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思わぬ提案

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 予期せぬ誘いに唖然とする。

 喉から手が出るほど欲していた言葉。この誘いに乗ればヒモ生活最初の一歩を踏み出せる。

 マジか。どうしよう。

 紗絢以外の女性から提案されていたのなら二つ返事で承諾していた。
 
 生きていくためだと割り切り、相手にとって都合のいい男を演じ、養ってもらう。これは付き合いの浅い相手だからこそ出来ることで、元カノかつ幼馴染の紗絢が相手だと情が湧き、ヒモに徹することが難しくなる。

 紗絢を人生の泥沼に引き込むか、彼女のためを思って身を引くか。
 非常に悩ましい決断。自分の将来を第一に考えるなら、紗絢についていくのが正解だ。でも……。
 
「かずくんにも都合とかあるよね。勝手なこと言ってごめんね」

 なかなか決心がつかない俺を見かねて、紗絢は提案を取り下げようとする。

 その発言を聞き、俺の体は反射的に前のめりになっていた。

「行く! お言葉に甘えさせていただきます!」
 
 次の寄生先が見つかるまでの短期間だけと自分に言い聞かせ、紗絢の提案に乗ることにした。一方的に連絡を断ってしまった償いがこの間に出来れば、悔いを残すこともない。

 紗絢は安心したかのように頬を緩ませる。
 きっと彼女も勇気を出して誘ってくれたのだろう。

「それ食べたら、そろそろ帰ろうか。終電なくなっちゃうといけないし」
「うん。そうだね」

 俺は残っていた料理を全て綺麗に平らげ、店を出る準備をする。
 会計の際、俺も半分払おうと財布を出したが、紗絢に止められてしまった。

「ごちそうしてくれてありがとう」
「どういたしまして。それじゃあ行こう」

 紗絢と一緒に池袋駅へ向かう。
 雑談をしながら歩いていると、すぐに目的地に到着してしまった。

「こっちの電車だよ」 

 俺は、紗絢に導かれながら彼女の家を目指して付いていった。
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