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第1章 追放

3夜

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 木製の机の上には、先程までギーが身につけていた鎧と盾が置かれている。

「とはいえ、その聖域の鎧と盾は見事だったねえ……」

「ええ、アルク様は魔物の攻撃を避けてしまわれますからわかりにくかったですが、古竜の一撃を正面から受けても、ギーさんの体を守り切りましたから」

「流石はアルクが聖界剣と共に手に入れたというだけあるね。実に素晴らしい。こいつにかかった魔法は研究する価値があるよ」

 確かに、これがなければとっくに死んでいてもおかしくない。

「つまりだ。わかるかいギー君? この剣と盾と鎧があれば、君は必要ない、お払い箱ということだよッ!」

 キャハハとオテが笑った。

「ギーさん、これまでご苦労様でした。あとは私たちがやりますので、あなたは帰ってください」

「で、でも、アルクの死を隠すには……」

 オテがニヤニヤといやらしい笑みを浮かべた。

「ああ、その件かい? 安心したまえ。アルクの死を隠す役目は、今後、もう一人の影武者だったデイモスにやってもらう」

 界剣の勇者アルクの影武者は、ギーとデイモス、それにあともう一人か二人いたと、ギーは聞いている。
 実際に会ったことがあるのは、デイモスだけだ。
 そう考えると、本当に存在していたのか怪しいところだけど。
 それとも死んでしまったのだろうか?
 アルクが最前線で最も手強い魔物たちを相手にしている間、界剣の勇者の人気や名声を高めるため、デイモスが中級の魔物たちと戦い、ギーは後方の街や村で、ペットの捜索から落とし物探しなど、住人の小さな困りごとを解決して回っていた。

「デイモスは、君ほどアルクに似ていなかったけどね、剣の腕は確かだ。彼なら聖界剣の力も引き出してくれるだろう」

 オテはそう言うと扉を見やった。

「デイモス、入ってきなさい」

「チッ、やっとお呼びがかかったか――」

 扉が開くと、大柄で筋肉質な男性が入ってきた。
 目つきは鋭いものの、顔形はアルク、そしてギーと似ていなくもない。
 髪型を同じにしているせいもあってか、遠目や闇夜に見れば、アルクやギーと見間違えることもあるだろう。
 低く、ゴワゴワした声音で話しかけてくる。

「よお、ギーさんよ、ひさしぶりじゃねぇか……」

 四人だけの話し合いかと思ったが、最初からデイモスを呼んでいたということは、最初からギーを辞めさせるつもりだった、ということか。

「オラッ、オメェにはもう必要ねぇだろ、さっさとその腰の剣を寄越せッ!」

 強引に聖界剣を奪うと、ランプの炎にかざした。
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