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番外編 オーア歌劇団「身分違いの恋」
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『オーア歌劇団公演記念・初回限定版パンフレット特典シナリオ・二人の出会い』
サイモン(演者アルビン、以下サイモン表記)は、騎士団の任務遂行の為変装をして酒場に潜入していた。
リジー(演者メロ、以下リジー表記)は祖母を失った悲しみを紛らわす為に忙しく働いていた。宿屋と酒場の掛け持ち。そして運命の時が訪れる。
酒場で酔った客に絡まれたサイモンは、任務から事を荒らげないようにしようとしたが、返って客は調子に乗ってしまう。今ここで騎士団だと証明するバッジを出してしまえば、潜入調査が水の泡になってしまう。このまま数回殴られるしかないかと思った瞬間、相手の後頭部に思い切り大きな音が響いた。後ろにはこの店の女性店員がトレイを持ったまま立っていた。トレイは頭の形に沿って凹んでおり、男はぐらりと倒れていく。
慌てる女性店員の手を掴むと、すぐに店を出ていた。サイモンは女性がこんなに勇敢なものだとは思わなかった。そして女性に守られたのも初めてだった。
リジーは凹んだトレイを握り締めたまま、見知らぬ男性の手を振り払った。店に戻ろうとするのを必死で止めてくる男性を見た瞬間恋に落ちていた。そもそも容姿が好みで、何よりただ純粋に美しいと思ってしまった。
男性と共に裏口から酒場に戻ると、すでに倒してしまった客は帰った後だった。報復を心配した店主から解雇を言い渡されたリジー。宿屋だけの仕事では食べていけないと途方に暮れていると、男性はある提案をしてきた。
たまに街を案内してほしい。ちゃんと報酬は払うという男性の申し出を半信半疑に思いながらも、リジーはその提案を受け入れた。
「フフッ、最初から……そうか、そうだったのか」
ニルスは今回公演の初回パンフレットに付いている特典を何度もベッドで読み返しながら、怪しい笑い声を上げていた。すでに寝間着に着替えたニルスは外で見る隙きのない格好とは違い、とても気の抜けた、妻的に愛しい姿だった。何年経っても慣れないニルスの格好良さに見惚れていると、ぐるりと方向を変えてこちらに寝返りを打ってきた。
「これって二部もあるのかな?」
「恥ずかしいからこれきりにしてと言っておいたし、もうないと思うわよ。でもパンフレットを作るというあなたの提案はとても良かったみたいよ。増版はないのかって問い合わせがあるみたい」
するとニルスは寝転んでいた体を起こし、腕で頭を支えながら真剣そうにこちらを見てきた。
「作ろう。二部、三部と。そうすれば特典目当てに来場者も増えるだろう? もし制作費が足りないというなら僕が出すよ」
「すでにヘイデンスタム侯爵家以外からも出資者が出ているみたいだし、これ以上はあまり深入りしない方がいいわ」
「何故? 出資額はうちが一番だろう? 他の出資者の意向が公演内容に入ってきたらそれこそ人気が偏るじゃないか」
「……それを危惧して他の出資者も求めているのよ。自分の事はよく分かっていないようね」
ニルスが大事そうに持っているパンフレットを眺めながら大きく息を吐いた。
「さて、愛しい息子におやすみを言ってくるわね」
「僕も行こう」
何かと後ろを付いてくるニルスと共に子供部屋に向かうと、すでに寝息を立てているケインの姿を見て、そっと扉を閉めた。
「ケインももうすぐ三歳だ。早いものだな。やっぱりあのパンフレットの特典だけど、続けないか? 子供が大きくなった時に両親の愛を感じられると思うんだ」
「それならパンフレットにするんじゃなくて、私達だけが見る物として作りましょう? 私達だけが知っていればそれでいいと思うの。あなたは違う?」
するとニルスはガウンを広げて抱え込むように抱き締めてきた。
「うん、パンフレットには書けない事も多いしね」
ベルタは一気に熱くなる顔を抑えると、嬉しそうな声が頭から降ってきた。
サイモン(演者アルビン、以下サイモン表記)は、騎士団の任務遂行の為変装をして酒場に潜入していた。
リジー(演者メロ、以下リジー表記)は祖母を失った悲しみを紛らわす為に忙しく働いていた。宿屋と酒場の掛け持ち。そして運命の時が訪れる。
酒場で酔った客に絡まれたサイモンは、任務から事を荒らげないようにしようとしたが、返って客は調子に乗ってしまう。今ここで騎士団だと証明するバッジを出してしまえば、潜入調査が水の泡になってしまう。このまま数回殴られるしかないかと思った瞬間、相手の後頭部に思い切り大きな音が響いた。後ろにはこの店の女性店員がトレイを持ったまま立っていた。トレイは頭の形に沿って凹んでおり、男はぐらりと倒れていく。
慌てる女性店員の手を掴むと、すぐに店を出ていた。サイモンは女性がこんなに勇敢なものだとは思わなかった。そして女性に守られたのも初めてだった。
リジーは凹んだトレイを握り締めたまま、見知らぬ男性の手を振り払った。店に戻ろうとするのを必死で止めてくる男性を見た瞬間恋に落ちていた。そもそも容姿が好みで、何よりただ純粋に美しいと思ってしまった。
男性と共に裏口から酒場に戻ると、すでに倒してしまった客は帰った後だった。報復を心配した店主から解雇を言い渡されたリジー。宿屋だけの仕事では食べていけないと途方に暮れていると、男性はある提案をしてきた。
たまに街を案内してほしい。ちゃんと報酬は払うという男性の申し出を半信半疑に思いながらも、リジーはその提案を受け入れた。
「フフッ、最初から……そうか、そうだったのか」
ニルスは今回公演の初回パンフレットに付いている特典を何度もベッドで読み返しながら、怪しい笑い声を上げていた。すでに寝間着に着替えたニルスは外で見る隙きのない格好とは違い、とても気の抜けた、妻的に愛しい姿だった。何年経っても慣れないニルスの格好良さに見惚れていると、ぐるりと方向を変えてこちらに寝返りを打ってきた。
「これって二部もあるのかな?」
「恥ずかしいからこれきりにしてと言っておいたし、もうないと思うわよ。でもパンフレットを作るというあなたの提案はとても良かったみたいよ。増版はないのかって問い合わせがあるみたい」
するとニルスは寝転んでいた体を起こし、腕で頭を支えながら真剣そうにこちらを見てきた。
「作ろう。二部、三部と。そうすれば特典目当てに来場者も増えるだろう? もし制作費が足りないというなら僕が出すよ」
「すでにヘイデンスタム侯爵家以外からも出資者が出ているみたいだし、これ以上はあまり深入りしない方がいいわ」
「何故? 出資額はうちが一番だろう? 他の出資者の意向が公演内容に入ってきたらそれこそ人気が偏るじゃないか」
「……それを危惧して他の出資者も求めているのよ。自分の事はよく分かっていないようね」
ニルスが大事そうに持っているパンフレットを眺めながら大きく息を吐いた。
「さて、愛しい息子におやすみを言ってくるわね」
「僕も行こう」
何かと後ろを付いてくるニルスと共に子供部屋に向かうと、すでに寝息を立てているケインの姿を見て、そっと扉を閉めた。
「ケインももうすぐ三歳だ。早いものだな。やっぱりあのパンフレットの特典だけど、続けないか? 子供が大きくなった時に両親の愛を感じられると思うんだ」
「それならパンフレットにするんじゃなくて、私達だけが見る物として作りましょう? 私達だけが知っていればそれでいいと思うの。あなたは違う?」
するとニルスはガウンを広げて抱え込むように抱き締めてきた。
「うん、パンフレットには書けない事も多いしね」
ベルタは一気に熱くなる顔を抑えると、嬉しそうな声が頭から降ってきた。
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