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2ー15 ヴィルヘルミナ帝国の皇女②

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 地下牢への階段を下りてくる足音に見張りの兵士は腰の剣に手を伸ばしたが、灯りの中に浮かんだ姿をみとめて腰から手を離した。イメルダは灯りを机の上に置くと広い地下に視線を向けた。

「こんな所にいかがなさいました?」
「先程捕らえられた騎士がいたでしょう? その者を解放してちょうだい」
「しかし、ルイーザ様のご命令だと伺っております」
「だから私が来たのです。至急その騎士を連れてくるようにとのルイーザ様のご命令です」

 兵士は僅かに迷った素振りを見せたが、第一皇女付きの侍女が言うならばと渋々騎士を収容していた牢の鍵を開けた。

「ルイーザ様がお呼びです。至急湯浴みをして付いてきなさい」
「今更なんの用だよ。もう俺はいらないんだろう?」
「ルイーザ様のお呼び出しは最後の慈悲です。拒否するのであればあなたはこのままなら処刑されるでしょうね」
「処刑だなんて大げさな! たかがあれだけの事で。怒りが収まったら出してくれるだろ。騎士団長も掛け合ってくれるはずだ!」

 イメルダはすっと目を細めて膝を着いた。

「あの血筋を甘く見ると痛い目に遭うわよ。自分自身だけではなく、家族までもね」

 騎士は頬を硬くするとよろよろと立ち上がった。牢を出ていく時、兵士と目が合う。兵士はとっさに目を逸らして鍵を壁に掛けた。

 部屋の中からは激しい嬌声が聞こえていた。イメルダは廊下まで漏れるその声を耳にしながら、誰も通り抜け出来ない様にもう何時間も廊下に立っていた。勇み足で近付いてくる第三兵団長のノイマンはイメルダの事を無視して通り過ぎようとして、激しく服を掴まれた。

「ルイーザ様は今お休みになられておりますので、目覚められましたら後ほどお呼び致します」

 しかしノイマンは鼻で笑うと歩き続け、侮蔑の表情を隠す事なく扉を見た。

「休んでいると? この声は寝言なのか?」
「今は誰も通すはと仰せでございます」
「私は夫だぞ!」

 イメルダはその腕を引いたがノイマンは構わずに扉を激しく叩いた。絶え間なく叩きつける音にやがて声は止まり、やがて扉が開いた。そこにはガウンを肩に掛けただけのルイーザが立っていた。ノイマンは、頬を上気させ、乱れた髪のルイーザを見て目を見開いた。

「勝手に騎士を捕らえたかと思えば勝手に解放し、挙句の果てに堂々と不貞行為をするとは! それでも妻か?」
「あなたに私が責められて? あの令嬢と何をしていたのか知らないとでも?」
「お前は俺の事などなんとも想っていないのだから別に構わないだろう!」
「それなら私も同じ言葉を返すわ」

 その時、後ろからルイーザの体を抱きすくめてきた騎士と目が合った。

「お前、その女が誰か分かっているんだろうな」

 金色の髪を乱してルイーザの首筋に顔を埋めていた騎士は僅かに顔を上げた。

「ノイマン団長の奥様ですが別にいいですよね? 団長はこんなに素晴らしい体を抱かれなのでしょう?」

 腹に回していた手を胸にずらしていくとガウンをはだけさせて露わになった乳房を揉み出した。

「今から皇帝陛下に申し上げに行く。いくらなんでも酷すぎる!」
「構わないけれど、あなたの言葉に耳を傾けるかしら。第三皇太子の捜索を直接拝命したというのに、いまだ見つけられないあなたは、姿を見せればあっという間に斬り殺されてしまうかもしれないわね。それほどにお怒りになっていらっしゃったわ。私でも止められないくらいに」

 ノイマンはすっと表情を固くした。

「第三皇太子はもうお亡くなりになられているかもしれない。これ以上は探しても無意味だ」
「ならばそう陛下に申し上げなさい。ご納得されるとは思えないけれど」
「存命の可能性は低いと同時に、アメジスト王国への進軍をご提案申し上げる」
「そのアメジスト王国にいることを危惧されておられるのよ。あの国は魔力の扱いに特化している。そんな国に、もしヘルムートが捕らえられているとすれば、その力を使われればこちらが不利になるかもしれない。もしくはヘルムートの魔力が暴走するかも。ヴィルヘルミナ帝国があんな小国に負けるなどあってはならないのよ。あなたごときにその責任が取れて?」

 後ろから乳房を掴んでいた騎士は待ちきれないとばかりに耳朶に舌を這わせ始めた。ルイーザの声が甘くなり出す。ノイマンは唇を噛み締めると扉を押し開いた。勢いで騎士の体にぶつかったルイーザのガウンが左右に開く。髪と同じ色の柔毛が目に入った。

「……このまま第三皇太子を見つけられなければ、私は陛下に殺さると言う訳だな」
「あなただけでなく、役立たずの指揮官は一掃されるでしょうね。私は別に構わないわよ」
「どうしたらいい。お前は私の妻だろう?」

 ルイーザはガウンを引き寄せると机まで行き、グラスに酒を注ぎ始めた。一糸纏わす姿の騎士はその背を追いかけて行くと、膝を着いてガウンの中に潜り込んだ。グラスを持ちながら喘ぎ始めるルイーザが注いだ酒をノイマンは奪って飲み干すと、恍惚とする表情の唇を貪った。上と下から水音が立てられる。騎士は苛立ったように舌を強めた。がくがくと動く腰を抑えると更に舌を押し込む。ノイマンは触れられて初めて自分のものがそそり勃っていると気がついた。初夜は済ませなかった為、初めて見る妻の姿に早急に下肢の服を寛がせると、机の上の物を取り払って押し倒した。顔を離された騎士は不満そうに眉を歪めたがまたすぐに追い縋っていく。しかしノイマンは騎士の体を蹴り、ルイーザの両足を抱え込んだ。無遠慮にそそり勃った物を押し込む。すでに溶けきった下肢は抵抗することなく、騎士のものよりも大きなそれを飲み込んでいく。ルイーザはノイマンの事は見ずに騎士に手を伸ばすと、口元に差し出された硬いものに舌を這わせた。

「お前はなんて女、なんだ。こんな女が、皇女とはッ」
「皇女だからよ。好き勝手に出来る権力があるんだもの。でもこんな、ものじゃない、わ!」

 ルイーザはようやくノイマンに視線を向けると、頬に手を伸ばした。

「あなたも私の物になるのなら、もっと権力を握らせてあげる。もしかしたらあのご令嬢を取り戻す事も出来るかも知れないわよ。老いぼれの使い古しでもよければ……」

 その瞬間、激しく突かれたルイーザは一際大きな声を上げた。

「他の男の手に渡った者の事はもうどうでもいい! どうすれば、俺は、殺されずに、済むんだ! 答えろ!」
「ヘルムートは見つけられないのね?」
「もう探し尽くした。国内にいないとすれば、あとは、あの国、だけッ」

 息も切れ切れに言うと、密着した体を揺するように動き出す。ルイーザは半身を起こすとそのまま足でノイマンの腰を抱え込んだ。

「それならアルベルトを皇帝にしてしまえばいいのよ」
「しかし皇帝陛下は、まだ、ご存命だぞ。それに、元老院の承認が」
「アルベルトが帝位を継ぐしかなくなるよう、仕向ければいいじゃないッ」

 ルイーザは耳を引き寄せると、舌を突き入れた。

「皇帝の座が不在では元老院も、困るでしょう? それにアルベルトならあなたを殺したりしないわ。だって私の言う事しか聞かないもの」

 ノイマンの表情が快楽に歪み始める。がくがくと体を震わせてちらりと床に落ち割れた酒の瓶を見た。

「あの酒はもしや」
「軽い媚薬よ。お楽しみには必要でしょう?」
「軽いだと?」

 ノイマンは更に耳を犯されたまま激しく腰を打ち付けて果てた。激しく痙攣するその背を細い指が撫でていく。

「凄く、良いでしょう? このお酒をずっと皇帝陛下に献上しているの。ヘルムートへの恐怖が勝って女どころではないようだけれど、ずっとこの媚薬の熱が残っていたらどうかしら」
「気が触れるだろうな」
「もうそろそろ剣を振る力などないと思うわ。それに皇帝陛下は自室に籠もられてからというもの、いつも剥き身の剣をそばに置いているのよ。魔石で守護された部屋にいるから厄介だけれど、ちょうど私に良い考えがあるの」
「ルイーザ様、俺も苦しいです」

 ずっと横からルイーザの身体を擦っていた騎士はびくびくと跳ねるものをルイーザの乳房に押し当てた。ノイマンとルイーザは視線を合わせると、口元に笑みを浮かべた。

「お前には悪い事をしたな。今度はお前の番だ」

 ノイマンはルイーザの後ろに周り、騎士に見えるように秘部を指で開いた。赤く充血したそこからはノイマンの吐き出したものがとろりと出てくる。騎士は興奮しきったようにルイーザの秘部にそそり勃った物を捩じ込んだ。その瞬間、腰がびくびくと跳ねる。我慢していたものは入れただけで達してしまったようだった。

「お前を愛す事は出来ないが、ここまでくれば十分に利用してやる」
「もとより貴族の結婚など利益の為よ」

 ノイマンは小さく笑うと赤く尖った乳房の先端に吸い付いた。



「陛下! 陛下! 誰かーー!」

 侍女は半狂乱になりながら湯殿の中でぐったりする皇帝陛下を沈まないように掴んでいた。騎士達が駆け込み、一瞬足を止める。そしてすぐに侍女を引き離すと湯の中から皇帝陛下の身体を引き揚げた。心臓に短剣が突き刺さっている。その短剣は紛れもなく王家の紋章が刻まれた皇帝陛下の物だった。湯から引き揚げた身体はまだ熱いが顔は血の気が引いて青褪めている。すでに事切れているその姿に呆然としたまま濡れた床に膝を突いた。

「一体何事だ!」
「ノイマン団長……陛下が、皇帝陛下が、ご崩御なさいました」

 ノイマンは皇帝の胸に突き刺さっている短剣に触れかけて手を止めた。

「陛下の短剣か。ここにいた者は誰だ?」

 返事はない。ノイマンは声を荒げた。

「ここにいたのは誰かと聞いているんだ!」
「私です。少しの間、ごゆっくりご入浴して頂こうと、居間に戻っておりました。片付けも、ありましたので。戻ったら、戻ったらこのような……」
「短剣は? どこにあったんだ?」
「短剣はいつも、狭い部屋に移動する時は肌身離さずお持ちになっております。長剣はソファにございます」
「その者を連れて行け」
「私は違います! 何かの間違いです! ありえません!」

 侍女は半狂乱になりながら騎士達に引きづられていく。他の使用人達は震えながら身体を避けて道を開けた。

「私じゃないわ! ねえ、誰か言ってよ、私は一緒に血に染まった絨毯を替えていたでしょう!」

 しかし皆顔を背け、誰も目を合わせようとはしなかった。騎士達が戻ってきて皇帝陛下の身体に布で包むと部屋を出ていく。ノイマンは湯殿に残った騎士に声を掛けた。

「あの侍女はお前の女か?」
「女じゃありませんよ。あぁご心配なく。何も話してはおりませんよ。ただ殺された侍女の遺体を運び出すには、陛下を刺激しないようにご入浴される時がいいと伝えただけです。もし目にされてお気に触れば別の犠牲者が出るかもしれないからと」
「皆が遺体の運び出しや、絨毯を替えている時に忍び込んだと言う訳か。それなりに頭も回ると言う訳だな。女を誑かすだけの奴だと思っていたぞ」

 騎士は興味なさそうに背を向けると歩き出した。

「どこに行く?」
「ルイーザ様にご報告して参ります。兵団長はこれから騎士団本部とお話さなくてはいけないですよね?」

 ノイマンは鼻を鳴らすと赤く染まった湯を一瞥して部屋を後にした。



 塔の下で待っていた騎士は、降りてきたルイーザを見つけると走り出した。

「こんな所までなんの用かしら?」

 鍵を見張りに渡すと騎士の姿を視界の端に捉えながら歩き始めた。

「皇帝陛下がご崩御なさいました」

 足が自然に止まる。表情を変えずに騎士を見たルイーザはしばらく考えた後、再び歩き出した。

「ルイーザ様?」

 騎士は様子を伺うように後を追う。

「言われた通りに致しました。入浴の手伝いをしていた侍女が連行されています。私が滑り込んだ所も誰にも見られておりません」
「名前は?」

 騎士は意味が分からずに足を止めた。するとルイーザは振り返って真っ直ぐに騎士を見た。
「お前の名前よ」
「俺は、アレンと申します。平民の出です」
「平民か貴族かなど関係ないわ。私はね、使える者にはちゃんと褒美を与える人間よ」
「褒美……」
「アレン、来なさい。お前を私の専属騎士にしてあげる」

 名を呼ばれたアレンは、頬を紅潮させるとルイーザの後ろに付き従った。

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