英国紳士は甘い恋の賭け事がお好き!

篠原愛紀

文字の大きさ
60 / 71
それからそれから。

それからそれから。一

しおりを挟む

吐く息が、白く染まる。
結納が終わり、何か月も色々な書類を提出したり、日本の役所に提出するなら和訳、イギリス大使館に提出するなら英訳したり、――面倒くさい作業も終わり無事に私は『美麗・ブラフォード』の名前になった。半年以上かかって大変だった思い出しかない。

まさか結婚の準備の書類だけでもこんなに大変なんて。

なので本当に結婚したのかと思う。まだ実感がわかない。

「今日は小春日和で良かったね」

1月に入ってすぐ雪が延々と降り、寒い日が続いていた。
春月堂の和菓子を用いて、イギリス大使館で日本文化との交流イベントが行われる今日、雪が止み、久しぶりの晴れ渡った空が見える。


仕事中は食べ物を扱うから外しているけれど、あの日買いに行った指輪も完成している。


桔梗さんとマスクをした私は、幹太さんたちの御手伝いもせず、ぼうっと店番をしている。

「本当に晴れて良かったです。デイビーったら、昨日、ずっと照る照る坊主作ってたんですよ」

「あはは。可愛い可愛い」

晴くんが半年になると同時に、保育園へ預け仕事に復帰した桔梗さんは、私の愚痴を豪快に笑い飛ばしてくれた。


桔梗さんが半年で仕事に戻って来たのは、私の妊娠のせいかと謝ったら全然違うからと叱られてしまったのがつい最近で。


この春月堂も、幹太さんの提案で新しい企画でバタバタと忙しい中での大使館での御茶会の和菓子30箱の注文。
朝から幹太さんは色んな場所で指示出しをしているから、きっと彼は瞬間移動が使えるんだと思う。
いつの間にか違う場所に居る。

「おい、美麗」

例の瞬間移動の彼が、私たちの後ろから暖簾を掻きわけてやってくる。

確か、さっき店の入り口から出て行ったはずなのに。

「どうしました?」

もうすぐ八カ月の大きなお腹で振り返ると幹太さんは親指でくいっと後ろを示した。


「悪阻で餡の匂いが駄目なんだろ。店じゃなくて大使館に運ぶ手伝いの方と交代しろ」

私のマスクを見ながら心配げにそう言われたら、少し迷う。

「そうだよ。此処は私だけで良いから行っといで」

桔梗さんまでそんな事を言ってくれるのは嬉しいけど、仕事中のデイビーに会うのは未だにまだ少し照れてしまう。


「悪阻なのに無理して来るお前が悪い。帰らされたくないならさっさと車に乗れ」

「安全運転しなさいよ。美麗に何かあったら、デイビットさんが怖いわよ」

「当たり前だろ。早くしろ」

「はーい。桔梗さん、お願いします」

個人差があるとは言うものの、最近になって酷い悪阻が始まり仕事も休まなきゃいけない日が何日も続いてしまい今月で産休に入ることになってはいる。
けど、今日は忙しいの分かっていたからちょっとだけ無理してきていた。

忙しいはずなのにそんな私の事もしっかり見てくれている幹太さんには頭が下がりっぱなしだ。


「すいません」
「忙しい時に仕事を増やすな」

きつい言葉なのだけど、それが幹太さんの優しさなのだとこの一年近くで学んで分かっている。
だから素直に謝る。こうして周りに支えられて私は此処まで来れた。



「……お前だって早く産休に入りたかったろうに、店がごたついてて迷惑かける」

車にエンジンをかけて駐車場から出ると同時に幹太さんが切り出してきたソレは、半年前から頑張って来ている幹太さんらしい言葉で。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

靴屋の娘と三人のお兄様

こじまき
恋愛
靴屋の看板娘だったデイジーは、母親の再婚によってホークボロー伯爵令嬢になった。ホークボロー伯爵家の三兄弟、長男でいかにも堅物な軍人のアレン、次男でほとんど喋らない魔法使いのイーライ、三男でチャラい画家のカラバスはいずれ劣らぬキラッキラのイケメン揃い。平民出身のにわか伯爵令嬢とお兄様たちとのひとつ屋根の下生活。何も起こらないはずがない!? ※小説家になろうにも投稿しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

エリート警察官の溺愛は甘く切ない

日下奈緒
恋愛
親が警察官の紗良は、30歳にもなって独身なんてと親に責められる。 両親の勧めで、警察官とお見合いする事になったのだが、それは跡継ぎを産んで欲しいという、政略結婚で⁉

【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜

来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、 疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。 無愛想で冷静な上司・東條崇雅。 その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、 仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。 けれど―― そこから、彼の態度は変わり始めた。 苦手な仕事から外され、 負担を減らされ、 静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。 「辞めるのは認めない」 そんな言葉すらないのに、 無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。 これは愛? それともただの執着? じれじれと、甘く、不器用に。 二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。 無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

「25歳OL、異世界で年上公爵の甘々保護対象に!? 〜女神ルミエール様の悪戯〜」

透子(とおるこ)
恋愛
25歳OL・佐神ミレイは、仕事も恋も完璧にこなす美人女子。しかし本当は、年上の男性に甘やかされたい願望を密かに抱いていた。 そんな彼女の前に現れたのは、気まぐれな女神ルミエール。理由も告げず、ミレイを異世界アルデリア王国の公爵家へ転移させる。そこには恐ろしく気難しいと評判の45歳独身公爵・アレクセイが待っていた。 最初は恐怖を覚えるミレイだったが、公爵の手厚い保護に触れ、次第に心を許す。やがて彼女は甘く溺愛される日々に――。 仕事も恋も頑張るOLが、異世界で年上公爵にゴロニャン♡ 甘くて胸キュンなラブストーリー、開幕! ---

処理中です...