耽溺の森 〜だから僕らは森から出ない〜

一 千之助

文字の大きさ
26 / 38

 森の一族

しおりを挟む

「……アツシが死んだんだ」

「それってアンタんとこの家畜よね? ふうん。どうせ手荒く抱き潰したんでしょ。まあ、よくあることじゃない?」

 ドゥエルはいつもの雑貨屋に薬の納品に訪れた。そこで覇気のない彼を訝り、半陰陽の女型が問い質す。理由を答えたドゥエルを不思議そうに見つめる女性。

「アツシはシークレットの初精を受けてた。そのせいかもしれない。原因不明の衰弱から治らなかったんだよ」

 それを聞いた途端、女性はあんぐりと口をあける。

「アンタ、馬鹿なのっ? シークレットの初精って相手と魂を結ぶんだよ? シークレットを守るための守護者として不死身な肉体を得る代わりに、魂を分かつの。連動しちゃうの。何よりもシークレットが大切な、魂の伴侶にしちゃう儀式だよ?」

 彼女の説明に、愕然とするドゥエル。

 彼は知らないが、この半陰陽はドゥエルと別系統な医学を修めていた。ドゥエルの知識は飼い主の魔術師が教え、本人が独学で覚えてきたモノ。キチンとした学舎で学んだこの女型は彼の知らぬ知識を持っている。
 各薬品の素材として垂涎な秘薬を量産するシークレット。それを管理する者らにとって、初精がどのような効果を持ち、結果を出すなど、しっかり解明されていたが、ちゃんとした教育を受けられなかったドゥエルは、多くの書物から自分に必要なモノを得ることしかしておらず、知らなかったのだ。

 ここで初めて知った事実に彼は愕然とする。

 そういえば、そんな片鱗はあった。何があってもナズナを見捨てず、自分よりもナズナを優先していたアツシ。
 ドゥエルに悋気を起こさせるほどナズナを特別視していたアツシの行動が、守護者として無意識の本能だったとすれば辻褄は合う。

 なんてこった…… 私が面白半分でやらかした行為が…… アツシの運命を決めた? 

 あの時ドゥエルは、エリクサーの材料としてしか秘薬のことを理解していなかった。それを吐き出すシークレットの文献も流し読みしていた。
 シークレットの初精を受けた者が守護者になるとかいう伝聞を知っていただけで、その詳しい内容を調べてはいなかった。
 そしてたまたま遭遇した二人がシークレットとその幼馴染みだと知り、悪戯心が湧いたのだ。
 伝聞には、初精を全て吸収するまで絶頂から抜け出せなくなると書いてあったし、その通りなら、この少年の淫らで艶めかしい姿が見られると期待した。
 出逢った当初は、一目惚れしつつも奴隷としてしか見ていなかったせいだ。実際、狂ったかのように泣き叫ぶアツシが堪らなく煽情的で、おっ勃ったドゥエルは気絶した少年を思う存分味わわせてもらった。
 満足気に二人を見下ろしていた過去の自分を殴り飛ばしてやりたい。

 ……あの時、馬鹿な悪戯心を出さなければ。まだ、アツシは生きていたかもしれないのに。

 がっくりと項垂れて椅子に座るドゥエル。

「守護者だった家畜が死んだってことは…… シークレットも死んだのね? 守護者は不死身なはずだから」

 疑問符を浮かべる女性に、ドゥエルが小さく頷く。

「ほんと、馬鹿やったわねぇ、もったいない。アレでしょ? アツシって前に連れていた単体の雄だったヤツ。ってことは、あの時の雌がシークレットか。あ~、雄は貴重なのに。ある意味、シークレットより貴重よ? 死なせるくらいならアタシが欲しかったわぁ。可愛がってあげたのになぁ」

 如何にも残念そうな女性。だが、彼女はふと椅子に腰掛けるドゥエルを振り返った。

「そういやアンタ、前に赤子の授乳だの何だのと尋ねにきたわね? ひょっとして番わせたの? やだ、アレって未処理の家畜だったの?」

 爛々と眼を輝かせる女性に舌打ちし、ドゥエルは席を立つ。

「待ちなさいよっ! 番わして産ませたなら、まだいるわよね? 産まれたのは雄? 雄なら高く買うわよっ!!」

 無言で立ち去ろうとする彼の肩を掴み、半陰陽の女性は狡猾そうな眼をすがめた。

「……未処理の家畜を所有するのも、番わすのも犯罪よ? 奴隷商に報せたら大騒ぎになるわね?」

 暗に子供らを寄越せと窺わせる半陰陽の言葉。それに鼻白んだ顔を向け、ドゥエルも獰猛な眼差しで吐き捨てた。

「……上等だ。もう二度と、この街には来ない。あばよ」

「え? 待って、待って、そんなつもりじゃっ! ちょっと! 薬はどうなるのよっ!! やだ、待ってってばぁーっ!!」

 すがる半陰陽を乱暴に振り切り、己がアツシを死なせてしまったという事実にのたうつドゥエルの心。
 どんなに後悔しても時は戻せない。失ったモノは還らない。

「……アツシ」

 今にも泣き出しそうな顔で唇を噛み締める彼の脳裏に、ついっと何かが過る。出逢ったばかりな頃のアツシの顔が。
 洗脳を解くまで、アツシの笑顔など見たことはなかったはずなのに、脳裏の少年は笑っていた。満面の無邪気な笑みで。

 ……あ。違う、アツシじゃない。これは……

 ドゥエルの瞳に獰猛な光が一閃する。




「あ、父さんだ、おかえり!」

 きゃーっとまとわりつく子供達。水浴びをしていたらしい子供らは全員真っ裸だった。
 みんな兄妹なのだ。生まれた時から知ってる顔ぶれに警戒心もない。そのうえ、ここは外界と隔離された森の中。他と交わることもなかった子供達には羞恥心の欠片も存在せず、水浴びに邪魔なものをつけることもなかった。
 
 ……本当は教えるべきなんだろうがな。私が。

 無垢な子供達の飛び交う楽園。

 ここでくらいは夢を見ても良いだろう? 差別もなく家族で暖かく暮らす夢を。雑念はいらないよな。年頃になれば自然と恥じらいも生まれるさ。

 自ら育ててきた子供達が可愛くて仕方ないドゥエル。敦の子供である。我が子も同然。成人前には身分を買ってやろうなど、色々考えていた彼の横を誰かが通り過ぎる。
 それにハっとし、ドゥエルは固唾を呑んだ。
 そこには昔懐かしい姿の少年。

「こぉらっ! 女の子なのに丸出しは良くないぞっ! お前もっ! フリチンしてんじゃねぇっ、パンツくらいはいとけっ!」

 敦の長男、アユムである。

 年長組は、最近、朝の生理現象が起きるようになり、少々色気づき始めた。唸るほどの書物が家にあるドゥエルだ。そういったモノからも知識を集めているのだろう。

 ……心配しなくても子は育つんだな。

 そこでふと、ドゥエルはアユムを凝視する。
 
 出会ったばかりな頃の敦と瓜二つな容貌。性格も穏やかでよく似ている。片割れなワタルは、かなりの暴れん坊なのに不思議なものだ。
 そしてドゥエルは、帰り道に抱いた邪な欲望を思い出した。下世話なことだと自嘲しつつも、滾る想いは止められない。

「……アユム。二人きりで話があるんだ」

「いよ? どうしたの、父さん」

 素直についてくる敦の長男。先程、脳裏に過った笑顔は、この息子だった。ドゥエルに遺された最愛の忘れ形見。

 その日、ドゥエルは初めてアユムに口づけた。





「ふあ…っ? ん…っ、…ぅ?」

「舌を出して? 父さんが可愛がってあげよう。いっぱい気持ち悦くしてあげるよ」

「気持ち…? ひゃっ?」

 ついばむように優しいキスを落としつつ、ドゥエルはアユムの唇を吸ったり噛んだりと、しだいに口づけを深めていく。
 歯列を割って舌を滑り込ませ、その歯と歯茎の裏側まで、ねっとりと舐めあげた。

「ふぐ…っ? ん…んんっ」

 彼は人体の弱いところを知り尽くした色事師だ。十代前半の少年を昂らせるなどお手の物。淫猥なドゥエルの舌先に踊らされアユムの顔が蕩けていく。

「父…さん…っ、熱い…よ?」

 はあはあと息を荒らげ、涙目で訴えるアユム。

「それが気持ち悦いだ。怖いかい? まだやれるかな? 父さんはアユムと、こういうことをしたいんだ」

 ちろちろ少年の舌先を舐め回し、ドゥエルは殊の外優しい顔で尋ねた。無理はさせない。敦の二の舞いはしない。

「父さんがしたいなら…… 僕、やってみるよ?」

 出逢った頃のアツシとは違う、信頼に満ちた瞳。

「……嫌なら言いなさい。父さんは、こうしてアユムと気持ち悦いことがしたいけど…… あんまりすると、止められなくなるから」

 ティモシーの人間の性欲は底なしだ。改心した後も、何度かアツシを抱き潰したことがある。

「いいよ、止まらなくてぇ。気持ち悦いことしよ?」

 ……言質、いただきました。

 無邪気な少年に悪いことを教えつつ、ドゥエルの新たな調教が始まった。
 




「いやーっ!!」

「暴れんない、暴れない。ほら、挿れるよ」

 四肢を拘束してうつ伏せにし、双子の一人、アユムを診察台に貼り付けたドゥエルは、幼く狭い孔を拡張する。
 
 初めてのキス講座から十日。徐々に行為を深め、ドゥエルは目眩く至福に溺れる。
 未開発な子供の身体を容赦なく暴き、今は、取り敢えず慣らすことに専念していた。
 ぬぷぬぷ挿れられる悍ましい玩具。かつて敦にも使われていたソレを、ドゥエルは愉しそうにアユムに捩じ込んだ。

「きゃーっ、痛い、痛いぃぃっ!!」

 みちみち、ぎしぎしと狭い肉壁を拡げる道具。スライムで作られた梁型は、大小五つの卵型な玉がついた長いモノだった。
 最初の玉は二センチ大。次は三センチと徐々に大きくなり、最終的には七センチの玉が待ち受ける極悪な凶器。
 それをヌポヌポと出し入れしつつ、慣れてきたら次の玉に進み、今のアユムは五センチ玉の抜き差しに泣き叫んでいる。

 拾った当時の敦と同じ歳なんだけど。まあ、敦はシークレットなナズナの加護があったからなぁ。無茶をやらかしても受け入れられたのかもしれない。
 後で判明した敦の肉体の回復力は凄まじいモノだった。どれだけ突っ込みまくって掻き回しても、狭く緩まなかったのは、そういった治癒力の関係もあったのだろう。

 今はいない最愛の者を脳裏に描き、ドゥエルはその忘れ形見に夢中である。身体の開発はアツシの時も難儀した。
 地球人の身体は脆弱なのだ。守護者だったアツシと違い、生粋の地球人なアユムには細心の注意が必要である。
 指から始まった慣らしは玩具に移り、十日もかけて、ようよう五センチ玉を呑み込めるようになった。
 
「硬いなぁ…… まあ、時間はたっぷりあるしな。今日はコレを挿れて終わりにしようか」

「ひゃああぁぁっ!」

 眼を見開いて泣き叫ぶアユムを抉じ開けるのは直径五センチの梁型。男性の一物を模したソレを、ずっぷりと呑み込ませ、ドゥエルは専用のベルトでアユムの股に固定する。

「ようは慣れだ。明日も頑張ろうね。………お前が使えないなら、弟達を使わなきゃならないし? まだ小さいからなぁ。壊れてしまうかもねぇ?」

 喉の奥を鳴らしてくぐもった笑いをもらすドゥエルに、アユムは心底ぞっとした。弟達がこんなことをされたら絶対に壊れる。いや、殺されてしまうかもしれない。
 その怯えを感じ取ったのだろう。ドゥエルは殊の外優しい笑みでアユムを撫でた。

「良い子だね。また頑張ろうな? 私が手伝ってあげるから」

 今まで父と慕ってきた男の豹変。

 激痛と恐怖に強張りつつも、幼い弟妹らを思うと頷くしかないアユムである。

 ドゥエルはアツシ喪失の嘆きが深すぎて、過去の過ちを繰り返そうとしている今の自分に、気づいていなかった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

番を拒み続けるΩと、執着を隠しきれないαが同じ学園で再会したら逃げ場がなくなった話 ――優等生αの過保護な束縛は恋か支配か

雪兎
BL
第二性が存在する世界。 Ωであることを隠し、平穏な学園生活を送ろうと決めていた転校生・湊。 しかし入学初日、彼の前に現れたのは―― 幼い頃に「番になろう」と言ってきた幼馴染のα・蓮だった。 成績優秀、容姿端麗、生徒から絶大な信頼を集める完璧なα。 だが湊だけが知っている。 彼が異常なほど執着深いことを。 「大丈夫、全部管理してあげる」 「君が困らないようにしてるだけだよ」 座席、時間割、交友関係、体調管理。 いつの間にか整えられていく環境。 逃げ場のない距離。 番を拒みたいΩと、手放す気のないα。 これは保護か、それとも束縛か。 閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。

人族は一人で生きられないらしい――獣人公爵に拾われ、溺愛されて家族になりました

よっちゃん
BL
人族がほとんど存在しない世界に、 前世の記憶を持ったまま転生した少年・レオン。 獣人が支配する貴族社会。 魔力こそが価値とされ、 「弱い人族」は守られるべき存在として扱われる世界で、 レオンは常識の違いに戸惑いながらも必死に生きようとする。 そんな彼を拾ったのは、 辺境を治める獣人公爵アルト。 寡黙で冷静、しかし一度守ると決めたものは決して手放さない男だった。 溺愛され、守られ、育てられる日々。 だが、レオンはただ守られるだけの存在で終わることを選ばない。 学院での出会い。 貴族社会に潜む差別と陰謀。 そして「番」という、深く重い絆。 レオンは学び、考え、 自分にしかできない魔法理論を武器に、 少しずつ“並び立つ覚悟”を身につけていく。 獣人と人族。 価値観も、立場も、すべてが違う二人が、 それでも選び合い、家族になるまでの物語。 溺愛×成長×異世界BL。 読後に残るのは、 「ここに居場所があっていい」と思える、あたたかな幸福。

竜帝陛下の愛が重すぎて身代わりの落ちこぼれ薬師は今日も腰が砕けそうです 〜呪いを解いたら一生離さないと宣言されました〜

レイ
BL
「死ぬ覚悟はできています。でも、その前に……お口、あーんしてください」 魔力を持たない「無能」として実家で虐げられていた薬師のエリアン。 彼に下されたのは、触れるものすべてを焼き尽くす「死の竜帝」ヴァレリウスへの、身代わりの婚姻だった。

貧乏Ωが御曹司αの将来のために逃げた話。

ミカン
BL
オメガバース

塩対応の同室αが実は俺の番を狙っていた

雪兎
BL
あらすじ 全寮制の名門学園に入学したΩの俺は、入寮初日から最悪の同室相手に当たった。 相手は学年でも有名な優等生α。 成績優秀、運動もできる、顔もいい。なのに—— めちゃくちゃ塩対応。 挨拶しても「……ああ」。 話しかけても「別に」。 距離も近づけないし、なぜか妙に警戒されている気がする。 (俺、そんなに嫌われてる……?) 同室なのに会話は最低限。 むしろ避けられている気さえある。 けれどある日、発情期トラブルで倒れた俺を助けてくれたのは、 その塩対応αだった。 しかも普段とは違い、必死な顔で言われる。 「……他のαに近づくな」 「お前は俺の……」 そこで言葉を飲み込む彼。 それ以来、少しずつ態度が変わり始める。 距離は相変わらず近くない。 口数も少ない。 だけど―― 他のαが近づくと、さりげなく間に入る。 発情期が近いと察すると、さりげなく世話を焼く。 そして時々、独占欲を隠しきれない視線。 実は彼はずっと前から知っていた。 俺が、 自分の運命の番かもしれないΩだということを。 だからこそ距離を取っていた。 触れたら、もう止まれなくなるから。 だけど同室生活の中で、 少しずつ、確実に距離は変わっていく。 塩対応の裏に隠されていたのは―― 重すぎるほどの独占欲だった。

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

【完結】最強公爵様に拾われた孤児、俺

福の島
BL
ゴリゴリに前世の記憶がある少年シオンは戸惑う。 目の前にいる男が、この世界最強の公爵様であり、ましてやシオンを養子にしたいとまで言ったのだから。 でも…まぁ…いっか…ご飯美味しいし、風呂は暖かい… ……あれ…? …やばい…俺めちゃくちゃ公爵様が好きだ… 前置きが長いですがすぐくっつくのでシリアスのシの字もありません。 1万2000字前後です。 攻めのキャラがブレるし若干変態です。 無表情系クール最強公爵様×のんき転生主人公(無自覚美形) おまけ完結済み

処理中です...