。
「お姉様……」
少し困ったように微笑むティアナ。
「私の可愛いティアナに手を出さないでちょうだい!」
マルグリットのターコイズの目は、キッとユリウスを睨みつける。
「私は君ではなくティアナ嬢と話していたのだけれど」
ユリウスは呆れたように軽くため息をついた。そしてマルグリットとティアナを交互に観察する。
「まあいい。……少し君にも話がある。ティアナ嬢、少しの間君の姉君を借りてもいいかい?」
ユリウスはマルグリットに用事があるようだ。
「私は貴方と話すようなことなんてないわよ!」
ユリウスに反発するマルグリット。
「あの、ユリウス様、どうかお姉様に酷いことはなさらないでください」
不安そうに懇願するティアナ。
「ああ、もちろんさ、ティアナ嬢。私は君が悲しむようなことは絶対にしないから安心して。君の姉君にも危害を加えるつもりはないから」
ユリウスのアンバーの目は、優しくティアナを見つめていた。
「ありがとうございます。お姉様、私はここで待っておりますので、行ってください」
ティアナはホッとしたように微笑み、マルグリットに行くように促した。
「ティアナが言うなら仕方ないわね」
不本意ではあるが、マルグリットはユリウスについて行くことにした。
♚ ♕ ♛ ♔ ♚ ♕ ♛ ♔
湖畔から少し離れた所にマルグリットとユリウスはやって来た。
そこにはユリウスの侍従もいる。
「それで、貴方は私に何の用なわけ?」
マルグリットのターコイズの目はユリウスを睨んでいる。口もへの字に曲がっていた。
「君はファルケンハウゼン男爵家の事情について知っているのかい?」
スッとアンバーの目を冷たく細めるユリウス。
「事情? お父様もお母様もお兄様も碌でなしってことは知っているわ。いつもティアナを目の敵にして罵倒している人でなしよ」
腕を組み、フイッと顔を背けるマルグリット。
「何だって……?」
ユリウスの声が一段と低く冷たくなった。アンバーの目からは光が消え、絶対零度のように冷たくなっている。
(何なの? この男は……)
マルグリットは少しゾクリとする。
「ファルケンハウゼン男爵夫妻とその息子が……ね。君までティアナ嬢を虐げていたら、ティアナ嬢だけを救い出してファルケンハウゼン男爵家を潰していたね。……というか、今すぐティアナ嬢を攫ってしまった方がいいのかもしれない」
「そんなことさせるわけないでしょう! 貴方ティアナをどうするつもりよ!?」
物凄い剣幕のマルグリット。
「どうって、もちろん私の妻にするのさ。これは決定事項だからね。私はティアナ嬢に一目惚れをしたのさ」
フッと微笑むユリウス。
「反対よ! 私の可愛いティアナを貴方みたいな得体の知れない男に渡すわけないでしょう! それに、貴方ランツベルク辺境伯家の人間なんでしょう!? 男爵家と辺境伯家で結婚なんてあり得ないわ!」
ターコイズの目を吊り上げて怒りを露わにするマルグリット。
ガーメニー王国では、公爵、侯爵・辺境伯、伯爵といった上級貴族と子爵、男爵といった下級貴族の結婚は認められていない。
「身分や家格差なんて私の手によればどうにでも出来るさ。それより、話を戻そう」
再びユリウスのアンバーの目に光が灯る。
「君はファルケンハウゼン男爵家が人身売買をしていることは知っているかい?」
「人身……売買ですって……!?」
マルグリットはターコイズの目を大きく見開く。
ガーメニー王国では人身売買は禁じられている。もし人身売買を行っていることが露見したら極刑になることは間違いない。
「その様子だと知らないようだね。君も、そしてティアナ嬢も。イェルク、今まで集めた証拠を彼女に見せてくれ」
ユリウスは侍従であるイェルクにそう指示した。待機していたイェルクは分厚い書類をマルグリットに手渡す。
「これは……!」
マルグリットは書類をパラパラと読み、ターコイズの目を大きく見開く。
(この書類……お父様達は人身売買に関わっている証拠ね!?)
「まあ今のところ、ファルケンハウゼン男爵家は限りなく黒に近いグレーだ」
「じゃあ、ティアナはどうなるの……?」
マルグリットの声は震えていた。ファルケンハウゼン男爵家が人身売買に関わっていたとなると、自分達も何らかの罰を受ける可能性がある。
「良くて修道院行きだ。だけど、悪ければ娼館に売られたり、最悪連座で処刑になる」
ユリウスの口から無慈悲に告げられる自分達の行く末。
「そんな……」
マルグリットは頭が真っ白になる。
「私は君と取り引きがしたい」
「取り引き……?」
怪訝そうな表情になるマルグリット。
「ああ。ファルケンハウゼン男爵家は限りなく黒に近いグレー。つまり、摘発出来るような決定的な証拠がまだ足りない。そこで君にはファルケンハウゼン男爵家内部を探って決定的な証拠を見つけて欲しい」
「それをしたら、ティアナはどうなるの? 最悪処刑なんでしょう!? ティアナを死なせてなるものですか!」
マルグリットの呼吸は浅くなる。
「落ち着いてくれ。私もティアナ嬢を死なせる気は全くない。むしろ、ティアナ嬢に死なれては困る」
ユリウスは呆れたようにため息をつく。
「ファルケンハウゼン男爵家を潰す前に、ティアナ嬢と君の養子入り先を準備する。そうしたら二人は男爵家と縁が切れてこの件に関しては無関係だと言える。最初はティアナ嬢だけ救おうとしたけれど、君に何かあればティアナ嬢が悲しむ」
フッと笑うユリウス。
「それに、君はまだ成人前だろう? 私は今年十六歳だ。社交界デビューはしているし、ランツベルク辺境伯家の次期当主だから君よりも権力はある。今の君はティアナ嬢を全てから守ることが出来るのかい?」
「それは……!」
言葉を詰まらせるマルグリット。今のマルグリットには、ティアナを両親や兄の罵倒から守ることくらいしか出来ない。
「私ならティアナ嬢を守る術を持っている。君は私に協力してくれるかい?」
自信ありげに口角を上げるユリウス。疑問系でありながら、有無を言わせないような口調だ。
(悔しい……! だけど私にはティアナを全てから守る力がない……!)
マルグリットは悔しそうに表情を歪める。
「分かったわ」
諦めたようにマルグリットは頷いた。
「今は貴方にティアナを預けるわ。だけど、ティアナを守るのは私よ! ティアナの相手だって、私が見つけるわ!」
これはせめてもの悪あがきである。
ユリウスは満足そうに口角を上げる。
「取り引き成立だ」
こうして、ティアナを守る為に不本意ながらもマルグリットはユリウスと手を組むことになった。
湖畔に着いて早々、マルグリットは嫌そうに顔を顰めている。
何とそこにはユリウスがいたのだ。
「また会ったね、ティアナ嬢」
ユリウスの視線はティアナに向いている。
「ご機嫌よう、ユリウス卿」
ティアナは上品に挨拶をする。
「ティアナ嬢、そんな他人行儀な敬称は必要ないよ」
「では……ユリウス様とお呼びしま」
「駄目よティアナ! この男に心を許してはいけないわ!」
マルグリットはティアナの言葉を遮り、ユリウスから守るように庇い立つ。
「お姉様……」
少し困ったように微笑むティアナ。
「私の可愛いティアナに手を出さないでちょうだい!」
マルグリットのターコイズの目は、キッとユリウスを睨みつける。
「私は君ではなくティアナ嬢と話していたのだけれど」
ユリウスは呆れたように軽くため息をついた。そしてマルグリットとティアナを交互に観察する。
「まあいい。……少し君にも話がある。ティアナ嬢、少しの間君の姉君を借りてもいいかい?」
ユリウスはマルグリットに用事があるようだ。
「私は貴方と話すようなことなんてないわよ!」
ユリウスに反発するマルグリット。
「あの、ユリウス様、どうかお姉様に酷いことはなさらないでください」
不安そうに懇願するティアナ。
「ああ、もちろんさ、ティアナ嬢。私は君が悲しむようなことは絶対にしないから安心して。君の姉君にも危害を加えるつもりはないから」
ユリウスのアンバーの目は、優しくティアナを見つめていた。
「ありがとうございます。お姉様、私はここで待っておりますので、行ってください」
ティアナはホッとしたように微笑み、マルグリットに行くように促した。
「ティアナが言うなら仕方ないわね」
不本意ではあるが、マルグリットはユリウスについて行くことにした。
♚ ♕ ♛ ♔ ♚ ♕ ♛ ♔
湖畔から少し離れた所にマルグリットとユリウスはやって来た。
そこにはユリウスの侍従もいる。
「それで、貴方は私に何の用なわけ?」
マルグリットのターコイズの目はユリウスを睨んでいる。口もへの字に曲がっていた。
「君はファルケンハウゼン男爵家の事情について知っているのかい?」
スッとアンバーの目を冷たく細めるユリウス。
「事情? お父様もお母様もお兄様も碌でなしってことは知っているわ。いつもティアナを目の敵にして罵倒している人でなしよ」
腕を組み、フイッと顔を背けるマルグリット。
「何だって……?」
ユリウスの声が一段と低く冷たくなった。アンバーの目からは光が消え、絶対零度のように冷たくなっている。
(何なの? この男は……)
マルグリットは少しゾクリとする。
「ファルケンハウゼン男爵夫妻とその息子が……ね。君までティアナ嬢を虐げていたら、ティアナ嬢だけを救い出してファルケンハウゼン男爵家を潰していたね。……というか、今すぐティアナ嬢を攫ってしまった方がいいのかもしれない」
「そんなことさせるわけないでしょう! 貴方ティアナをどうするつもりよ!?」
物凄い剣幕のマルグリット。
「どうって、もちろん私の妻にするのさ。これは決定事項だからね。私はティアナ嬢に一目惚れをしたのさ」
フッと微笑むユリウス。
「反対よ! 私の可愛いティアナを貴方みたいな得体の知れない男に渡すわけないでしょう! それに、貴方ランツベルク辺境伯家の人間なんでしょう!? 男爵家と辺境伯家で結婚なんてあり得ないわ!」
ターコイズの目を吊り上げて怒りを露わにするマルグリット。
ガーメニー王国では、公爵、侯爵・辺境伯、伯爵といった上級貴族と子爵、男爵といった下級貴族の結婚は認められていない。
「身分や家格差なんて私の手によればどうにでも出来るさ。それより、話を戻そう」
再びユリウスのアンバーの目に光が灯る。
「君はファルケンハウゼン男爵家が人身売買をしていることは知っているかい?」
「人身……売買ですって……!?」
マルグリットはターコイズの目を大きく見開く。
ガーメニー王国では人身売買は禁じられている。もし人身売買を行っていることが露見したら極刑になることは間違いない。
「その様子だと知らないようだね。君も、そしてティアナ嬢も。イェルク、今まで集めた証拠を彼女に見せてくれ」
ユリウスは侍従であるイェルクにそう指示した。待機していたイェルクは分厚い書類をマルグリットに手渡す。
「これは……!」
マルグリットは書類をパラパラと読み、ターコイズの目を大きく見開く。
(この書類……お父様達は人身売買に関わっている証拠ね!?)
「まあ今のところ、ファルケンハウゼン男爵家は限りなく黒に近いグレーだ」
「じゃあ、ティアナはどうなるの……?」
マルグリットの声は震えていた。ファルケンハウゼン男爵家が人身売買に関わっていたとなると、自分達も何らかの罰を受ける可能性がある。
「良くて修道院行きだ。だけど、悪ければ娼館に売られたり、最悪連座で処刑になる」
ユリウスの口から無慈悲に告げられる自分達の行く末。
「そんな……」
マルグリットは頭が真っ白になる。
「私は君と取り引きがしたい」
「取り引き……?」
怪訝そうな表情になるマルグリット。
「ああ。ファルケンハウゼン男爵家は限りなく黒に近いグレー。つまり、摘発出来るような決定的な証拠がまだ足りない。そこで君にはファルケンハウゼン男爵家内部を探って決定的な証拠を見つけて欲しい」
「それをしたら、ティアナはどうなるの? 最悪処刑なんでしょう!? ティアナを死なせてなるものですか!」
マルグリットの呼吸は浅くなる。
「落ち着いてくれ。私もティアナ嬢を死なせる気は全くない。むしろ、ティアナ嬢に死なれては困る」
ユリウスは呆れたようにため息をつく。
「ファルケンハウゼン男爵家を潰す前に、ティアナ嬢と君の養子入り先を準備する。そうしたら二人は男爵家と縁が切れてこの件に関しては無関係だと言える。最初はティアナ嬢だけ救おうとしたけれど、君に何かあればティアナ嬢が悲しむ」
フッと笑うユリウス。
「それに、君はまだ成人前だろう? 私は今年十六歳だ。社交界デビューはしているし、ランツベルク辺境伯家の次期当主だから君よりも権力はある。今の君はティアナ嬢を全てから守ることが出来るのかい?」
「それは……!」
言葉を詰まらせるマルグリット。今のマルグリットには、ティアナを両親や兄の罵倒から守ることくらいしか出来ない。
「私ならティアナ嬢を守る術を持っている。君は私に協力してくれるかい?」
自信ありげに口角を上げるユリウス。疑問系でありながら、有無を言わせないような口調だ。
(悔しい……! だけど私にはティアナを全てから守る力がない……!)
マルグリットは悔しそうに表情を歪める。
「分かったわ」
諦めたようにマルグリットは頷いた。
「今は貴方にティアナを預けるわ。だけど、ティアナを守るのは私よ! ティアナの相手だって、私が見つけるわ!」
これはせめてもの悪あがきである。
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