三枚重ねの真実 〜繰り返す後悔〜

一 千之助

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 三枚目のやり直し 3

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「……なんつー。あの外道がっ!!」

 怒りも露わに震えるライル。

 ハルトは全てを話した。

 最初の公爵家没落から、家族全てが奴隷に売り払われ誰も助けられなかったこと。何十年もかけて伝説を辿り、魔女らを見つけて黄泉がえりの秘術をかけてもらったこと。
 そうして繰り返した新たな人生でも結局三人を失い、途方に暮れたこと。しかし生きていたライルに全てを譲れて、満足したこと。

「本当に嬉しかったんだ。君が生きていてくれて。ああ、黄泉がえった甲斐があったなぁって」

 まるで昨日のことのように嬉しい。

 至福の極みといわんばかりなハルトの笑顔。ライルは、それを直視出来なかった。

 ……あの、ありがとうの言葉と微笑みは、そういうことか。

 今になって、過去の自分の愚かさに気づき、殴り飛ばしてやりたいライル。
 こんなにも愛されていたのに、なぜに気づけなかったのか。どうして盗賊の吐き捨てた戯言を信じてしまったのか。
 今のライルの心は後悔で一杯だった。

 しかし、それも致し方ないこと。事故当時、ライルはまだ十二歳の子供だったのだ。今のように人生を繰り返していたわけではない。
 母親と妹の死を目の当たりにし、追い詰められた状況で得た情報に、短絡的な思い込みをしても可怪しくはない。

 羞恥や悔しさが入り混じり、顔を上げられないライルを余所に、ハルトは話を続けた。

 鉱山に送られて奴隷達の慰み者になっていたところにハウゼンが現れた。ハルトを救いたい、自分に助けを求めろと言ってきたこと。
 あえて奴隷達を煽り、折れないハルトを散々苦しめたこと。
 その時、聞いたのだ。なぜに奴が公爵家を狙ったか。ハルトの家族を窮地に立たせて殺そうとしたか。
 ハルトを絶望に突き落とすため、奴は喜々として語った。

「……僕が愛する者は全て消し去りたいらしい。領地の民すらね。自分だけを見ろと。他に眼を向けるなと。……そんなことのために。……君たちは」

 後は言葉にならず、ハルトも俯き、肩を揺らす。小刻みに震える兄を見て、ライルも理解した。前回の黄泉がえりで、なぜハルトがハウゼンと睦まじく恋仲を装っていたのか。
 一番最初に目撃した濡れ場で、なぜハルトがハウゼンに射殺さんばかりな憎悪の視線を向けていたのか。
 兄は全てを知ったうえで、己の身を奴に与えたのだ。家族を害されぬよう。公爵家に手を出さぬよう。
 必死に家族を守ろうとしたハルト。そのやり方は褒められたものではなかったが、少なくともハウゼンの暴走はなかった。
 ハルトが時間を稼いでいてくれたおかげで、いざ事が起きた時も、成長したライルとその仲間達で公爵家の窮地を救えた。
 
 全てはハルトの捨て身な献身のおかげ。

 なのにその時も、自分はハルトを蔑んでいた。ハウゼンみたいな変態を愛するなんて、よっぽどの酔狂だと。

 ……分かっていたのに。ハルトが洗脳されかかってるって知っていたのにっ!! なんで、俺はぁぁーーーっ!!

 前世の疑いを払拭出来ず、兄をケダモノの前に置き去りにした。好きでやってるんだからと、ハルトが嬲りものにされるのを黙認した。
 それが高じて夢遊病のような異常事態が起きるまで気にもしなかった。さらにハルトが行方不明となって、ようよう事の可怪しさに気がついた。
 どこまで愚かだったのかと。そこここに真実の欠片は落ちていたのに、ライルはあえて無視してしまったのだ。

「……僕は鉱山でハウゼンを殺したの。奴は、僕が死ぬなら、その身代わりに君を囚えると言った。……だから。ああっ、……あれで全ては終わったと思ったのに。君を守れたと。なのになぜかまた過去に戻ってしまって。そうなるとハウゼンも生きている。どうしようかと悩んだけど、再び家族を救えるチャンスでもあったから。……あいつが公爵家を狙わないよう、最初からあいつの望むモノを与えたんだ」

「……知ってる。気づいたのは、かなり後だったけど」
 
 ふっと消え入りそうな淡い苦笑を浮べ、兄弟はお互いを見つめる。

「……そうか、黄泉がえりの対価だったんだね、君が死んだのは。僕が再び過去に戻ったのも」

「そうなると今回も誰かが黄泉がえりをしたと考えるべきだろうな。誰か分からないが、助かった。……あの外道をぶち殺してやる」

「駄目だよ、殺るなら僕がするから。どうせ一度殺しているんだ。二度も三度も同じさ」

 そう。前回のハルトは、まだ何もしていないからとハウゼンに情をかけてしまった。その結果、死んだ方がマシという目に合わされたのだ。
 今回もどうしようかと思ったが、ライルが黄泉がえりで過去の記憶を持つというならば重畳。家族や領地を救うためハルトは覚悟を決める。

「……黄泉がえりの対価で、どうせ生命はないものよ。なら華々しく散って、あの碌でなしに一泡吹かせてやるさ」

 にっと陰惨な笑みを深めるハルト。

 か弱く流されてばかりだと思っていた兄の豹変に、ライルは魅入られた。
 三度も悲惨極まりない人生を歩んできたのだ。ハルトはライルの思うような、優しく慈悲深い人間ではなかった。
 家族にだけ激甘なのであり、他には冷淡。ストイックと周りに評されるほどお硬く冷たい人間である。
 ドアマットヒロインもかくやという扱いを受けてきたのだ。そのしぶとさ、狡猾さは超一流。ただ、ハウゼンの奴が何枚も上手のサイコパスだっただけ。
 
 吹っ切ったハルトの清々しい顔は、まるで微風のように甘く柔らかく、思わず魅入られていたライルだが、すぐにハっと我に返った。

「俺が……っ! 俺が殺るってっ! 兄さん、前に殺してるんだろっ? なら次は俺に殺らせろよっ! ずっけぇぞっ!!」

「ずっけぇって…… 人殺しだよ? やりたいの?」

「やりたいに決まってるだろっ? 黄泉がえりしたとはいえ、俺、あいつに母さんとマリーを殺されてるんだっ!! 泣いて叫んで助けを請わせたうえで、五寸刻みにしてやりてぇよっ!!」

 ……えっぐ。

 憤怒にまみれた弟を見て、ハルトは眼を丸くする。外見が子供だからなおさらだ。その激情があまりに生々しい。

「……まあ、そのへんは追々考えようか。今はまだ時間があるし? これで僕も、あの変態に身を任せなくて済むよ」

「……それは、本当にごめん。全力で守るからっ!」

 がばっと土下座したライルを見て、ハルトは途方に暮れた。守ってやりたいとずっと思っていた弟に、守ると言われて少しこそばゆい。

「そっか。大きくなったね、ライル」

 無意識に頭を撫でながら微笑むハルトに、ライルは悪戯心がむくむくと頭をもたげた。

「こっちも立派になりましたが? 試してみる?」

 ちょんちょんと股間を指差す弟に赤面し、ずざざっとハルトはベッドの奥へ後退る。

「ば……っ! 生言ってんじゃないよっ! そういうのは、本気で好きになった相手と、こっそりやりなさいっ!!」

 乙女のような恥じらいを見せる兄に噴き出し、ライルはゲラゲラ笑った。

「ハウゼンやその仲間にあれだけヤられてて、どの口がいうかとっ!」

「あれはーーーっ! ……睦みというより、暴力だから。……うん」

 ハルトの赤らんでいた顔から一瞬で血の気が失せ、翡翠色の瞳が挙動不審に泳ぎだす。

 ……洗脳されかけてんの忘れてたわ。

 それを見咎め、ライルは兄に口づけた。ふわっと見開くハルトの眼。それはもう泳いでおらず、一心に弟を見つめている。
 ちゅっ、ちゅっと軽く唇を啄み、ライルの舌がハルトの口中に潜り込んだ。

「……ぁ、……んふ、……ん」

 くちゅくちゅと濡れた音が響き、ハルトの顔に赤みが差し、潤んだ眼はすがめられ、切なげに睫毛を揺らしている。

 ……やべ。気持ち悦いぞ、これ。

 情緒不安になったハルトを慰めるためにキスをしたライルだが、予想外に可愛い兄の反応が股間を直撃してきて驚いた。
 そしてしばらく深く貪ったあと、そっと口をはずし、にんまり笑う。

「ご馳走さん。上書きな? ハウゼンにされたら言えや。また上書きしてやっから」

「おま……っ! どこでこんなこと覚えてきたのぉぉーーーっ!!」

 ……真っ赤な顔で叫ぶハルトが、めちゃ可愛い。

「……俺、すでに人生二巡してんだけど?」

「あ……」

 ……そこで納得しちゃうのもあざとい。天然か? 天然なのか? ハウゼンに躾けられた養殖なら、俺、泣くぞ?

 無意識に眼を据わらせていくライルと、弟にキスされて慌てふためくハルト。

 益体もないじゃれあいをしつつ、公爵家兄妹の反撃が始まった。
 
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