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酒の席

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「「乾杯!」」

 グラスを合わせ、酒を口に運ぶ。

 俺はビールが苦手なので、甘いサワーを注文した。
 いつまで経っても、あの苦さを旨いと感じることができない。

「二人きりでお酒を飲む日が来るなんてね」

 紗絢はビールの入ったグラスを置き、こちらを見て微笑んでいる。

「ほんと、そうだね」

 俺も彼女に向けて笑みを作る。
 いつ、どのタイミングで話の本題に入るか分からないので、落ち着いていられない。

「かずくん、雰囲気変わったよね。かっこよくなってて、すぐには分からなかったよ」
「そ、そうかな? 紗絢の方こそ一段と綺麗になってて驚いた」
「ありがとう。かずくんにそう言ってもらえるとすごく嬉しい」

 イメチェンした姿が紗絢に好評で安心した。
 褒められて素直に喜ぶ彼女を見ていると、緊張がほぐれていく。

 その後も紗絢とは思い出話などで盛り上がった。
 次々に運ばれてくる酒と料理を飲み食いしながら語り合う。

「中学の修学旅行で寺院巡りをしている時、かずくん迷子になっていたよね。スマホは使っちゃいけない決まりだったし、探すの大変だったなー」
「あれは中村のせいだって。トイレに行ってくるから出発しそうだったらグループのみんなに伝えておいてって言ったのに戻ってきたら誰もいないんだもん。冷や汗ヤバかったよ」

 くだらない話で場が和む。飲み始めて、一時間。未だに紗絢の方から問題の核心に触れてくることはない。

 きっと俺から話すのを待っているのだろう。酔いが回り、言葉がスラスラ出てくるようになってきた。うん、今ならちゃんと伝えられる気がする。

「実はさ、俺……」

 会話が一旦途切れた所で、連絡を断ったあの日から偶然再会した今日まで自分が何をしていたかを話し始めた。

 浪人に失敗して滑り止めの大学に進学したこと。周りに馴染めず単位を落とし二年で中退したこと。五年間、実家でニート生活を送っていたこと。最近追い出されホームレスになったこと。

 ダメ人間の道筋を順番に説明していく。

 語っている間、俺は紗絢のことを直視出来ずにいた。
 呆れた顔、寂しい顔、どちらを見ても心が痛くなりそうだったからだ。

 紗絢から送られてくる相槌を確認しながら話を進め、最後に一方的に連絡を断ってしまった事を詫びた。
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