耽溺の森 〜だから僕らは森から出ない〜

一 千之助

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 それからの森 5

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「新たに見つかったのではなく、捕らえたのだろうっ?! 逃げ出した私の奴隷だっ! 登録もしてあるっ、返したまえよっ!!」

 単体は立場が弱いと聞いたのに、あんな居丈高で大丈夫なのだろうか。

 オロオロと慌てる敦。

 だが少年は知らない。魔術師や錬金術師としてのドゥエルの名は高い。そういった関連の機関は彼の技術や薬を必要としている。特に媚薬関係。
 王侯貴族垂涎の媚薬を作るドゥエルと敵対するのは不味いらしく、受付の人間は渋々彼らを研究室へと案内した。

 そこで敦が見たモノは、隘路にスライムを捩じ込まれて佳がり狂う幼馴染み。産婦人科の診察台のような台に固定され、大きく開かされた彼女の股間で暴れるスライム。
 透明なビニール袋のようなモノでピッチリパウチされているらしいナズナの陽根は、出たり縮んだりを忙しなく繰り返し、その都度、大量の精を吐いていた。
 パウチの袋には管が通っており、それが繋がる大きな瓶へ白濁液を次々送り込んでいる。瓶の中でバシャバシャ踊る液体は、まるで前にテレビで見た牛の搾乳のようだった。
 ナズナをイかせるためだろうか。何人も立ち並ぶ奴隷らしき男らが、彼女のお尻を突き上げている。前も後ろも一杯にして精を搾り取られるだけの少女。
 薬を使われているらしい奴隷らは、低く唸りながら、噴き出す精をナズナに注いでいた。

 それを見物して薄ら笑いを浮かべる半陰陽の人々。

 見るだに悍ましい光景。しかし、それより何より敦の眼を射るのは、四肢のなくなった彼女の切断痕。すでに薬か何かで治癒されているようで、その切断痕は奇麗な皮膚に覆われていた。

「ナズナぁぁっ!!」

 思わず駆け寄る敦を押さえ、ドゥエルが前に出る。

「ソレは私の奴隷だ。返してもらおうか」

 慇懃無礼なドゥエルを据えた眼差しで見つめる研究員らしい人達。シークレットは稀少であるが、結局は家畜の一種だ。精を搾り取るだけのための家畜。愉悦を与え続けて秘薬となる精を放たせる。そのために四肢を落としたのだと知った敦は、力ない己を呪った。

 なんで……? なんで逃げたんだよぅぅ、ナズナぁ……

 本来であれば、これがシークレットの正しい姿なのである。用途に併せて奴隷の身体を刻むなど、彼らにとっては当たり前過ぎて鼻白む。。
 精を搾り取るだけのナズナに手脚は必要ない。むしろ、逃亡を防ぐために落とすのが当然。
 公衆便所の奴隷らの四肢を落とすのも同じ理由。逃亡防止と盗難防止のためだとドゥエルが説明する。四肢のない奴隷は、ただの置物。連れ歩けないし、連れ歩こうものなら非難の的。どこぞの公衆便所を持ってきたのは明白だからだ。笑い者にされるだけなので、四肢のない奴隷には誰も興味を持たない。

 こうして研究、採取用の奴隷も同じ。使い潰す前提の道具に四肢はいらない。手足がない方が何をするにも扱いやすい。至極真っ当でイカれた常識。
 理屈としては理解出来る。物として扱うのなら、暴れたりする長い手脚は邪魔の一言だろう。胴体だけのが扱いやすいに違いない。分かりはするが、あまりの残酷さに敦の頭が沸騰する。

「……脚だけでも私が落としておくべきだったね。すまん。そこまでしなくても良いと思っていたんだ。まさか彼女が逃げ出すなんて想像もしなかったから」

 臍を噛んだドゥエルの呟き。

 彼のせいではない。この世界の有様を自分の目で確認した敦とナズナ。なのに彼女は逃げ出したのだ。ここでの常識からいえば、真綿で包むように接してくれていたドゥエルの元から。
 何を夢見たのかは敦にも分からなくはない。地球人の暢気な思考であれば、稀有な存在は尊重される。そのような夢を思い描いたのだろう。
 だが前提が間違っていた。敦達は、この世界で奴隷なのだ。家畜以下の。どれほど稀少であれど、家畜の扱いなど知れたもの。それがナズナには思い及ばなかった。

「ぅ…… あ……っ…し」

「ナズナっ!」

 胡乱な眼差しで敦を呼ぶ少女。それを見てドゥエルはパチンと指を鳴らし、魔法でナズナを眠らせた。

「来い、ナズナ」

 彼の短い命令。それに従うように、診察台にいたナズナの身体がずりずりと蠢く。四肢を失った肩口や太腿を必死に動かす少女。

「私の奴隷の証明だ。返してもらうぞ」

 意識がなくとも主には従う。その姿を見せつけられ、忌々しげに奥歯を噛み締めながら、研究者らしい人々は渋々ナズナをドゥエルに渡した。

「思い上がるなよ、単体が。貴族に気に入られてなきゃ、お前なんか誰も相手にしないんだからな?」

「やめとけ。元奴隷でもお貴族様のお気に入りだ」

「逃がした方が悪いんだよ。せっかくのシークレットだったのに」

 捨て台詞のようなモノをドゥエルに吐き捨てる研究員達。

 その通りだ。私が悪い。せめて鎖だけでもつけて敦に渡しておくべきだった。

 研究員らに冷めた一瞥を投げかけ、彼は敦と研究所を後にする。
 渡された少女を背負い、敦は声を殺して泣いた。無惨な幼馴染の姿を直視出来ない。
 ぅ…、ぅ……ぅっと嗚咽を上げる少年に、ドゥエルもかける言葉が見つからなかった。

 



「無慈悲なことをいうようだが…… ナズナは安楽死させた方が良い」

 自宅に帰ったドゥエルは、ナズナを檻の寝床へ寝かせる敦に最後通牒を渡す。

「安楽死…って。なんで……?」

 憮然と固まる少年にドゥエルはとつとつと説明した。

 四肢を落とされた奴隷の使い道は公衆便所くらいだ。専任の飼育員がいるならともかく、素人な自分達で正気を失ったナズナの世話は出来ない。正直なところドゥエルにはする義理もない。
 シークレットであれば精を採取するため飼育員がつくだろう。街に置いておくならだ。ドゥエルにはそんな費用をかけてまでナズナを養ういわれはない。

「秘薬は惜しいが、雇う飼育員の給与を天秤にかけると僅かな収入にしかならなくなるんだ。……彼女を街に売り払うのも手だが。その…… 分かるだろう? 奴らはナズナを人間扱いしない」

 ドゥエルはナズナを、同等ではなくとも人間扱いしていた。だから精の採取もナズナが失神するまでと決めている。まあ、それで彼にとって十分な精は得られたから。
 しかし他の人間は違う。街に渡したら、先程のように彼女は延々と精を搾り取られるだろう。この家の比でなく、それこそ眠る間も惜しんで。
 この世界では家畜でしかないナズナ。シークレットは少なくはあれど、まま生まれるらしい。結局は消耗品である。次までの繋ぎな意味しか持たない。そんな家畜に街の人間は容赦などしないとドゥエルは敦に説明する。

「これ以上悲惨な目に合わせたくはないだろう? 私も養えないし、安楽死させて見送ろう?」

 呆然と崩折れる敦。説明を聞けば納得出来る理由だった。ドゥエルに養えない以上、敦には何も出来ない。ドゥエルにすれば街へ売り払った方がお得だ。なのに彼は敦やナズナを慮り、ソレを選択しない。
 けど、ともに転移した幼馴染を、どうしても少年は見捨てられなかった。

「僕が…… 僕が面倒みるからっ!」

「君が? 奴隷としても半端なアツシに、こんな状態の彼女の世話が出来るのかい?」

「するっ! 頑張るから…… だからナズナを助けて?」

 すがるように見上げる少年の悲壮な顔。それに目眩を覚えつつも、惚れた弱みでドゥエルは考えた。
 正直なところドゥエルにとってナズナはどうでも良い存在だ。稀少な秘薬は惜しくあれど、この先の面倒を考えれば、すぱっと処分したい程度の。

 しかし彼女には利用価値がある。突然、それに気づいたドゥエル。

 件の馬車を任せている農家同様、単体なドゥエルが真っ当な半陰陽の飼育員を雇うとなれば、通常の五倍は支払わなければならないのだ。雇われてくれるかも分からない。場合によってはさらに色をつけねばならず、秘薬と天秤にかけてもトントンの収支しか見込めない。

 それでもナズナには価値があると、彼は昏い光を瞳に一閃させる。

「ん~。まあ、一考しなくもないかなぁ? アツシ?」

 柔らかな笑みを浮べ、ドゥエルは前を寛げて己の一物を引き出す。見慣れた彼のモノを見つめる敦の顎を持ち上げ、ドゥエルはその唇をなぞった。

「私の用足に君を使えるなら。専門の飼育員をしばらく雇って、君に世話を学ばせてあげても良い」

 酷く優しげな声に息を呑み、少年は眼を見開く。

「あ……」

 怖じけて流れる敦の冷や汗。それがなだらかな頬の曲線を伝うのを眺めつつ、ドゥエルは少年の葛藤を愉しげに鑑賞した。

 どうだろうか? アツシはナズナのために、己を自分へ差し出せるか?

 この世界のドゥエルには分からないが、排泄関係のアレコレは地球人にとって人の自尊心を踏みにじる行為。敦が持つ最後のボーダーライン。
 今までの生活で何となくそういったモノを感じていたドゥエルは、これを越えさせることが出来るのならナズナには価値があると思った。敦を心の底から愛する彼にとって。人質という価値が。

「私には分からないが、何となく感じてはいたよ? 君等にとって、これはとても辛い仕打ちなのだと。……だからこそ受け入れて欲しい。君の特別に私はなりたい。私のだけだ。私のモノ…… アツシ?」

 ドキドキと胸が早鐘を打つ。アツシがどんな答えを口にするのか、ドゥエルは興奮気味に見守っていた。

「す…る」

「ん?」

 カラカラな喉から絞り出される呟き。それを意地悪げに聞き返して、ドゥエルは敦の歯列を指で割る。その指先は敦の戸惑うような舌を追いかけて捕まえた。

「ひゅる…… へんひょうひなりゅ……」

 彼の指を噛みながら悲痛な顔を真っ赤にさせ、指に邪魔されつつも答える少年。その哀れな姿がドゥエルの劣情を強く煽る。

「違うだろ? 『使って下さい』だ。ここを…… 私に使って欲しいんだろ?」

 自ら専用の便器になると口にする敦を追い詰め、ドゥエルはさらなる屈辱を少年に強いた。

 ナズナを守るため、敦は己を捨てる決意をする。

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