Cafe『アルジャーノン』の、お兄さん☆

篠原愛紀

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岳リン、みかどを追って走る!

岳リン、みかどを追って走る! 3

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「あんた、姉ちゃんのストーカーなわけ?」
「話があるだけだ」
「探偵って割には、興信所の連中より馬鹿っほいし、金持ちの道楽って感じ? パパにまだ養ってもらってるんでちゅかぁ?」
 二人の火花が飛び散り、攻撃が開始された時だった。
「いたっ」
 フェンスにぶつかり、腰を強打しながらも、皇汰の元へ向かうが、既にお店の人に囲まれて泣いていた。
「お、お姉ちゃんが、ストーカーされてて、け、携帯を返して、もらいたくて、うぅ」
 棚に、突っ伏して倒れ動かない岳リンをお店の人が起き上がらせていた。何があったのか怖くて聞けない状況だ。ただ、分かるのは皇汰が可愛らしい外見を武器に嘘泣きしていることだけだ。店員が、岳リンの顔を覗き、恐る恐る尋ねた。
「孔礼寺さん?」
 岳リンは、まだふらつきながらも、頷いて立ち上がる。
「店長、僕の家、この人の寺の檀家なんですよ」
「よく紙鑢を注文するから身元も分かります。良い人ですよ」
 お店の人たちから庇われ、店長らしき人が警察に通報しようとしていた手を止める。
「金輪際、僕と姉に近づくのを止めてくれたら、僕もやりすぎたし良いです」
 そう睨みつけると、ふらつく岳さんは胸元から携帯と紙袋を取り出した。そして、皇汰に押し付け、店員さん達に頭を下げた。
「後日、きちんと謝罪に来ます。すみませんでした」
 そしてみかどをチラリと見たが、すぐに逸らして去って行った。みかど達は、岳リンが突っ込んで崩壊させた棚の品を並び直すのを手伝って、帰路に着いた。
「何、話してたの? あの人と」
「――姉ちゃんには関係無いよ」
 そう言って、アルジャーノンに着くまで無言だった。
「その紙袋の中身、何?」
 尋ねると、乱暴に皇汰は破いた。そして、不機嫌そうに渡してくれたのは植物図鑑。本屋で、みかどが岳リンに投げつけた物だった。みかどが欲しかった本だって気づいたのだろうか、ただの偶然なのだろうか。
「あいつ、何で姉ちゃんを追ってたの?」
 みかどが考えていると、拗ねたように唇を尖らせて言った。
「『お世話になった教授の娘』って言ってた」
「……そっか。じゃあ、目障りだね。ちょっと千景さんのとこ、言って説明してくる」
 二人にしてみれば、浮気が見つかり渡米し行方不明中の父親に、これ以上なぜ苦しめられなけらばいけないのかと不満だ。
『単刀直入に言う』
 あの目は怖かったけど、冗談ではなく真剣だった。どうして、あの人はみかどを脅迫したのだろうか。
「うわっ」
 ナイスタイミングで携帯が鳴った。
「……ひっ」
 植物図鑑に絆されて、もしかして悪い人じゃないかと思ったが固まる。前言撤回だ。
『今日は世話になったな。後日、デートでもしよう。これ、強制。孔礼寺 岳理 ←登録するように』
 身内以外の連絡先が入ったのは初めてだ。それが盗まれた時に、勝手にアドレスを見られたのだとしても。みかどはもちろん、デートなんてした事ない。初めてがこんな脅迫デートなんて死んでも嫌だった。皇汰に見つかる前に慌てて、削除したが胸の動悸は治まらなかった。
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