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症状四、それは風邪みたいなものでして。
症状四、それは風邪みたいなものでして。④
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「ありがとう」
ソファに座った颯真さんから、シャンプーの良い香りが漂ってくる。
部屋着用なのか、大きく首元が開いたセーターから、濡れた鎖骨がちらちら見えて、心臓が口から飛び出しそうだった。
「ふ、珈琲も二人分注いだ方がいいですか?」
「いらない。もうすぐ打ち合わせに担当が来るだけだから」
長い指先が私の方に差し出され、その手に珈琲を渡すと目を閉じて匂いを嗅いでいる。その姿さえ、絵画から飛び出した様な色気だ。芸術作品みたい。
「担当さんも朝早くから来られるんですね」
「ん。昨日、散々電話で一緒に徹夜してもらったから、良いモノを食べてもらおうかなって」
「優しいですね。てっきり二人前食べられるのかと思いましたよ」
「あはは、俺、そんなに大食いに見える?」
私のお馬鹿な発言にも笑って答えてくれる辺り、やっぱり心が広いんだろうな。
「あれ、俺、携帯どこだろ」
珈琲を飲みながら、彼が目で辺りを探しだした。でも、私がちょっと回りを探索していた時、携帯なんて見ていなかったような。
「バスルームですか? 見て来ますね」
「ありがとう」
座っている颯真さんにそう伝えてバスルームに入ると、きちんと畳んでいるズボンの上に携帯が置かれていた。緑色に光が点滅しているからメッセージを受信しているようだった。
「ありましたよー」
画面を見ないように裏にして持ち上げると、洗面台の上にピンク色の眼鏡ケースが置いているのが見えた。ピンクに花柄の、上品なブランドのケースだ。
「ありがとう。担当もう来るかな」
私の気持ちにも気づかず、彼はメッセージを確認し出した。
女の人の眼鏡ケース。いや、もしかしたらサングラスを入れるのかもしれない。そう思うと、私の頭の中に浮かぶのはやっぱり茜さんだった。
「担当さんって女性ですか?」
ポロっと出てきた言葉に思わず両手で口を隠しても遅い。颯真さんが不思議そうに顔を傾げる。
「俺の担当は全員男だよ。クマみたいなむさ苦しいけど頼れる人ばかり」
そんな事言われたら、益々あの女性ブランドのサングラスケースが担当さん達のではないと裏付けされてしまう。
「すいません、変な事言っちゃって。帰ります。食べ終わったら電話下さい。とりに伺います」
早口で言うと、彼が私の手を掴もうとする。
「わ、駄目っ」
強く拒絶したかのように、彼の手を払いのけてしまった。
「あの、忙しい時間帯なので、これで」
そそくさと部屋から出ようと走り出すと後ろで彼が立ち上がるのが分った。
追いつかれないように急いでドアノブを回すも、トンっと長い腕がドアに伸び、私の視界を塞いだ。
「颯真さん、通して下さい」
「何が変な事した?」
後ろから彼の声がするのに、色んな気持ちがぐるぐる回って答えが出ない。
ソファに座った颯真さんから、シャンプーの良い香りが漂ってくる。
部屋着用なのか、大きく首元が開いたセーターから、濡れた鎖骨がちらちら見えて、心臓が口から飛び出しそうだった。
「ふ、珈琲も二人分注いだ方がいいですか?」
「いらない。もうすぐ打ち合わせに担当が来るだけだから」
長い指先が私の方に差し出され、その手に珈琲を渡すと目を閉じて匂いを嗅いでいる。その姿さえ、絵画から飛び出した様な色気だ。芸術作品みたい。
「担当さんも朝早くから来られるんですね」
「ん。昨日、散々電話で一緒に徹夜してもらったから、良いモノを食べてもらおうかなって」
「優しいですね。てっきり二人前食べられるのかと思いましたよ」
「あはは、俺、そんなに大食いに見える?」
私のお馬鹿な発言にも笑って答えてくれる辺り、やっぱり心が広いんだろうな。
「あれ、俺、携帯どこだろ」
珈琲を飲みながら、彼が目で辺りを探しだした。でも、私がちょっと回りを探索していた時、携帯なんて見ていなかったような。
「バスルームですか? 見て来ますね」
「ありがとう」
座っている颯真さんにそう伝えてバスルームに入ると、きちんと畳んでいるズボンの上に携帯が置かれていた。緑色に光が点滅しているからメッセージを受信しているようだった。
「ありましたよー」
画面を見ないように裏にして持ち上げると、洗面台の上にピンク色の眼鏡ケースが置いているのが見えた。ピンクに花柄の、上品なブランドのケースだ。
「ありがとう。担当もう来るかな」
私の気持ちにも気づかず、彼はメッセージを確認し出した。
女の人の眼鏡ケース。いや、もしかしたらサングラスを入れるのかもしれない。そう思うと、私の頭の中に浮かぶのはやっぱり茜さんだった。
「担当さんって女性ですか?」
ポロっと出てきた言葉に思わず両手で口を隠しても遅い。颯真さんが不思議そうに顔を傾げる。
「俺の担当は全員男だよ。クマみたいなむさ苦しいけど頼れる人ばかり」
そんな事言われたら、益々あの女性ブランドのサングラスケースが担当さん達のではないと裏付けされてしまう。
「すいません、変な事言っちゃって。帰ります。食べ終わったら電話下さい。とりに伺います」
早口で言うと、彼が私の手を掴もうとする。
「わ、駄目っ」
強く拒絶したかのように、彼の手を払いのけてしまった。
「あの、忙しい時間帯なので、これで」
そそくさと部屋から出ようと走り出すと後ろで彼が立ち上がるのが分った。
追いつかれないように急いでドアノブを回すも、トンっと長い腕がドアに伸び、私の視界を塞いだ。
「颯真さん、通して下さい」
「何が変な事した?」
後ろから彼の声がするのに、色んな気持ちがぐるぐる回って答えが出ない。
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