4 / 19
3章 初めての夜
しおりを挟む
――ガチャ。
イレネは扉の開いた音にびくりと体を震わせた。開いたのはタイストの寝室と繋がっている扉ではなく、イレネが入って来た扉だった。
用意された夜着は薄かったが、扇情的というよりは清楚なデザインで体を覆う部分は多いように思う。だからこの震えばむしろ武者震いのようなものなのかもしれない。近付いてくる足音に耳を済ませていると、天蓋の幕が動く衣擦れの音がした。
「待たせましたか?」
ベッドが軋む音を立てて僅かに後ろが沈む。イレネは向き直ると、唖然としてしまった。
「その格好で待つのは冷えたのではありませんか?」
そっと手が伸びてきた瞬間、イレネは側にあった毛布を引き上げた。
「イレネ? どうしました?」
どうしたもこうしたも何故かタイストはきっちりと服を来ており、シャツの釦は一番上まで閉められ、タイも締められていた。
「も、申し訳ありません! このような格好でお待ちするなんて、なんとお詫びしたらいいか……今すぐに着替えて参ります!」
「イレネ、落ち着いて下さい」
立ち上がろうとするもベッドの柔らかさと夜着と毛布に阻まれ、前に倒れるような形になってしまった。とっさに抱き留めてくれたタイストの腕の中にすっぽりと収まってしまう。訳が分からないままイレネは頭が真っ白になってしまっていた。
「少しこのまま話をしませんか?」
背中に回っていた腕に少しだけ力が込められる。宥めるように背中を何度か撫でられていると、段々と真っ白だった頭でも考えられるようになり始めていた。
「そんなに慌てているのは、もしかしたら私がこんな格好をしているからですか?」
タイストの肩口で頷くと、小さな溜め息が溢れてきた。
「それは申し訳ない事をしました。実は私も湯浴みは済んでいるんです。でももしあなたが今夜を望まないのであれば、今日はそのまま夜の挨拶をして部屋を出るつもりでした」
「ですが、今夜は初夜です。何もしないなんてそんな事、私からは……」
「そうでしたね。でも私はあなたの意思を尊重するつもりでした。だから怖がらせない為にわざわざ着替えたのですが、むしろあなたを混乱させてしまったようですね。本当にすみませんでした」
イレネはタイストの腕の中で少しだけ身動いで体制を変えると、首の方を向いてそっと肩に頭を付けた。
「私は旦那様の妻になったんです。今夜が初夜だという事も、しなければならない事もちゃんと分かっています。ですからお気遣いは無用です」
そう言ってそっと肩辺りの服を握り締めた。それがイレネに出来る最大の誘いだった。
「分かりました。出来るだけ優しくしますので私に身を任せて頂けますか?」
頷くととタイストは抱き締めていた手を緩め、そっと体を離した。すぐ目の前に誰もが憧れる男性がいる。そう思うと自然と涙が滲んでしまった。
「やはり怖いですか?」
フルフルと首を振れば宥めるように頬を撫でられた。戦場の最前線に立つ者とは思えない程に優しい表情と仕草に胸が苦しくなる。背も高く体も鍛えており、指もゴツゴツしているというのに不思議と怖いと感じないのは、タイストが立ち振舞に気を付けているからなのかもしれない。薄明かりの中、暫く見つめ合うと自然と口元が近付いてくる。イレネは領地の最古参の侍女頭から嫁入りにあたり最低限の閨教育を受けていた。
(口づけの時、目は瞑るのよね)
激しく鳴り出す心臓の音を感じながら、ギュッと目を閉じる。柔らかい唇が優しく触れた瞬間、イレネはなんとも言えない温かい気持ちに包まれていた。
(口づけってなんて優しいの)
その瞬間、唇を割って入るように生暖かい物が侵入してくる。驚きのあまり目を開くと、息も出来ないまま生き物のように動くそれがタイストの舌なのだと理解した。
「ん、ッふ!」
次第に後ろに押されていく体をなんとか元の場所に繋ぎ止めようと夢中でタイストにしがみつく。すると何故か口づけは深まってしまった。あまりの苦しさに服を思い切り引っ張るとようやく唇が離された。
「優しくするとは言いましたが、最初はどうしても辛いと思います。その時は遠慮なく私を叩くなり噛むなりして下さい」
言われた言葉に返事をする間もないまま再び唇を塞いでくる。その後はもうタイストにされるがまま、必死に、あっという間に時は流れていった。
イレネは扉の開いた音にびくりと体を震わせた。開いたのはタイストの寝室と繋がっている扉ではなく、イレネが入って来た扉だった。
用意された夜着は薄かったが、扇情的というよりは清楚なデザインで体を覆う部分は多いように思う。だからこの震えばむしろ武者震いのようなものなのかもしれない。近付いてくる足音に耳を済ませていると、天蓋の幕が動く衣擦れの音がした。
「待たせましたか?」
ベッドが軋む音を立てて僅かに後ろが沈む。イレネは向き直ると、唖然としてしまった。
「その格好で待つのは冷えたのではありませんか?」
そっと手が伸びてきた瞬間、イレネは側にあった毛布を引き上げた。
「イレネ? どうしました?」
どうしたもこうしたも何故かタイストはきっちりと服を来ており、シャツの釦は一番上まで閉められ、タイも締められていた。
「も、申し訳ありません! このような格好でお待ちするなんて、なんとお詫びしたらいいか……今すぐに着替えて参ります!」
「イレネ、落ち着いて下さい」
立ち上がろうとするもベッドの柔らかさと夜着と毛布に阻まれ、前に倒れるような形になってしまった。とっさに抱き留めてくれたタイストの腕の中にすっぽりと収まってしまう。訳が分からないままイレネは頭が真っ白になってしまっていた。
「少しこのまま話をしませんか?」
背中に回っていた腕に少しだけ力が込められる。宥めるように背中を何度か撫でられていると、段々と真っ白だった頭でも考えられるようになり始めていた。
「そんなに慌てているのは、もしかしたら私がこんな格好をしているからですか?」
タイストの肩口で頷くと、小さな溜め息が溢れてきた。
「それは申し訳ない事をしました。実は私も湯浴みは済んでいるんです。でももしあなたが今夜を望まないのであれば、今日はそのまま夜の挨拶をして部屋を出るつもりでした」
「ですが、今夜は初夜です。何もしないなんてそんな事、私からは……」
「そうでしたね。でも私はあなたの意思を尊重するつもりでした。だから怖がらせない為にわざわざ着替えたのですが、むしろあなたを混乱させてしまったようですね。本当にすみませんでした」
イレネはタイストの腕の中で少しだけ身動いで体制を変えると、首の方を向いてそっと肩に頭を付けた。
「私は旦那様の妻になったんです。今夜が初夜だという事も、しなければならない事もちゃんと分かっています。ですからお気遣いは無用です」
そう言ってそっと肩辺りの服を握り締めた。それがイレネに出来る最大の誘いだった。
「分かりました。出来るだけ優しくしますので私に身を任せて頂けますか?」
頷くととタイストは抱き締めていた手を緩め、そっと体を離した。すぐ目の前に誰もが憧れる男性がいる。そう思うと自然と涙が滲んでしまった。
「やはり怖いですか?」
フルフルと首を振れば宥めるように頬を撫でられた。戦場の最前線に立つ者とは思えない程に優しい表情と仕草に胸が苦しくなる。背も高く体も鍛えており、指もゴツゴツしているというのに不思議と怖いと感じないのは、タイストが立ち振舞に気を付けているからなのかもしれない。薄明かりの中、暫く見つめ合うと自然と口元が近付いてくる。イレネは領地の最古参の侍女頭から嫁入りにあたり最低限の閨教育を受けていた。
(口づけの時、目は瞑るのよね)
激しく鳴り出す心臓の音を感じながら、ギュッと目を閉じる。柔らかい唇が優しく触れた瞬間、イレネはなんとも言えない温かい気持ちに包まれていた。
(口づけってなんて優しいの)
その瞬間、唇を割って入るように生暖かい物が侵入してくる。驚きのあまり目を開くと、息も出来ないまま生き物のように動くそれがタイストの舌なのだと理解した。
「ん、ッふ!」
次第に後ろに押されていく体をなんとか元の場所に繋ぎ止めようと夢中でタイストにしがみつく。すると何故か口づけは深まってしまった。あまりの苦しさに服を思い切り引っ張るとようやく唇が離された。
「優しくするとは言いましたが、最初はどうしても辛いと思います。その時は遠慮なく私を叩くなり噛むなりして下さい」
言われた言葉に返事をする間もないまま再び唇を塞いでくる。その後はもうタイストにされるがまま、必死に、あっという間に時は流れていった。
110
あなたにおすすめの小説
これは王命です〜最期の願いなのです……抱いてください〜
涙乃(るの)
恋愛
これは王命です……抱いてください
「アベル様……これは王命です。触れるのも嫌かもしれませんが、最後の願いなのです……私を、抱いてください」
呪いの力を宿した瞳を持って生まれたサラは、王家管轄の施設で閉じ込められるように暮らしていた。
その瞳を見たものは、命を落とす。サラの乳母も母も、命を落としていた。
希望のもてない人生を送っていたサラに、唯一普通に接してくれる騎士アベル。
アベルに恋したサラは、死ぬ前の最期の願いとして、アベルと一夜を共にしたいと陛下に願いでる。
自分勝手な願いに罪悪感を抱くサラ。
そんなサラのことを複雑な心境で見つめるアベル。
アベルはサラの願いを聞き届けるが、サラには死刑宣告が……
切ない→ハッピーエンドです
※大人版はムーンライトノベルズ様にも投稿しています
後日談追加しました
冷徹公に嫁いだ可哀想なお姫様
さくたろう
恋愛
役立たずだと家族から虐げられている半身不随の姫アンジェリカ。味方になってくれるのは従兄弟のノースだけだった。
ある日、姉のジュリエッタの代わりに大陸の覇者、冷徹公の異名を持つ王マイロ・カースに嫁ぐことになる。
恐ろしくて震えるアンジェリカだが、マイロは想像よりもはるかに優しい人だった。アンジェリカはマイロに心を開いていき、マイロもまた、心が美しいアンジェリカに癒されていく。
※小説家になろう様にも掲載しています
いつか設定を少し変えて、長編にしたいなぁと思っているお話ですが、ひとまず短編のまま投稿しました。
果たされなかった約束
家紋武範
恋愛
子爵家の次男と伯爵の妾の娘の恋。貴族の血筋と言えども不遇な二人は将来を誓い合う。
しかし、ヒロインの妹は伯爵の正妻の子であり、伯爵のご令嗣さま。その妹は優しき主人公に密かに心奪われており、結婚したいと思っていた。
このままでは結婚させられてしまうと主人公はヒロインに他領に逃げようと言うのだが、ヒロインは妹を裏切れないから妹と結婚して欲しいと身を引く。
怒った主人公は、この姉妹に復讐を誓うのであった。
※サディスティックな内容が含まれます。苦手なかたはご注意ください。
彼は政略結婚を受け入れた
黒猫子猫
恋愛
群島国家ザッフィーロは臣下の反逆により王を失い、建国以来の危機に陥った。そんな中、将軍ジャックスが逆臣を討ち、王都の奪還がなる。彼の傍にはアネットという少女がいた。孤立無援の彼らを救うべく、単身参戦したのだ。彼女は雑用を覚え、武器をとり、その身が傷つくのも厭わず、献身的に彼らを支えた。全てを見届けた彼女は、去る時がやってきたと覚悟した。救国の将となった彼には、生き残った王族との政略結婚の話が進められようとしていたからだ。
彼もまた結婚に前向きだった。邪魔だけはするまい。彼とは生きる世界が違うのだ。
そう思ったアネットは「私、故郷に帰るね!」と空元気で告げた。
よき戦友だと言ってくれた彼との関係が、大きく変わるとも知らずに。
※関連作がありますが、これのみで読めます。
※全13話です。
リアンの白い雪
ちくわぶ(まるどらむぎ)
恋愛
その日の朝、リアンは婚約者のフィンリーと言い合いをした。
いつもの日常の、些細な出来事。
仲直りしていつもの二人に戻れるはずだった。
だがその後、二人の関係は一変してしまう。
辺境の地の砦に立ち魔物の棲む森を見張り、魔物から人を守る兵士リアン。
記憶を失くし一人でいたところをリアンに助けられたフィンリー。
二人の未来は?
※全15話
※本作は私の頭のストレッチ第二弾のため感想欄は開けておりません。
(全話投稿完了後、開ける予定です)
※1/29 完結しました。
感想欄を開けさせていただきます。
様々なご意見、真摯に受け止めさせていただきたいと思います。
ただ、皆様に楽しんでいただける場であって欲しいと思いますので、
いただいた感想をを非承認とさせていただく場合がございます。
申し訳ありませんが、どうかご了承くださいませ。
もちろん、私は全て読ませていただきます。
※この作品は小説家になろうさんでも公開しています。
【完結】伯爵令嬢の25通の手紙 ~この手紙たちが、わたしを支えてくれますように~
朝日みらい
恋愛
煌びやかな晩餐会。クラリッサは上品に振る舞おうと努めるが、周囲の貴族は彼女の地味な外見を笑う。
婚約者ルネがワインを掲げて笑う。「俺は華のある令嬢が好きなんだ。すまないが、君では退屈だ。」
静寂と嘲笑の中、クラリッサは微笑みを崩さずに頭を下げる。
夜、涙をこらえて母宛てに手紙を書く。
「恥をかいたけれど、泣かないことを誇りに思いたいです。」
彼女の最初の手紙が、物語の始まりになるように――。
冷たかった夫が別人のように豹変した
京佳
恋愛
常に無表情で表情を崩さない事で有名な公爵子息ジョゼフと政略結婚で結ばれた妻ケイティ。義務的に初夜を終わらせたジョゼフはその後ケイティに触れる事は無くなった。自分に無関心なジョゼフとの結婚生活に寂しさと不満を感じながらも簡単に離縁出来ないしがらみにケイティは全てを諦めていた。そんなある時、公爵家の裏庭に弱った雄猫が迷い込みケイティはその猫を保護して飼うことにした。
ざまぁ。ゆるゆる設定
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる