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本編
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しばらくして、ようやく希が落ち着いて顔を上げると、霞は俯いて視線を合わせようとしなかった。
「ごめんなさいっ、僕はあなたにひどいことを…っ」
希は頭の中で言いたいことを整理しようとした。それから、さらに一呼吸置いて言った。
「お前は他の男とは違う、とか、それはまだ分からないけど、」
ダメだ、言おうとすると考えがまとまらない。
「『こいつは俺の望むセックスをしてくれるだろうな』じゃなくて、『こいつはどんなセックスをするんだろう』って思ったのは、お前が初めてなんだ」
「…はは、どういう口説き文句ですか…」
霞は力なく笑った。いや、笑っているような声を出しただけで、本当に笑ってはいなかった。自分でも最悪な言葉だとは思ったが、それしか言えない自分が情けない。
しかし、続く霞の言葉にそれどころではなくなった。
「…僕は、あなたの思ってるような人間じゃないんですよ……如月 希さん」
希は息を飲んだ。なぜ。名乗ったつもりはなかったのに。
「簡単なことですよ。何回目かのプレイで、希さんがスペースに入っている時に聞き出したんです。住所も、氏名も、年齢も、大学の名前だって。僕と同じ大学でびっくりしました」
今度こそ言葉を失った。だって、それは犯罪だ。そんなことを、霞が。
「僕は綺麗な人間じゃないです…希さんに会うまでαの執着って恐ろしいなって他人事のように思ってましたけど、僕もαだったんですね。こんなプレイを何度も繰り返していたら、意識しないはずがないでしょう?パートナーだけじゃなくてあなたを僕のΩにしたい。あなたの首筋に食らいついて、一生僕に縛り付けて離したくない。でもあなたは『あの』如月家じゃないですか。しかも『それなりにランクが高い』どころじゃない、最高ランクのSubじゃないですか。どうしてあんな安いバーに来てたんですか?僕とも遊びだったんですか?僕のグレアなんて、そよ風にもならない。あなたを満足させられるわけないじゃないですか、僕だけとか言って……多分あなたと寝たら、一度じゃ足りなくなる。絶対にあなたを手離せなくなる。あなたは軽い気持ちで言ったのかもしれませんけど、『1回だけ』なんて無理です」
涙を静かに流しながら、ぽつりぽつりと霞が話す。恐ろしいはずなのに、なぜか恐怖を微塵も感じられなかった。
「…違うんだ」
「何が違うんですか!!」
「Red。俺の話を聞いて」
ここでセーフワードを言うことになるとは思わなかった。グレアを止めるセーフワードは、少なからずDomを沈静化させる作用もある。霞はぐっと押し黙り、希の言葉を待った。希は正座になり、太ももの上で拳を握りしめた。
「ごめん、黙って聞いて。今まで名乗らなかったのは悪かった。如月 希は俺の名前だし、Subとしてかなりランクが高いのも事実だ。でも、それを言わなかったのは怖かったからだ。俺は確かに高ランクのSubだけど、コマンドを拒否できるってだけだ。でもそんなこと言いたくなかった。『如月家』の人間が、グレアに耐えられないなんて、誰が認めても俺が許せない。親にも、まだ言えてない。最初はお見合いで何人かαDomと会って、プレイした時、ダメだと感じた。その時1回落ちた」
息を飲む音が聞こえた。だが、霞は希を遮らなかった。
「だから、プレイバーに行ったんだ。縁談で連れてこられるような高ランクのDomだからいけないのかもしれない。普通のDomなら、耐えられるかもって。でもやっぱりダメだった。最初にお前に近づいたのは、確かにただの打算と好奇心だったのかもしれない。でも、プレイしてお前しかいないと思ったのは本心だ。あのグレアじゃないとダメだってのはそうだけど、それだけじゃない。お前と話してると楽しかったし、お前じゃないとダメだってあの時確かに思ったんだ。あれからプレイは誰ともしてない。俺のDomはお前しかいないから。…ただ、怒らないで聞いてほしいんだけど、他の男とセックスするのはあの後も続けてた。でも、お前の言葉を聞いて、決心がついた」
もう一度、息を吸う。
「やっぱり俺と契約しよう、それで俺と番になろう、井浦 霞。今までの男とは全部縁を切る。俺がお前のΩSubになるから、お前が俺のαDomになって」
「…僕の話聞いてました?僕はあなたに釣り合いませんし、ここら辺にはいませんけど、僕以外にもグレアの弱いαDomなんてこの国を探したら何人かいるでしょう。別に僕じゃなくたって…」
「何度もプレイして情が移ったのはお前だけだと思ってる?」
「ただの気の迷いでしょう。しばらくすれば、あなたは僕に飽きるに決まっている。そうなったら、僕には耐えられない。その前に、」
駄目だ。何を言っても効果がない。それまでの自分の態度が悪かったからなのは分かりきっている。だからこそ、言いたくないことを言うしかなかった。
「むしろ俺がお前を逃がさない。お前が何を言って逃げようとしても、俺もお前の身元を知っている。如月家の情報網から、逃れられると思うな」
霞がゆっくりと希を見上げる。
「…たかが無能のαDomに、そこまでするんですか?」
「そこまでする。俺はもう二度と間違えない。お前を繋ぎ止めるためなら、なんだってする」
「脅しじゃないですか、もう…」
霞は大きくため息をついた。
「……結局、ダメだと思ったのに関係を切れなかった僕の負けです。いいですよ、それで」
半ば諦めたような声だった。
「そうじゃない。勝ち負けなんて存在しないんだ。今度発情期が来たら番になって、それで俺の首輪を決めよう。一生俺を離さないで」
「…本当に、いいんですか?」
「俺が、そうしたいんだ」
「…わかりました。あなたはもう僕のΩ、僕のSubです。僕にここまで言わせたからには、あなたを他の男には奪わせない」
霞は希のΩのチョーカーを指でなぞった。まるでそこに、仮の首輪をはめるように。
「ごめんなさいっ、僕はあなたにひどいことを…っ」
希は頭の中で言いたいことを整理しようとした。それから、さらに一呼吸置いて言った。
「お前は他の男とは違う、とか、それはまだ分からないけど、」
ダメだ、言おうとすると考えがまとまらない。
「『こいつは俺の望むセックスをしてくれるだろうな』じゃなくて、『こいつはどんなセックスをするんだろう』って思ったのは、お前が初めてなんだ」
「…はは、どういう口説き文句ですか…」
霞は力なく笑った。いや、笑っているような声を出しただけで、本当に笑ってはいなかった。自分でも最悪な言葉だとは思ったが、それしか言えない自分が情けない。
しかし、続く霞の言葉にそれどころではなくなった。
「…僕は、あなたの思ってるような人間じゃないんですよ……如月 希さん」
希は息を飲んだ。なぜ。名乗ったつもりはなかったのに。
「簡単なことですよ。何回目かのプレイで、希さんがスペースに入っている時に聞き出したんです。住所も、氏名も、年齢も、大学の名前だって。僕と同じ大学でびっくりしました」
今度こそ言葉を失った。だって、それは犯罪だ。そんなことを、霞が。
「僕は綺麗な人間じゃないです…希さんに会うまでαの執着って恐ろしいなって他人事のように思ってましたけど、僕もαだったんですね。こんなプレイを何度も繰り返していたら、意識しないはずがないでしょう?パートナーだけじゃなくてあなたを僕のΩにしたい。あなたの首筋に食らいついて、一生僕に縛り付けて離したくない。でもあなたは『あの』如月家じゃないですか。しかも『それなりにランクが高い』どころじゃない、最高ランクのSubじゃないですか。どうしてあんな安いバーに来てたんですか?僕とも遊びだったんですか?僕のグレアなんて、そよ風にもならない。あなたを満足させられるわけないじゃないですか、僕だけとか言って……多分あなたと寝たら、一度じゃ足りなくなる。絶対にあなたを手離せなくなる。あなたは軽い気持ちで言ったのかもしれませんけど、『1回だけ』なんて無理です」
涙を静かに流しながら、ぽつりぽつりと霞が話す。恐ろしいはずなのに、なぜか恐怖を微塵も感じられなかった。
「…違うんだ」
「何が違うんですか!!」
「Red。俺の話を聞いて」
ここでセーフワードを言うことになるとは思わなかった。グレアを止めるセーフワードは、少なからずDomを沈静化させる作用もある。霞はぐっと押し黙り、希の言葉を待った。希は正座になり、太ももの上で拳を握りしめた。
「ごめん、黙って聞いて。今まで名乗らなかったのは悪かった。如月 希は俺の名前だし、Subとしてかなりランクが高いのも事実だ。でも、それを言わなかったのは怖かったからだ。俺は確かに高ランクのSubだけど、コマンドを拒否できるってだけだ。でもそんなこと言いたくなかった。『如月家』の人間が、グレアに耐えられないなんて、誰が認めても俺が許せない。親にも、まだ言えてない。最初はお見合いで何人かαDomと会って、プレイした時、ダメだと感じた。その時1回落ちた」
息を飲む音が聞こえた。だが、霞は希を遮らなかった。
「だから、プレイバーに行ったんだ。縁談で連れてこられるような高ランクのDomだからいけないのかもしれない。普通のDomなら、耐えられるかもって。でもやっぱりダメだった。最初にお前に近づいたのは、確かにただの打算と好奇心だったのかもしれない。でも、プレイしてお前しかいないと思ったのは本心だ。あのグレアじゃないとダメだってのはそうだけど、それだけじゃない。お前と話してると楽しかったし、お前じゃないとダメだってあの時確かに思ったんだ。あれからプレイは誰ともしてない。俺のDomはお前しかいないから。…ただ、怒らないで聞いてほしいんだけど、他の男とセックスするのはあの後も続けてた。でも、お前の言葉を聞いて、決心がついた」
もう一度、息を吸う。
「やっぱり俺と契約しよう、それで俺と番になろう、井浦 霞。今までの男とは全部縁を切る。俺がお前のΩSubになるから、お前が俺のαDomになって」
「…僕の話聞いてました?僕はあなたに釣り合いませんし、ここら辺にはいませんけど、僕以外にもグレアの弱いαDomなんてこの国を探したら何人かいるでしょう。別に僕じゃなくたって…」
「何度もプレイして情が移ったのはお前だけだと思ってる?」
「ただの気の迷いでしょう。しばらくすれば、あなたは僕に飽きるに決まっている。そうなったら、僕には耐えられない。その前に、」
駄目だ。何を言っても効果がない。それまでの自分の態度が悪かったからなのは分かりきっている。だからこそ、言いたくないことを言うしかなかった。
「むしろ俺がお前を逃がさない。お前が何を言って逃げようとしても、俺もお前の身元を知っている。如月家の情報網から、逃れられると思うな」
霞がゆっくりと希を見上げる。
「…たかが無能のαDomに、そこまでするんですか?」
「そこまでする。俺はもう二度と間違えない。お前を繋ぎ止めるためなら、なんだってする」
「脅しじゃないですか、もう…」
霞は大きくため息をついた。
「……結局、ダメだと思ったのに関係を切れなかった僕の負けです。いいですよ、それで」
半ば諦めたような声だった。
「そうじゃない。勝ち負けなんて存在しないんだ。今度発情期が来たら番になって、それで俺の首輪を決めよう。一生俺を離さないで」
「…本当に、いいんですか?」
「俺が、そうしたいんだ」
「…わかりました。あなたはもう僕のΩ、僕のSubです。僕にここまで言わせたからには、あなたを他の男には奪わせない」
霞は希のΩのチョーカーを指でなぞった。まるでそこに、仮の首輪をはめるように。
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