一枚のコイン 〜変わるは裏表〜

一 千之助

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 理不尽な転生 20

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「アレが欲しいね」

「また…… そういうことばかりやるから、後宮の華達が増えるのですよ、殿下っ!」

 たまたま宝飾店を訪れていた彼は、披露された源之助の痴態を余すことなく目撃する。
 庇護者という青年に連れられ入ってきた少年。その戸惑う素振りと物珍しげな瞳。よほど箱入りに育てられたのだろう。まるで何も知らない感じが初々しい。
 さらには試着と称して玩具を着けられた時の狼狽え様。逃げ腰で恥じらい、すがるように庇護者の青年にしがみついていた。

 まあ、結局は着けられてしまったが。

 その後も顔を真っ赤にして震える可愛らしさ。涙目で息を荒らげ、噛み殺し切れぬ喘ぎが堪らなく艶めかしかった。
 性に奔放なリシャールにおいて、ありうべからぬ慎ましやかさ。こんな可憐な華は見たことがない。
 しだいにのめり込み、彼は泣きじゃくりながら吐精する少年に一目惚れする。がつんっと落とされた。その自覚があった。

「聞けば、まだ首輪は注文中らしい。……今なら手に入るだろう?」

「……はあ。穏便に行きますか? 教会を通せば、親のない子供は引き取れます。……あるいは問答無用で奪い取るか。貴方なら、それも可能です」

 軽く柳眉を跳ね上げ、殿下と呼ばれた男性は昼に見た少年を思い出していた。
 庇護者の青年にべったりとすがり、キョロキョロ辺りを見渡していた小動物みたいな子供。
 
 ……出来れば友好的に行きたいな。引き取るにしろ奪うにしろ、力ずくはあの子を怯えさせるだろう。

「いったん、教会に引き取らせてみるか。どういう経緯で庇護者がついたのかも分からないし。案外、箱入りで親が決めた庇護者かもしれん」

 そう。庇護者がいるからといって、親なしとは限らない。貴族などは、夜会で伴侶選びの味見させる以外、子供を監禁同然に育てる。政略的な嫁に出したいからだ。
 卵を賜り子供を授かるリシャールの出生事情で、二人目、三人目はなかなか得られない。そのため、跡取り必須な貴族家はいつでも嫁不足。
 拐われる危険もあるので、基本、家から子供を出さない。
 平民でも、富裕層はそんな感じだ。巷を駆け回るのは庶民の子供らくらい。

 ……おかげで夜会は野獣の群れだ。後宮の華達を差し出して、緩和を図らねばならない始末。嫁を捕まえるためなら薬を使うのも厭わないくらい。

 そこまで考えて、彼は側に控える侍従を見た。

「そういえば、侯爵家から申し込みがあったな。後宮の華に」

「ああ、ハルト様ですね。はい、下賜の申請が出されております」

「許可する。下げ渡せ」

「御意」

 ちらりと視線を振った侍従は、物憂げな主の顔にタメ息をついた。悪い病気が発症したと。
 知る人ぞ知る、この国の王子リヒャルト。彼は多情で数多の華を後宮に囲う。そして功績を上げた貴族家に下げ渡すのだ。
 
 そんな人物に目をつけられたとも知らず、首輪からどうやって逃れようかと、一人悶々とする源之助だった。
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