英国紳士は甘い恋の賭け事がお好き!

篠原愛紀

文字の大きさ
37 / 71
世間知らずの身の程知らず。

世間知らずの身の程知らず。一

しおりを挟む

「開けて下さい! 美麗、私にも話を! 美麗!」

抑えた扉からは、デイビットさんがドンドンと扉を叩いている。
私の身体を気遣ってか、無理やり開けようとはしない。

個室の母や小百合さん達は、何事かと振り返り私の方を見てくる。

何とか身をよじり、デイビットさんから抜け出して先に此処に飛び込んだのは、私の口から言いたかったから。


「私、幹太さんは本当に素敵な人だし、もう怖くない時の方が多いのですが、でも、お付き合いも結婚も出来ません」

「美麗!」
母が立ち上がり、私の方へ凄い形相でやってくる。
本人を前にして、お見合いを断る礼儀の無さから、怒りで震えているのが伺えるが私も引けない。


「小百合さん、お母さん、私、今妊娠しています」

その言葉に、幹太さん以外此処に居る人は皆、言葉を失い目を見開いた。

「そして、産みたいって思ってます。産ませてもらいます」

ワナワナと震える母が、私の目の前に来ると手を振り上げた。
ソレを私は避けずに受けきろうとして真っ直ぐに見ていると、扉が開いて腕を捉えられた。

突然のデイビットさんの登場に、母はすとんと落ちるように目を見開く。

妊娠の相手だと理解したようだ。

「何を考えているの! 貴方は鹿取家に恥をかかせるの!」

「恥なんて思っていない! 勝手に今まで決めてきたのはそっちです!私の意見なんて聞かないんだから、――だから私は黙ってただけ。鳴けないみすぼらしい鳥籠の小鳥だっただけ!」

「止めなさい! みっともない姿を春月堂の皆さまに見せないで」

怒りで震える母を見て、人間らしい感情を吐露できるのだと感心してしまった。

私には冷たい視線や、つんつんした口調でしか接してくれなかったから。


「麗子さん、後日ちゃんと挨拶に伺いますから、落ち着いて下さい。皆さま、騒がせてすみません」

デイビットさんが私を背に庇うと深々とお辞儀した。
そして顔を上げると、皆の顔をゆっくり見渡す。

「ですが、私は美麗さんと正式に結婚して、彼女を心から守っていきたいと思っています。彼女を愛しています」


一か月も会わなかったくせに、そんな真っ直ぐな事を言うなんて。

まだ素直に慣れない気持ちが、デイビットさんの気持ちを疑ってしまう。

未だに、ふわふわした夢の中にいる気分だ。


「まぁ、俺は本当に好きな奴なら妊娠してても問題ないんだがな」


重い雰囲気の中、幹太さんがゆっくりと喋り出す。


「俺は奥手でも恋愛に興味ないわけでもなく、――大切な奴とその子供がいるってこと。あと、早く一人前になって傍に居てやりたいってことだ」

「幹太さん……」


その大切な人が誰なのか思い浮かんでしまった私は、言葉を失う。

いや、春月堂の皆さまならきっと分かるだろう。


「つまり、貴方達は最初からお見合いの席ではなく、己の気持ちを宣言しようと企てていたのね」

小百合さんが嘆息しながら疲れた顔で言う。
今日を楽しみにしていた二人には申し訳ないことをしてしまったけれど、私ももう後には引けない。


「すいません。でも、この子を産みたいって失いたくないって決めたんです」

お腹を押さえながらそう言うと、小百合さんは力なく笑う。


「麗子さんは頑固だから、しっかり話合いしなさいね」
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

靴屋の娘と三人のお兄様

こじまき
恋愛
靴屋の看板娘だったデイジーは、母親の再婚によってホークボロー伯爵令嬢になった。ホークボロー伯爵家の三兄弟、長男でいかにも堅物な軍人のアレン、次男でほとんど喋らない魔法使いのイーライ、三男でチャラい画家のカラバスはいずれ劣らぬキラッキラのイケメン揃い。平民出身のにわか伯爵令嬢とお兄様たちとのひとつ屋根の下生活。何も起こらないはずがない!? ※小説家になろうにも投稿しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

エリート警察官の溺愛は甘く切ない

日下奈緒
恋愛
親が警察官の紗良は、30歳にもなって独身なんてと親に責められる。 両親の勧めで、警察官とお見合いする事になったのだが、それは跡継ぎを産んで欲しいという、政略結婚で⁉

【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜

来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、 疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。 無愛想で冷静な上司・東條崇雅。 その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、 仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。 けれど―― そこから、彼の態度は変わり始めた。 苦手な仕事から外され、 負担を減らされ、 静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。 「辞めるのは認めない」 そんな言葉すらないのに、 無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。 これは愛? それともただの執着? じれじれと、甘く、不器用に。 二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。 無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

「25歳OL、異世界で年上公爵の甘々保護対象に!? 〜女神ルミエール様の悪戯〜」

透子(とおるこ)
恋愛
25歳OL・佐神ミレイは、仕事も恋も完璧にこなす美人女子。しかし本当は、年上の男性に甘やかされたい願望を密かに抱いていた。 そんな彼女の前に現れたのは、気まぐれな女神ルミエール。理由も告げず、ミレイを異世界アルデリア王国の公爵家へ転移させる。そこには恐ろしく気難しいと評判の45歳独身公爵・アレクセイが待っていた。 最初は恐怖を覚えるミレイだったが、公爵の手厚い保護に触れ、次第に心を許す。やがて彼女は甘く溺愛される日々に――。 仕事も恋も頑張るOLが、異世界で年上公爵にゴロニャン♡ 甘くて胸キュンなラブストーリー、開幕! ---

処理中です...