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耽溺の森 4
しおりを挟む「そろそろ産まれる頃だなぁ」
「そうなんですか?」
真ん丸お腹なナズナ。それを背中から抱えて、ドゥエルはガンガン彼女の隘路を突き上げていた。このようにやっていれば出産が早まるとどこかで聞いたらしい。
似たようなことを地球で聞いた覚えがあり、ドゥエルの行為を黙認している敦。……生半かな知識で、知らないとは怖いモノである。
「イくなよ。今は駄目だよ」
そう命令して、ドゥエルが終わると敦に回し、二人は産気づくまでナズナの中を突き上げ掻き回す。ナズナがイけるのは何もせずにドゥエルが命令した場合のみ。
前回の異常事態から彼女が一物を発現させぬよう、ドゥエルは細心の注意を払っていた。
「まあ、秘薬は採れなくなったけど、アツシの子供を産ませるのに使えそうだし。子供が産める間は飼っていても良いかな」
ウキウキと話すドゥエルを呆れたように見つめる敦。
「御主人様の子供でも良くないですか?」
何気に呟いた疑問だが、う~んと首を傾げて、ドゥエルは爆弾発言をかます。
「私は子供出来ない身体なんだよね。ほら、奴隷の経歴あるじゃない? 勝手に番って増えないように、男奴隷は種をなくす処理されるんだよね。言ってなかったっけ?」
思わぬカミングアウトに絶句する少年。
性的遊戯に使われるのが当たり前な奴隷は、男女ともに不妊措置をされるらしい。それも身体を損なうことなく、精子や卵子のみに働く薬剤で。でなくては、満足な遊びに支障をきたすからだ。
一物を大きくするため、遊びで針を穿たれたとかいうのにも驚いたが、とことん奴隷を人扱いしない世界である。
そんな壮絶な過去もどこ吹く風。ドゥエルは、だからこそアツシの子供が出来て嬉しいと満面の笑みを浮かべた。
「私は子供も出来ないし、男色だし、家族とかって諦めていたんだよね。ふふ、心底嬉しい。今の状態が」
実際は、欲しいとも思っていなかったドゥエル。なぜなら彼は自身の親に売られたのだ。仕方なかったと思う反面、そんなモノ要らないとも思っていた。敦に逢うまでは。
そんなドゥエルの刹那的思考も知らず、敦はご機嫌な彼を微笑ましく見つめる。
なるほど。奴隷とはいえ家人には違いない。それに子供がいれば賑やかになるだろう。
「安心して? 私の子供として登録すれば自由民権を得られる。奴隷にされることはないから。……表向きはね」
「表向き?」
「なかには人身売買の人拐いもいるんだよ。問答無用なね。これに対抗出来るよう強く育てないと」
前に聞いた、ドゥエルが森の奥深くに隠れ住む原因。
いくら貴族らと懇意にしていたところで、それより上の身分の者もいる。中世観が蔓延るティモシーでは上下関係が厳しく、上の者に下の者は逆らえない。その底辺たる奴隷が家畜扱いされるのも、そのためだ。
だから万一を考え、基本的にドゥエルは森から出ない。彼と取り引きをした貴族は完全にドゥエルの存在を隠蔽している。彼の作る媚薬で得られる富と名声を己のモノとするために。
まあ、知る人ぞ知る公然の秘密に違い
それでも腕の良いドゥエルの薬品は、媚薬でなくとも飛ぶように売れた。貴族の後ろ盾があるため、販売に困ることもない。街でも重宝されている。
だが不埒者はどこにでもいるのだ。貴族の眼をかすめて、彼を拉致しようと考える者も。
そんな物騒な事情は口にしないドゥエル。しかし、そういう現実もあるのだと、敦に釘を刺すのは忘れない。
そうだった……… そんなんもいるんだよな、この世界。
敦は、ぞっと背筋を凍らせた。つくづく、自分達は幸運だったのだと心に染みる。
そんなアレコレを思いつつ日々が過ぎ、しばらくして産気づいたナズナは双子を産んだ。
「えらくデカい腹だと思ってたら、双子かぁ」
「ひー、ちっさいっ! これ、育つのかなぁ?」
二人でナズナの乳を赤子に含ませながら、こわごわ見守る。しわくちゃで小さな赤子は、必死に彼女の乳を吸っていた。しかし、なぜか泣き止まない。
「……出が悪い?」
「さあ? 分からないけど………」
どれだけ含ませてやっても、ひよひよ鳴く子供達。ドゥエルが用意していてくれた子供用のスモックをバタつかせて、かれこれ三日、一日中泣いている。
「どっか悪いのかもしらん。ちよっと街で調べてくるよ」
「うん、お願い」
出かけるドゥエルを見送り、敦は途方に暮れた。
初めての子育てだ。しかも母親は達磨女。抱くこともあやすも出来ない。赤子も敦達に何も伝えられない。
何がどうして泣いているのだろう。敦には全く分からなかった。双子を抱えて敦こそが泣きたくなる。
「泣かないでよぅぅ…… オムツ? 濡れてないよね? 御乳? 足りないの? 出てないの?」
ふぐふぐ啜り泣きながら、敦はナズナの元へ赤子を運んだ。そして、はっと思い出す。
前に流し読みしたネット知識や、学校で習った保健体育の授業を。
「たしか……母乳マッサージとかあるんだよな。それしないと出ないのかも?」
うろ覚えな知識をサルベージしつつ、マッサージというからには揉むのだろうと、敦はナズナの乳房を揉んだ。そして今までと違う妙な違和感に少年は気がついた。
「かった…… なんだこれ。ガチガチじゃん」
血管が浮きそうなほど硬く強張った乳房。こんなんでは、出るものも出ないだろうと敦だって思う。
「なるる。だからマッサージがいるのか」
全体を解すように揉みながら、敦は丁寧に乳首を摘んだ。根本から先端まで何度も揉みほぐしていると、少年の指先が何かで湿っていく。
よくよく見れば、ナズナの乳首からポタポタと乳が零れていた。それはしだいに勢いを増し、次にはパタタタっと彼女の腹を濡らしていく。
「もったいなっ! ほら、お前らっ! 御飯だぞっ!」
慌てて子供らを乳房に吸い付かせ、それを支える敦。彼の視界の中で、赤子は嬉しそうにコクコクと御乳を飲んでいた。今までとは違う吸い付きっぷりに、少年は心の底から安堵する。
……良かった。知ってて良かったよぉぉぉ。
溜まっていた不安や恐怖が堰を切り、敦はポロポロと泣き出した。
……怖かった。このままじゃ、子供らが死んじゃうんじゃないかと。良かった。本当に良かった。
たんまり御乳をいただき、満足げに泣き止んだ赤子と交代で泣き出した敦。急いで帰ってきたドゥエルは、その光景を見てしばし絶句する。
「そうか、お手柄だったなアツシ」
彼が街で仕入れてきた情報も似たようなモノだったようだ。初産は乳の出が悪いこともあり、子供らには砂糖水やヤギの乳などを与えて乗り切るや、母乳マッサージで刺激すると乳の出が良くなるなど。
『赤ん坊はけっこう丈夫よ? ちゃんと数日分のお弁当を抱えて生まれてきてるから、しばらくは水分だけでも大丈夫』
前に薬を売りに行った雑貨屋で、そう背中を叩かれたらしい。
ドゥエルも知らなかったが、半陰陽の彼女は経産婦だった。ティモシーの人々の寿命は二百年を越え、最初の百年程は子育てに没頭するものなのだとか。あとの余生は自分の物。夫婦という概念もなく、無差別に思う存分楽しみ、孕めば産むのが当たり前。十数人の子供を育てるのも普通で、彼女はベテランの親だった。
ちなみに人によっては奴隷と同じく避妊処置をし、残りの人生を爛れた日々で満喫する者も少なくないという。最後を看取ってくれる最愛に出逢えることを夢見て。
ドゥエルが腕の良い魔術師であるがゆえに陥った罠だ。付け焼き刃な知識が先立ち、出産にばかりにしか目がいかなかった二人。もちろん、肌着やオムツなど必要な物の準備はしていたが、まさか母乳が出ないなどとは思ってみなかった。
ドゥエルですら、当たり前にナズナの御乳で育てると思っていたのだ。
「ホント、良かったよぅぅ」
未だハラハラと泣く少年を抱きしめて、ドゥエルは別のことを考えていた。
生まれたのは双子の男の子。これで愛する者を失うことはない。
敦の頭を撫でつつ、ドゥエルは淫猥な笑みを浮かべる。
前回のやり取りのあと、彼は敦から地球という世界のことを色々聞いたが、その中でも驚いたのは、寿命が百年もいかないということだ。
ドゥエルの世界であれば皆軽く二百年以上生きる。つまり、どう足掻いても、いずれ敦は失われる。
ならば、その忘れ形見が欲しい。男でも女でも構わない。敦の面影を持つ子供が欲しい。この先の人生を幸せに過ごすために。何人でも。愛し可愛がる自信はある。
灰色一色だった彼の人生。それを鮮やかに彩ってくれた敦に、ドゥエルこそが深く依存していた。
お笑い草だな………
支配したつもりの情人に、すっかり溺れ、骨抜きされた自分を彼は自嘲気味に嗤う。しかし、その自覚が心地好い。こんな気持ちも初めてな彼。
本当に…… 君と出逢ってから初めてなことばかりだ。
少年の寿命を知ってからというのも、ドゥエルは主従などどうでも良くなった。ティモシーの人間は好きになった相手に一直線なのだ。
相手を支配したい。この想いを知らしめたい。骨の髄まで己を刻み込みたい。肉食獣のごとき激情と興奮。それらが複雑に絡まり、食い破るかのように激しく睦むのがティモシーの常識。
だが、それをしたら確実に敦は壊れる。守護者の力で肉体は守られても、その心が。ティモシーの当たり前は通用しないのだ。だからもうどうでも良い。
優しく丁寧に可愛がり、疲れが見えたら休ませる。時々やりすぎても、普段からゆっくり出来ていれば回復は早い。溺愛上等、図に乗るなら乗れ。敦がつけあがったって、全力で受け止めてやる。少しでも長く共にあれるなら、いくらでも我がままを言うが良い。
溺れるほど愛して、その愛に自身も溺れ、毎日少年と幸せに暮らしたいドゥエル。
そんな彼の心境の変化は生活面にも表れ、彼が敦を抱き潰すことは、ほとんどなくなった。むしろ、敦が狼狽えるほど甘やかしてくる。おかげで少年は赤面ばかりが増え、ドゥエルを愉しませるのだった。
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