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岳リン、みかどを追って走る!
岳リン、みかどを追って走る! 1
しおりを挟むそれはトールやリヒト達との初対面を終えた次の日。皇汰が息抜きにみかどを映画に誘ってくれていた。みかどは学校帰りに寄り道をするのは初めての事で、朝からずっと緊張していた。聖マリア女学院の帰宅コースを歩きながら、先生たちが立っていない死角からみかどは駅へ抜けた。
「どこで時間、潰そうかなぁ……」
『悪ぃ。部活長引く』
そんなメールが届いてからかれこれ三十分。皇汰が何時に終わるかも分からない。しかも昨日のお詫びを兼ねて勇気を出して、リヒトさんのお店に顔を出したら、頭からつま先までコーディネートして貰い、三十分が限界で飛び出してしまった。
左右を編み込み、後ろで結んで、黄色いシュシュで束ねた髪。春らしいクリーム色の小花が散りばめられたワンピース。抑えめの茶色のサンダルには大きな向日葵がアクセントにつけられた。可愛く変身しリヒトから絶賛されたのにも関わらず、似合わない気がして落ち着かない様子だ。見られてるわけはないと分かっていても、視線が怖いのだ。
(あ、本屋さんと花屋に行こう!)
アルジャジーノンの育て方や、もう少し大きめの鉢植えを探して時間でも潰そうと思い立った。
「おい、あんた」
(でも皇汰の中学に近いから、メールして待ち合わせ場所を)
「楠木みかど!」
その瞬間、駅前広場で歩いていたほとんどの人が、その声に注目した。
「無視すんなよ」
無精髭が生えてるがまだ若い。店長も年齢不詳な部分があるが、この人は直感で怖いと退く。
「あの、どちら様ですか?」
疑問に思いおずおずと尋ねると、不機嫌そうに唇を噛乱す。
「っち。 俺だよ、孔礼寺 岳理(くれいじ がくり)だよ」
ずいっと顔を近づけきたので、一歩下がってじりじり逃げる。だが、名前も知らない。そもそもみかどには男の知り合いは店長とトールたちしかいない。
「だ~か~ら~」
「君、君」
その男の人は、肩を叩かれた。叩いた相手は、――駅前の交番の警察官。注目浴びてしまったおかげで、誰かが呼んでくれたようだ。
「ここ、交番前だよ? 恥ずかしくないの? 中学生に勧誘したりして」
「ちゅ……」
呆然としているみかどを、警官は怖がって固まっていると判断したようだ。
「俺、こいつの知り合いなんですけど、な!?」
振り返って同意を求めたが、みかどは全力で首を振った。
「ちょっと、交番で話を聞こう。お茶ぐらい出すよ」
「本当ですって! 俺、あいつの名前知ってるし! 世話になった教授の娘なんすよ!」
慌てる男と警察官を尻目に、みかどは猛ダッシュで駅前から逃げた。
「おいっ 待てって!!」
「ひあああああ!」
駅が豆粒みたいに小さくなってから振り返った。駅前の様子は見えない場所だけど、もしかしてとみかどの脳裏に浮かぶのは、先日見た嘘臭い探偵の紙鑢の人だろうかと。黒いシャツにジーンズで探偵服では無かった上に無精髭、無造作に伸ばされた黒髪、キリッとした眉毛に、二重のぱっちり瞳。硬派な凛々しい感じは確かにそうかもしれない。ソレだったならば、彼は嘘をついていないのに警察のお世話になってしまうことになる。申し訳なくて引き返そうかと思ったが、みかどの手は震えていた。父親を知る人物が自分に話しかけたと言う現実。その現実が怖くて逃げ出した。後ろ髪を引かれながらも、見えた本屋に逃げ込んだ。
「あれー、君は確か……」
適当に歩き回っていたら、二階の漫画コーナーから降りてきた人に話しかけられる。
「葉瀬川さんっ」
「何探してるの?」
「あ、園芸コーナーです」
そう言うと、葉瀬川が、手招きして案内してくれた。
「この花の育て方、分かりやすく漫画にしてるね」
「あの……私なんかに付き合って、お時間大丈夫ですか?」
そう言うと、葉瀬川は怠そうに腕時計を見た。
「んー、待ち合わせしてるんだけど、来ないんだよねー。帰ろーかなー」
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