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犬猿の仲だが呉越同舟
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マルグリットは早速ファルケンハウゼン男爵邸で人身売買の証拠探しをしていた。
『私ならティアナ嬢を守る術を持っている。君は私に協力してくれるかい?』
マルグリットの脳裏にユリウスの自信ありげな笑みがチラつく。
(どうしてあんな奴に協力しないといけないのかしら!? 本当に嫌な奴だわ! 私からティアナを奪おうとするなんて! 私が後二年早く生まれていたら、ティアナを託せる相手を自分で探すことが出来たのに!)
悔しさで表情を歪めるマルグリット。しかしマルグリットの脳裏には大好きなティアナの姿も浮かんだ。
『私にはお姉様がいるだけで十分でございます。これ以上望むことなどありませんわ』
ティアナはそう穏やかに微笑んでいた。
(そうね、これはティアナの為よ。両親と兄の悪事に私の可愛いティアナを巻き込むわけにはいかないわ)
マルグリットは覚悟を決めて証拠探しに勤しむのであった。
♚ ♕ ♛ ♔ ♚ ♕ ♛ ♔
「なるほど、これが君の集めた証拠になりそうなもの……か」
いつもの湖畔でマルグリットはユリウスに見つけた資料を渡すと、ユリウスはそれをじっくり読む。
「まあ、正直期待以上だったけれど、まだ即摘発出来る程ではないな」
ユリウスはフッと笑った。
「随分と上から目線ね。本当、貴方って嫌な奴だわ。私からティアナを奪おうとするし」
マルグリットは不機嫌な表情を隠しもしない。
「君こそ、私がティアナ嬢と仲を深める邪魔をしないでくれるかな」
わざとらしくため息をつくユリウス。
「言っておくけれど、ティアナにとっての一番は私よ。貴方なんかに譲らないわ」
「どうかな? いずれティアナ嬢の一番に私はなる自信はある」
ニヤリと口角を上げるユリウス。
「姉妹の絆舐めるんじゃないわよ」
更に噛み付くマルグリット。
ティアナを巡り双方一歩も譲る気はないらしい。
「まあ君がティアナ嬢をファルケンハウゼン男爵家の他の奴らの悪意から守っているのは認めるさ。それにしても、あんなに可憐で天使のようなティアナ嬢を虐げるだなんてどうかしている」
呆れたように盛大にため息をつくユリウス。
「それには同意するわ。両親と兄はティアナの髪と目の色が気に入らないというだけで毎日ネチネチ嫌味を言っているのよ。あり得ないわ」
盛大に顔を歪めるマルグリット。
「髪と目の色か……。あのダークブロンドの柔らかな髪にはつい触れたくなるし、グレーの目もムーンストーンのようで美しいというのに。ティアナ嬢を虐げる奴らには今すぐ地獄に突き落としてこの世に生を受けたことを後悔させてやりたいね」
ユリウスのアンバーの目がスッと冷える。
「あら、そこは気が合うわね。だけど簡単に私の可愛いティアナに触れさせないわよ」
「面倒な姉君だね。少しは妹離れしないと、ティアナ嬢に嫌われてしまうよ。まあ私からしたらその方が都合が良いが。早くティアナ嬢を私の妻にして閉じ込めてしまいたい。彼女は私だけを頼ってくれたら良いのに」
挑発するように笑うユリウス。仄暗い独占欲を隠そうともしない。アンバーの目からは光が消えている。
「そんなことには絶対にならないわよ。私からティアナを奪おうなんてたとえ辺境伯令息だろうと百年早いわ」
マルグリットは負けずにキッとユリウスを睨み付けた。
その時、「にゃあ」とふわふわとした雪のように白い毛並みの子猫ーーシュネーが二人の元に走って来る。
「シュネー、待ってちょうだい」
そしてシュネーを追いかけるティアナもやって来た。マルグリットとユリウスはティアナに優しい目を向ける。ユリウスのアンバーの目には光が戻っていた。
「お邪魔して申し訳ございません、ユリウス様、お姉様」
シュネーを抱き上げて、困ったように微笑むティアナ。
「邪魔だなんて思わないよ。早くティアナ嬢と話したくて仕方がなかったんだ」
ユリウスはティアナに甘く優しい紳士的な笑みを向ける。アンバーの目はこの上なく優しさに溢れていた。先程の仄暗い独占欲はひたすら抑えているようである。
「ティアナ、この男のことは放っておいて私と二人でゆっくりしましょう。もちろん、シュネーもよ」
マルグリットはティアナに抱きつき、ユリウスから引き離そうとする。
「いやいや、君はいつでもティアナ嬢と過ごす時間はあるだろう。ティアナ嬢、今日はランツベルク家の料理人にサンドイッチを作らせて持って来たから、一緒に食べないかい?」
ユリウスも負けじとティアナとマルグリットの間に入り込もうとしている。
「えっと……お二人共、落ち着いてください私は三人で過ごせたらと存じますが……」
ティアナは二人に迫られて困ったように微笑んむ。それがまた天使のようでマルグリットとユリウスの心を掴むのには十分であった。
「ティアナ嬢が望むのならそうするしかないね。イェルク、準備を頼む」
ユリウスはティアナに向かって優しくアンバーの目を細めた後、侍従イェルクにそう指示を出す。
「仕方ないわね。ティアナがそう言うなら、貴方も入れてあげるわ」
マルグリットも若干苦笑しながらユリウスのことも受け入れるのであった。
マルグリット、ユリウス、ティアナ。三人揃って湖畔でピクニック。和やかな雰囲気になるかと思いきや……。
「ティアナ嬢、このサンドイッチ、ランツベルク辺境伯領で採れた新鮮な魚介類、それからリートベルク伯爵領産のチーズと隣国であるナルフェック王国で採れた新鮮な野菜を使っているんだ。さあ、食べてみて」
ユリウスはサンドイッチをティアナの口元に持って行く。優しい笑みだがアンバーの目は少しギラギラとしていた。どうやらユリウスはティアナに直接食べさせようとしているみたいてある。
「ちょっと、やめなさい。貴方のようなとんでもない男の手から直接食べさせるわけにはいかないわ」
マルグリットはユリウスとティアナの間に割って入った。
ユリウスはティアナに聞こえないように「チッ」と舌打ちをする。
「私の邪魔をしないでくれるかな」
マルグリットに対して呆れ顔だ。
(こいつ今舌打ちをしたわね!)
ムッとするマルグリット。
ちなみに、シュネーはそんな二人のことなど気にせずユリウスが魚を加工して作った子猫でも食べやすい餌を頬張っている。
「えっと……いただきますね」
ティアナは遠慮がちにユリウスの手からサンドイッチを受け取り、一口食べる。
するとティアナのムーンストーンの目が輝く。
「これ、とても美味しいです。バゲットは香ばしく、シャキシャキとしたお野菜。魚介類の旨みとそれからチーズのコクがたまりません」
花が咲いたように表情を綻ばせるティアナ。その表情はたちまちマルグリットとユリウスを虜にした。
「まあ、そんなに美味しいのね。だったら全部食べてしまいなさい」
マルグリットはユリウスからサンドイッチが入ったバスケットを奪い取り、ティアナに渡す。まるで舌打ちされたことに対する報復のような感じだ。
「ティアナ嬢、ランツベルク領は海にも面している。私の元に来るのなら、毎日新鮮な魚介類を食べられるよ。それに、母上の生家がリートベルク伯爵家だから、リートベルク領産のチーズや乳製品が食べられる。おまけにナルフェック王国とも隣接しているから、あの国の新鮮な野菜や果物も楽しめるよ」
ユリウスはティアナに紳士的ではあるが、かなり積極的にアプローチをしている。
「ちょっと、あんまりティアナに近付かないでちょうだい」
そして当然マルグリットはそれを阻止している。
ティアナのお陰で和やかになったかと思いきや、やはり相変わらずな二人であった。
そして当の渦中に巻き込まれているティアナは困ったように微笑んでいたのである。
『私ならティアナ嬢を守る術を持っている。君は私に協力してくれるかい?』
マルグリットの脳裏にユリウスの自信ありげな笑みがチラつく。
(どうしてあんな奴に協力しないといけないのかしら!? 本当に嫌な奴だわ! 私からティアナを奪おうとするなんて! 私が後二年早く生まれていたら、ティアナを託せる相手を自分で探すことが出来たのに!)
悔しさで表情を歪めるマルグリット。しかしマルグリットの脳裏には大好きなティアナの姿も浮かんだ。
『私にはお姉様がいるだけで十分でございます。これ以上望むことなどありませんわ』
ティアナはそう穏やかに微笑んでいた。
(そうね、これはティアナの為よ。両親と兄の悪事に私の可愛いティアナを巻き込むわけにはいかないわ)
マルグリットは覚悟を決めて証拠探しに勤しむのであった。
♚ ♕ ♛ ♔ ♚ ♕ ♛ ♔
「なるほど、これが君の集めた証拠になりそうなもの……か」
いつもの湖畔でマルグリットはユリウスに見つけた資料を渡すと、ユリウスはそれをじっくり読む。
「まあ、正直期待以上だったけれど、まだ即摘発出来る程ではないな」
ユリウスはフッと笑った。
「随分と上から目線ね。本当、貴方って嫌な奴だわ。私からティアナを奪おうとするし」
マルグリットは不機嫌な表情を隠しもしない。
「君こそ、私がティアナ嬢と仲を深める邪魔をしないでくれるかな」
わざとらしくため息をつくユリウス。
「言っておくけれど、ティアナにとっての一番は私よ。貴方なんかに譲らないわ」
「どうかな? いずれティアナ嬢の一番に私はなる自信はある」
ニヤリと口角を上げるユリウス。
「姉妹の絆舐めるんじゃないわよ」
更に噛み付くマルグリット。
ティアナを巡り双方一歩も譲る気はないらしい。
「まあ君がティアナ嬢をファルケンハウゼン男爵家の他の奴らの悪意から守っているのは認めるさ。それにしても、あんなに可憐で天使のようなティアナ嬢を虐げるだなんてどうかしている」
呆れたように盛大にため息をつくユリウス。
「それには同意するわ。両親と兄はティアナの髪と目の色が気に入らないというだけで毎日ネチネチ嫌味を言っているのよ。あり得ないわ」
盛大に顔を歪めるマルグリット。
「髪と目の色か……。あのダークブロンドの柔らかな髪にはつい触れたくなるし、グレーの目もムーンストーンのようで美しいというのに。ティアナ嬢を虐げる奴らには今すぐ地獄に突き落としてこの世に生を受けたことを後悔させてやりたいね」
ユリウスのアンバーの目がスッと冷える。
「あら、そこは気が合うわね。だけど簡単に私の可愛いティアナに触れさせないわよ」
「面倒な姉君だね。少しは妹離れしないと、ティアナ嬢に嫌われてしまうよ。まあ私からしたらその方が都合が良いが。早くティアナ嬢を私の妻にして閉じ込めてしまいたい。彼女は私だけを頼ってくれたら良いのに」
挑発するように笑うユリウス。仄暗い独占欲を隠そうともしない。アンバーの目からは光が消えている。
「そんなことには絶対にならないわよ。私からティアナを奪おうなんてたとえ辺境伯令息だろうと百年早いわ」
マルグリットは負けずにキッとユリウスを睨み付けた。
その時、「にゃあ」とふわふわとした雪のように白い毛並みの子猫ーーシュネーが二人の元に走って来る。
「シュネー、待ってちょうだい」
そしてシュネーを追いかけるティアナもやって来た。マルグリットとユリウスはティアナに優しい目を向ける。ユリウスのアンバーの目には光が戻っていた。
「お邪魔して申し訳ございません、ユリウス様、お姉様」
シュネーを抱き上げて、困ったように微笑むティアナ。
「邪魔だなんて思わないよ。早くティアナ嬢と話したくて仕方がなかったんだ」
ユリウスはティアナに甘く優しい紳士的な笑みを向ける。アンバーの目はこの上なく優しさに溢れていた。先程の仄暗い独占欲はひたすら抑えているようである。
「ティアナ、この男のことは放っておいて私と二人でゆっくりしましょう。もちろん、シュネーもよ」
マルグリットはティアナに抱きつき、ユリウスから引き離そうとする。
「いやいや、君はいつでもティアナ嬢と過ごす時間はあるだろう。ティアナ嬢、今日はランツベルク家の料理人にサンドイッチを作らせて持って来たから、一緒に食べないかい?」
ユリウスも負けじとティアナとマルグリットの間に入り込もうとしている。
「えっと……お二人共、落ち着いてください私は三人で過ごせたらと存じますが……」
ティアナは二人に迫られて困ったように微笑んむ。それがまた天使のようでマルグリットとユリウスの心を掴むのには十分であった。
「ティアナ嬢が望むのならそうするしかないね。イェルク、準備を頼む」
ユリウスはティアナに向かって優しくアンバーの目を細めた後、侍従イェルクにそう指示を出す。
「仕方ないわね。ティアナがそう言うなら、貴方も入れてあげるわ」
マルグリットも若干苦笑しながらユリウスのことも受け入れるのであった。
マルグリット、ユリウス、ティアナ。三人揃って湖畔でピクニック。和やかな雰囲気になるかと思いきや……。
「ティアナ嬢、このサンドイッチ、ランツベルク辺境伯領で採れた新鮮な魚介類、それからリートベルク伯爵領産のチーズと隣国であるナルフェック王国で採れた新鮮な野菜を使っているんだ。さあ、食べてみて」
ユリウスはサンドイッチをティアナの口元に持って行く。優しい笑みだがアンバーの目は少しギラギラとしていた。どうやらユリウスはティアナに直接食べさせようとしているみたいてある。
「ちょっと、やめなさい。貴方のようなとんでもない男の手から直接食べさせるわけにはいかないわ」
マルグリットはユリウスとティアナの間に割って入った。
ユリウスはティアナに聞こえないように「チッ」と舌打ちをする。
「私の邪魔をしないでくれるかな」
マルグリットに対して呆れ顔だ。
(こいつ今舌打ちをしたわね!)
ムッとするマルグリット。
ちなみに、シュネーはそんな二人のことなど気にせずユリウスが魚を加工して作った子猫でも食べやすい餌を頬張っている。
「えっと……いただきますね」
ティアナは遠慮がちにユリウスの手からサンドイッチを受け取り、一口食べる。
するとティアナのムーンストーンの目が輝く。
「これ、とても美味しいです。バゲットは香ばしく、シャキシャキとしたお野菜。魚介類の旨みとそれからチーズのコクがたまりません」
花が咲いたように表情を綻ばせるティアナ。その表情はたちまちマルグリットとユリウスを虜にした。
「まあ、そんなに美味しいのね。だったら全部食べてしまいなさい」
マルグリットはユリウスからサンドイッチが入ったバスケットを奪い取り、ティアナに渡す。まるで舌打ちされたことに対する報復のような感じだ。
「ティアナ嬢、ランツベルク領は海にも面している。私の元に来るのなら、毎日新鮮な魚介類を食べられるよ。それに、母上の生家がリートベルク伯爵家だから、リートベルク領産のチーズや乳製品が食べられる。おまけにナルフェック王国とも隣接しているから、あの国の新鮮な野菜や果物も楽しめるよ」
ユリウスはティアナに紳士的ではあるが、かなり積極的にアプローチをしている。
「ちょっと、あんまりティアナに近付かないでちょうだい」
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