恋人の気持ちを試す方法

山田ランチ

文字の大きさ
13 / 14

13 幸せの在り処

しおりを挟む
「こちらでお屋敷までお連れ致します」

 侍女が頭を下げて馬車の扉を開くと、子供達がぞろぞろと乗り込んでいった。大きな馬車はそれでもびくともしない。そして部屋の中さながらのフカフカの椅子に興奮しているようだった。

「カミーユ! ヴァル達を自由にさせないで。あ、こら! そんな所引っ張らいないで! お父さんに弁償出来る額じゃないのよ!」

 子供達を押さえつけるように馬車に乗り込むカミラの後ろ姿を眺めながら、クヌートは青い顔をしていた。

「さあお屋敷で旦那様と奥様がお待ちでございます」

 一人気後れしているクヌートを追い越すように、アルビンも乗り込んで行く。そしてようやく心を決めたのか、クヌートも馬車へと乗り込んで行った。

「お前達、頼むから粗相のないように。今日に団員全員の人生が全て掛かっているんだ。いいか? 絶対に何も壊すな、触るな、しゃべるなよ」

 しかし誰もクヌートの言っている事には返事をせず、馬車の中はずっと騒がしいままだった。


✳✳✳✳✳


「待って、もう来たみたい。ああどうしよう! 緊張しちゃう」

 玄関前で朝からソワソワしていたベルタは、馬車の音が聞こえてくると居ても立っても居られずに飛び出していた。

「あ、ベルタ走らないで!」

 後ろからニルスが追い掛けると、丁度玄関の前に馬車が止まった所だった。中から飛び出してきた子供が三人と、その後ろに懐かしい顔ぶれを見つけるなり、ベルタは大泣きしてしまった。

「カミラぁ!」

 カミラが泣きながら深いお辞儀をしてみせると、それに習って子供達も思い思いに頭を下げる。そしてその後ろには今にも泣き出しそうな男達の姿があった。

「この度はお招き下さり誠にありがとうございます。二年振りにこの国での公演出来る事を、オーア歌劇団一同感謝しております」

 クヌートがそういうと、子供達は最後だけを真似て続けた。

「感謝しております!」

 そして二カッと笑い顔を上げてきた。

「カミーユ! ヴァル! 大きくなったわね!」

 胸くらいの背の高さになったカミーユと、腰に纏わり付くヴァルを抱き締めながら、カミラの足にしがみついたままの小さな女の子と目が合った。

「初めまして。私はお母さんの友人のベルタよ。宜しくね」

 すると女の子はすっとカミラの後ろに隠れてしまった。

「こら! 公爵夫人が直々にご挨拶していくれているってのにこの子は!」

 子供を前に押しだろうとしてるカミラの腕を引いた。

「約束を守れなくてごめんなさい」
「何言っているの。あんたが幸せならそれでいいのよ。私達、家族でしょ」

そう言うと、カミラはニルスに向き直った。

「お久し振りでございます、ヘイデンスタム侯爵様。本日は九年前の事をお詫びする機会をお与え頂けますでしょうか?」
「もちろんだ」
「ありがとうございます。……九年前、あなた様が行方をくらましたベルタの所在を確かめる為に我が劇団へ来られた日の事でございます。私は知らぬ存ぜぬを貫き通しましたが、その夜にベルタを他の団員と共に逃したのは私でございます。侯爵様のお気持ちをお聞きもせず、あの時は本当に申し訳ございませんでした」
「あなたはあの日の選択を後悔しているのか?」

 するとカミラは首を振った。

「あの時私はベルタを守る為に必死でした。後悔はしておりません。ですが嘘を吐いた事は事実でございます。罰は甘んじてお受け致します」
「カミラ!」

 しかしカミラは小さく首を振ってベルタを止めた。

「そうだな。貴族に嘘を吐くなど舌を抜かれても文句は言えないだろう」

 カミラの肩がびくりと動く。それでもじっと頭を下げ続けた。

「それなら罰はこうだ。お前達の公演のチケットを二枚購入させてくれ。特別に良い席をだ」
「……も、もちろんでございます。特等席をご準備させて頂きます」

 その瞬間、見守っていたクヌートは腰を抜かしたようにその場に座り込んだ。

「久し振りだなクヌート。子供達も元気そうで何よりだ。それに、君がアルビンだね? 舞台は観ていたがこうして話をするのは初めてだな」

 ニルスの呼び掛けにもちょいと頭を下げただけのアルビンは、ベルタを見つめたまま固まっていた。

「アルビン久し振りね。二年でまた大人っぽくなったわね」
「当たり前だろ。……ベルタは二年前より太った気がする」
「なんて事言うのよこの子は!」

 二人のやり取りを見ていたニルスは笑いを堪えながらベルタの肩を抱いた。

「仕方ないんだ。ベルタは今二人分のご飯が必要な時だから」

 一瞬の沈黙の後、玄関前は盛大な歓声に湧いた。

「うぅ、俺のベルタが、クソッ。子供が出来たらもう絶対に無理じゃんかよ」

 本気で男泣きをしているアルビンの近くに来たニルスは、満足そうに頷いた。

「子供がいなかったとしてもベルタをやる気はないよ」

 追い打ちを掛けるような一言を告げると、呆然とするアルビンを宥めるようにクヌートが肩を叩いた。

「お姫様?」

 カミラの後ろに隠れていた女の子は、輝く瞳でベルタを見上げていた。

「ミランダ、もしかしてベルタがお姫様だと思っているの?」
「絵本のお姫様みたい」

 ベルタはそっとしゃがみ込むと、ミランダに向けて手を伸ばした。

「女の子は誰でも好きな人のお姫様になれるのよ」
 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

政略結婚の先に

詩織
恋愛
政略結婚をして10年。 子供も出来た。けどそれはあくまでも自分達の両親に言われたから。 これからは自分の人生を歩みたい

おしどり夫婦の茶番

Rj
恋愛
夫がまた口紅をつけて帰ってきた。お互い初恋の相手でおしどり夫婦として知られるナタリアとブライアン。 おしどり夫婦にも人にはいえない事情がある。 一話完結。『一番でなくとも』に登場したナタリアの話です。未読でも問題なく読んでいただけます。

私の旦那様はつまらない男

おきょう
恋愛
私の旦那様であるロバート伯爵は、無口で無愛想な仕事バカ。 家庭を返り見ず仕事に精を出すのみのつまらない男である。 それでも私は伯爵家の妻として今日も面倒な社交の場に出なければならないのだ。 伯爵家の名を落とさないために。あぁ面倒くさい。 ※他サイトで投稿したものの改稿版になります。

政略で婚約した二人は果たして幸せになれるのか

よーこ
恋愛
公爵令嬢アンジェリカには七才の時からの婚約者がいる。 その婚約者に突然呼び出され、婚約の白紙撤回を提案されてしまう。 婚約者を愛しているアンジェリカは婚約を白紙にはしたくない。 けれど相手の幸せを考えれば、婚約は撤回すべきなのかもしれない。 そう思ったアンジェリカは、本当は嫌だったけど婚約撤回に承諾した。

身代わりーダイヤモンドのように

Rj
恋愛
恋人のライアンには想い人がいる。その想い人に似ているから私を恋人にした。身代わりは本物にはなれない。 恋人のミッシェルが身代わりではいられないと自分のもとを去っていった。彼女の心に好きという言葉がとどかない。 お互い好きあっていたが破れた恋の話。 一話完結でしたが二話を加え全三話になりました。(6/24変更)

冷淡姫の恋心

玉響なつめ
恋愛
冷淡姫、そうあだ名される貴族令嬢のイリアネと、平民の生まれだがその実力から貴族家の養子になったアリオスは縁あって婚約した。 そんな二人にアリオスと同じように才能を見込まれて貴族家の養子になったというマリアンナの存在が加わり、一見仲良く過ごす彼らだが次第に貴族たちの慣習や矜持に翻弄される。 我慢すれば済む、それは本当に? 貴族らしくある、そればかりに目を向けていない? 不器用な二人と、そんな二人を振り回す周囲の人々が織りなすなんでもない日常。 ※カクヨム・小説家になろう・Talesにも載せています

沈黙の指輪 ―公爵令嬢の恋慕―

柴田はつみ
恋愛
公爵家の令嬢シャルロッテは、政略結婚で財閥御曹司カリウスと結ばれた。 最初は形式だけの結婚だったが、優しく包み込むような夫の愛情に、彼女の心は次第に解けていく。 しかし、蜜月のあと訪れたのは小さな誤解の連鎖だった。 カリウスの秘書との噂、消えた指輪、隠された手紙――そして「君を幸せにできない」という冷たい言葉。 離婚届の上に、涙が落ちる。 それでもシャルロッテは信じたい。 あの日、薔薇の庭で誓った“永遠”を。 すれ違いと沈黙の夜を越えて、二人の愛はもう一度咲くのだろうか。

不機嫌な侯爵様に、その献身は届かない

翠月 瑠々奈
恋愛
サルコベリア侯爵夫人は、夫の言動に違和感を覚え始める。 始めは夜会での振る舞いからだった。 それがさらに明らかになっていく。 機嫌が悪ければ、それを周りに隠さず察して動いてもらおうとし、愚痴を言ったら同調してもらおうとするのは、まるで子どものよう。 おまけに自分より格下だと思えば強気に出る。 そんな夫から、とある仕事を押し付けられたところ──?

処理中です...