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症状七、免疫力をつけましょう。
症状七、免疫力をつけましょう。④
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今日はいつもよりランチもディナーも多くて、休憩時間前にはお腹が鳴って五月蝿くて恥ずかしかった。
茜さんも来たから、ふわふわした気持ちも気が引き締まって良かったけれど、いつも以上に疲れた。
賄いにサンドイッチとスープとカレーが出たけど、お代わりまでする始末。
けど、味が全然分からない。美味しい筈なのに、食べても食べても、味がしなくて首を傾げてしまう。
「それ、私も分かる。今日は何を食べても味がしないかも」
菊池さんの声で、その謎が溶けた時には、颯真さんに会いたくて仕方が無かった。
どうしてこんなに好きになってしまったんだってぐらい、彼の事を考えてしまい、お腹が空いたはずなのに味がしなかった。自分はどうやら一つの事を考え出したら何も見えなくなるらしい。早く会いたくて胸が苦しい。
『ロビーの一番奥に居るよ』
仕事が終わると同時に、子猫にミルクを上げている写真とそのメッセージが届いていた。
すぐに飛び出してロビーに向かうと、一番奥の席でパソコンを開いて仕事している彼の背中が見えた。
半日会わなかっただけなのに、私の恋愛フィルターに映るその背中は抱き締めたいぐらい格好良い。
「颯真さん」
声をかけると、すぐに振り返って画面を見ないままパソコンを閉じる。優しい笑顔で立ち上がると、飛んできた私の頭を撫でてくれた。
「お疲れ様。今日は一日、大変な思いをさせてしまったな」
「いえ。親子喧嘩は大丈夫だったんですか?」
へらりと口元が情けなく緩むので摘まみながら尋ねると、大きく溜息を洩らした。
「いいや。父は強情だからしつこいと思うよ。これは早急に計画を進めなきゃいけなくなるな」
送る、とパソコンを仕舞い、キーケースを取り出した彼を見て、切なくなった。もう少し一緒に居たい。
それに気づいたのか、颯真さんがククッと笑う。
「……そんな顔をするのは反則だと思うけど」
「だって、今日は色々あって、でもその何倍も嬉しいというか、その、――気持ちが溢れて堪らないって言うか」
「じゃあ、ドライブして帰ろうか」
「はい!」
いじいじしていた私が、その言葉にぱあっと顔を上げると、彼は笑いを堪えて片手でお腹を押さえていた。
でも、いいんだ。その姿さえも絵になって格好良いんだから。
車に乗りこんで、シートベルトを締めていたら視界が陰る。
見上げたら、身を乗り出してきた颯真さんが触れるだけのキスをしてきた。
一瞬だから目を閉じる暇もなくて、タイミングって本当に難しいなって思う余裕が出来ていた。
「今日はありがとうございました。私、嬉しかったです」
「俺も。あの時の子が、俺との思い出を大切にして、ピアノを追い掛けてレストランに就職してるんだから。そんな子を手放すなんてできないだろ?」
エンジンをかけて車を出すと、ぽっかりと月が浮かんでいるのが見え、星がいつもよりも輝いている。瞬きする度に、星屑が零れてしまいそうな夜。
「わかば」
茜さんも来たから、ふわふわした気持ちも気が引き締まって良かったけれど、いつも以上に疲れた。
賄いにサンドイッチとスープとカレーが出たけど、お代わりまでする始末。
けど、味が全然分からない。美味しい筈なのに、食べても食べても、味がしなくて首を傾げてしまう。
「それ、私も分かる。今日は何を食べても味がしないかも」
菊池さんの声で、その謎が溶けた時には、颯真さんに会いたくて仕方が無かった。
どうしてこんなに好きになってしまったんだってぐらい、彼の事を考えてしまい、お腹が空いたはずなのに味がしなかった。自分はどうやら一つの事を考え出したら何も見えなくなるらしい。早く会いたくて胸が苦しい。
『ロビーの一番奥に居るよ』
仕事が終わると同時に、子猫にミルクを上げている写真とそのメッセージが届いていた。
すぐに飛び出してロビーに向かうと、一番奥の席でパソコンを開いて仕事している彼の背中が見えた。
半日会わなかっただけなのに、私の恋愛フィルターに映るその背中は抱き締めたいぐらい格好良い。
「颯真さん」
声をかけると、すぐに振り返って画面を見ないままパソコンを閉じる。優しい笑顔で立ち上がると、飛んできた私の頭を撫でてくれた。
「お疲れ様。今日は一日、大変な思いをさせてしまったな」
「いえ。親子喧嘩は大丈夫だったんですか?」
へらりと口元が情けなく緩むので摘まみながら尋ねると、大きく溜息を洩らした。
「いいや。父は強情だからしつこいと思うよ。これは早急に計画を進めなきゃいけなくなるな」
送る、とパソコンを仕舞い、キーケースを取り出した彼を見て、切なくなった。もう少し一緒に居たい。
それに気づいたのか、颯真さんがククッと笑う。
「……そんな顔をするのは反則だと思うけど」
「だって、今日は色々あって、でもその何倍も嬉しいというか、その、――気持ちが溢れて堪らないって言うか」
「じゃあ、ドライブして帰ろうか」
「はい!」
いじいじしていた私が、その言葉にぱあっと顔を上げると、彼は笑いを堪えて片手でお腹を押さえていた。
でも、いいんだ。その姿さえも絵になって格好良いんだから。
車に乗りこんで、シートベルトを締めていたら視界が陰る。
見上げたら、身を乗り出してきた颯真さんが触れるだけのキスをしてきた。
一瞬だから目を閉じる暇もなくて、タイミングって本当に難しいなって思う余裕が出来ていた。
「今日はありがとうございました。私、嬉しかったです」
「俺も。あの時の子が、俺との思い出を大切にして、ピアノを追い掛けてレストランに就職してるんだから。そんな子を手放すなんてできないだろ?」
エンジンをかけて車を出すと、ぽっかりと月が浮かんでいるのが見え、星がいつもよりも輝いている。瞬きする度に、星屑が零れてしまいそうな夜。
「わかば」
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