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理不尽な接待 13
しおりを挟む「リヒャルト! よく来てくれたっ!」
「変わらないな、マーリンっ! しばらく邪魔するよ」
熱く包容を交わし、軽い口づけをする二人。
ぽかんっと呆気にとられる源之助を見て、マーリンと呼ばれた男性が甘い笑みを浮かべた。
まるで砂糖菓子のように淡く魅力的な微笑み。リヒャルトがガタイの良い漢らしい漢なのに対し、彼はリドル系の線の細い中性的な容姿だった。
なよなよしてるとかではなく、しなやかな精悍さがある。地球でいう、細マッチョ。
リヒャルトの兄弟がえらく体格が良いせいで、そういう基準が彼ら寄りな源之助には、マーリンが凄く綺麗な男性に思えた。
そして、それは口をつく。
「お似合いだねぇ? リヒャルトの恋人?」
何気ない一言。
……呼び捨て? 従者のようだが、かなり可愛がられているのか? まあ子供みたいだし、目くじらもたてないか。リヒャルトのペットかな?
源之助の幼い見てくれから妃とは思わず、至極当然な勘違いをしたマーリン。周りも同様のようで、ちょこちょことリヒャルトの後をついて回る少年を微笑ましく見ていた。
「おまえ……っ、これは親愛の挨拶だっ! 親しい間柄なら普通のことなんだよっ!」
言い訳を口にしながら眼を剥き、愕然とするリヒャルト。
……そうなんか。乱れてんのは庶民だけじゃないんだなあ。
『ですな。気に入れば身体を重ねるのも厭いまへんし、この世界に倫理を求めたらあきまへん』
苦虫を噛み潰したような顔のリヒャルトが可笑しくて、マーリンは笑っていた。いや、それは、みるみるうちに大笑いに変わっていった。
「あっはっはっ! リヒャルトの? 願い下げだよっ!」
「マーリン? 気持ちは分からなくはないが、せめて体面くらいは繕ってくれっ!」
「だって、リヒャルトなんて後宮に数多の華を隠しているんだよ? そんな節操なしの恋人なんか御免だよねぇ? 下半身事情は人それぞれなんだろうけどさ。少なくとも私は伴侶に大切にされたいから」
……ああ、たしかに。
源之助は大切にされていると思うが、結局は駒だ。他の華達も同じ。利用価値があるから囲われているに過ぎない。
……職業として後宮の華をやってる人もいると言っていたし? そんなお股のゆるい男は嫌かもなあ。
客観的な少年の想像。
そんな酷い評価を受けているとも知らず、リヒャルトはマーリンと連れ立って王宮の中に入っていく。それに気づいて追う源之助を、近くに居た男性が止めた。
「ここより先は王族のみの居住区です。失礼ながら、華を連れて行くことは禁じられております」
そう宣う真面目そうな男性。
……え? どうしよう?
もじもじと居心地悪気に源之助は立ち尽くす。
右も左も分からない異国の王宮だ。レスレクシオン王国の王宮すら理解が及ばない少年は、突然の窮地に狼狽えた。
「……えと。なら僕はどこに居たら良いのでしょうか? 控えていられる場所はありますか?」
「……そうですね。従者の控室があります。そちらでお待ちになると良いでしょう。そのうち王子達から声がかかると思いますから」
年相応な戸惑いを見せる少年に穏やかな笑みを見せ、男性が王宮側と反対の通路を指さす。
子供に優しいのは、どの国も共通なのだ。
軽く手招きしてくれた男性は、執事長のルドラだと名乗り、源之助を裏に案内しようとした。
それに素直についていく源之助の背後に、鋭い声が投げかけられる。
「グエンっ! 何をしておるかっ!」
びくっと肩を竦め、慌てて源之助は振り返った。
そこには怒りも露わなリヒャルトがおり、横に立つマーリンが心配そうに源之助とリヒャルトを何度も交互に見る。
「リ…… リヒャルト? 小姓とはいえ従者を中には連れていけない。知っているだろう? 可愛がっているのは見ていて分かるけど……」
おろおろ取りなそうとするマーリンを冷たく一瞥し、リヒャルトは唸るように呟いた。
「小姓などではない。あれが私の妃だ」
「は……?」
「お前が貸してくれと懇願してきた、私の妃だっ! よくも、こんな無礼な真似を……っ! おいっ! グエンっ! 予定は変更だっ! 帰るぞっ!!」
「え……?」
どかどか足を踏み鳴らし、ルドラから奪うように源之助を抱えあげると、リヒャルトは王宮を出ようと踵を返した。
それに顔面蒼白なマーリンや周りの侍従達。
「きさ……き? あ……っ、待って! 待ってくれ、リヒャルトっ!!」
……待たんっ!
憤慨も露わなまま、リヒャルトが階段に足をかけようとした瞬間、すかさず回り込んだルドラが身体を投げ出して平伏する。
「どけっ!!」
王族は行く手を変えない。迂回といった行為は、相手に負けたことを意味する。ゆえに、進行方向を遮れば、必ず止まるのが王族という生き物だった。
ただし、それは己の死を意味する。高貴な人間の足止めは命懸け。
「わたくしの不出来でございます。何とぞお許しください。お目汚しにしかなりませんが、この首を刎ねてお気をお鎮めくださいませ」
その言葉にギョッとしたのは源之助。
……首をっ?!
何が起きたか分からない少年だが、さっきまで笑って優しくしてくれていたルドラの首が刎ねられては堪らない。
「リヒャルト? この人は優しかったよ? 何が悪かったの? 僕、わからないよっ!」
顔全面で『説明求むっ!』と物語る少年を胡乱げに見つめ、リヒャルトは己を落ち着けるように細く長い溜め息を吐いた。
……そうか、こいつは元平民だ。分からないのも仕方ないか。
そう心の中でだけで独り言ち、リヒャルトはマーリンに離宮を要求する。
王宮に滞在はしない。離宮を使うから用意しろと。
コレに面食らったのはマーリンを筆頭とする王族達。
親善で訪れた他国の王族が離宮に滞在するというのは、その国と仲が良くないことを示す、この世界の流儀だ。
「後生だよ、リヒャルトっ! 気を悪くさせたのは謝るから…… 知らなかったんだ!」
「ああ? 知らなかっただと? 調べもせずに妃を貸せとか宣っていたのかっ? 私の子供の親だぞっ?! 私の最愛に決まっておろうがっ! 近くにいて当たり前だろうっ! そんなことにも気づかないとはなっ!!」
実際、源之助のことは数日の嵐のような出来事だ。詳細を各国が知らないのも仕方がない。リヒャルトの言い分は理不尽過ぎた。
だが、ここに来るまでの間、何十日も時間はあった。あらためて調べることも出来ただろう。
だのに、それを怠ったのはマーリンだ。
リヒャルトが快く招待に応じてくれたため、油断したのだ。
喧々囂々やらかす二人の間に横たわる色々が源之助には把握できず、ただただ首を傾げるばかり。
そして、さっきからずっと自分の足元で平伏してるルドラに冷や汗が止まらない。
……何が起きてんのさ?
『男同士のマウント合戦でんな。まあ、放っておけばよろし。美味いモノでも頼んでみんさい。したら、そこの御仁は動きますよって』
ふうん? と疑問顔のまま、源之助はルドラの前にしゃがみ込む。
「あの…… 僕、お腹空いちゃったんですけど。食べるモノもらえませんか?」
「………っ! ただいま、お持ちいたしますっ!」
ばっと身体を起こして駆け出したルドラ。それを見送る源之助に、リヒャルトの怒声が降り掛かった。
「グエンっ! 勝手に許すなっ!」
「ああ、妃様っ! 貴方の慈悲深さに感謝しますっ!!」
マーリンは感極まった顔で涙目だ。
……? なんのこった?
『食事の要求は酒の要求。お互いに盃を交わし、今回のことを一献で水に流すと意味してま。つまり、あんさんがあの執事長を許したことになるんですわ』
結果、リヒャルトも怒りを収めなくてはならない。
……ああ、そういうね。穏便な意思表示の仕方があって良かったな。
ぎゃあぎゃあ喚くリヒャルトを黙殺し、ルドラ達が用意した食事をうまうま食べる源之助。
そんな可愛らしい姿を見せられては、リヒャルトも黙るほかなく、前もって準備されていた王宮の部屋に滞在した。
こうして開幕波乱万丈な雰囲気を醸しながら、源之助の異世界探索が始まる。
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