来世で会おうと君は言った

詩条夏葵

文字の大きさ
18 / 31

18 衝突

しおりを挟む

「なんで!?」
「なんでって……こんなおじさんと来るよりも、小学生同士の方が盛り上がるだろ。今の親御さんも大切にした方がいい。おまえのお母さん、オレが命の恩人で、スイミングスクールの先生だからオレが凛音と二人で出かけるといっても反対したりしないが、内心ではけっこう心配してると思うぞ」
「僕は、シュウちゃんと一緒に花火を見たかったからシュウちゃんを誘ったんだよ! 前世の義理で誘ったと思ってるの!?」
 愁はまた、困った顔をする。

「……凛音は、プールで溺れた時に、前世の記憶が戻ったんだよな?」
「そうだけど……」
「それまでは、オレ以外に大切なものがあって、幸せに暮らしていたんだろう?」
 諭すような口調。
「…………」
 間違いじゃない。平凡だけど、それなりに幸せな人生を六年間送ってきた。
 だけど、それがなんだっていうのだ。

「記憶が戻ってくれたのは嬉しい。でも、凛音には、黒崎凛音としての新しい人生がある。前世の記憶や、関係性に縛られなくてもいいんだ」
 凛音は思わず立ち上がった。
 とっくに空になって足元に置いていたかき氷のカップが転がる。

「シュウちゃん、レイチェルと付き合ってたんだよね?」
 立ち上がったことで愁よりも目線が高くなった凛音は、ずいぶんと大きく成長した前世の幼なじみを見下ろしながら、震える声で問いかけた。

「……そうだが、もう昔の話だ。あいつとはなんでもない」
「別れたのは、リンネの死を引きずってたから?」
「……ああ」
「でも、もうリンネが生き返って罪悪感も薄くなったから、シュウちゃんだって新しい人生を歩んでいいってことだよね?」
「…………」
 
 いきなり言い合いを始めた大学生と小学生を、周囲にいた人たちが『なになに?』と言わんばかりに振り返ってくるが、みんな花火の打ち上げ時間を目前に控えて浮足立っているので、すぐに隣にいる仲間との会話に戻っていってしまう。

「レイチェルとじゃなくても……誰かと、この先、付き合ったりすることもあるかもしれない。たとえば十年後には結婚してるかもしれないってことだよね?」
「それは……わからない」
「僕も……女の子か、男の子か、誰かわからないけど、シュウちゃん以外の人のことを好きになってもいいってことだよね?」
「それは凛音の自由だ」
「……僕とシュウちゃんが付き合うかもしれない可能性は、どれぐらいあるの?」
「……凛音?」

「忘れなければそれでいい、なんて思えないよ。せっかく再会したんだよ? 前世じゃできなかったこと、僕としようよ! 僕と付き合ってよ……!」
 勢いよく言葉を吐き出したあとで、はぁはぁと呼吸が乱れる。
 花火前でにぎわう周囲のざわめきが、ほんの少し、大きくなった気がした。

 呆然と凛音の言葉を受け止めていた愁だが、我に返ると、あわてて立ち上がり、凛音の口元を押さえきた。

「場所、変えるぞ。いいか?」
「うん……」
 至近距離から小声で囁かれて、ドキリとする。

 愁はかき氷のカップをきちんと回収してから、凛音の手を引いて歩き出した。
 こんな時まで真面目なんてシュウちゃんらしいな、とこっそり思う。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

離婚を望む悪女は、冷酷夫の執愛から逃げられない

柴田はつみ
恋愛
目が覚めた瞬間、そこは自分が読み終えたばかりの恋愛小説の世界だった——しかも転生したのは、後に夫カルロスに殺される悪女・アイリス。 バッドエンドを避けるため、アイリスは結婚早々に離婚を申し出る。だが、冷たく突き放すカルロスの真意は読めず、街では彼と寄り添う美貌の令嬢カミラの姿が頻繁に目撃され、噂は瞬く間に広まる。 カミラは男心を弄ぶ意地悪な女。わざと二人の関係を深い仲であるかのように吹聴し、アイリスの心をかき乱す。 そんな中、幼馴染クリスが現れ、アイリスを庇い続ける。だがその優しさは、カルロスの嫉妬と誤解を一層深めていき……。 愛しているのに素直になれない夫と、彼を信じられない妻。三角関係が燃え上がる中、アイリスは自分の運命を書き換えるため、最後の選択を迫られる。

【完結】冷酷伯爵ディートリヒは、去った妻を取り戻せない

くろねこ
恋愛
名門伯爵家に政略結婚で嫁いだ、正妻エレノア・リーヴェルト。夫である伯爵ディートリヒ・フォン・アイゼンヴァルトは、 軍務と義務を最優先し、彼女に関心を向けることはなかった。 言葉も、視線も、愛情も与えられない日々。それでも伯爵夫人として尽くし続けたエレノアは、ある一言をきっかけに、静かに伯爵家を去る決意をする。 ――そして初めて、夫は気づく。 自分がどれほど多くのものを、彼女から与えられていたのかを。 一方、エレノアは新たな地でその才覚と人柄を評価され、 「必要とされる存在」として歩き始めていた。 去った妻を想い、今さら後悔する冷酷伯爵。前を向いて生きる正妻令嬢。 これは、失ってから愛に気づいた男と、 二度と戻らないかもしれない夫婦の物語。 ――今さら、遅いのです。

【完結】新皇帝の後宮に献上された姫は、皇帝の寵愛を望まない

ユユ
恋愛
周辺諸国19国を統べるエテルネル帝国の皇帝が崩御し、若い皇子が即位した2年前から従属国が次々と姫や公女、もしくは美女を献上している。 既に帝国の令嬢数人と従属国から18人が後宮で住んでいる。 未だ献上していなかったプロプル王国では、王女である私が仕方なく献上されることになった。 後宮の余った人気のない部屋に押し込まれ、選択を迫られた。 欲の無い王女と、女達の醜い争いに辟易した新皇帝の噛み合わない新生活が始まった。 * 作り話です * そんなに長くしない予定です

【完結】よめかわ

ariya
恋愛
遊び人として名高い貴族・夏基は、不祥事の罰として「醜聞の姫」白川殿と政略結婚することに。 初夜、暗い印象しかなかった姫の顔を初めて見た瞬間――大きな黒目がちな瞳、薄桜色の頬、恥ずかしげに俯く仕草に、夏基は衝撃を受ける。 (可愛すぎる……こんな姫が俺の妻!?) 亡き恋人への想いを捨てきれず、夫を拒む白川殿。 それでも夏基は過去の女たちに別れを告げ、花を贈り、文を重ね、誠心誠意尽くして彼女の心を溶かしていく。 儚くて純粋で、泣き顔さえ愛らしい姫を、夏基はもう手放せない―― 平安貴族の切なく甘い、極上よめかわ恋物語。 ※縦読み推奨です。 ※過去に投稿した小説を加筆修正しました。 ※小説家になろう、カクヨム、NOVELDAYにも投稿しています。

遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。

沼野 花
恋愛
私は、夫にも子供にも選ばれなかった。 その事実だけを抱え、離縁を突きつけ、家を出た。 そこで待っていたのは、最悪の出来事―― けれど同時に、人生の扉がひらく瞬間でもあった。 夫は愛人と共に好きに生きればいい。 今さら「本当に愛していたのは君だ」と言われても、裏切ったあなたを許すことはできない。 でも、子供たちの心だけは、必ず取り戻す。 妻にも母にもなれなかった伯爵夫人イネス。 過去を悔いながらも、愛を手に入れることを決めた彼女が辿り着いた先には――

【完結】孤高の皇帝は冷酷なはずなのに、王妃には甘過ぎです。

朝日みらい
恋愛
異国からやってきた第3王女のアリシアは、帝国の冷徹な皇帝カイゼルの元に王妃として迎えられた。しかし、冷酷な皇帝と呼ばれるカイゼルは周囲に心を許さず、心を閉ざしていた。しかし、アリシアのひたむきさと笑顔が、次第にカイゼルの心を溶かしていき――。

【完結】ジュリアはバツイチ人生を謳歌する

ariya
恋愛
エレン王国の名門貴族・アグリア伯爵家に嫁いだジュリア・アグリア(旧姓ベルティー)。 夫のアベル・アグリア伯爵は、騎士として王妃の護衛任務に没頭し、結婚翌日からほぼ別居状態。 社交界のパーティーでは妻のエスコートを代理人に任せ、父の葬儀にも顔を出さず、事務的な会話と手紙のやり取りだけの日々が続く。 ジュリアは8年間の冷遇に耐え抜いたが、ある朝の食事中、静かに切り出す。 「私たち、離婚しましょう」 アベルは絶句するが、ジュリアは淡々と不満を告げる。 どれも自分のしでかしたことにアベルは頭を抱える。 彼女はすでに離婚届と慰謝料の用意を済ませ、夫の仕事に理解を示さなかった「有責妻」として後腐れなく別れるつもりだった。 アベルは内心で反発しつつも、ジュリアの決意の固さに渋々サイン。 こうしてジュリア・アグリアは、伯爵夫人としての全てを置き去りにし、バツイチ人生を開始する。

愛人を選んだ夫を捨てたら、元婚約者の公爵に捕まりました

由香
恋愛
伯爵夫人リュシエンヌは、夫が公然と愛人を囲う結婚生活を送っていた。 尽くしても感謝されず、妻としての役割だけを求められる日々。 けれど彼女は、泣きわめくことも縋ることもなく、静かに離婚を選ぶ。 そうして“捨てられた妻”になったはずの彼女の前に現れたのは、かつて婚約していた元婚約者――冷静沈着で有能な公爵セドリックだった。 再会とともに始まるのは、彼女の価値を正しく理解し、決して手放さない男による溺愛の日々。 一方、彼女を失った元夫は、妻が担っていたすべてを失い、社会的にも転落していく。 “尽くすだけの妻”から、“選ばれ、守られる女性”へ。 静かに離婚しただけなのに、 なぜか元婚約者の公爵に捕まりました。

処理中です...