恋人の気持ちを試す方法

山田ランチ

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12 あなたの帰る場所に

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 ベルタは街の宿屋で働くつもりだったが、今はとあるお屋敷で使用人として働いていた。

「ベルタこっちに来て! 早く! 何をしているのよ!」

 制服はドレス。そしてたった今大声で呼んできたのは、先に庭に出たベアトリスだった。

「ま、待って下さい! まだドレスには慣れていなくて……うわッ!」

 玄関を出てすぐ、ドレスの裾を踏んで転びそうになったその瞬間、誰かに抱き留められた。

「すみません! 失礼しました!」

 支えてくれる腕から離れようと顔を上げた瞬間、ベルタは後ろに飛び退いていた。そこには陽に焼けたニルスが立っていた。

「どうしてベルタがここにいるんだ?」
「えぇと、今このお屋敷で使用人としてお世話になっているの。ベアトリス様のご紹介で……」
「ベルタが使用人!?」

 その瞬間、どこに隠れていたのかベアトリスが慌てて飛び出してきた。

「誤解しないで! 使用人のような真似事はさせていないわ! あくまで私の話し相手としてうちに留まってもらっていたのよ! お父様にも承諾してもらっているんだから!」

 それについては初めて知った。確かに他の侍女達がしているような仕事は任されていなく、している事といえばベアトリス専属の世話係のような内容がほとんどだった。とはいっても侍女のような細やかなお世話が出来るはずもなく、もっぱら話し相手やお茶の相手、それに勉強の時間には共に家庭教師の授業を受けるという内容だった。

「ちょっと待って。今本当に混乱してるんだ」

 ニルスは丁寧に腕を離すと、額を押さえて目を瞑った。

「ベルタがベアトリスの相手をする為にこの家で働いているのか? でも何故? 劇団はどうしたんだ? もうとっくに公演を終えて国を出たはずだろう?」
「劇団は辞めたの。皆はもう他の公演地に向かったわ」
「もしかして、ベアトリスが我儘を言って止めさせたのか? そうだとしたらすぐに僕の方から劇団に連絡をして……」
「違うの! ベアトリス様は私の助けになって下さったのよ。私がこの国に留まれるようにご尽力下さったの」
「だから何故? 君は劇団と一緒に国を出るはずだっただろ? 確かに侯爵家の娘に頼まれたら断れないかもしれないけれど、言う事なんて聞く事なかったんだ!」

 埒が明かずに叫んでいた。

「あなたを待っていたのよ! ……ニルスが戻って来るのをここで待たせてもらっていたの」

 しかし返事はない。ニルスは固まったまま動かなかった。

「め、迷惑だったらすぐに出て行くわ。あなたが無事だったならそれでいいの。任務はもう終わったの? 何年も掛かると聞いていたから正直驚いているのよ」
「今回はただ河川が決壊したとの報告があって、近辺の調査に向かっただけだよ」
「内乱を収めに行ったんじゃなかったの?」
「誰がそんな事言ったんだ? 内乱が起きているならこんなに早く帰って来られないさ」

 誰が仕組んだかは分かっていた。ベアトリスは悪戯がバレた子供のようにペロッと舌を出すとさっとどこかに行ってしまった。

「カイも戻って来ているんでしょう? ちょっと出掛けて来るわ!」

 用意周到という言葉がぴったりのベアトリスは、使用人が引いてきた馬車に乗り込むと、そのままどこかへと向かってしまった。

「全くあの妹ときたら昔から自分勝手なんだ。カイもよく付き合っているよ」
「カイ様とベアトリス様は恋人同士なの?」
「恋人同士というか、幼い頃に決まった婚約者なんだ」
「あなたにはいなかったの? 婚約者……」

 するとニルスは引き攣った顔で目を逸してきた。

「ニルス? あなたに婚約者はいなかったの?」
「……いたさ。でも君と出会ってすぐに婚約解消を申し出たんだ。随分ゴネられて父上には大目玉を食らったよ。一時は家を継がせないとまで言われたんだ」
「そんな事全然知らなかったわ。もしかして、それもあって私に隠し事をしていたの?」
「何があるか分からないから、一抹の不安も排除しておきたかったんだ。でも心配しないでくれ、その相手はすぐに別の相手を見つけて幸せな家庭を築いているよ。そんな事よりも何故ベルタはここで僕の帰りを待っていたんだ? 正直いって混乱しているよ。こんなの自分の良いように解釈してしまうじゃないか」

 真剣な目を逸らせる訳がない。無意識に震え出その手を、囲い込むように大きな手が掬ってきた。

「どんな言葉でも構わないから、どうか黙らないでくれ」
「私ずっとあなたを待つつもりだったの」
「うん。でもなぜ?」
「ニルスの事が好きだから。うんん、七年前と変わらずに愛しているから、今度は私からあなたの恋人にしてもらおうと思って。ニルス、私の恋人になってくれる?」

 その瞬間、硬いニルスの胸の中にいた。ニルスの大きな体が震えている。そっとその背に手を回すと、抱きしめる力は更に強くなった。

「もちろんだよ」

 その声は絞り出すように小さなものだった。
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