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ここは異世界 3
しおりを挟む「あの…… 魔石を売りたいんですが」
「はい、ここに出していただけますか?」
恐る恐る冒険者ギルドに入ってきたトムは、初めて見るギルドの建物に怖気づいた。
如何にも冒険者といった風情な人々。武具や防具。中にはローブや軍服みたいな格好もあり、THE異世界といった空間にトムは眼を見張る。
……この街には滅多にこないし。村は地球のと変わらなかったしなぁ。
村から歩いて二時間ほどの場所だが、治安があまりよろしくなく、父親と一緒でない時に来ては駄目だと言われていたのだ。
お上りさん丸出してカウンターに向かったトムは、魔石の買い取りを申し入れる。
快く応じてくれたお兄さんは、トムの出した魔石を見てムンクのような顔をした。そして今にも叫びだしそうな己の口を片手で押さえ、空いた片手で横にあった手拭いをバッと魔石にかける。
……なになに、どうしたの? この人、何か悪い病気なんじゃ?
心配げなトムの視界の中で、しばらくヒューヒュー過呼吸のように喘いでいたお兄さんは、何度か深呼吸をして無理やり息を落ち着けると、凄い眼差しでトムを睨みつけてきた。
そこに悪意とかはなく、鋭くはあれど、驚愕と猜疑の入り交じる複雑な視線。
「……これを、どこで?」
「え……と。僕のスキルです」
「スキル?」
訝しげに眉を寄せるお兄さん。そんな彼に、トムは自分の賜った《珠玉》のスキルのことを説明する。
「ふうぅむ。まあ、たしかに。色からして、普通の魔石じゃないしな」
「色?」
「そう。完全な無色透明だろ? これはあり得ない色なんだ」
そう言い、今度はお兄さんがトムに説明してくれた。
魔石とは魔物から取れる石の総称で、透明なモノもあれば不透明なモノもある。形も様々で、これといった決まった法則はない。
「それじゃ、ちょっと変わった石を魔石と偽って持ち込む奴もいたりするんじゃ?」
「それは無理。触ればすぐに分かるからね。子供でもやらない悪戯だよ」
そうして続いたお兄さんの話では、魔石はその名の通り魔力を含んだ石だ。その魔力を鑑定してお金に換算するため、魔力を含まない石ころを持ち込んでも騙せない。
なるほどと、トムは初めて聞く話に興味津々。
「……で、最初の話に戻るんだけど、魔力の属性や濃さによって魔石の色や形は千差万別。無色透明ってはあり得ないんだよ」
「あ……」
……そうか、そういうことか。
属性が焔なら赤、水なら蒼といった感じに、何かしらの色が浮かぶらしい。一番透明度があるのは、光属性や聖属性だが、こちらでもお陽様のような淡い光色になるのだとか。
「……でも、これは魔石だ。なんの属性かは分からないけど、凄く濃い魔力を感じる。《珠玉》のスキルだっけ? それで得たモノを貯めていたら、こうなった? 間違いない?」
「はい…… 僕もびっくりして…… 半分、日課で忘れてたくらいで」
「なるほどねぇ…… で、これを売りたいと?」
「うん…… お父ちゃんが事故で大怪我しちゃったんだ。それで、貯めてた魔石のこと思いだして、売ろうと……」
「そうか…… 待っててな、これは俺の手に余るんで、ギルマスに聞いてくるから」
そういうと、男性はトムの魔石を持って二階に上がっていく。それをぼんやりと見上げながら、トムは《珠玉》で得る魔石のことを考えていた。
……無色透明。あり得ない色の魔石。
すごく嫌な予感がするトム。
そしてそういった悪い予感は大抵当たるのだ。どこの世界も、世は世知辛い。
しばらくするとけたたましい足音が鳴り響き、熊のようにガタイの良い男が現れた。
そしてキョロキョロ辺りを見渡し、トムを見つけると鼻息も荒く迫ってくる。
「おいっ! お前の持ち込んだ魔石、あれはなんだっ?!」
「僕のスキルの魔石です……」
「《珠玉》のスキルは知っているっ! だが、もっとちんまい魔石しか出ないはずだっ!!」
ただでさえモサモサで山嵐みたいな髪を、さらに逆立て怒鳴る大男にトムは怯える。
「僕にだってわかりません、貯め込んでいたら、ああなってたんですっ!」
負けじと言い返すトムを見て、熊のような男性は大仰に鼻白んだ。
「デタラメをいうなっ! 出処も怪しい魔石は買い取れんっ! 正直に言えっ!!」
怒鳴られまくられているうちに、トムは静かな怒りがふつふつと湧いてくる。
自分は嘘をついていない。どうしてああなったのか、こちらが聞きたいくらいだ。なのになぜ責め立てられられなくてはならないのかっ!!…と。
「もう良い……っ! 返してっ! 他で売るからっ!」
今度は熊男の方が、ぎょっと顔を強張らせる。
なにも、売るのは冒険者ギルドでなくてはならないわけではない。ここが一番魔石を必要としており、公正に買い取ってくれると聞いたからトムは来ただけだ。
他でも買ってくれるところはある。足元を見られるかもしれないが、こんな悪し様に疑われるよりは、よっぽどマシだとトムは思った。
「怪しすぎて返せないな。返して欲しいなら正直に出処を話せっ!!」
「そんなの、泥棒じゃないかっ!!」
半泣きでトムが叫ぶと、周りに居た冒険者達が、ざわっとどよめいた。
「お……っ、おまっ! 人聞きの悪い……っ!」
「人のモノを奪って返さないのは泥棒だろうっ! 強盗と同じだっ! 違うのかっ!!」
自分の半分くらいしかない子供を泣かせる大男。
さらにざわざわしだした冒険者らに冷たい眼差しを向けられ、あらかさまに狼狽えだした熊男だが、トムは一杯一杯で、そんなモノ見えてはいない。
泣きながら全身を小刻みに震わせるトム。もう止まらない。こんな理不尽な言いがかりは我慢がならなかった。
悔しさと怒りで、えぐえぐ涙を拭う少年に、誰かがハンカチを貸してくれる。
それはカウンターで魔石を預かってくれた男性。彼は辛辣な眼差しを熊男に向け、トムに小さな革袋を渡した。
「ギルマスが、ごめんな。直情型の脳筋なんだよ。一応、あの魔石は預からせてくれないか? あらためて査定して、後日君の所に連絡を入れるから。これは預かり代ね。返さなくて良いよ」
にっこり笑う男性から受け取った袋の中身を確認し、思わずトムは涙が引っ込んだ。
そこには煌めく黄金色の硬貨がぎっしりと詰まっている。ざっと見、三十枚はありそうだった。
……うわあっ、すごいっ!!
満面の笑顔を煌めかせ、トムは拝むように男性を見上げた。
「ありがとうっ!」
泣き止んだトムに微笑み、男性は連絡先を尋ねた。それに快く応じ、トムは何度も頭を下げてギルドを後にする。
そんな少年の後ろ姿を見送りつつ、男性は低い声音で呟いた。
「ギルマスぅぅ、あんた、阿呆ぅか?」
「あ……、いや、だってなあ?」
「だってなあじゃないわぁぁーっ! 子供怯えさせてどうすんだっ! しかもキレてたじゃないかっ! ギルドの心象最悪だぞっ、ごらあぁぁーっ!」
この先、貴重な魔石を納品するかもしれない人物に嫌われ、猜疑心を持たせた馬鹿野郎様は、こってりと副ギルマスに絞られて涙目だった。
そんなこととは露知らず、トムは穏やかで物わかりの良いカウンターの男性に好感を抱く。
……あの人なら悪いようにはしない気がするな。良かった、これだけあれば、父ちゃんをゆっくり養生させてやれるよ。
こうして、トムの新たな暮らしが始まった。
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