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13 幸せの在り処
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「こちらでお屋敷までお連れ致します」
侍女が頭を下げて馬車の扉を開くと、子供達がぞろぞろと乗り込んでいった。大きな馬車はそれでもびくともしない。そして部屋の中さながらのフカフカの椅子に興奮しているようだった。
「カミーユ! ヴァル達を自由にさせないで。あ、こら! そんな所引っ張らいないで! お父さんに弁償出来る額じゃないのよ!」
子供達を押さえつけるように馬車に乗り込むカミラの後ろ姿を眺めながら、クヌートは青い顔をしていた。
「さあお屋敷で旦那様と奥様がお待ちでございます」
一人気後れしているクヌートを追い越すように、アルビンも乗り込んで行く。そしてようやく心を決めたのか、クヌートも馬車へと乗り込んで行った。
「お前達、頼むから粗相のないように。今日に団員全員の人生が全て掛かっているんだ。いいか? 絶対に何も壊すな、触るな、しゃべるなよ」
しかし誰もクヌートの言っている事には返事をせず、馬車の中はずっと騒がしいままだった。
✳✳✳✳✳
「待って、もう来たみたい。ああどうしよう! 緊張しちゃう」
玄関前で朝からソワソワしていたベルタは、馬車の音が聞こえてくると居ても立っても居られずに飛び出していた。
「あ、ベルタ走らないで!」
後ろからニルスが追い掛けると、丁度玄関の前に馬車が止まった所だった。中から飛び出してきた子供が三人と、その後ろに懐かしい顔ぶれを見つけるなり、ベルタは大泣きしてしまった。
「カミラぁ!」
カミラが泣きながら深いお辞儀をしてみせると、それに習って子供達も思い思いに頭を下げる。そしてその後ろには今にも泣き出しそうな男達の姿があった。
「この度はお招き下さり誠にありがとうございます。二年振りにこの国での公演出来る事を、オーア歌劇団一同感謝しております」
クヌートがそういうと、子供達は最後だけを真似て続けた。
「感謝しております!」
そして二カッと笑い顔を上げてきた。
「カミーユ! ヴァル! 大きくなったわね!」
胸くらいの背の高さになったカミーユと、腰に纏わり付くヴァルを抱き締めながら、カミラの足にしがみついたままの小さな女の子と目が合った。
「初めまして。私はお母さんの友人のベルタよ。宜しくね」
すると女の子はすっとカミラの後ろに隠れてしまった。
「こら! 公爵夫人が直々にご挨拶していくれているってのにこの子は!」
子供を前に押しだろうとしてるカミラの腕を引いた。
「約束を守れなくてごめんなさい」
「何言っているの。あんたが幸せならそれでいいのよ。私達、家族でしょ」
そう言うと、カミラはニルスに向き直った。
「お久し振りでございます、ヘイデンスタム侯爵様。本日は九年前の事をお詫びする機会をお与え頂けますでしょうか?」
「もちろんだ」
「ありがとうございます。……九年前、あなた様が行方をくらましたベルタの所在を確かめる為に我が劇団へ来られた日の事でございます。私は知らぬ存ぜぬを貫き通しましたが、その夜にベルタを他の団員と共に逃したのは私でございます。侯爵様のお気持ちをお聞きもせず、あの時は本当に申し訳ございませんでした」
「あなたはあの日の選択を後悔しているのか?」
するとカミラは首を振った。
「あの時私はベルタを守る為に必死でした。後悔はしておりません。ですが嘘を吐いた事は事実でございます。罰は甘んじてお受け致します」
「カミラ!」
しかしカミラは小さく首を振ってベルタを止めた。
「そうだな。貴族に嘘を吐くなど舌を抜かれても文句は言えないだろう」
カミラの肩がびくりと動く。それでもじっと頭を下げ続けた。
「それなら罰はこうだ。お前達の公演のチケットを二枚購入させてくれ。特別に良い席をだ」
「……も、もちろんでございます。特等席をご準備させて頂きます」
その瞬間、見守っていたクヌートは腰を抜かしたようにその場に座り込んだ。
「久し振りだなクヌート。子供達も元気そうで何よりだ。それに、君がアルビンだね? 舞台は観ていたがこうして話をするのは初めてだな」
ニルスの呼び掛けにもちょいと頭を下げただけのアルビンは、ベルタを見つめたまま固まっていた。
「アルビン久し振りね。二年でまた大人っぽくなったわね」
「当たり前だろ。……ベルタは二年前より太った気がする」
「なんて事言うのよこの子は!」
二人のやり取りを見ていたニルスは笑いを堪えながらベルタの肩を抱いた。
「仕方ないんだ。ベルタは今二人分のご飯が必要な時だから」
一瞬の沈黙の後、玄関前は盛大な歓声に湧いた。
「うぅ、俺のベルタが、クソッ。子供が出来たらもう絶対に無理じゃんかよ」
本気で男泣きをしているアルビンの近くに来たニルスは、満足そうに頷いた。
「子供がいなかったとしてもベルタをやる気はないよ」
追い打ちを掛けるような一言を告げると、呆然とするアルビンを宥めるようにクヌートが肩を叩いた。
「お姫様?」
カミラの後ろに隠れていた女の子は、輝く瞳でベルタを見上げていた。
「ミランダ、もしかしてベルタがお姫様だと思っているの?」
「絵本のお姫様みたい」
ベルタはそっとしゃがみ込むと、ミランダに向けて手を伸ばした。
「女の子は誰でも好きな人のお姫様になれるのよ」
侍女が頭を下げて馬車の扉を開くと、子供達がぞろぞろと乗り込んでいった。大きな馬車はそれでもびくともしない。そして部屋の中さながらのフカフカの椅子に興奮しているようだった。
「カミーユ! ヴァル達を自由にさせないで。あ、こら! そんな所引っ張らいないで! お父さんに弁償出来る額じゃないのよ!」
子供達を押さえつけるように馬車に乗り込むカミラの後ろ姿を眺めながら、クヌートは青い顔をしていた。
「さあお屋敷で旦那様と奥様がお待ちでございます」
一人気後れしているクヌートを追い越すように、アルビンも乗り込んで行く。そしてようやく心を決めたのか、クヌートも馬車へと乗り込んで行った。
「お前達、頼むから粗相のないように。今日に団員全員の人生が全て掛かっているんだ。いいか? 絶対に何も壊すな、触るな、しゃべるなよ」
しかし誰もクヌートの言っている事には返事をせず、馬車の中はずっと騒がしいままだった。
✳✳✳✳✳
「待って、もう来たみたい。ああどうしよう! 緊張しちゃう」
玄関前で朝からソワソワしていたベルタは、馬車の音が聞こえてくると居ても立っても居られずに飛び出していた。
「あ、ベルタ走らないで!」
後ろからニルスが追い掛けると、丁度玄関の前に馬車が止まった所だった。中から飛び出してきた子供が三人と、その後ろに懐かしい顔ぶれを見つけるなり、ベルタは大泣きしてしまった。
「カミラぁ!」
カミラが泣きながら深いお辞儀をしてみせると、それに習って子供達も思い思いに頭を下げる。そしてその後ろには今にも泣き出しそうな男達の姿があった。
「この度はお招き下さり誠にありがとうございます。二年振りにこの国での公演出来る事を、オーア歌劇団一同感謝しております」
クヌートがそういうと、子供達は最後だけを真似て続けた。
「感謝しております!」
そして二カッと笑い顔を上げてきた。
「カミーユ! ヴァル! 大きくなったわね!」
胸くらいの背の高さになったカミーユと、腰に纏わり付くヴァルを抱き締めながら、カミラの足にしがみついたままの小さな女の子と目が合った。
「初めまして。私はお母さんの友人のベルタよ。宜しくね」
すると女の子はすっとカミラの後ろに隠れてしまった。
「こら! 公爵夫人が直々にご挨拶していくれているってのにこの子は!」
子供を前に押しだろうとしてるカミラの腕を引いた。
「約束を守れなくてごめんなさい」
「何言っているの。あんたが幸せならそれでいいのよ。私達、家族でしょ」
そう言うと、カミラはニルスに向き直った。
「お久し振りでございます、ヘイデンスタム侯爵様。本日は九年前の事をお詫びする機会をお与え頂けますでしょうか?」
「もちろんだ」
「ありがとうございます。……九年前、あなた様が行方をくらましたベルタの所在を確かめる為に我が劇団へ来られた日の事でございます。私は知らぬ存ぜぬを貫き通しましたが、その夜にベルタを他の団員と共に逃したのは私でございます。侯爵様のお気持ちをお聞きもせず、あの時は本当に申し訳ございませんでした」
「あなたはあの日の選択を後悔しているのか?」
するとカミラは首を振った。
「あの時私はベルタを守る為に必死でした。後悔はしておりません。ですが嘘を吐いた事は事実でございます。罰は甘んじてお受け致します」
「カミラ!」
しかしカミラは小さく首を振ってベルタを止めた。
「そうだな。貴族に嘘を吐くなど舌を抜かれても文句は言えないだろう」
カミラの肩がびくりと動く。それでもじっと頭を下げ続けた。
「それなら罰はこうだ。お前達の公演のチケットを二枚購入させてくれ。特別に良い席をだ」
「……も、もちろんでございます。特等席をご準備させて頂きます」
その瞬間、見守っていたクヌートは腰を抜かしたようにその場に座り込んだ。
「久し振りだなクヌート。子供達も元気そうで何よりだ。それに、君がアルビンだね? 舞台は観ていたがこうして話をするのは初めてだな」
ニルスの呼び掛けにもちょいと頭を下げただけのアルビンは、ベルタを見つめたまま固まっていた。
「アルビン久し振りね。二年でまた大人っぽくなったわね」
「当たり前だろ。……ベルタは二年前より太った気がする」
「なんて事言うのよこの子は!」
二人のやり取りを見ていたニルスは笑いを堪えながらベルタの肩を抱いた。
「仕方ないんだ。ベルタは今二人分のご飯が必要な時だから」
一瞬の沈黙の後、玄関前は盛大な歓声に湧いた。
「うぅ、俺のベルタが、クソッ。子供が出来たらもう絶対に無理じゃんかよ」
本気で男泣きをしているアルビンの近くに来たニルスは、満足そうに頷いた。
「子供がいなかったとしてもベルタをやる気はないよ」
追い打ちを掛けるような一言を告げると、呆然とするアルビンを宥めるようにクヌートが肩を叩いた。
「お姫様?」
カミラの後ろに隠れていた女の子は、輝く瞳でベルタを見上げていた。
「ミランダ、もしかしてベルタがお姫様だと思っているの?」
「絵本のお姫様みたい」
ベルタはそっとしゃがみ込むと、ミランダに向けて手を伸ばした。
「女の子は誰でも好きな人のお姫様になれるのよ」
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