来世で会おうと君は言った

詩条夏葵

文字の大きさ
13 / 31

13 かつての家

しおりを挟む


「お昼、うちで食べてく?」
 コンビニの店内のイートインスペースでラムネ色をしたアイスをかじりながら、類が言い出した。

「いいの?」
「貯金箱用の買い物、結局まだ行けてないし、お昼のあと行こうよ」
「なんかごめん……面倒なことに巻き込んじゃって」
 類はほぼ無関係なのに、結局午前中ずっと時間を使わせてしまった。
「家で一人でゲームしてるよりおもしろいから、全然いいよ。どうせ暇してたし」
 ニカッと笑う顔は、やっぱり昔の愁と雰囲気が似ていると思った。



 久しぶりに足を踏み入れたかつての自分の家は、懐かしさに溢れていて、それでいて、知らない家みたいだった。

「オレの部屋はここ」
 案内されたのはかつてのリンネの部屋……ではなく、階段を昇ってすぐのところにある、手前の部屋だった。リンネの部屋は、一番奥だった。

 ひとまず類の部屋を覗かせてもらう。
 手狭だが、この部屋には天井高まである備え付けの本棚がついている。
 かつては、リンネのパパの書斎だった部屋だ。
 重厚そうな古い木製の机が置いてあった場所にはいま、真新しい子供用の机が置かれている。
 リンネには理解できない専門書が置いてあった机の上。今は、夏休みの宿題のドリルが、キャラクター柄の筆箱とともに、無造作に置かれている。

「奥の部屋は……いま、どうなってるの?」
「奥の部屋? んー、そっちはいま、物置になってるよ」
 類はそちらも案内してくれた。 
 廊下の角を曲がると、突き当たりに部屋がある。
 ドアを開けると、明るい日差しが部屋に差し込んで、床に置いてある釣り道具などを照らしていた。
 釣り道具だけではなく、もう使うことのなさそうな幼児用の車やおもちゃ、冬服らしきものが詰められた衣装ケースが置いてあり、静かに埃をかぶっている。
 本当に、どこからどう見ても物置部屋だ。

「もしかしてここ、リンネちゃんの部屋だった?」
 呆然と立ち尽くしていると、類が聞いてきた。
「……うん」
 差し込む日差しは懐かしいけど、あの頃窓にかかっていたのはピンクのカーテンで、床には同じくピンクのカーペットが敷かれていた。
 子供机と本棚と、小さいタンス。タンスの上にはたくさんのぬいぐるみが置かれていた。
 それらはもう、ない。

「……小学校に上がる時さ、『こっちの方が日当たりがいいから、こっちを類の部屋にした方がいいんじゃないの?』ってママがパパに聞いてたことがあるんだけど、パパは『その部屋だけは絶対にだめだ』って言って譲らなかったんだよね。……パパは知ってたんだな。この部屋を使ってた女の子が死んだってこと」
「……そう、かもね……」
 死んだ子供が使っていた部屋を、自分の子供に使わせたくはない。親としては、当然の考えだろう。
「僕、化けて出たことなんて、一度もないのにね」
 ぎこちないながらも冗談を言って笑わせようとしたが、類は逆に真顔になった。
「リンネちゃん、不幸な死に方をしたのにすぐに成仏したなんて、めちゃくちゃいい子だな」
「そう、かな……?」
 未練ならたくさんあったはずだけど。
 死んだあとの記憶はないので、そのあたりはよくわからない。

「死んでも生まれ変わってまたみんなに会えるって、信じてたからかも」
 だってリンネの名前の由来は、輪廻転生という言葉だから。
 それは、子供じみた、根拠のない思い込みだったけど、事実、リンネは生まれ変わって凛音になった。

「いいなぁ」
「なにが?」
 羨ましそうな類の言葉に、凛音は首を傾げる。
「生まれ変わってでも会いたい、って思ってくれる友達がいるのって、すごいことじゃん?」
「……そうだね」
「凛音くん、万が一また死んでも、オレにも会いにきてくれよな」
「そうそう何度も死んでられないよ」
 くすくす笑っていたら、階下から、「ごはんできたわよーっ!」という声が響いてくる。

 お昼はそうめんで、凛音にはちょっと量が多かったけど、美味しかった。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

15年目のホンネ ~今も愛していると言えますか?~

深冬 芽以
恋愛
 交際2年、結婚15年の柚葉《ゆずは》と和輝《かずき》。  2人の子供に恵まれて、どこにでもある普通の家族の普通の毎日を過ごしていた。  愚痴は言い切れないほどあるけれど、それなりに幸せ……のはずだった。 「その時計、気に入ってるのね」 「ああ、初ボーナスで買ったから思い出深くて」 『お揃いで』ね?  夫は知らない。  私が知っていることを。  結婚指輪はしないのに、その時計はつけるのね?  私の名前は呼ばないのに、あの女の名前は呼ぶのね?  今も私を好きですか?  後悔していませんか?  私は今もあなたが好きです。  だから、ずっと、後悔しているの……。  妻になり、強くなった。  母になり、逞しくなった。  だけど、傷つかないわけじゃない。

俺と結婚してくれ〜若き御曹司の真実の愛

ラヴ KAZU
恋愛
村藤潤一郎 潤一郎は村藤コーポレーションの社長を就任したばかりの二十五歳。 大学卒業後、海外に留学した。 過去の恋愛にトラウマを抱えていた。 そんな時、気になる女性社員と巡り会う。 八神あやか 村藤コーポレーション社員の四十歳。 過去の恋愛にトラウマを抱えて、男性の言葉を信じられない。 恋人に騙されて借金を払う生活を送っていた。 そんな時、バッグを取られ、怪我をして潤一郎のマンションでお世話になる羽目に...... 八神あやかは元恋人に騙されて借金を払う生活を送っていた。そんな矢先あやかの勤める村藤コーポレーション社長村藤潤一郎と巡り会う。ある日あやかはバッグを取られ、怪我をする。あやかを放っておけない潤一郎は自分のマンションへ誘った。あやかは優しい潤一郎に惹かれて行くが、会社が倒産の危機にあり、合併先のお嬢さんと婚約すると知る。潤一郎はあやかへの愛を貫こうとするが、あやかは潤一郎の前から姿を消すのであった。

幸せの見つけ方〜幼馴染は御曹司〜

葉月 まい
恋愛
近すぎて遠い存在 一緒にいるのに 言えない言葉 すれ違い、通り過ぎる二人の想いは いつか重なるのだろうか… 心に秘めた想いを いつか伝えてもいいのだろうか… 遠回りする幼馴染二人の恋の行方は? 幼い頃からいつも一緒にいた 幼馴染の朱里と瑛。 瑛は自分の辛い境遇に巻き込むまいと、 朱里を遠ざけようとする。 そうとは知らず、朱里は寂しさを抱えて… ・*:.。. ♡ 登場人物 ♡.。.:*・ 栗田 朱里(21歳)… 大学生 桐生 瑛(21歳)… 大学生 桐生ホールディングス 御曹司

片想い婚〜今日、姉の婚約者と結婚します〜

橘しづき
恋愛
 姉には幼い頃から婚約者がいた。両家が決めた相手だった。お互いの家の繁栄のための結婚だという。    私はその彼に、幼い頃からずっと恋心を抱いていた。叶わぬ恋に辟易し、秘めた想いは誰に言わず、二人の結婚式にのぞんだ。    だが当日、姉は結婚式に来なかった。  パニックに陥る両親たち、悲しげな愛しい人。そこで自分の口から声が出た。 「私が……蒼一さんと結婚します」    姉の身代わりに結婚した咲良。好きな人と夫婦になれるも、心も体も通じ合えない片想い。

愛すべきマリア

志波 連
恋愛
幼い頃に婚約し、定期的な交流は続けていたものの、互いにこの結婚の意味をよく理解していたため、つかず離れずの穏やかな関係を築いていた。 学園を卒業し、第一王子妃教育も終えたマリアが留学から戻った兄と一緒に参加した夜会で、令嬢たちに囲まれた。 家柄も美貌も優秀さも全て揃っているマリアに嫉妬したレイラに指示された女たちは、彼女に嫌味の礫を投げつける。 早めに帰ろうという兄が呼んでいると知らせを受けたマリアが発見されたのは、王族の居住区に近い階段の下だった。 頭から血を流し、意識を失っている状態のマリアはすぐさま医務室に運ばれるが、意識が戻ることは無かった。 その日から十日、やっと目を覚ましたマリアは精神年齢が大幅に退行し、言葉遣いも仕草も全て三歳児と同レベルになっていたのだ。 体は16歳で心は3歳となってしまったマリアのためにと、兄が婚約の辞退を申し出た。 しかし、初めから結婚に重きを置いていなかった皇太子が「面倒だからこのまま結婚する」と言いだし、予定通りマリアは婚姻式に臨むことになった。 他サイトでも掲載しています。 表紙は写真ACより転載しました。

背徳の恋のあとで

ひかり芽衣
恋愛
『愛人を作ることは、家族を維持するために必要なことなのかもしれない』 恋愛小説が好きで純愛を夢見ていた男爵家の一人娘アリーナは、いつの間にかそう考えるようになっていた。 自分が子供を産むまでは…… 物心ついた時から愛人に現を抜かす父にかわり、父の仕事までこなす母。母のことを尊敬し真っ直ぐに育ったアリーナは、完璧な母にも唯一弱音を吐ける人物がいることを知る。 母の恋に衝撃を受ける中、予期せぬ相手とのアリーナの初恋。 そして、ずっとアリーナのよき相談相手である図書館管理者との距離も次第に近づいていき…… 不倫が身近な存在の今、結婚を、夫婦を、子どもの存在を……あなたはどう考えていますか? ※アリーナの幸せを一緒に見届けて下さると嬉しいです。

〜仕事も恋愛もハードモード!?〜 ON/OFF♡オフィスワーカー

i.q
恋愛
切り替えギャップ鬼上司に翻弄されちゃうオフィスラブ☆ 最悪な失恋をした主人公とONとOFFの切り替えが激しい鬼上司のオフィスラブストーリー♡ バリバリのキャリアウーマン街道一直線の爽やか属性女子【川瀬 陸】。そんな陸は突然彼氏から呼び出される。出向いた先には……彼氏と見知らぬ女が!? 酷い失恋をした陸。しかし、同じ職場の鬼課長の【榊】は失恋なんてお構いなし。傷が乾かぬうちに仕事はスーパーハードモード。その上、この鬼課長は————。 数年前に執筆して他サイトに投稿してあったお話(別タイトル。本文軽い修正あり)

バッドエンド予定の悪役令嬢が溺愛ルートを選んでみたら、お兄様に愛されすぎて脇役から主役になりました

美咲アリス
恋愛
目が覚めたら公爵令嬢だった!?貴族に生まれ変わったのはいいけれど、美形兄に殺されるバッドエンドの悪役令嬢なんて絶対困る!!死にたくないなら冷酷非道な兄のヴィクトルと仲良くしなきゃいけないのにヴィクトルは氷のように冷たい男で⋯⋯。「どうしたらいいの?」果たして私の運命は?

処理中です...