The ミリオネア 〜億万長者を創る方法〜

一 千之助

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 お題 初売買

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《所持金、二人合わせて千八百万あります。一人なら解放出来ますよ? もちろん、相手の同意が必要ですがぁ? どうなさいますかぁ?》

 ブギーマンの粋なはからい。これでどちらかは助かるかもしれない。

「俺だっ! 俺を解放してくれっ!」

《千鶴氏? よろしいですか?》

「嫌よ。こんな男にくれてやるくらいなら、溝に棄てるわ」

《ですよねぇ~♪ では、最下位&身代金不足で、全額没収!! お二方は奴隷として売りに出させていただきますっ♪》

 うおおおおおっっと観客らから歓声が飛び交う。
 ヴィジョンの中の男は口汚く女性を罵り、千鶴と呼ばれた女性は無言で男を無視していた。

 それを見つめて毅が呟く。

「円香..... お金減らしても良い?」

「ふ? うん、毅の好きして?」

「ありがと」

 毅は宙を睨み付け、声高に叫んだ。

「ブギーマン、俺らが投げ銭するのは有りかっ?!」

《..........これはまた。いつも規格外な申し出ばかりしてきますねぇ、毅氏は。答えはNoです♪》

「なんでっ? 儲けになるなら何でも良いんじゃないのかっ?!」

《その通りです。しかし、それを許せば、貴方、奴隷全員にやるでしょう? そんなことされたらゲームに緊張感がなくなってしまうじゃないですか。御了承くださいませ♪》

 ぐうの音も出ない正論。

 しかし、そこで最下位になった千鶴が叫んだ。

「では、自分を売りに出すのは可能でしょうか?」

《ほお? なるほど、そう来ましたか。最下位は確定していますので、所持金は没収になります。貴女、無一文ですよ?》

「どなたか、私を五百万で買って下さいっ!」

 五百万は大金だ。大抵の奴隷達は身代金になる程度しか所持金がない。五百万も出したら、来週には買った人間が最下位になりかねないのだ。
 しかも、三人になれば投げ銭も三分割される。割に合わない売買である。

 ある一人を除けば。

「買った!! 五百万で彼女を買い受けるっ!!」

 毅が大きく手を挙げる。

 起死回生の一手。

 千鶴は自ら自分の命を掬い上げた。

《オーケイ。それは却下出来ませんね。売買は有効ですから。千鶴氏、お見事でした♪》

 黒服らが千鶴から手を放し、仁志だけを引きずっていく。

「千鶴っ、お前っ! 一人だけ助かる気かっ!!」

「当たり前でしょ? あんたに蝋燭で炙られた事、一生忘れないわ。地獄に落ちろっ!」

 ぐっと親指を下げるジェスチャー。

 千鶴のソレに、観客らがわっと歓声を上げた。

 どうやら、あの男は千鶴を酷く虐待していたらしい。

 二人に何があったのかは分からない。しかし、もし千鶴とあの男性が良好な関係であれば、ひょっとしたら男性を解放し、千鶴を買い取るといった両者救える未来があったのかもしれない。

 考えても仕方のない事だ。

 二人に足りない金額を投げ銭するならば、千鶴に五百万、男性に一千万必要だった。
 ある意味、千鶴は適価で己を売りに出したことになる。皮肉なものだ。

「彼女の分を稼いだら、のらりくらりとゲームを続けていこう。最下位になっても良いさ。身代金分さえあれば。ね?」

「うん♪」

 しかし、毅は気がついていなかった。

 これを狂気の眼差しで見つめている者らがいる事を。

 彼女達は気づいてしまったのだ。己を売れる事に。

「私も自分を売って良いですかっ?」

「私もっ!!」

《.....これはこれは。売るのは構いませんが、買い手があってもなくても、その金額は没収されますよ? お分かりですか?》

 そう、売買で提示された金額は、全て主催に没収される。
 相手が拒否して無効にならない限り。
 己を売ると言うことは、拒否する相手がいない。無効にはならないのだ。

「馬鹿言えっ! 俺はどうなるんだっ!!」

 以前、毅に絡んできたチャラ男だ。名乗りをあげた彼女は、あの男のパートナーらしい。

「知ったこっちゃないわっ! 毎日毎日、人に中出ししやがってっ!! 孕んだらどうすんのさっ!! ブギーマンにおろしてもらえば良い? ふざけんじゃないわよっ!!」

 これまた非常に悪辣な男性のようである。
 もう片方も似たようなものみたいで、口汚く罵りあっていた。

《なんともはや..... だから、忠告したのにねぇ。改善されなかったようですね》

 他の奴隷達は改善されたのだろう。一時の万能感に酔って、女性らを虐げていたものの、正気に返ったらしい。
 人間なら誰しも有り得る間違いだ。

「アタシも五百万っ! 毅氏? だっけ? 買ってくださいっ!! この男とゲームを続けるくらいなら、売られた方がマシだっ!!」

「私もっ! もう我慢の限界ですっ!! 所持金一千万ありますっ!! 五百万で買ってくださったら、残りを貴方に差し上げますっ!!」

 つまりはトントンか。彼女らの身代金を稼ぎなおす事を考えれば、はるかにマイナスなのだが、それは既に持っている毅である。

「ふざけんなっっ!! まだ、これから稼ぐんだろうがっ!! こんな上手い話は滅多にないんだからなっ!!」

 なるほど。男性達も身代金分は持っているようだ。ならば話は簡単である。

「了解、二人とも五百万で俺が買おう。ブギーマン、良いな?」

《勿論ですとも。両者と毅氏から合計二千万。こちらも良い儲けになります♪》

 そういう奴だよ、お前は。

 コロコロ笑うブギーマン。

「なあぁぁんだよぅっ!! 身代金払ったら、無一文じゃねぇかっ!! このままショーで稼いで行けば濡れ手で粟だったのにっ!!」

 絶叫するチャラ男に毅は絶句する。

 なんつー思考回路。なるほど、そういう考えも出来る訳な。

 確かに。ここで荒稼ぎすれば、何千万、下手をすれば何億という金になるかもしれない。
 だがそれは、己の命を賭けた綱渡りだ。確証もなく、蒙昧に信じられるモノではない。

 脳味噌イッちゃってんじゃないのか、アイツ。

 パートナーを失った男性らも黒服に拘束され引きずられていく。
 それを唖然と見送る中、ルームが暗転し、ショーは終わりを告げた。





「では、こちらの部屋を連結します。お二人を宜しく御願いしますね、毅君♪」

 ブギーマンに連れてこられた三人の女性。

 一人は茶髪な今時っぽい女の子。名前を萩原薫と名乗った。
 もう一人は長い黒髪に少し切れ長な眼の弥生顔な女性。名前を高坂七海。
 どちらも二十歳すぎな社会人らしい。
 そして加東千鶴。こちらは大学生だとか。

「御世話になります」

「助かったよ、ホントありがとう」

「いきなり売買なんてやって、ご迷惑を御掛けしました」

 深々と頭を下げる三人に、毅は両手を振って慌てた。

「いやっ、ブギーマンが許可してくれたら投げ銭で何とかしようと思っていたし、成り行きだけど、良かったです」

 その言葉に、千鶴が小さく笑った。

「そう。それを聞いて思ったの。五百万なら買ってくれるんじゃないかって。賭けみたいなモノだったけど」

 ああ、と毅は眼を見開いた。

 彼女は何も考えずにした暴挙ではない。千鶴は投げ銭で二人を救おうとした毅の思惑に気付き、自分の所持金で足りない分を逆算して、己の値段を決めたのだ。
 下手に安売りすると別な人間に買われる可能性もある。
 だから、毅にとっては高くないが、他の人間には手を出しづらい値段を設定したのだ。このくらいならば出してもらえるのではないかと言う値段を。

 随分と頭の回る女性だと毅は感心した。

「アタシは、その尻馬に乗ったってことかぁ。まあ良いよね」

「私も同じです。腹に据えかねてましてから」

 ちょっとヤンチャっぽい薫と、おっとり大人しそうな七海。
 三人とも毅から見たら、随分と大人に見える。

「所持金の事ですが、そのままで御願いします。貴女方の身代金は貴女方で稼がねばならないそうなので」

 そう。ブギーマンの説明によると、ショーに出られるパートナーは必ず一人だけ。
 そして得た賞金は、ショーに参加したパートナーと山分けなのだそうだ。
 つまり四分割にするとかは出来ない。
 彼女達とショーに出て稼ぐしかないのだ。

「右の個室をこちらに連結してくれたらしいですから。三人一緒でかまいませんよね?」

 素直に頷く女性達。

「では、女の子らだけで気楽に寛いでください」

 言われて連結された部屋に向かおうとした時、薫が何かに気づいた。

 見慣れた賞金メーター。

「賞金、分割してないの?」

 ポツリと呟かれた言葉に毅達は頷く。

「分割にする意味ないですし。もし、お金が足りなかったら円香優先で解放してもらおうと思ってましたから、分けていませんでした」

「そんなんダメだからねっ! アタシ、毅についていくもんっ!」

 ぷんすかと膨れる円香に、それを苦笑いで見つめる毅。

「.....良いなぁ」

「へ? 何か言いましたか?」

「何でもなーい、お休みね♪」

 軽く手を振って隣室に向かう三人を、毅らは不思議そうな顔で見送った。



「羨ましいわね」

「ホント。仲が良さそうで」

「.....割り込めるかしら?」

 隣で不穏な女子会が開かれているとも知らず、何時もどおり抱き合って眠る毅と円香。


 こうして彼の新たな奴隷調教ライフが始まる。
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