珠玉の欠片 〜塵も積もれば山となる〜

一 千之助

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 ここは異世界 2

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「おおーい、トムっ」

「お、カイル、どうした?」

 息せき切って駆けてきたのは幼馴染みのカイル。茶色で固めな短い髪に赤いバンダナがトレードマークの男の子だ。
 黒髪黒目なトムは、色素の薄いカイルの髪が羨ましかった。

 ……父ちゃんも、死んだ母ちゃんも茶髪なのに、なんで俺だけ?

 父親の話によれば、母方の祖母が黒髪だったらしい。つまり隔世遺伝。ピンポイントで孫に跳ね返ってきた劣性遺伝子のはっちゃけである。
 頑張り過ぎな祖母の遺伝子を毒づきつつ、トムは仕事の手を止めてカイルを見た。

「き……昨日、洗礼式だったんだろ? スキル、何もらったんだ?」

「ああ、《珠玉》だってさ」

「しゅぎょく……?」

 パチクリと眼を瞬かせる友人に、トムは思わず笑った。



「ユニークスキルっ? すっげぇっ!」

「全然だよ。一日一つ魔石がもらえるだけだもの。まあ、毎日銅貨五枚が手に入ると思えば悪くはないけど」

「……ああ、そういう。でも、たしかに悪くないよな。銅貨五枚っていったら、芋洗い三籠分だ。二時間はかかるもんな」

 ……そう考えたら、この世界の時給は二百五十円? めっちゃ安くねぇ?

 だが、五百円で豪勢な食事が出来ることを考えたら、物価は比較的安い。トントンなのかもしれないと、トムは子供らしくないことを考えた。
 下手に地球人だった記憶や知識があるため、何となく無意識に価値観を比べてしまうトム。
 アトロスの文明は低くない。発展途上ではあるが、植物紙やインクも存在するし、安くはないけど手が届かないほど高くもない。
 香辛料も充実していて、トムの家の食卓には胡椒やタバスコがある。その名称も地球と変わらない。
 トムが転生者なことを考えると、そのように分かりやすく翻訳されている可能性もあったが、享年七歳の子供には気付けなかった。

 休憩を兼ねて丘に座り、カイルとだべっていたトムは、そのカイルの手が自分の手に重ねられているのに違和感を持たない。
 その手が指を絡めて動き出して、初めて気を持っていかれる。

「……その。お前が仕事を持てなくても、俺が頑張るから。……な?」

 赤らんだ頬に潤んだ瞳。

 ……こういうとこは地球と違うよなあ。

 アトロスでは同性婚が許されている。いや、むしろ推奨されていた。
 ここは地球同様人口過多な世界で、跡継ぎ以外の異性婚は許されていないのだ。ゆえに二人目以降の子供達は、同性を結婚相手に選ぶ。

 増やすのは比較的簡単だが、意図的に減らすのは難しいからな。……とは、トムの父親の言。
 跡継ぎの以外の異性婚は、出生率により限られた人間にだけ許可が出るらしい。たとえば、大きな功績を残し、国に貢献した人間とかに。

 前世で七歳だったトムは異性とどうのとかいうのもよく分からない。病気で寝たきりだったし、知識の殆どはネットや本によるものだ。
 だから、この世界の同性婚とやらにも忌避感とかはなかった。そういう常識なのだ。そういうものとしか思わない。
 そんなトムに、カイルは気持ちを寄せてくれている。それは幼いトムにも伝わった。

「ん…… ありがとう、カイル」

「絶対だっ! 絶対に俺、兵士になるからっ!」

 カイルのスキルは《剛腕》。これは武器を扱う者に必須といわれている。
 彼の父親は木樵でカイルにも木樵になって欲しかったみたいだが、男の子は夢を見るものだと、息子の夢を応援してくれていた。
 国防にかかわる騎士ほどではないが、治安を守る兵士の実入りも良い。
 トムを嫁に迎えたいカイルは、少しでも収入の高い仕事に就きたいのだと熱く語った。
 その気持ちが面映ゆく、トムも応援すると微笑んだ。

 おままごとの様な二人の可愛らしい関係。

 それを大人達も微笑ましく見つめてくれる。

 これが壊されたのは三年後。

 トムの父親が事故に遭い、片腕を失ったことが原因だった。





「父ちゃんっ!!」

 村の人の知らせを受けて、トムは父親が働く石材所に駆け込んだ。

「おーぅ…… すまんな」

 力なく笑う父親。その右手は、二の腕の半ばから失われている。
 慌てて飛びついたトムを抱き締め、父親は何かを堪えるように震えた。

「……すまん。しばらく仕事が出来そうにない」

 それは、これからの貧困を意味する。

 アトロスに福祉はない。個人の収入頼りだ。それが無くなれば、あっという間に貧困に陥る。小刻みに震える父親が醸す底なしの罪悪感。
 それを敏感に感じ取り、トムはあえて明るく応えた。

「だーいじょうぶっ! 俺には《珠玉》のスキルがあるんだ。父ちゃんと二人ぐらい食べていけるさ」

 嘘ではない。節約につとめ、質素な食事を心がければ一日銅貨五枚でも食べていける。足りない分は、トムが森や街で稼いでくれば良いのだ。
 冒険者ギルドにも、子供に出来そうな雑用の募集があったりするし、暮らすだけなら何とかなる。
 前世では早世して両親を哀しませた。今世こそ親孝行しなくてはと、トムは父親に明るく笑って見せた。

「そうだっ! 洗礼式からずっと魔石貯めてたんだった。千個はあるはずだから、半年くらいは大丈夫だよ」

「ああ、そういや、そんなんもあったな」

 具体的な見通しがたち、父親の顔にも安堵が浮かぶ。

 ……備え有れば憂い無しだよなあ。こんなことを予想して貯めてたわけじゃないけど、助かった。

 売れば大銀貨十枚にはなろう。父親の収入半年分だ。ゆっくり養生してもらい、新たな暮らしをたてるのに十分な資金。

 だが、我が家に取って返したトムは、壺の中を覗き込んで絶句する。
 そこには厳かな輝きを放つ大きな魔石があったからだ。両手で抱えなくてはならないような大きさの。

 ……なんだ、これ。

 ちりん……っと音が聞こえそうなほど荘厳な煌めきを放つ魔石。

 お金が必要なトムは、魔石を冒険者ギルドに持ち込んだ。それが後の大騒動になるとも知らずに。
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