恋人の気持ちを試す方法

山田ランチ

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1 恋人の気持ちが分からない

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「それって騙されているんじゃない? いくら忙しいからって、恋人に会えるのが二、三ヶ月に一度あるかないかだなんて。しかもそれが二年も続いているんでしょう? うちのはあんな舞台馬鹿だけど、そこら辺はちゃんとしているというか、愛想尽きそうになるギリギリを攻めてきているのよねぇ」

 追い打ちをかけるような友人の言葉に、ベルタは思わずむくれてしまっていた。

「カミラはそもそも職場が同じでしょ。あたしとは立場が違うよ。それにクヌートさんは誰から見てもカミラが好きだって溢れているし……」

 カミラは二ヶ月前から興行で各地を回っている大所帯の歌劇団の一員だった。友人になったきっかけは、働いている宿屋に歌劇団が長期滞在する事になったからで、そしてそのまま仲良くなり、今ではこうして恋バナをするまでに親しくなっていた。

「でもうちだって別れたらそれこそ地獄が待っているんだからね」
「でも人気役者と団長の恋って禁断みたいで人気が出そうじゃない?」
「何が禁断で地獄だって?」

 二人の上からにゅっと顔を出したのは、カミラの所属するオーア歌劇団の若き団長にしてカミラの恋人クヌートだった。歌劇団というよりはサーカスの団長の方が似合いそうな気もするが、面倒見が良く明るい男性だった。

 ベルタは机に頬を付けながら二人のやり取りをじっとりとした眼差しで鑑賞していると、カミラの指にきらりと光る指輪が目に入った。

「待って、それどうしたの!? この間まで嵌めてなかったよね?」

 するとカミラは嬉しそうにさっと指輪を嵌めている手を差し出してきた。

「きれい……」
「前に巡業した国で、結婚の証に指輪を送るっていう国があってね。素敵だねって話していたらこの間送ってくれたの」
「それってもしかして、結婚を申し込まれたって事?」

 カミラは見た事もない笑顔で頷いた。

「あまりまじまじと見られるとな、その、高い物じゃないから恥ずかしい」

 クヌートは顔を真赤にして、照れ隠しのように笑っていた。

「おめでとう二人共! 今度お祝いを持ってくるわね。今日はもう帰るわ」

 カミラの部屋を出ようとした時だった。

「でも真面目な話、その人本当に恋人なんだよね? 何の仕事をしているか聞いた事はあるの? 前に聞いたのは城務めだっていうのは聞いたけど、それを確かめた事はある?」
「……確かめるってどうやって? 私はしがない宿屋の従業員、片や城務めの貴族なのに」
「え、待って。相手って貴族なの!?」
 
ベルタはまずいと思ったがもう遅かった。

「貴族だなんて聞いてないよ! そんなの遊ばれているに決まっているじゃない! お城なんてすぐそこにあるのに会えるのがそれだけなんて、絶対に家庭があるんだよ!」
「カミラに何が分かるのよ! 自分は幸せだからなんとでも言えるよね! 綺麗だし、人気役者だし、歌だって上手いし、カミラだったらきっと貴族にだって嫁げた……」

 ベルタはハッとして口を押さえた。

「二人共落ち着こう。でも正直な所、俺もベルタが騙されているんじゃないかと思えてしまうよ。城務めがどんなものかなんて俺には分からないし、お貴族様なんて更に何の仕事をしているのか検討もつかない。でも一人の男として言える事は、愛する人には時間を縫ってでも会いに来るもんだろう?」
「そんな事、私にだって分からないわ」
「そこでだ! ジャジャ――ン!」

 クヌートが取り出したのは、小型のナイフだった。

「あのねぇ、今小道具で遊んでいる場合じゃないの。場の和ませ方を間違えていると思うんだけど」
「小道具?」

 するとカミラはナイフの先をチョイっと突いてみせた。美しく磨かれた爪先が一層ナイフを綺麗に見せてくる。

「あぶな……え、どうなっているの?」

 ナイフは刺さる事なく奥に刃が引っ込んでしまった。

「もっと押すと底に血糊が仕込んであってね、事件物の演目に使うのよ。だからただのおもちゃ。斬っても刺しても怪我なんか出来やしないわ」
「いやいや侮るなかれお嬢さん方。ただの小道具ではありませんよ。これは陛下に献上してもいいくらいの精巧な技術を用いて作られているとても貴重な……」

 カミラの視線にクヌートはこほんと咳をすると、言い直した。

「とにかくそれくらいに良く出来た偽物って事なんだ。これを特別に貸してあげよう。幸いにも今回の演目には使用しないしね。やっぱり人気があるのは恋愛ものなんだよ。俺としては事件物や推理物に力を入れたいんだけどさ」
「絶対に止めて、お偉いさんに目を付けられたら営業出来なくなるじゃない。団員全員食いっぱぐれるわよ!」

 クヌートはすでにカミラに頭が上がっていないらしい。すると気を取り直したようにその小道具のナイフを手に押し込んできた。

「これで一芝居打つといい。演技ならもう何回も見ているから出来るだろう?」
「見るのとやるのでは大違いよ! 一体ベルタに何をさせるつもりなの?」
「だから今度恋人が来た時にこのナイフをチラつかせるんだよ。このままの関係は嫌だ、はっきりさせて欲しいってな!」
「このままの関係は嫌だ……」

 呟きながら掌にあるナイフの感触を確かめると、ぎゅっと握り締めた。

「なぁんて冗談。幾らなんでもそんな事したら大抵の男は引くから、別の方法を三人で……」
「私やってみる。丁度明日彼が来る日なの。だから演技には自信はないけどやってみるわ!」

 ベルタはナイフを握り締めたまま勢いよく部屋を出て行った。

「あ、行っちゃった。ちょっと余計拗れたらどうするつもり? 責任取りなさいよね」
「責任って言われたって……第二夫人とか?」

 ヘラっと笑っていうと、思い切り足を踏み付けられた。

「グワッ、折れた!」
「あんたに第二夫人を囲う甲斐性はない! ……だから私だけにしておきなさいよ」
「カミラッ!」

 両腕を広げたクヌートを上手くすり抜けたカミラはそのままベッドに突っ伏した。

「でも本当に拗れなきゃいいけど。あ、第二夫人を囲おうとした罰で一週間お触り禁止よ、旦・那・様」

 背後に迫っていた影がピタリと止まる。そしてそのまま床に倒れた。
 
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