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遠回り、逆回り、急がば道を壊せ。

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 感情がコントロールできない。
 どうして、こうなったんだろう。

 もしかして、一年前に別れなくてあのまま結婚していたら、彼はあの知的で寡黙でイケメン。私の理想を演じたお人形のまま。

「はああああ」
「朝帰りの先輩、どうしたんですかあ?」

  平日の午前中は、引っ越しシーズンでもない限り忙しくない。
私も泰城ちゃんもひたすら書類整理、車の中身の掃除、デスクの前に植えられた木のようにずっと動かない。
ので、暇で暇でしょうがないのだ。


「どうもこうも。どうしても相手の前で、冷静にいられないんだよね。もう少し私、感情のコントロールできる子だったのに」

「ええー。恋なんてそんなものですよお。好きな人の前では数か月は上手くいかないです」

 好きな人ではない。と言いたいけど説明がややこしい。

「コントロールできなくても、嘘さえつかなくて、ちゃんと好きだよって意思表示してれば数か月したら慣れますよ」

 ウソだらけなんです。ウソだらけなのに、身体だけは重ねてしまったのです。好きじゃない。
 嘘を吐いて別れた。
 別れるつもりがなぜか抱かれた。

 抱かれたが好きではない。
 なのに、拒んでいるのに会ってしまう。

 矛盾というか、自分の態度がいい加減すぎて信じられない。

 自分はもう少し淡白だと思っていた。淡白であっさりしていて、恋愛に色々振り回されるのが面倒で、適当に流して生きると思っていたのに。

 どうしてこうなったんだ。

「……男心が分からない」
「男心が分からない、入りましたあ。よおし、笹山さあん」

 ちょうど入口から入ってきた笹山に甘えた声で手を振ると、いとも簡単にデレデレと寄ってきた。

「ちょっと女二人じゃ解決できない悩みができまして……夜ご飯奢ってください」
「めっちゃ直球。いいよ。何食べたいの?」
「は?」

 なんで奢ってもらうの目的って分かってるのに良いの!?
 普通ならうぜえで断るんじゃないの。
 顔がいいから?

「なんだよ。俺の奢りはご不満か」
「いや、ラッキー」
「もう一人、誰か呼んで四人で聞こう。適当に同期誘ってもいい?」
「お願いしまーす」

 都築ちゃんの一声で、夜ご飯が浮いてしまった。
 女って自分の武器を知っている子は怖いな。

 でも確かに、すごい。尊敬してしまう。

「勝手に決めちゃってすいません。大丈夫でした?」
「え、うん。男友達とか全くいないから、笹山でも藁をも掴むなんとやらだよ」
「笹山さんの扱い酷い」

 笑いつつも、これで良かった。
 少し離れたところに居た笹山が、思い出したかのように私たちのところへ近づいてきて、片手をあげる。
「あのさ、神山誘ってみよう。あいつなら女にモテ――」
「馬鹿じゃないの!?」
「なんで!?」
「私とあいつの関係を思い出して」

 元婚約者でしょ。と叫ぶと、笹山が思い出したように舌を出す。
 男の舌だし顔とか全く可愛くなくて殺意しか出なかった。




***

「いや、一ミリも都築さんの気持ちが分からねえわ」
「俺も。分からねえ」

 20時からだらだら始まった飲み会は、私の『好きでもない相手を拒めなくてずるずる関係が続いているが終わり方が分からない』という内容で男性二人が納得できないと首を傾げたことから始まる。
 しかも笹山が連れてきたのは、友人らしく私と笹山と同期だが既婚者だった。


「相手に嫌われたいから、できることはしたんですよねえ」
「他に好きな人がいるとか、恋人がいるとか」
「うーん。これ以上嘘を吐いたらなあ。前科があるんだもん」

「既婚者のよっしーからも何かアドバイスを」

 よっしーという、ずっとたこわさをちびちび食べている眼鏡の男は、またまた首を傾げた。

「既婚者なのに女がいる飲み会に参加する男ってどう?」
「えええ。超最低ですう。私ならありえないですう」
「泰城ちゃん……」
「でしょ。だから、男の影をつねに匂わすとかね。特定の相手はいないけど、何か怪しいみたいな」

「なるほど!」

 つまりよっしーは、離婚したいからわざと女のいる飲み会に来たのか。
 まどろっこっしいな。自然消滅を狙う姑息さが感じられる。

「お見合いしてみようかな。叔父さんの紹介で、スペックは相手より超低い人。そうすれば、自分はこんなスペックでも相手にされないのかってなる」

「そんなことより、本人呼び出そうぜ。ほーんにーん」
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