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ここは異世界 5
しおりを挟む「あれ? カイル? ダレスも。どうしたの?」
「おう、トム」
「あ……っ、トム、おかえり」
ダレスの腕にしがみつき、ぶんぶん振られるカイル。まるで、某ダッ○ちゃんのようだ。
思わず軽く噴き出し、トムはダレスに駆け寄った。それに困り顔のダレスが今の状況を説明する。
「いやさ。今回、イチゴが手に入ったんだよ。そうしたらカイルの奴が譲ってくれって煩くて」
「イチゴっ? うわあ…… 良いなあ」
うっとり頬を緩め、くんくんとトムは籠の匂いを嗅ぐ。
……あ、マジだ。それに他にも…… 桃かな? いい匂い。
これも村のダンジョンの有名品。
プラムや杏に似ているが、イチゴ同様こちらも巨大な果実。地球でいう白桃だ。トムも病院で果物はよく食べた記憶がある。
「桃もあるんだね? う~……」
……今なら買えるけど。……贅沢かなぁ? 父ちゃんのためにも節約しないとだし。……でも、滅多に出ない戦利品だよねっ? 買いたいっ!
何かを思案するように俯くトム。
それを見てダレスは、ああ……とばかりにカイルを見下ろした。可愛い一番弟子は、思案するトムを見つめながら切なそうに眉を寄せている。
そこには、まだ年若くも一端の男の顔があった。自分が庇護すべき者を労りたいという顔が。
カイルももうすぐ十二歳だ。十五を成人とするアトロスでは立派な働き手。色めいたことに目覚めるあたりである。
……そういうね。ふ~ん。これが欲しい理由はトムか。
にやにやと人の悪い笑みを浮かべ、ダレスは仲間の背負う籠をゴソゴソと漁くった。
「お、おいっ! ダレスっ? まさか……っ!」
そのまさかだった。ダレスは二粒のイチゴと桃を取り出し、未だに腕にしがみついているカイルに差し出す。
「仕方ないな。出世払いで譲ってやるよ」
「マジっ? ありがとう、ダレスっ!」
「師匠だ、ほらよ」
渡されたイチゴと桃を見て、きゃあきゃあはしゃぐ子供達。子供の喜ぶ姿は万国共通の和みである。
ペコペコ頭を下げながら、いつもの丘を駆け上がっていく二人を見送り、ダレス達は街に向かうべく村を出ていった。
「……あんたの取り分から引くよ?」
斥候役のショーンが忌々しげにダレスを睨む。
軽鎧にフードつきのケープ姿。索敵中心の彼は帰りのポーターも兼ねていて、勝手に戦利品を持っていかれたのが気に食わないようだ。
ダレスより頭一つ分小さいショーンの拗ねた様子に、ダレスは苦笑いで頷く。
「まあ、しゃーない。アレは弟みたいなもんだしな。その恋路を応援してやりたいじゃないか」
「……ムカつく。子供のくせに。俺だって、可愛い恋人が欲しいっ!!」
若者の正直な胸の内。それを聞いた魔術師のサマンサが、恋人のレナに寄り添いながら面白そうに笑った。レナは射手だ。すらりと伸びた手脚に長身長。女性だが、ショーンより頭半分高い。
「ふはっ! そうだね、じゃあ今回のは小さな恋物語に御祝儀ってことで」
「良いな……」
可愛い恋人の髪にキスを落としながら、レナも頷いてくれる。
「……っかあぁぁっ! どこもかしこも桃色吐息かよっ! ちくしょーっ!!」
「お? 俺だって恋人募集中だぞ?」
「あんたは剣が恋人だろうがっ! 武具に湯水のごとく貢ぐ奴なんざ、誰も相手にしねぇよっ!」
違いない。……と、ケラケラ笑うダレスと仲間達。
そんな彼らが村を出て、街道に差し掛かっていた頃。
トムとカイルは仲良く桃を食べていた。
「美味いな。すっげぇ瑞々しくて…… おっと」
口の端から垂れた雫を指で掬って舐め取り、カイルはトムに残りの桃を渡す。
それを受け取り、感無量の面持ちで食べるトム。如何にも至福というその顔に、カイルは見入っていた。……いや、魅入られていた。
村でも珍しい黒髪黒目。柔らかくサラサラなそれは、紐で結んでもすぐに解けてしまうと、トムの悩みのタネだったが、カイルは大好きである。
手入れの行き届いた髪は、触っていて気持ち良く、ついついカイルは撫でたり掻き回したりしてしまう。
今も、トムの髪を指の間に通して楽しんでいた。
二人の年齢差は三つ。来年十二になるカイルは、本格的に仕事を始める年齢である。この土地の領都で兵士の試験を受ける予定だった。
それもこれも、可愛いトムのため。
子供の嫁ぎ先は親が決める。提示された結納金やこれからの収入が重視されるので、トムが年頃になった頃、誰よりも高い結納金を用意したいカイル。
トムが侮られないよう、とびっきりの衣装や御道具も作ってやりたいとか、カイルの未来妄想はトム一色。
そんな邪な妄想をされているとも知らず、トムは幸せそうに桃をシャクシャクしていた。
年齢の割に小さなトム。線も細く、カイルと一緒にダレスから剣を教わったりもしたが、結局素振り三十回もやらないうちにヘタレた。
その悔しそうな顔や荒らいだ息遣いにすらカイルは胸を掴まれる。そういった自覚もないのに、小さなトムに色香を感じる男の性。
……めっちゃ可愛ええ。良いんだよ、トムは剣なんか使えなくても。そこに居てくれるだけで良いんだから。うん。
その分、自分が強くなろうと、カイルは稽古に打ち込む。鬼気迫るカイルの気迫を満足気に眺め、ダレスがトムにも声をかけた。
良かれと思いダレスがした提案は、しばらく後にカイルを悶々とさせる。
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