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8 捕らわれた聖女
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ハイスの心配を他所に、神殿の部屋に戻った後も何も起こる気配はなかった。
ネリ―は共に眠れるのが余程嬉しいのか、寝台の中に入ってきて暫く騒いでいたかと思うとすでに寝息を立てている。不安で堪らない夜はこうしてネリ―がそばにいてくれる事が心強い。毛布から出ている手を起こさないようにそっとしまうと目を瞑った。
頭の中では晩餐会での出来事が渦巻いていた。恐らくリアムはハイスとの仲を疑っていた。そして誰かに聖女の力は清い身でなくとも使えると聞いたらしい。しかしハイスは何故か身体の関係はないとは言ったものの想い合っているという誤解を解こうとはしなかった。むしろそれを肯定していたようにも思う。何よりリアムの焦っていた様子が頭から離れない。思い返せば返す程このままではいけないような気がして起き上がった。
――リアム様が誤解しているままなら、その誤解を解かなくちゃ。
もう遅いかもしれない。リアムはもうリリアンヌを想っている。今更誤解を解いた所で一体何が変わるというのだろう。でもあの時リアムは傷ついたような顔をしていた。ハイスとの関係を誤解してリリアンヌを愛していると思い込んでいるのだとしたら、まだやり直せるかもしれない。もし手遅れだったとしても二度と会えなくなった後に後悔だけは残したくない。決めれば行動は早かった。ネリ―を起こさないようにゆっくりと寝台を降りると、ネリ―の腕が毛布から出てきた。その手をゆっくりと毛布に戻しか掛けて撫でた。
「相変わらず冷え性なんだから、暖かくしなくちゃ駄目よ」
寝間着から着替えて内側から掛けている鍵を開けた。
「……んん、ブリジット」
びくりとして手を止めたが、寝言らしい。その寝息を聞きながらブリジットは静かに部屋を出た。
「あぁ、行っちゃったかぁ」
頬杖を付きながら半身を起こしたネリ―はしばらく考えた後すぐに突っ伏した。
「でもまあこの方が好都合かもね。もう少し寝よっと。せいぜい頑張ってブリジット。まあ抗えないと思うけどぉ」
ネリ―は再び寝息を立て始めた。
神殿から城までは馬車を出してもらった。もしかしたらハイスが止めているかもしれないと思ったが、あっさりと馬車を出してもらう事に成功した。きっと部屋を出るなどと思いもしていなかったのかもしれない。城の門も聖女の自分ならばすぐに通してくれる。もちろん晩餐会での事は国王自らが箝口令を敷き、公には婚約破棄もまだされていないのだから門兵が知る訳もなく、リアムに会いに来たと告げるだけですぐに中に通された。
夜の城内は昼間よりもずっと静かだった。それでも人がいない訳でも神殿のように真っ暗な訳でもない。明かりは付いているし使用人達はまだ働いている。堂々を歩いていると頭を下げられる。誰も咎める者はいなく、すぐにリアムの部屋に到着してしまっていた。
勢いで来てしまったが、閉ざされた扉はとてつもなく重厚な扉のように感じた。豪華ではあるが手を添えれば開く。それでも開かなければいいと思う。半年前までは何度か訪れた事のあるリアムの私室。もちろん寝室までは入った事がない。手前の部屋でお茶を飲んだり、バルコニーから庭を見たりしただけ。口づけはした。触れるだけの口づけ。胸が握られたように痛み、目の奥がツンと傷んだ。
――ここまで来たのだから後悔しては駄目よ。
リアムが婚約破棄を発表したらもう会えなくなってしまう。聖女でなかったら出会う事のなかった人。星よりも遠い、手の届かない人。夢が覚めただけ。それでも最後にどうしても聞きたかった。
心変わりの訳を。
取り返しのきかない事だとしても知りたかった。意を決して扉を叩く。返事はない。もう一度扉を叩く。やはり返事はなかった。諦めて帰る前に扉に手をかけると扉はゆっくりと滑らかに開いた。隙間から覗く部屋の中は暗い。もしかしたらまだ戻っていないのかと扉を閉めかけた時、中から物音がした。
「リアム様?」
返事はない。王太子の私室なのだ。もしかしたら刺客や物取りが潜んでいるかもしれない。心配になり、恐る恐る足を踏み入れた。物音と声が混じっている。動悸が激しく鳴り出す。薄闇を進み、音のする方に足は引き寄せられていた。見てはいけないと頭の中で警鐘が鳴っている。それでも足は止まらなかった。一度も踏み入れた事のない寝室の扉に手を掛ける。開けると声は鮮明になり、肉のぶつかり合う激しい音が耳に飛び込んでいた。天井から垂らされた薄いレースの天蓋に艶かしく動く身体が透けている。息を飲んだ瞬間、激しかった動きが止まった。ゆらりと立ち上がり隠していたものが顕になろうとしている。
――お願いだから出てこないで。嘘だと言って。
だるそうに天蓋から出てきたのはリアム本人だった。その後を追うように何も身体に巻き付けていないリリアンヌが逞しい身体に絡みつくように出てくる。リアムは驚き天蓋を避けたまま固まっていた。
「リアム様……」
「ブリジット、これは」
「あら聖女様。王太子の私室に忍び込むなんて悪いお人ですね」
「ブリジット、ちゃんと話をしよう」
気まずさの滲む表情の中に、半年前の優しい愛していたリアムの面影を見た気がした。
――いっそ別人にでもなったように冷たくされたのなら諦めもついたのに。私に見られてそんな顔をするなんて。
「婚約破棄はいつ発表でしょうか? それと同時に私達は一切の関わりがなくなるという事で宜しいですよね?」
身体は震えている気がする。それでも声は自分のものではないかのようにはっきりとしていた。
「……お前は婚約破棄を望んでいるのか?」
その時リリアンヌがリアムを抱き締めた。しかしその手を半ば無意識に払われたリリアンヌは、驚いた表情で固まっていた。
「まさか、まさか聖女様を側室にでもなさるおつもりではないですよね?」
「聖女は平和の象徴だ。その聖女が城に居れば国民も安心するはず」
「嫌です! ようやく浄化が終わったのに私を城に閉じ込めるおつもりですか?」
「不満か? 城で暮らせるんだぞ、庶民のお前が!」
「私は神殿に戻ります。あそこが私の帰る場所です」
その時、リアムの目がすっと細められ光を失った気がした。仄暗い沼に落ちていくようで思わず身を引いた。
「ハイスの元に行く気だな? 浄化が終わり晴れてハイスに抱かれに行くという訳か」
「リアム様、仰っている意味が分かりません。私は誓ってハイス様とはそのような関係ではございません!」
「そのようなとは?」
「……殿下と、リリアンヌ様のような関係です」
「聖女の役目が終わった今お前はもうただの女だ。誰かの物になれる。ハイスの物でも、庶民の男の物でも……私の物にも」
今目の前で話しているのは本当にあのリアムなのだろうか。疲れたような表情に声。まるで別人になってしまったようだった。驚いたまま固まっているリリアンヌにちらりと視線を移し、そして伏せた。
「私はリアム様をお慕いしておりました。でももうリアム様の物にはなりません。他の誰の物になろうとそれだけはありえません。力づくでと仰るならウンディーネ様に祈りを捧げます。きっとお力をお貸し下さるでしょう」
もちろん嘘に決まっている。精霊はそんな個人的な事に力を貸す事はない。それでも精霊の力のなんたるかを知らないリアムにとっては十分過ぎる脅しだろう。もう他の誰かを愛したリアムの元に戻る気はなかった。
言葉にした瞬間涙が溢れてくる。泣きたくなどない。この二人に涙だけは見せたくなかった。もう二度と会わないと決めた途端、リアムへの恋心が一気に溢れ出していた。
「……私はリアム様のご意思に従いますわ」
「リリアンヌ! そうか、ブリジットを側に置く事に賛成なんだな?」
リリアンヌは先程とは打って変わって穏やかな笑みを浮かべてシーツを掴んだ。そして自分の薄い腹を抱え込むと、今までにない程に美しく微笑んだ。
「きっと数ヶ月後には私のこのお腹も大きくなっているでしょうし、リアム様にも寂しい思いをさせてしまうかもしれません。聖女様がいて下されば心強いですわ」
「どういう意味だ?」
「リアム様ったら。楽しみにしていて下さいませ。私、月のものがきていないのです。でも考えてみたらそれも当然ですよね。あれだけリアム様の大事な子種を沢山頂いたんですもの。フフッ、本当に楽しみだわ」
青褪めていくリアムをよそに、リリアンヌは愛らしく恥じらいを浮かべて微笑んでた。
「私はこれで失礼致します。もう二度と会う事もないでしょうがお元気でお過ごし下さい」
これが精一杯だった。晴れ晴れした気持ちですらある。リアムは傷ついている。理由は分からない。それでもその事実が今は心の崩壊を繋ぎ止めていた。リアムが傷ついている事に安堵するなんて、なんて醜いのだろう。
――これじゃあ聖女失格ね。
「待てブリジット。勝手に城を出る事は許さない。誰かいないか!」
「リアム様?」
驚いているのはリリアンヌも同じようだった。廊下からこちらに兵士流れ込む音がする。リリアンヌは悲鳴を上げてシーツを身体に巻いた。訳が分からないまま、周りを兵士に取り囲まれる。そしてリアムが口にしたのは考えうる中で、一番最悪な事だった。
「ブリジットを塔へ幽閉しろ。私以外が入る事を禁ずる!」
「止めて下さいリアム様! お願いですから止めて! 二度とここへは来ませんから!」
しかしリアムの目は冷え切っていた。泣き叫ぶブリジットを見ようともせず、今まで夢中で抱き、己の子を身籠っているかもしれないリリアンヌの身体を押し退けた。
「婚約解消は近日中に国中へ発表する。だがブリジットは城に置く。誰にも文句は言わせない」
そう言うと、ガウンを肩から掛けて部屋を出て行った。
ネリ―は共に眠れるのが余程嬉しいのか、寝台の中に入ってきて暫く騒いでいたかと思うとすでに寝息を立てている。不安で堪らない夜はこうしてネリ―がそばにいてくれる事が心強い。毛布から出ている手を起こさないようにそっとしまうと目を瞑った。
頭の中では晩餐会での出来事が渦巻いていた。恐らくリアムはハイスとの仲を疑っていた。そして誰かに聖女の力は清い身でなくとも使えると聞いたらしい。しかしハイスは何故か身体の関係はないとは言ったものの想い合っているという誤解を解こうとはしなかった。むしろそれを肯定していたようにも思う。何よりリアムの焦っていた様子が頭から離れない。思い返せば返す程このままではいけないような気がして起き上がった。
――リアム様が誤解しているままなら、その誤解を解かなくちゃ。
もう遅いかもしれない。リアムはもうリリアンヌを想っている。今更誤解を解いた所で一体何が変わるというのだろう。でもあの時リアムは傷ついたような顔をしていた。ハイスとの関係を誤解してリリアンヌを愛していると思い込んでいるのだとしたら、まだやり直せるかもしれない。もし手遅れだったとしても二度と会えなくなった後に後悔だけは残したくない。決めれば行動は早かった。ネリ―を起こさないようにゆっくりと寝台を降りると、ネリ―の腕が毛布から出てきた。その手をゆっくりと毛布に戻しか掛けて撫でた。
「相変わらず冷え性なんだから、暖かくしなくちゃ駄目よ」
寝間着から着替えて内側から掛けている鍵を開けた。
「……んん、ブリジット」
びくりとして手を止めたが、寝言らしい。その寝息を聞きながらブリジットは静かに部屋を出た。
「あぁ、行っちゃったかぁ」
頬杖を付きながら半身を起こしたネリ―はしばらく考えた後すぐに突っ伏した。
「でもまあこの方が好都合かもね。もう少し寝よっと。せいぜい頑張ってブリジット。まあ抗えないと思うけどぉ」
ネリ―は再び寝息を立て始めた。
神殿から城までは馬車を出してもらった。もしかしたらハイスが止めているかもしれないと思ったが、あっさりと馬車を出してもらう事に成功した。きっと部屋を出るなどと思いもしていなかったのかもしれない。城の門も聖女の自分ならばすぐに通してくれる。もちろん晩餐会での事は国王自らが箝口令を敷き、公には婚約破棄もまだされていないのだから門兵が知る訳もなく、リアムに会いに来たと告げるだけですぐに中に通された。
夜の城内は昼間よりもずっと静かだった。それでも人がいない訳でも神殿のように真っ暗な訳でもない。明かりは付いているし使用人達はまだ働いている。堂々を歩いていると頭を下げられる。誰も咎める者はいなく、すぐにリアムの部屋に到着してしまっていた。
勢いで来てしまったが、閉ざされた扉はとてつもなく重厚な扉のように感じた。豪華ではあるが手を添えれば開く。それでも開かなければいいと思う。半年前までは何度か訪れた事のあるリアムの私室。もちろん寝室までは入った事がない。手前の部屋でお茶を飲んだり、バルコニーから庭を見たりしただけ。口づけはした。触れるだけの口づけ。胸が握られたように痛み、目の奥がツンと傷んだ。
――ここまで来たのだから後悔しては駄目よ。
リアムが婚約破棄を発表したらもう会えなくなってしまう。聖女でなかったら出会う事のなかった人。星よりも遠い、手の届かない人。夢が覚めただけ。それでも最後にどうしても聞きたかった。
心変わりの訳を。
取り返しのきかない事だとしても知りたかった。意を決して扉を叩く。返事はない。もう一度扉を叩く。やはり返事はなかった。諦めて帰る前に扉に手をかけると扉はゆっくりと滑らかに開いた。隙間から覗く部屋の中は暗い。もしかしたらまだ戻っていないのかと扉を閉めかけた時、中から物音がした。
「リアム様?」
返事はない。王太子の私室なのだ。もしかしたら刺客や物取りが潜んでいるかもしれない。心配になり、恐る恐る足を踏み入れた。物音と声が混じっている。動悸が激しく鳴り出す。薄闇を進み、音のする方に足は引き寄せられていた。見てはいけないと頭の中で警鐘が鳴っている。それでも足は止まらなかった。一度も踏み入れた事のない寝室の扉に手を掛ける。開けると声は鮮明になり、肉のぶつかり合う激しい音が耳に飛び込んでいた。天井から垂らされた薄いレースの天蓋に艶かしく動く身体が透けている。息を飲んだ瞬間、激しかった動きが止まった。ゆらりと立ち上がり隠していたものが顕になろうとしている。
――お願いだから出てこないで。嘘だと言って。
だるそうに天蓋から出てきたのはリアム本人だった。その後を追うように何も身体に巻き付けていないリリアンヌが逞しい身体に絡みつくように出てくる。リアムは驚き天蓋を避けたまま固まっていた。
「リアム様……」
「ブリジット、これは」
「あら聖女様。王太子の私室に忍び込むなんて悪いお人ですね」
「ブリジット、ちゃんと話をしよう」
気まずさの滲む表情の中に、半年前の優しい愛していたリアムの面影を見た気がした。
――いっそ別人にでもなったように冷たくされたのなら諦めもついたのに。私に見られてそんな顔をするなんて。
「婚約破棄はいつ発表でしょうか? それと同時に私達は一切の関わりがなくなるという事で宜しいですよね?」
身体は震えている気がする。それでも声は自分のものではないかのようにはっきりとしていた。
「……お前は婚約破棄を望んでいるのか?」
その時リリアンヌがリアムを抱き締めた。しかしその手を半ば無意識に払われたリリアンヌは、驚いた表情で固まっていた。
「まさか、まさか聖女様を側室にでもなさるおつもりではないですよね?」
「聖女は平和の象徴だ。その聖女が城に居れば国民も安心するはず」
「嫌です! ようやく浄化が終わったのに私を城に閉じ込めるおつもりですか?」
「不満か? 城で暮らせるんだぞ、庶民のお前が!」
「私は神殿に戻ります。あそこが私の帰る場所です」
その時、リアムの目がすっと細められ光を失った気がした。仄暗い沼に落ちていくようで思わず身を引いた。
「ハイスの元に行く気だな? 浄化が終わり晴れてハイスに抱かれに行くという訳か」
「リアム様、仰っている意味が分かりません。私は誓ってハイス様とはそのような関係ではございません!」
「そのようなとは?」
「……殿下と、リリアンヌ様のような関係です」
「聖女の役目が終わった今お前はもうただの女だ。誰かの物になれる。ハイスの物でも、庶民の男の物でも……私の物にも」
今目の前で話しているのは本当にあのリアムなのだろうか。疲れたような表情に声。まるで別人になってしまったようだった。驚いたまま固まっているリリアンヌにちらりと視線を移し、そして伏せた。
「私はリアム様をお慕いしておりました。でももうリアム様の物にはなりません。他の誰の物になろうとそれだけはありえません。力づくでと仰るならウンディーネ様に祈りを捧げます。きっとお力をお貸し下さるでしょう」
もちろん嘘に決まっている。精霊はそんな個人的な事に力を貸す事はない。それでも精霊の力のなんたるかを知らないリアムにとっては十分過ぎる脅しだろう。もう他の誰かを愛したリアムの元に戻る気はなかった。
言葉にした瞬間涙が溢れてくる。泣きたくなどない。この二人に涙だけは見せたくなかった。もう二度と会わないと決めた途端、リアムへの恋心が一気に溢れ出していた。
「……私はリアム様のご意思に従いますわ」
「リリアンヌ! そうか、ブリジットを側に置く事に賛成なんだな?」
リリアンヌは先程とは打って変わって穏やかな笑みを浮かべてシーツを掴んだ。そして自分の薄い腹を抱え込むと、今までにない程に美しく微笑んだ。
「きっと数ヶ月後には私のこのお腹も大きくなっているでしょうし、リアム様にも寂しい思いをさせてしまうかもしれません。聖女様がいて下されば心強いですわ」
「どういう意味だ?」
「リアム様ったら。楽しみにしていて下さいませ。私、月のものがきていないのです。でも考えてみたらそれも当然ですよね。あれだけリアム様の大事な子種を沢山頂いたんですもの。フフッ、本当に楽しみだわ」
青褪めていくリアムをよそに、リリアンヌは愛らしく恥じらいを浮かべて微笑んでた。
「私はこれで失礼致します。もう二度と会う事もないでしょうがお元気でお過ごし下さい」
これが精一杯だった。晴れ晴れした気持ちですらある。リアムは傷ついている。理由は分からない。それでもその事実が今は心の崩壊を繋ぎ止めていた。リアムが傷ついている事に安堵するなんて、なんて醜いのだろう。
――これじゃあ聖女失格ね。
「待てブリジット。勝手に城を出る事は許さない。誰かいないか!」
「リアム様?」
驚いているのはリリアンヌも同じようだった。廊下からこちらに兵士流れ込む音がする。リリアンヌは悲鳴を上げてシーツを身体に巻いた。訳が分からないまま、周りを兵士に取り囲まれる。そしてリアムが口にしたのは考えうる中で、一番最悪な事だった。
「ブリジットを塔へ幽閉しろ。私以外が入る事を禁ずる!」
「止めて下さいリアム様! お願いですから止めて! 二度とここへは来ませんから!」
しかしリアムの目は冷え切っていた。泣き叫ぶブリジットを見ようともせず、今まで夢中で抱き、己の子を身籠っているかもしれないリリアンヌの身体を押し退けた。
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