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いざ目的地へ

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 夏服と冬服を三日分、ノートパソコンなどの電子機器、お気に入りのアニメグッズと漫画、沢山の物をキャリーバッグに入れていく。

 置いていったら捨てられるかな?

 当然、全ての物を持っていける訳ではない。ある程度の取捨選択が必要なのだが、名残り惜しさから決めかねてしまう。

 いつかまた戻ってきた時のために置き手紙を残しておこう。

『部屋にある物を捨てないでください』という言葉を大きく書き出し、部屋の入口に目立つように置いた。

 俺を追い出すことが目的なのであって、部屋を空けるのが目的ではないはずだし、これできっと大丈夫だろう。
 
 最低限身だしなみを整え、寝泊まり出来る場所を求めて家を飛び出す。

 当分の間、帰って来ないからな。連絡もしてやらないからな。

 捨て台詞を心の中で唱え、駅へ向かって歩き出した。

 ◇

 歩き始めて数分、どこへ行くかを考える。

 求めているのは、安い料金で寝泊まりができ、ネットワーク環境の揃っている場所。

 ネカフェにでも行ってみるか。

 この世の楽園ことインターネットカフェ。噂には聞いていたが、実際に行ったことはない。

 どんなところなんだろう。楽しみだな。

 新天地に脚を踏み入れると思うと期待に胸が弾む。
 ゲームだけでは得られない感情が湧き上がってきた。

 駅に着き、改札を通る。
 路線図を確認し、どの駅にならネカフェがあるのかを考えた。

 近くの駅にはなかったような。
 スマホが使えないのって本当に不便だな。

 自分が重度のネット依存症に陥っている事を改めて自覚する。
 
 まあ、でかい駅に行けば見つかるだろう。

 そう結論づけ、目指すことにしたのは池袋駅。

 最寄り駅から二十分ほどで着く上に、国内最大のアニメショップがあったり、乙女ロードがあったりと、ヲタク街としても知られている場所。

 それじゃあ、行きますか。

 到着した電車に乗り込み、目的の駅に着くのを待った。

 ◇
 
 池袋駅に到着し、辺りを見回す。

 久しぶりに来た。相変わらず人が多いな。

 駅の構外に出ると、大きなビルが連なっていて、建物や看板がカラフルにライトアップされていた。

 夜に来るのは初めてなので、昼とは違った雰囲気に感心する。

 意外と綺麗だし、悪くないな。

 街の散策とネカフェ探しをするため、明るく賑やかな場所をしばらく歩き続けた。

 キャリーバッグを引きながらキョロキョロしている自分は、きっと上京したての田舎者にしか見えないだろう。

 そう考えると段々と恥ずかしくなってくる。満員で入れなくなる前に、早くネカフェを見つけよう。

 歩く速度を上げ、ビルの看板を見て回る。

 しばらくすると、オレンジ色の背景に白と黒の文字でインターネットと書かれた有名チェーン店の看板を発見した。

 あった! よかったー!

 自然と頬が緩み、心に余裕が生まれてくる。
 息が上がってきたので歩くペースを普通に戻し、目標地点へと向かった。

「ちょっと、お兄さん!」

 その途中で知らない男性に呼び止められる。

 思いがけない出来事に体がビクつき、足が完全に止まってしまった。

「お兄さん、どこから来たんすか?」
 
 見るからにチャラそうな男が、チラシを片手に持ち近づいてくる。

 うわ、客引きか。今の時代にもまだいるんだ。

 こういうやからがやっている店は大体怪しい。それくらい世間知らずの俺でも知っている。 

 無視をしながら再び歩き始めると、男も同じように付いてきた。

「一杯どうすか? いい子つけますよ」

 男の持っているチラシを見ると、どうやらキャバクラらしきものの勧誘だ。

 そっか。夜の街にはこういうのもあるのか。

 際どい写真に目を惹かれながら、なんとかネカフェまで逃げ切った。
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