【完結】異世界の記憶を思い出した幼馴染で自称(大)聖女の姉が「魔王退治に行く!」と言い出しました。

野良豆らっこ

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第18話

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 こうして僕と姉さんは、物語にうたわれるアンサルディの古城を目指したのだった。

 古城までの距離は、受付嬢の言っていた通り、僕らの足でも歩いて半日程度。

 故郷の村からアンサルドの街に来るまでにかかった日数を思えば、それほど離れているというわけでもなかった。

 とはいっても――かつては道がつながっていたのだろう――道中は途中から森に変わっていた。

 かつての歩道の跡をたどりながら進んでいくと、ようやく開けた場所に出る。

 小高い山の中腹。

 周囲を見渡せる高台に、廃城といってもいいほど古い城が建っているのが見えた。

 細い山道に沿って上がっていく。

 崩れ落ちた城壁や尖塔。

 それでも、僕にとっては見たことがないほど立派な建物で、かつての威容を思い起こさせるのに十分だった。


「やっと着いたわね……」


 到着したころはすでに夕暮れ時だった。
 西の空で沈みかけの太陽が、城を覆う緑の蔦をオレンジに染めていた。


「どうする姉さん、このまま突入する?」

「なーに言ってるのよ。幽霊といえば夜でしょ。こんな中途半端な時間より、王子も出やすいに決まってるわよ」

「それはそうだけど、力も増すかもしれないし、万が一を考えれば……」

「だから余計によ。そっちの方が話を聞いてくれそうでしょ。頭が冴えるというか、生前の意識がハッキリして」

「あ、なるほど」


 高位のアンデッドは、会話をできる個体もいるそうだ。
 アンデッドの王と呼ばれるリッチや、吸血鬼ヴァンパイアなどが有名である。
 そして、数々の冒険者を退けた王子は、すでに、そういった高位のアンデッドの可能性が高い。


「そんなわけで、もっと暗くなるまでここでキャンプよ!」


 野営の準備をする。
 焚き火をおこし、道中で倒したスライモやホーンラビットの肉を串に刺して炙った。

 食後、交代で眠った僕らは、深夜を待って古城の門をくぐる。


「お邪魔しまーす」


 中庭から城内へ。
 当然ながら照明などはまったくない。


「トール、明かりをお願い」

「うん」


 暗がりの中、ライトの呪文を唱えると、青く輝く光の玉がフワフワ浮かんだ。
 魔法の光に照らされた城内。
 大理石や花崗岩で建てられた壁や床は古いけれど、まだまだ健在だった。
 長い間手入れがされてないとわかる絨毯の上を歩いて進む。


「ふ~ん、椅子や机なんかは残ってるのね」

「いい品なら売れそうなもんだけど、残ってるのはそれほどでもない品だったのかな?」

「まあ、運ぶのも大変そうだしね。こんなの担いで山を下りるより、盗賊だってその辺の旅人を襲った方がラクでしょ」

「嫌なラクの仕方だなあ……」


 かつては、大勢の招待客がダンスを披露していたであろう大広間を抜け、階段を上がっていく。
 途中の踊り場で、大きな男女の人物画を見つけた。
 ひょっとしたら王子と、もう1人は令嬢だろうか?
 色褪せているけれど、ちょっとコレットさんに似ている気がする。


「ねぇ、トール。あの『おバカな王子と彼を捨てた令嬢の物語』って、結局どっちが悪かったのかしら?」
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