Cafe『アルジャーノン』の、お兄さん☆

篠原愛紀

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天才で天然で、被りモノマニアで。

天才で天然で、被りモノマニアで。

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「皇汰、皇汰ってば」


弟に引きずられながら、楠木みかどは慌てている。

あの家には自分の居場所は確かに無かった。

それは自覚しているが、養って貰っている身分で出ていくことは叶わないと思っていた。

貯金は、お年玉のみ。持ち物も無くなった母親の古着や家具などを使っていた。

今、本当に身一つで逃げだした状態で、弟の無鉄砲ぶりにあたふたしているところだ。




「あんな家、帰らなくて良いってば。ってか、あんなの家族じゃねえ。俺も、家族は姉さんしか居ないって思ってるから」


信号で律義に止まった皇汰は、息を整えてみかどが落ち付くような柔らかい声で言うと、頭をくしゃくしゃと撫でる。


中学二年生、身長はまだみかどより目線が少し上なだけで170センチ満たないぐらいだろう。

それなのに、落ちついた優しい少年だった。



「じゃあ、今からどうすればいいの?」


「当てがある。駅の近くにあるCafeなんだけど」



「Cafeに何があるの?」
訳も分からないまま、携帯を弄りながら在処を探す皇汰は、みかどの声に反応しない。

気づけば、潮の香りが鼻孔を擽った。

潮の香が髪に絡みつく。みかどが通う聖マリア女学院は、最寄りの駅までの帰り道、曲がり角曲がり角に教師が立っていて、寄り道はしたことが無い。

学校と家の往復の中、隣の駅に行けば海が近くなるのだと知らなかった。
駅の近く、レンガ通りの道を歩いて行けば、大きな公園の傍に、小さなCafeを見つけた。

大きな対となる銀杏の木がカフェの左右に生えていて、涼しそうな日陰ができている。
木でできたアットホームな雰囲気で、外のテラスにも木の屋根があり、黒のテーブルと椅子が二組置かれていた。

「可愛いお店だけど、ここが一体何なの?」

「ちょっと待って」

大きな窓からは、賑やかに飾られた小物が顔を出している。

窓に飾られているものが、あるものに見えた皇汰は近づいて行く。


「どうしたの?」


みかども窓を覗いて固まった。

熊の大きなぬいぐるみが、涎かけをしているが、それはどうみても涎かけではない。
 紫色の総レースの、紐のパンツ。女性物のセクシーな下着だった。

「きゃああ! だ、駄目よ、だめ! 皇汰にはまだこんなの早い! 見たら駄目っ」

「違うよ、中に人が居ないか覗いてるだけだってば」

「嘘っ」

微動だにしない皇汰は、押しても引っ張ってもびくともしない。

諦めたみかどは、先陣切って中へ飛び込んだ。

「す、すいません、あの熊のぬいぐるみ止めて下さい!」

ドアベルを鳴らしながら息巻くと、カウンターの中に一人の男の人がグラスを磨いていた。



「いらっしゃいませ。もうすぐ珈琲ができますよー」


のんびりと優しい声で言うその男の人に、みかどは目を奪われた。


色素の薄い茶色の髪は、サラサラと流れるように艶やか。

優しく笑うその眼元も、焦げ茶色の瞳も、骨張っていない長い指も。


息を飲むような、綺麗という言葉が似合う男の人だった。




ただ頭に熊の耳をつけているのが全てを台無しにしている。
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