12 / 22
本編
12
霞の実家は郊外にあった。
「ここ?」
「はい、そうです」
霞が希を連れてきたのは、古いアパートだった。霞がインターホンを押すと、ぱたぱたとかけてくる音が聞こえ、ドアが開く。
「いらっしゃい、あら、まあ」
霞の母親がこちらを見て驚きの声をあげる。
「彼氏を紹介したいっていうからどんな方でしょうと思ったらこんなイケメンさんを連れてくるなんて、うちの子も隅に置けないわねえ…ろくなものもお出しできませんけど、すみませんね」
「いえいえ」
霞の母親が用意したスリッパに履き替えて部屋に上がる。
ここが霞の家。希は少し興奮しながらも、なるべく辺りを見回さないように気をつけてリビングに向かった。
「うち、片親なんです」
霞の家に向かう前に、そう聞かされた。
「といっても父は僕の小さい時に死んだので、特に何も覚えてないんですけど。両親は両方ともβNormalだったのに変異で生まれてきたαDomの、しかもろくにフェロモンもグレアも出ないでいじめられてばかりの僕を母は1人で育ててくれて、僕の行きたかった大学にまで行かせてくれたんです。ほんと、感謝してもしきれない」
「確かに、真面目に育ったよな」
「といっても第3性が発現してからは荒れてましたけど…『こんなことしか出来ないけど』ってプレイバーを探してきてくれてお金まで払ってくれて…だからきっと、希さんのことは喜んでくれると思います」
しっかりと手を繋ぎ、こちらを見上げてくる霞の笑顔は眩しかった。
「これ、つまらないものですがどうぞ」
「あらいいのに、これいいところのお菓子じゃないの、うちにはとてももったいないものだけれど、ありがたくいただくわ。でもせっかく持ってきてくれたのだから、みんなで食べましょう」
そう言われ、渡した饅頭と霞の母親が用意したスナック菓子を食べ、お茶を飲みながら希達は話した。
「あの子がこんな立派な子を連れてくるなんて、誇らしいわ」
「母さん、それ何度も言ってるよ」
「あら、でも本当のことなんだから仕方ないじゃない。霞から大体の事情は聞いてるわ。あの子に一緒にいたいと思い合える子ができるなんて、本当に嬉しい。幸せになるのよ?」
「うん、絶対に」
「はい、共に歩んでいきたいと思っています」
「何かあったら気軽に相談してちょうだいね?私に出来ることは少ないかもしれないけど、できる限りの事はするから」
「はい、ありがとうございます」
「そんな畏まらなくてもいいのに、お義母さんって呼んでくれてもいいのよ?」
「はい」
「…その調子だとまだかかりそうね…」
「ちょっとトイレ行ってくる」と霞が席を立った後、霞の母親が真面目な顔になった。
「あなたには重い話になるかもしれないけど、話しておきたいことがあるの。…あの子はね、1人で背負いすぎるところがあるのよ。小さい頃に父親を失ったから、自分がその分も頑張らないと、と思ってるのだと思うわ。自分がαDomと分かってから、尚更」
希は検査によって産まれる前に性別がわかっていたが、この検査は費用が高い。しかもβNormal同士の夫婦から希少性が産まれる確率は僅かなので、受ける者は少ない。だからオーダー性やロール性が発覚した時、本当は霞も、霞の母親も、2人とも希の想像よりずっと大変な思いをしたのだろう。
「だからこそ、あの子は体質のことをすごく気にしていた。でも、それを変えてくれたのがあなたなんでしょう?だったらきっとうまくいくわよ。どうか、あなた達は2人で幸せになってね」
涙が出そうになるのをこらえる。彼女にはそれが出来なかったのだ。
「…はい」
「なんか僕がいない間に話してたでしょ」
しばらくしてトイレから戻って来た霞が訝しげな顔をした。
「いいえ、全然?霞の小さい頃の面白い話をしてたのよ」
「そうそう、まさか霞が子供の頃はあんなことをしてたなんて」
「えっ何待って!何話してたの!?」
その狼狽えぶりを見て希も、霞の母親も笑う。それを見て霞が呆れた様子で見てくるのが面白くてさらに笑ってしまった。
「ここ?」
「はい、そうです」
霞が希を連れてきたのは、古いアパートだった。霞がインターホンを押すと、ぱたぱたとかけてくる音が聞こえ、ドアが開く。
「いらっしゃい、あら、まあ」
霞の母親がこちらを見て驚きの声をあげる。
「彼氏を紹介したいっていうからどんな方でしょうと思ったらこんなイケメンさんを連れてくるなんて、うちの子も隅に置けないわねえ…ろくなものもお出しできませんけど、すみませんね」
「いえいえ」
霞の母親が用意したスリッパに履き替えて部屋に上がる。
ここが霞の家。希は少し興奮しながらも、なるべく辺りを見回さないように気をつけてリビングに向かった。
「うち、片親なんです」
霞の家に向かう前に、そう聞かされた。
「といっても父は僕の小さい時に死んだので、特に何も覚えてないんですけど。両親は両方ともβNormalだったのに変異で生まれてきたαDomの、しかもろくにフェロモンもグレアも出ないでいじめられてばかりの僕を母は1人で育ててくれて、僕の行きたかった大学にまで行かせてくれたんです。ほんと、感謝してもしきれない」
「確かに、真面目に育ったよな」
「といっても第3性が発現してからは荒れてましたけど…『こんなことしか出来ないけど』ってプレイバーを探してきてくれてお金まで払ってくれて…だからきっと、希さんのことは喜んでくれると思います」
しっかりと手を繋ぎ、こちらを見上げてくる霞の笑顔は眩しかった。
「これ、つまらないものですがどうぞ」
「あらいいのに、これいいところのお菓子じゃないの、うちにはとてももったいないものだけれど、ありがたくいただくわ。でもせっかく持ってきてくれたのだから、みんなで食べましょう」
そう言われ、渡した饅頭と霞の母親が用意したスナック菓子を食べ、お茶を飲みながら希達は話した。
「あの子がこんな立派な子を連れてくるなんて、誇らしいわ」
「母さん、それ何度も言ってるよ」
「あら、でも本当のことなんだから仕方ないじゃない。霞から大体の事情は聞いてるわ。あの子に一緒にいたいと思い合える子ができるなんて、本当に嬉しい。幸せになるのよ?」
「うん、絶対に」
「はい、共に歩んでいきたいと思っています」
「何かあったら気軽に相談してちょうだいね?私に出来ることは少ないかもしれないけど、できる限りの事はするから」
「はい、ありがとうございます」
「そんな畏まらなくてもいいのに、お義母さんって呼んでくれてもいいのよ?」
「はい」
「…その調子だとまだかかりそうね…」
「ちょっとトイレ行ってくる」と霞が席を立った後、霞の母親が真面目な顔になった。
「あなたには重い話になるかもしれないけど、話しておきたいことがあるの。…あの子はね、1人で背負いすぎるところがあるのよ。小さい頃に父親を失ったから、自分がその分も頑張らないと、と思ってるのだと思うわ。自分がαDomと分かってから、尚更」
希は検査によって産まれる前に性別がわかっていたが、この検査は費用が高い。しかもβNormal同士の夫婦から希少性が産まれる確率は僅かなので、受ける者は少ない。だからオーダー性やロール性が発覚した時、本当は霞も、霞の母親も、2人とも希の想像よりずっと大変な思いをしたのだろう。
「だからこそ、あの子は体質のことをすごく気にしていた。でも、それを変えてくれたのがあなたなんでしょう?だったらきっとうまくいくわよ。どうか、あなた達は2人で幸せになってね」
涙が出そうになるのをこらえる。彼女にはそれが出来なかったのだ。
「…はい」
「なんか僕がいない間に話してたでしょ」
しばらくしてトイレから戻って来た霞が訝しげな顔をした。
「いいえ、全然?霞の小さい頃の面白い話をしてたのよ」
「そうそう、まさか霞が子供の頃はあんなことをしてたなんて」
「えっ何待って!何話してたの!?」
その狼狽えぶりを見て希も、霞の母親も笑う。それを見て霞が呆れた様子で見てくるのが面白くてさらに笑ってしまった。
あなたにおすすめの小説
【BL】捨てられたSubが甘やかされる話
橘スミレ
BL
渚は最低最悪なパートナーに追い出され行く宛もなく彷徨っていた。
もうダメだと倒れ込んだ時、オーナーと呼ばれる男に拾われた。
オーナーさんは理玖さんという名前で、優しくて暖かいDomだ。
ただ執着心がすごく強い。渚の全てを知って管理したがる。
特に食へのこだわりが強く、渚が食べるもの全てを知ろうとする。
でもその執着が捨てられた渚にとっては心地よく、気味が悪いほどの執着が欲しくなってしまう。
理玖さんの執着は日に日に重みを増していくが、渚はどこまでも幸福として受け入れてゆく。
そんな風な激重DomによってドロドロにされちゃうSubのお話です!
アルファポリス限定で連載中
家事代行サービスにdomの溺愛は必要ありません!
灯璃
BL
家事代行サービスで働く鏑木(かぶらぎ) 慧(けい)はある日、高級マンションの一室に仕事に向かった。だが、住人の男性は入る事すら拒否し、何故かなかなか中に入れてくれない。
何度かの押し問答の後、なんとか慧は中に入れてもらえる事になった。だが、男性からは冷たくオレの部屋には入るなと言われてしまう。
仕方ないと気にせず仕事をし、気が重いまま次の日も訪れると、昨日とは打って変わって男性、秋水(しゅうすい) 龍士郎(りゅうしろう)は慧の料理を褒めた。
思ったより悪い人ではないのかもと慧が思った時、彼がdom、支配する側の人間だという事に気づいてしまう。subである慧は彼と一定の距離を置こうとするがーー。
みたいな、ゆるいdom/subユニバース。ふんわり過ぎてdom/subユニバースにする必要あったのかとか疑問に思ってはいけない。
※完結しました!ありがとうございました!
番を拒み続けるΩと、執着を隠しきれないαが同じ学園で再会したら逃げ場がなくなった話 ――優等生αの過保護な束縛は恋か支配か
雪兎
BL
第二性が存在する世界。
Ωであることを隠し、平穏な学園生活を送ろうと決めていた転校生・湊。
しかし入学初日、彼の前に現れたのは――
幼い頃に「番になろう」と言ってきた幼馴染のα・蓮だった。
成績優秀、容姿端麗、生徒から絶大な信頼を集める完璧なα。
だが湊だけが知っている。
彼が異常なほど執着深いことを。
「大丈夫、全部管理してあげる」
「君が困らないようにしてるだけだよ」
座席、時間割、交友関係、体調管理。
いつの間にか整えられていく環境。
逃げ場のない距離。
番を拒みたいΩと、手放す気のないα。
これは保護か、それとも束縛か。
閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。
【完結】俺だけの○○ ~愛されたがりのSubの話~
Senn
BL
俺だけに命令コマンドして欲しい
俺だけに命令して欲しい
俺の全てをあげるから
俺以外を見ないで欲しい
俺だけを愛して………
Subである俺にはすぎる願いだってことなんか分かっている、
でも、、浅ましくも欲張りな俺は何度裏切られても望んでしまうんだ
俺だけを見て、俺だけを愛してくれる存在を
Subにしては独占欲強めの主人公とそんな彼をかわいいなと溺愛するスパダリの話です!
Dom/Subユニバース物ですが、知らなくても読むのに問題ないです! また、本編はピクシブ百科事典の概念を引用の元、作者独自の設定も入っております。
こんな感じなのか〜くらいの緩い雰囲気で楽しんで頂けると嬉しいです…!
おすすめのマッサージ屋を紹介したら後輩の様子がおかしい件
ひきこ
BL
名ばかり管理職で疲労困憊の山口は、偶然見つけたマッサージ店で、長年諦めていたどうやっても改善しない体調不良が改善した。
せっかくなので後輩を連れて行ったらどうやら様子がおかしくて、もう行くなって言ってくる。
クールだったはずがいつのまにか世話焼いてしまう年下敬語後輩Dom ×
(自分が世話を焼いてるつもりの)脳筋系天然先輩Sub がわちゃわちゃする話。
『加減を知らない初心者Domがグイグイ懐いてくる』と同じ世界で地続きのお話です。
(全く別の話なのでどちらも単体で読んでいただけます)
https://www.alphapolis.co.jp/novel/21582922/922916390
サブタイトルに◆がついているものは後輩視点です。
同人誌版と同じ表紙に差し替えました。
表紙イラスト:浴槽つぼカルビ様(X@shabuuma11 )ありがとうございます!
世界で一番優しいKNEELをあなたに
珈琲きの子
BL
グレアの圧力の中セーフワードも使えない状態で体を弄ばれる。初めてパートナー契約したDomから卑劣な洗礼を受け、ダイナミクス恐怖症になったSubの一希は、自分のダイナミクスを隠し、Usualとして生きていた。
Usualとして恋をして、Usualとして恋人と愛し合う。
抑制剤を服用しながらだったが、Usualである恋人の省吾と過ごす時間は何物にも代えがたいものだった。
しかし、ある日ある男から「久しぶりに会わないか」と電話がかかってくる。その男は一希の初めてのパートナーでありSubとしての喜びを教えた男だった。
※Dom/Subユニバース独自設定有り
※やんわりモブレ有り
※Usual✕Sub
※ダイナミクスの変異あり
邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ
零
BL
世間に秘された名門男子校・平坂学園体育科
空手の名選手であった高尾雄一は、新任教師として赴任する
高潔な人格と鋼のように鍛えられた肉体
それは、学園にとって最高の生贄の候補に他ならなかった
至高の筋肉を持つ、精神を削られ意志をなくした青年を太古の神に捧げるため、“水”、“風”、“土”の信奉者達が暗躍する
意志をなくし筋肉の操り人形と化した“デク”
消える教師
山奥の男子校で繰り広げられるダークファンタジー