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本編
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希はいわゆる名家の生まれだった。Ωを輩出しやすい如月家といえば、今でも多くの者が知っている。
ロール性とは違い、男女性とともに有史以前からその存在が知られていた第2性、通称オーダー性は、αとΩ、そしてそのどちらの特徴も持たないβに分かれている。身体能力、知性、カリスマ、全てにおいて秀でたαは「孕ませる性」とも呼ばれ、男女共に陰茎を持っている。Ωは「孕む性」と呼ばれ、男女共に子宮を持ち、定期的に「発情」を起こす。そしてΩはαやΩを産みやすく、αとΩは生物学的にも心理学的にも惹かれやすいため、Ωが多い家系はα達により庇護され、必然的に地位が高まったのである。
αとΩ、DomとSubはこの世界の人口の中にそれぞれ1%しかいないといわれ、「希少性」とも呼ばれる。遺伝しやすいαとΩはともかく、DomとSubはそうではなく、例えばDomの多い家系などは存在しない。しかし、偶然2つの希少性を兼ね備えた人間が生まれることはある。そういう者達は「希少性混在者」と呼ばれる。単純計算で0.04%とはいえ、1万人に4人と考えれば多い方だ。100万人の都市があれば、400人はいる計算になるのだから。
即ち、希はΩSubであった。もちろん希の両親は希少性混在者の希を大切に、しかし甘やかすことなくきっちりと育て上げた。家系的に元々同性愛への偏見は少ないとはいえ希が男が好きだと告白しても自然にそれを受け入れたし、希が年頃になって結婚願望を口にすれば名家としての人脈を使い何人ものαDomの人間との縁談をどこからか掘り起こして希のもとへ持ってきた。
では、なぜ見合い自体には興味を示した希が自分のαDomを見つけられず、その上両親からの紹介を最終的に全て断ったのか。
DomにもSubにもランクがある。Domはほぼ単純に、グレアが強いほどランクが高いとされる。Subはランクが高いほど、望まぬコマンドを拒否することができる。それは決してグレアを感じにくいということではない。強いグレアを感じても、意思で抵抗できるのだ。
そして希はその中でもかなりの高ランクのSubだった。最早最高ランクと言ってもいいほどの。希はどんなに高ランクのDomから「跪け」と言われたとしても、従いたくなければ揺らがず立つことができた。遺伝子研究の発展により、希が高ランクのSubだということは産まれる前から検査で分かっていた。だから両親は希に釣り合うような高ランクのDomを見合いに連れてきていたのだ。見合いにはプレイも当然入る。DomとSubは定期的にプレイをする必要があるため、プレイでの相性は大事な要素だからだ。しかしそこで必ず希は彼らに拒否反応を示した。
高ランクのDomは支配欲求も強い。αなら尚更だ。希はグレアへの感受性が強く、希を傅かせようとするDomの強い欲求を敏感に感じ取り、それを嫌だと感じた。毎回従うふりだけはしたが、ある時は耐えきれず、相手が帰ってからこっそり吐いたこともあった。
しかしそれを打ち明けるのを希のプライドが許さなかった。高ランクのSubである自分が、Domのグレアに耐えられないなんて恥だと思った。多分それを知ったとしても周りは気にしないだろう。希に合う別の人を探してきてくれるかもしれない。そう考えても、どうしても耐えられなかった。その時だ、希が「ドロップ」を体験したのは。
思春期くらいに性徴を迎えるオーダー性とは違い、ロール性は通常さらに後、高校生から成人になるくらいの年齢で発現する。それ以降、Subは長い間まともにプレイしないと心身に不調をきたすようになる。不安症と呼ばれるその状態が長く続くと、Subは「落ちる」。吐き気がして、呼吸が苦しくなり、目の前が真っ暗になって、行き着く先は廃人か死だ。
グレアに耐えられないのだからろくに満足のいくプレイが出来るわけがない。そこに葛藤による大きなストレスが加わり、希は一気にドロップした。目覚めたのは病院のベッドの上。一命は取り留めたものの、このままでは危ない状態だと言われた。
医学が発達し、様々な薬が出てきた。オーダー性やロール性を持つ者達の「事故」を避けるための頓服薬もその中にある。Ωやαの予期せぬ発情を抑える薬。その要因になるフェロモンを感じなくさせる薬。Domのグレアを抑える薬。Subがグレアを感じなくなる薬。そして、不安症の症状を抑える薬。希はそれを処方されるようになった。
しかし、不安症は元々Subの本能から来るものだ。たとえば食欲を抑える薬があったとして、それを飲んでいても食べなければ生きられない。それと同じように、いくら不安症を抑えたからといって、プレイをしなければいつかはドロップする。
それから希は適当な男専門の安いプレイバーを選び、そこに通うようになった。もうこうなったらオーダー性はなんでもいい、多くのDomと会えばもしかしたら自分に合う人がいるのではないか、と思ったからだ。両親もそれを止めなかったし、縁談を持ってくることもなくなった。両親が何も言わないのをいいことに希も何も言わずプレイバーに通いつめた。むしろ彼らが気づいたのか確かめるのが怖かった。
その頃から希は荒れ始めた。髪を染めたり、ピアスを開けたり、バーで会った行きずりの男と寝たり。一応親への罪悪感はあったので犯罪に手を染めはせず避妊もしていたが、それ以外のことは色々やった。
そして、希が片っ端から試してみても、希と合うDomは現れなかった。
ロール性とは違い、男女性とともに有史以前からその存在が知られていた第2性、通称オーダー性は、αとΩ、そしてそのどちらの特徴も持たないβに分かれている。身体能力、知性、カリスマ、全てにおいて秀でたαは「孕ませる性」とも呼ばれ、男女共に陰茎を持っている。Ωは「孕む性」と呼ばれ、男女共に子宮を持ち、定期的に「発情」を起こす。そしてΩはαやΩを産みやすく、αとΩは生物学的にも心理学的にも惹かれやすいため、Ωが多い家系はα達により庇護され、必然的に地位が高まったのである。
αとΩ、DomとSubはこの世界の人口の中にそれぞれ1%しかいないといわれ、「希少性」とも呼ばれる。遺伝しやすいαとΩはともかく、DomとSubはそうではなく、例えばDomの多い家系などは存在しない。しかし、偶然2つの希少性を兼ね備えた人間が生まれることはある。そういう者達は「希少性混在者」と呼ばれる。単純計算で0.04%とはいえ、1万人に4人と考えれば多い方だ。100万人の都市があれば、400人はいる計算になるのだから。
即ち、希はΩSubであった。もちろん希の両親は希少性混在者の希を大切に、しかし甘やかすことなくきっちりと育て上げた。家系的に元々同性愛への偏見は少ないとはいえ希が男が好きだと告白しても自然にそれを受け入れたし、希が年頃になって結婚願望を口にすれば名家としての人脈を使い何人ものαDomの人間との縁談をどこからか掘り起こして希のもとへ持ってきた。
では、なぜ見合い自体には興味を示した希が自分のαDomを見つけられず、その上両親からの紹介を最終的に全て断ったのか。
DomにもSubにもランクがある。Domはほぼ単純に、グレアが強いほどランクが高いとされる。Subはランクが高いほど、望まぬコマンドを拒否することができる。それは決してグレアを感じにくいということではない。強いグレアを感じても、意思で抵抗できるのだ。
そして希はその中でもかなりの高ランクのSubだった。最早最高ランクと言ってもいいほどの。希はどんなに高ランクのDomから「跪け」と言われたとしても、従いたくなければ揺らがず立つことができた。遺伝子研究の発展により、希が高ランクのSubだということは産まれる前から検査で分かっていた。だから両親は希に釣り合うような高ランクのDomを見合いに連れてきていたのだ。見合いにはプレイも当然入る。DomとSubは定期的にプレイをする必要があるため、プレイでの相性は大事な要素だからだ。しかしそこで必ず希は彼らに拒否反応を示した。
高ランクのDomは支配欲求も強い。αなら尚更だ。希はグレアへの感受性が強く、希を傅かせようとするDomの強い欲求を敏感に感じ取り、それを嫌だと感じた。毎回従うふりだけはしたが、ある時は耐えきれず、相手が帰ってからこっそり吐いたこともあった。
しかしそれを打ち明けるのを希のプライドが許さなかった。高ランクのSubである自分が、Domのグレアに耐えられないなんて恥だと思った。多分それを知ったとしても周りは気にしないだろう。希に合う別の人を探してきてくれるかもしれない。そう考えても、どうしても耐えられなかった。その時だ、希が「ドロップ」を体験したのは。
思春期くらいに性徴を迎えるオーダー性とは違い、ロール性は通常さらに後、高校生から成人になるくらいの年齢で発現する。それ以降、Subは長い間まともにプレイしないと心身に不調をきたすようになる。不安症と呼ばれるその状態が長く続くと、Subは「落ちる」。吐き気がして、呼吸が苦しくなり、目の前が真っ暗になって、行き着く先は廃人か死だ。
グレアに耐えられないのだからろくに満足のいくプレイが出来るわけがない。そこに葛藤による大きなストレスが加わり、希は一気にドロップした。目覚めたのは病院のベッドの上。一命は取り留めたものの、このままでは危ない状態だと言われた。
医学が発達し、様々な薬が出てきた。オーダー性やロール性を持つ者達の「事故」を避けるための頓服薬もその中にある。Ωやαの予期せぬ発情を抑える薬。その要因になるフェロモンを感じなくさせる薬。Domのグレアを抑える薬。Subがグレアを感じなくなる薬。そして、不安症の症状を抑える薬。希はそれを処方されるようになった。
しかし、不安症は元々Subの本能から来るものだ。たとえば食欲を抑える薬があったとして、それを飲んでいても食べなければ生きられない。それと同じように、いくら不安症を抑えたからといって、プレイをしなければいつかはドロップする。
それから希は適当な男専門の安いプレイバーを選び、そこに通うようになった。もうこうなったらオーダー性はなんでもいい、多くのDomと会えばもしかしたら自分に合う人がいるのではないか、と思ったからだ。両親もそれを止めなかったし、縁談を持ってくることもなくなった。両親が何も言わないのをいいことに希も何も言わずプレイバーに通いつめた。むしろ彼らが気づいたのか確かめるのが怖かった。
その頃から希は荒れ始めた。髪を染めたり、ピアスを開けたり、バーで会った行きずりの男と寝たり。一応親への罪悪感はあったので犯罪に手を染めはせず避妊もしていたが、それ以外のことは色々やった。
そして、希が片っ端から試してみても、希と合うDomは現れなかった。
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